化学兵器禁止条約の概要


はじめに

 通称「化学兵器禁止条約」は、正式名称を「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」(Convention on the Prohibition of the Development, Production, Stockpiling and Use of Chemical Weapons and on Their Destruction)という。

 前文と24条からなる条文、化学物質に関する附属書、実施及び検証に関する附属書(「検証附属書」)からなり、かなりのボリュームがある。日本語訳が経済産業省のサイト外務省のサイトにある。なお、外務省のものは、OCRによる誤変換が含まれている。

 ただ、この種の条約は、慣れないと読みにくいもので、印象が散漫となりやすい。そこで条約の内容を端的に伝えるために、一部要約して訳した。ただし、単なる概要ではなく、条文に即して内容を紹介する立場をとった。なお、経済産業省と外務省の訳文が「生産」としている箇所は「製造」に、「申立による査察」は「チャレンジ査察」に置き換えている。


前文

 この条約は、全面的な軍縮を目指し、国連憲章を実現するため、1925年のジュネーヴ議定書と1972年の生物兵器禁止条約を尊重し、今後化学兵器が使用される可能性を完全に排除するために定めた。

 戦争に除草剤は使用せず、化学の成果は人類の利益のためにのみ使用すべきであり、そのための国際協力、情報交換、自由な貿易が促進されることを希望する。

 化学兵器の開発、製造、取得、貯蔵、保有、移譲及び使用の完全かつ効果的な禁止並びに廃棄がこのために必要な措置と考えて、この条約を協定した。


第1条   一般的義務

1 化学兵器の開発、製造等による取得はせず、貯蔵、保有をせず、他国へ移譲しない。化学兵器は使用せず、使用のための準備もしない。また、他国がこれらの禁止行為を行うのを援助しない。

2 所有、占有あるいは管理している化学兵器を廃棄する。

3 化学兵器製造施設を廃棄する。

4 暴動鎮圧剤を戦争に使用しない。


第2条   定義及び基準

 1 化学兵器とは、毒性化学物質及びその前駆物質と、これを発射する弾薬及び装置、及びこれらの弾薬及び装置のために特別に設計された装置をいう。

2 毒性化学物質とは、化学的作用によって人または動物を殺し、あるいは一時的に機能を著しく損ない、あるいは恒久的に機能障害を与える化学物質で、少量の平和目的に使用するものは除外する。これらの検証対象リストは附属書に定める。

3 前駆物質とは、毒性化学物質の製造に関与する化学物質をいい、2種混合あるいは多種混合化学兵器の必須成分を含む。これらの検証対象リストは附属書に定める。

4 2種混合あるいは多種混合化学兵器の必須成分とは2種混合あるいは多種混合型化学兵器で急速に反応する前駆物質のうち、最終生成物の毒性決定に重要な成分をいう。

5 老朽化した化学兵器とは、1925年以前に製造された化学兵器と、1925年から1946年の間に製造された化学兵器で、兵器としての使用に耐えないまでに劣化したものをいう。

6 遺棄化学兵器とは、ある国が、同意を得ずに他国の領土内に1925年1月1日以降に遺棄した化学兵器で、老朽化した化学兵器を含む。

7 暴動鎮圧剤とは、附属書の検証対象リストに掲げられていないが、人間の行動や感覚を奪う作用のある化学物質で、その効き目が速く、効力の消失も速いものをいう。

8 化学兵器製造施設とは、1946年1月1日以降に、下記に掲げる化学兵器及びその関連物質製造の目的で建造された設備及びそれを収納する建物をいう。

(1) 最終生成物が附属書の規制リスト1に含まれる化学物質となる製造ラインのすべて

(2) 最終生成物が規制リストに含まれないが化学兵器製造に利用可能な化合物であって、平和目的では当該国あるいはその支配地域内で年間1トン以上必要としない化学物質となる製造ラインのすべて

あるいは、

 化学薬品の弾薬への充填施設。とりわけ、附属書の規制リスト1の化学物質の弾薬、装置あるいは貯蔵タンクへの充填施設、2種混合型化学兵器に組み込む容器への化学物質充填施設、1剤型化学兵器の子爆弾への化学物質充填施設、化学物質が充填された容器や子爆弾を弾薬に充填する施設を含む。

 ただし、上記(1)に該当するものであっても、年間製造能力が1トン以下の施設と、この条約が禁止していない目的での製造における不可避な副産物として規制対象化学物質を製造している、あるいは製造してきた施設で、当該化学物質の製造量が総製造量の3%を超えず、本条約の検証手続きに沿った申告を行い、査察の対象となっている施設、及び、この条約が禁止していない目的で規制対象化学物質を製造している検証附属書第6部に規定する小規模な施設はこれに含まない。

9 この条約が禁止していない目的とは、工業、農業、研究、医療または製薬等の平和目的、毒物や化学兵器の防護目的、軍事目的であっても化学兵器の使用や毒物を戦闘使用することと関連しない目的、国内の暴動鎮圧を含む警察目的をいう。

10 製造能力とは、当該製造施設における最大製造量をいい、未完成の製造施設では計画最大製造量をいう。この製造量は機器の銘板に表示された製造量とするが、銘板に表示されていない場合には機器の設計製造量で代用する。機器の銘板には、1回以上の試験製造を行った上で、最適条件下における最大製造量を表示するものとする。機器の設計製造量は、理論計算に基づく最大製造量とする。

