20131010Fuji1

エクセルのグラフで学ぶ気象学0055


積雲と塔状雲

 持ち上げ凝結高度と自由対流高度の順について、国内の教科書では持ち上げ凝結高度の方が低いが、海外の教科書では必ずしもそうでもないことを前回紹介した。アーレンの教科書の例では、持ち上げ凝結高度が890 hPa程度で、自由対流高度が966 hPaで約300 mの高度となっている例が紹介されていた。

 ところで、シュトゥールの教科書では、「ほとんどすべての活発な対流雲は、地上から上昇を始めている。」と記載されている。そして、「地面は絶えず太陽から加熱されるため、不安定状態(上昇気流)がもっとも発生しやすい場所である。」と、その理由が説明されている。すなわち、地面から自発的な上昇気流が生じるとの説明である。

 そこには、その状況を説明するエマグラムが示されているが、数値データーは与えられていない。そこで、そのエマグラムに示された状態曲線に相当するデーターを作成した。それは、以下に示すものである。

Cumulus_AltoCumulus1.jpg"

 この状態曲線を書き込んだエマグラムを以下に示す。シュトゥールの教科書にならって、雲のイラストも加えた。自前のエマグラムでは、任意の設定の乾燥断熱線や等飽和混合比線を書き込むことができるので、今回は、空気塊の上昇にともなう経緯を示す矢印は省略した。

Cumulus_AltoCumulus2.jpg"

 地上の気温は25 ℃であるが、状態曲線は地表から上空に向けてすぐに乾燥断熱減率より大きな温度減率を示している。状態曲線が乾燥断熱線より左側にあるので、地上からすぐに絶対不安定な状態にある。したがって、自由対流高度は地上(1000 hPa)となる。そして、地上の空気塊の温度は周囲の気温より高いので、1000 hPaで20 ℃を通過する乾燥断熱線に沿って、自発的に上昇しながら温度が低下していく。

 地上の露点温度は10 ℃で、大気はだいぶ乾燥している。1000 hPaで10 ℃を通過する等飽和混合比線の混合比は7.76 g/kgである。1000 hPaで20 ℃を通過する等飽和混合比線の混合比は20 g/kgであることから、相対湿度は7.76/20×100=38 %となる。

 混合比7.76 g/kgの等飽和混合比線と1000 hPaで20 ℃を通過する乾燥断熱線とが交わる高度は約800 hPaで、これが持ち上げ凝結高度となる。その高度の空気塊の温度は7 ℃である。800 hPaの高度は約1945 mで、これが雲底高度となる。この位置から上方へは、この点を通過する湿潤断熱線に沿って温度を低下させながら、空気塊は状態曲線と交わる高さまで上昇を続ける。

 800 hPaで7 ℃の点を通過する湿潤断熱線は、1000 hPaで15.5 ℃を通過する。その湿潤断熱線が状態曲線と交わるのは、約765 hPa、4.5 ℃の点である。したがって、765 hPaが無浮力高度となる。この高度は約2,335 mで、これが、この積雲の雲頂高度となる。これより上空には、地上からの上昇気流にともなう対流性の雲は生じない。ところがそれより上空にも対流性の雲が生じることがある。それらの雲は、地上からの上昇気流で生じるのではなく、上空に温度差のある大気が流入することによって生じる。

 このようにしてできる雲に塔状雲(とうじょううんcastellanus)がある。そのような状況の状態曲線が、上に示したエマグラムの上方に記入されている。温度差がある大気が、異なる高度に異なる方向から流入した場合、たとえば冷たい大気の下に暖かい大気が流入、あるいは暖かい大気の上空に冷たい大気が流入すると、不安定な気層が形成される。

 塔状雲は、その高さと比較して径が小さく、上方にこぶのようなものが並んでいるように見える特徴がある。塔状雲は並んで発生し、城壁の上に並ぶタレット(小塔)のように見えることから塔状雲と呼ばれる。

(2011.4.28)


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