乾燥断熱線図を描く(1)
地上から上空にわたる大気の状態を分かりやすく表示するために、気象学では断熱図が用いられる。日本では、その中でもエマグラムが多用されている。エマグラムには、乾燥断熱線、湿潤断熱線、等飽和混合比線などが密集して書き込まれている。最初からこんなに複雑な線図でなくとも、乾燥断熱線図ぐらいはエクセルで描けないかと考えた。ところが、体裁を整えることは意外と難しく、満足できる図をエクセルで簡単に描くことはできないことが分かった。
ここで、は温度の変化量、は、外部から空気塊に与えられる熱量である。また、は気圧の変化量を示す。は比容(密度の逆数)である。
この式から、以下に示す静水圧平衡の式
を用いて圧力項を消去すると、
が得られる。が、「乾燥断熱減率」と呼ばれるものである。この式中のは重力加速度で、その標準的な値はである。一方、は定圧比熱である。乾燥空気の定圧比熱は、
である。水蒸気が含まれる大気の定圧比熱は、混合比を用いて、次の式で表される。
これらの式を用いて、乾燥空気の乾燥断熱減率の値を計算すると次のようになる。 混合比 10 g/kg=0.01 kg/kg の時には、
となる。このように、通常の混合比の値では、水蒸気が含まれた大気と乾燥大気との間で、乾燥断熱減率の値の差は小さいことが分かる。
これが、理想気体の状態方程式である。空気の密度と気体定数を一定とすると、この式は、圧力は、絶対温度で表した気温に比例することを示している。すなわち、圧力が低下すると、気温も低下する。それを示す微分形式とした関係式を、空気の密度の代わりに比容を用いて記述すると、以下の式が得られる。
ここで、乾燥空気の気体定数は、
である。 となる。ここで、 である。したがって、 となり、以下の関係式が得られる。
ただ気象学では、温度に代わって、仮温度を用いることで、気体定数は常に乾燥空気の値を用いて計算することが普通である。仮温度とは、水蒸気や水滴を含む湿潤空気を、それと同気圧、同密度の乾燥空気に置き換えた時に、乾燥空気が示す温度で、水蒸気の混合比を 、水滴の混合比をとすると、水滴がない、すなわち雲のない状態での仮温度は、
となり、水滴が生じた場合、すなわち雲のある状態での仮温度は、 となる。このように定義された仮温度を用いると、湿潤空気の状態方程式は、
と、乾燥空気の気体定数を用いて、乾燥空気の状態方程式と同じ形で表現できる。
この式のが0、すなわち、空気塊に熱の出入りのない断熱変化の状態では、右辺第1項が消え、以下の関係式が成立する。
ここでρについては、状態方程式から次の関係式がある。
この式を用いて整理すると、気圧と気温の変化の関係式は以下のようになる。
この式を、積分可能なように変数分離形にして整理すると、
この式を高度1から高度2まで積分すると、 ここで、高度1の気圧と仮温度には添え字1が、同じく高度2の気圧と仮温度には添え字2が付けられている。さらに、
の一定値であるとすると、これは積分の外に出せるから、
積分公式から、 対数関数の引き算は対数関数の引数の割り算になることと、対数関数の係数がべき乗となる関係を利用し、両辺を指数関数に変換すると、以下の結果が得られる。
次回は、この式を用いて乾燥断熱線図を描いてみよう。 |