大気の安定度
大気の安定度を見やすく表示する一つの方法として、横軸を温位とした熱力学図の上に表示する方法がある。そのための準備として、前回までに横軸を温位とした熱力学図を作成した。ただ、高層気象観測による大気温の測定結果は、温位ではなく気温で示されているため、横軸を温位とした熱力学図に観測結果を書き込むには、気温を温位に変換する必要がある。
上に示したグラフは、4月20日の稚内の上空の気温と露点温度を、気温を横軸としたグラフにしたものである。気温の減率が、湿潤断熱減率より小さいことから、絶対安定の気層となっている。ここで、横軸を温位としたグラフにするには、気温の測定結果を下に示す式を用いて温位に変換する。
その結果、下に示すような、高度上昇に伴って温位が大きく上昇するグラフが描かれる。
その他の地点も合わせて、横軸を温位とした高層の温位の変化を描いたグラフを下に示す。
多くの地点で、地上から850 hPaまでの部分で温位が高度上昇に伴って低下する、絶対不安定な気層がみられる。
未飽和の空気塊(乾燥大気)の安定度は、断熱図の横軸に温位を取った場合では、大気の上空へ向けての温位の変化が垂直線である場合(高度上昇に伴う温位の変化がない場合)に「中立」、温位が増加する場合に「安定」、温位が減少する
場合に「不安定」とする簡易な判断ができるとされる。
ただ、大気の状態曲線に凹凸がある場合は、それほど単純ではないとされる。Stullによると、状態曲線の凹凸を見て、極小値を下に伸ばして地面(1000 hPa)あるいはそれより下の状態曲線に交わる点まで、また極大値を上に伸ばして、それより上空の状態曲線と交わる点までの部分は不安定とされる。そして、大気の安定、不安定を見極める際には、まずこの手法によって、不安定部分を探し出し、残りの部分の安定、中立を判断することになるという。
この方法によって、横軸に温位を取った断熱図に描かれた状態曲線から、大気の安定、不安定を判断した模式図を以下に示す。
Stullのテキストに誤り易い例として紹介されている状態曲線の判断例を以下に示す。地上からしばらくの間は、温位が増大しているが、その部分の大気を「安定」と判定することは誤りであると指摘されている。
(2011.4.20)
|