20130127Fuji2

エクセルのグラフで学ぶ気象学0024


熱指数のグラフを描く

 風速冷却は、寒冷時に強風に当たると体温の低下が著しくなり、凍傷や低体温症に陥る危険性を評価するものである。一方、気温が高い時期に湿度が高いと、湿度が低い時と比較して、汗の蒸発が悪くなり、体表から気化熱が奪われにくくなるため、体感気温は上昇し、不快感が増大する。この不快感を指標化したものとして、以前は不快指数が有名だった。不快指数が80以上なら全員不快という分かりやすい指標で、昔はラジオやテレビの天気予報で、夏場は不快指数を伝えていたと記憶している。最近の天気予報では、不快指数の言葉を聞くことはほとんどなくなった。

 不快指数の計算式を調べてみると、乾湿球温度計の乾球温度をTd.jpg"℃、湿球温度をTw.jpg"℃とすると、不快指数(Discomfort Index)DIは以下の式で計算される。

DiscomfortIndex.jpg"

 乾湿球温度計があれば、その示度を上の式に代入すれば不快指数は計算できる。しかし、気温と相対湿度が与えられている場合には、この式から不可指数を計算することはできない。一方、気温と相対湿度から、体感気温を計算する熱指数(Heat Index)が各種提案されている。それらは、どれも一長一短があるようで、どれが良いと簡単にいうことはできないらしい。そのような中で、http://www.zunis.org/16element_heat_index_equation.htm に、次のような16項からなる熱指数の計算式が紹介されている。

 その式は、エクセルの計算式と互換性のある形をしており、そのまま引用すると、

=16.923+((1.85212*10^-1)*T)+(5.37941*RH)-((1.00254*10^-1)*T*RH)
+((9.41695*10^-3)*T^2)+((7.28898*10^-3)*RH^2)+((3.45372*10^-4)*T^2*RH)
-((8.14971*10^-4)*T*RH^2)+((1.02102*10^-5)*T^2*RH^2)-((3.8646*10^-5)*T^3)
+((2.91583*10^-5)*RH^3)+((1.42721*10^-6)*T^3*RH)
+((1.97483*10^-7)*T*RH^3)-((2.18429*10^-8)*T^3*RH^2)
+((8.43296*10^-10)*T^2*RH^3)-((4.81975*10^-11)*T^3*RH^3)

 ここで、 T は、華氏目盛の気温で、 RH は相対湿度である。この式は、気温が華氏70度(21.1℃)以上の場合で有効とされている。相対湿度の値は、0%から100%の全区間で有効である。

 この式を利用して、気温を20℃から50℃まで5℃刻みで、相対湿度を0%から100%まで10%刻みにとって、熱指数を計算してみよう。元の計算式が華氏で作られているので、計算式を摂氏に変換する必要がある。そのためには、この計算式の値から32を引き、それを括弧で囲んで、5/9を掛ける。

 気温と相対湿度をセル参照することから、摂氏で表した気温の行を作成してから、その値を華氏に変換した行を用意する。そして、気温と相対湿度をセル参照した式を各セルに書き込む。

HeatIndex1.jpg"

 計算式を書き込んで得られた計算結果を上の図に示す。2行目に5℃間隔で摂氏の気温を書き込み、14行目にそれを華氏に変換した値の計算値を入れた。例えば、B14セルには =B2*9/5+32 と書き込まれている。この関数式を右にコピーすれば、14行目が完成する。14行目は参照行で、薄緑色で塗りつぶした。

 上の図では、B3セルに書き込まれている関数が関数ボックスに示されている。この式は、前述の式の TB$14 に、RH$A3 に書き換えている。この書き換えは、テキストエディターに式全体をコピーし、置換を行って作成した。この式を、各気温と相対湿度の対応セルにすべてコピーすれば出来上がりである。

HeatIndex2.jpg"

 華氏に換算した温度の行を除く部分を選択して、散布図を描いた結果を上に示した。どういう訳か、凡例の並びが、上側ほど低い温度で、下側に向かって高い温度となってしまった。この不都合を除くために、気温の並び方を高い方から低い方へと変更し、散布図を描いたのが下の図である。

 

HeatIndex3.jpg"

 上のグラフを見ると、気温50℃で相対湿度100%の時の体感温度は200℃近くになってしまうことが分かる。ここで紹介した熱指数の適用可能範囲は、華氏70度以上と指定されているが、あまり高い気温の場合も守備範囲ではなさそうだ。上に示したエクセルの表で、肌色で塗りつぶした部分は、Roland Stullの教科書で空白になっている部分である。不都合な値とみなしたものと考えられる。

HeatIndex4.jpg"

 そこで、この不都合部分を消去してグラフを描くと、上に示したグラフが得られる。縦軸方向の変化が拡大され、体感温度の変化傾向がずっと見やすくなった。気温が高いと、相対湿度の上昇による体感温度の上昇が激しいことが良くわかる。

HeatIndex5.jpg"

 日本では、気温が50℃になることは考えにくいので、より現実的な範囲として、気温20℃から40℃まで2℃間隔で作成したグラフを上に示す。気温20℃と40℃では、相対湿度が約20%以下で体感温度が実際の気温より低く、気温30度前後では、相対湿度が約40%以下で体感温度が実際の気温より低くなっている。

 もちろん、体感温度は風速も大きく影響し、風が吹いていれば暑くても心地よさが戻るが、ここで示した熱指数に風速の項目はない。

 ここで用いた16項からなる熱指数の式は、複雑すぎてセルに入力するのも大変である。Roland Stullの教科書には、USA Todayのサイトからの引用として、以下に示すような9項からなる熱指数の式が紹介されている。この式も華氏の気温を代入すると華氏の熱指数が計算される式である。

HI=-42.379+(2.04901523**T)+(10.14333127*RH)-(0.22475541*T*RH)
-(6.83783*10^-3)*T^2)-((5.481717*10^-2)*RH^2)+((1.22874*10^-3)*T^2*RH)
-((8.5282*10^-4)*T*RH^2)-((1.99*10^-6)*T^2*RH^2)

 16項からなる熱指数の式は、気温と相対湿度に関する3次の項まであるのに対し、上に示した9項からなる式では、気温と相対湿度の最高次数は2次となっている。

 エクセルによる計算は、16項の式と同様にできる。計算結果を以下に示す。

HeatIndex6.jpg"

 関数ボックス内に、B2セルに書き込んだ関数式が表示されている。この関数式をすべてのセルにコピーすれば完成である。この計算結果においても、摂氏65度以上と、熱指数が異常に高くなるセルは空白にした。

HeatIndex7.jpg"

 計算結果のグラフを上に示す。気温が20℃から24℃のグラフが、相対湿度が50%以上に増加した場合に、熱指数が低下してしまっている。26℃のグラフも、相対湿度が高い部分での熱指数が、16項の結果と比較して少し低い。逆に、相対湿度が低い場合で、9項による計算値は16項の結果と比較して熱指数が高く計算されている。これらの点を除くと、16項の式の結果と9項の式の結果は、かなり良好に対応している。 (2010.2.19)


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