湿潤断熱線図を描く (1)
空気塊が断熱的に上昇すると、その空気塊の温度は低下するが、その空気塊が水蒸気によって飽和しない場合には、空気塊の温度は乾燥断熱減率()にしたがって低下する。乾燥断熱減率は、(乾燥断熱線図を描く(1))で導いたように、である。乾燥断熱減率は、英語でもそのままdry adiabatic lapse rateというが、「乾燥」という言葉を用いると、空気塊に水蒸気が含まれていないかのような印象を与えることから、不飽和断熱減率(unsaturated adiabatic lapse rate)という用語を使用することもある。
ここで、は、外部から空気塊に与えられる熱量であるが、断熱変化では、この項は0となる。
湿潤断熱変化をする場合は、放出される潜熱によって、乾燥断熱減率による気温低下と比べて、気温の低下割合が少なくなる。
すると、以下のような式が得られる。
この式の右辺の第2項の微分式が表す水の凝結量の高度による変化を、気温による変化の項と気圧による変化の項とに分解すると、次の式が得られる。 この先の式の変形には、各種の近似関係を利用することになるが、まず、混合比の変化率と水蒸気圧の変化率とはほぼ等しいとする近似を利用する。すなわち、以下の近似式が成立する。 ここで、(飽和水蒸気圧曲線を描く (1))で、クラウジウス・クラペイロンの式を導く際に導入した微分方程式を利用する。それは、 である。この式と、その前に示した近似式とをを利用すると、
が得られる。したがって、水の凝結量の高度による変化を表す式の右辺第1項は以下のような式に変形できる。
続いて、水の凝結量の高度による変化を表す式の右辺第2項を、以下に示す理想気体の状態方程式と静水圧平衡の式を用いて整理する。、 すると、以下に示す式が得られる。
ここで、さらに以下に示す近似式を用いる。 その結果、水の凝結量の高度による変化を表す式の右辺第2項は、以下のようになる。 以上の結果をまとめると、高度による気温の変化を示す式として、以下の近似式が得られる。 この式の、の含まれる項をまとめて整理すると、以下の式が得られる。 さらに、dT/dzの項をまとめると、以下の式が得られる。 湿潤断熱減率とは、高度上昇にともなる気温の低下率を示すものであるから、以下の式が得られる。
ここで、εは、乾燥空気の比気体定数と水蒸気の比気体定数との比である。式中、水蒸気を表す添え字の v と、水を表す添え字の w が混在しているが、両者の値は同一である。 |