20121224Fuji1

エクセルのグラフで学ぶ気象学0042


エマグラムの利用法 (3)

 前回は、空気塊が持ち上げ凝結高度(LCL)を超えて上昇し、凝結した水蒸気の一部が空気塊の外に降水として排出された後、この空気塊が、再び上昇前の高度まで下降した場合の状態変化をエマグラムから読み取った。降水が生じたことによって、混合比は減少し、持ち上げ凝結高度は以前より上昇することから、雲底高度は上昇する。900 hPaの温度は、上昇前の温度より上昇し、相対湿度は当初の値から低下し、露点温度も当初の値より低下することが読み取れた。

 このように、凝結した水蒸気の一部が降水として空気塊から排出されると、空気塊が上昇したときに放出された凝結の潜熱より、高度下降時に吸収される蒸発熱が小さくなるため、元の高度に戻った場合の温度が初期温度より上昇する。ところで、凝結した水蒸気のすべてが降水として空気塊の外に排出されてから元の高度に戻った場合には、初期値と比較した温度上昇幅はさら拡大する。

 今回は、凝結した水蒸気の全量が空気塊の外に降水として排出された場合に、空気塊が再び下降した場合の状態変化をエマグラムで読み取ってみよう。

ThermoDiagram08.jpg"

 これまでにエマグラム上に描いた図から、500 hPa の高度まで空気塊が上昇すると、その高度の空気塊の温度は-13 ℃、飽和混合比は約 3.0 g/kgと読み取れる。したがって、6.5-3.0=3.5 g/kg の水蒸気が凝結して、水や氷晶の状態になる。これらの凝結した水分の全量が空気塊の外に降水として排出されると、混合比は3.0 g/kg となる。この場合に、空気塊を500 hPaの高度から900 hPaまで降下させた場合の状態変化をエマグラムを使って調べてみよう。

ThermoDiagram11.jpg"

 この空気塊は、500 hPaの高度では水蒸気でちょうど飽和した状態にあり、この空気塊の持ち上げ凝結高度は500 hPaである。この空気塊がここから高度を下げると、すぐに未飽和の状態となることから、この空気塊は乾燥断熱線に沿って温度が上昇する。すなわち、下向きの青い矢印のように、気圧の上昇にしたがって温度が上昇していく。そして、900 hPaの高度での温度は約34 ℃となる。赤丸の位置が元の位置から大きく右に移動したことが分かる。この青い矢印と、等飽和混合比線との交点から、この空気塊の飽和混合比は約 40 g/kg であることが分かる。

 このように乾燥断熱変化をする間、この空気塊の混合比は保存され、3 g/kgのままである。そして、露点温度は等飽和混合比線に沿って上昇するので、900 hPaの高度では約-5 ℃となる。露点温度を示す青丸の位置は、初期値から大きく左側に移動している。このように、500 hPaの高度で凝結した水分をすべて系外に排出した空気塊が再び900 hPaの高度まで戻った時には、相対湿度は 3/40*100=7.5 %となり、初期状態の38 %から大幅に減少している。

(2011.4.12)


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