20130225Fuji1

エクセルのグラフで学ぶ気象学0040


エマグラムの利用法 (1)

 前回作成した簡易エマグラムを用いて、エマグラムの利用法を学ぼう。最初に、エマグラムから空気塊の湿度を求めてみよう。

ThermoDiagram03.jpg"

 エマグラムは、それに大気の状態の観測値を記入することで、その大気の状態を知るために利用できる。最初に、900 hPaの高度にある空気塊の気温を測定し、それが20 ℃であったとする。その状態は、上の図の赤丸で記入することができる。また、その空気塊の露点温度を測定し、それが6 ℃であったとすると、その状態は、上の図の青丸で記入することができる。

 なお、露点温度は湿数で示されることもある。この場合、気温20 ℃で湿数14 ℃と観測結果が示されていれば、露点温度は6 ℃となる。

 赤丸を挟み込んでいる等飽和混合比線は10 g/kg20 g/kgであり、比例配分すると、赤丸部分の飽和混合比は17 g/kgと読み取れる(線の本数が少ないエマグラムなので、正確な読み取りは難しい)。この値は、赤丸の状態の大気が含み得る最大の水蒸気量となる混合比が17 g/kgであることを意味している。

 一方、青丸を挟み込んでいる等飽和混合比線は4 g/kg10 g/kgであり、比例配分すると、青丸部分の飽和混合比は6.5 g/kgと読み取れる。これは、この部分の大気が含んでいる実際の水蒸気の混合比に相当する。相対湿度は、混合比と飽和混合比との比で近似できることから、この空気塊の相対湿度は、

       相対湿度 ≒ 6.5/17×100 = 38 %

となる。

 ここで、相対湿度と水蒸気量を表す各指標の関係をまとめると、

RH2.jpg"

 この式中、e.jpg"は大気中の水蒸気の分圧、es.jpg"は飽和水蒸気圧の分圧である。また、q.jpg"は比湿、qs.jpg"は、大気が水蒸気で飽和しているときの比湿、ro.jpg"は大気中の水蒸気の密度、rohs.jpg"は大気が水蒸気で飽和した時の水蒸気の密度、r.jpg"は混合比、rs.jpg"は飽和混合比である。

 なお、混合比と飽和混合比の値を用いて計算した相対湿度の値には、若干の誤差が含まれるが、エマグラムからのそれらの値の読み取り誤差に比べれば問題にならない程度である。

 ここで、e.jpg"q.jpg"及びr.jpg"の間には、以下の関係がある。

q2.jpg"

r3.jpg"

 ここで空気塊が900 hPaにとどまったまま、空気塊の湿度が上昇したとする。それは、露点温度の上昇となって現れる。すなわち、下の図に示すように、露点温度を示す青丸が右に移動する。

ThermoDiagram04.jpg"

 そして、この空気塊が水蒸気で飽和して曇り空となると、青丸は赤丸と一致し、相対湿度が100 %となる。このような変化は、空気塊に水蒸気が補給された場合に生じ、空気塊の混合比が変化する。

 次に、空気塊に水蒸気の出入りがない状態で上昇するとどうなるか考えてみよう。空気塊は上昇に伴い、その気圧は減少し、風船が膨らむように体積が膨張する。それに伴い、空気塊は外部に仕事をしてエネルギーが消費されることから、空気塊の温度は低下する。その時、空気塊が水蒸気で飽和するまでの間は、空気塊の温度は乾燥断熱減率にしたがって低下する。すなわち、下の図で、40 ℃の赤の乾燥断熱線と20 ℃の緑の乾燥断熱線の間を、これらの線と平行に、黄色の矢印で示す方向に高度を上昇させながら温度が低下する。

ThermoDiagram05.jpg"

 その間、水蒸気の凝結は生じず、水蒸気が外部に放出されることもないことから、混合比は保存される(変化しない)。そのため、この空気塊の露点温度は、4 g/kg10 g/kg の等飽和混合比線の間を、これらの線と平行に、すなわち、上の図の緑色の矢印で示す方向に低下する。

 このようにして、空気塊が気圧800 hPaの高度まで上昇したとする。すると、黄色の矢印の先端と温度軸との交点を読み取り、気温が10 ℃に低下したことが読み取れる。その点で矢印の先端と10 g/kg の等飽和混合比線とが重なることから、この空気塊の飽和混合比は10 g/kgと読み取れる。このことから、温度が低下したことにより、高度が900 hPaの時の飽和混合比17 g/kgから、高度800 hPaになった時には飽和混合比が10 g/kgまで低下したことになる。一方、混合比は6.5 g/kgで変化しないのだから、相対湿度は以下のように計算される。

   相対湿度 ≒ 6.5/10×100 = 65 %

 このように、高度が900 hPaから800 hPaまで上昇したことにより、相対湿度は38 %から65 %へと上昇した。

ThermoDiagram06.jpg"

 空気塊がさらに上昇すると、これら二つの矢印は、やがて赤い×で示した場所で交差することになるが、この高度で、この空気塊は水蒸気で飽和する。すなわち相対湿度が100 %となり、水蒸気が凝結し始める、対流性の雲の雲底高度は、この高度に相当し、持ち上げ凝結高度(lifting condensation level(LCL))と呼ばれる。

ThermoDiagram07.jpg"

 エクセルで対数目盛り軸を選択すると、細かい間隔の補助目盛線を引けないようなので、持ち上げ凝結高度を細かく読み取ることは難しいが、上の図から、この場合の持ち上げ凝結高度は約725 hPaである。そして、その時の空気塊の温度は約3 ℃である。

(2011.4.9)


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