11 「機関」とは、第8条の規定に基づいて設立する「化学兵器禁止機関」を指す。

12 第6条で定める、この条約で禁止されない活動において、

 (a) 化学物質の「製造とは、化学反応によって化学物質を生成することをいう。

 (b) 化学物質の「処理とは、調合、抽出、精製などの、化学物質そのものを変化させずに行う物理的な処理工程をいう。

 

第3条   申告

1 締約国は、この条約が自国で発効後30日以内に、以下の各項目について、検証附属書の定めにしたがい、入手可能なすべての情報を機関に申告する。

(a) 化学兵器について

 (i) 自国あるいは自国が支配する場所に化学兵器保有の有無

 (ii) 自国あるいは自国が支配する場所に保有する化学兵器の保有場所と保有数量

 (iii) 自国の領土内にある、他国が保有する化学兵器の保有場所と保有数量

 (iv) 1946年1月1日以降に移譲あるいは受領した化学兵器の明細

  (v) 自国が保有する化学兵器の廃棄計画の概要

(b) 老朽化した化学兵器及び遺棄化学兵器について、

 (i) 自国の領土内における老朽化した化学兵器の有無とその詳細

  (ii) 自国の領土内における遺棄化学兵器の有無とその詳細

 (iii) 他国の領土内への化学兵器遺棄の有無とその詳細

(c) 化学兵器製造施設について、

  (i) 自国の領土内に1946年1月1日以降に化学兵器製造施設が存在あるいは存在していたことの有無

 (ii) 自国の領土内に1946年1月1日以降に存在あるいは存在していた化学兵器製造施設の詳細

 (iii) 自国の領土内に1946年1月1日以降に存在あるいは存在していた化学兵器製造施設であって、他国が管理していたものの詳細

 (iv) 1946年1月1日以降に、移譲あるいは受領した自国の領土内の化学兵器製造施設の有無とその詳細

  (v) 自国の領土内にあり、自国が管理する化学兵器製造施設の廃棄計画の概要

 (vi) 自国が管理する化学兵器製造施設を閉鎖するための措置

 (vii) 自国が管理する化学兵器製造施設を、一時的に化学兵器廃棄施設に転換する場合には、その計画の概要

(d) 他の施設について

 1946年1月1日以降に、化学兵器の開発を主目的に設計、製造、使用されていた自国の領土内にある、あるいは管理する施設の場所と活動内容。この申告には、特に研究所、性能試験場を含める。

(e) 暴動鎮圧剤について

 暴動鎮圧の目的で保有している化学物質について、その化学名、構造式、ケミカル・アブストラクツ・サービス(CAS)登録番号がある場合はその番号を申告する。その内容に変更が生じた場合には、その後30日以内に申告し直すこと。

2 自国の領土内に1977年1月1日以前に埋めて、そのままにされている化学兵器 と1985年1月1日以前に海洋投棄された化学兵器には、締約国の判断で本条の規定の適用から除外できる。

第4条   化学兵器

1 本条の規定を、老朽化した化学兵器及び遺棄化学兵器を除く締約国が保有するすべての化学兵器に適用する。

2 本条の規定を実施するための詳細な手続きは、検証附属書に定める。

3 締約国が化学兵器を貯蔵し、あるいは廃棄するすべての場所は、現地査察あるいは現場設置機器による監視対象となる。

4 締約国は、機関に申告書を提出後速やかに、申告した化学兵器を確認する現地査察を受け入れなければならない。その後は、いかなる化学兵器も廃棄施設以外への移動を禁じる。これは、化学兵器の体系的現地査察を可能とするための措置である。

5 締約国は、現地査察と現場設置機器による監視による体系的な検証を可能とするため、自国が保有するすべての化学兵器廃棄施設と貯蔵施設への立ち入りを認めねばならない。

6 締約国は、合意した処理速度と手順(以下、廃棄規則)にしたがって、申告したすべての化学兵器を廃棄しなければならない。廃棄作業は、この条約が自国について発効後2年以内に開始し、この条約が発効後10年以内に完了させなければならない。ただし、これより早く廃棄完了することを妨げるものではない。

7 各締約国は次の義務を負う。

(a) 申告した化学兵器の詳細な廃棄計画を、各廃棄年度が始まる60日前までに、検証附属書指定の規定にしたがって提出すること。なお、この計画書には、その廃棄計画年度に廃棄する化学兵器を網羅する必要がある。

(b) 申告した化学兵器の廃棄計画の実施結果を、各廃棄年度満了後60日以内に申告すること。

(c) 廃棄作業完了後30日以内に、申告した化学兵器がすべて廃棄されたことを証明すること。

8 6に規定する10年の廃棄のための猶予期間の完了後に条約を批准あるいは条約に加盟した締約国は、申告した化学兵器をできるだけ速やかに廃棄する。当該締約国の廃棄規則と厳重な検証手続きは、執行理事会が定める。

9 締約国は、保有化学兵器についての冒頭申告後に発見された、いかなる化学兵器についても報告義務を負い、検証附属書IV(A)の手順にしたがって保全と廃棄をしなければならない。

10 締約国は、化学兵器の輸送、試料採取、貯蔵と廃棄の際に、人的被害の発生と環境汚染の発生の防止を最優先しなければならない。締約国が化学兵器の輸送、試料採取、貯蔵と廃棄をする際は、安全及び排出に関する自国の基準にしたがって行わなければならない。

11 いかなる締約国も、この条約が自国で発効後1年以内に、自国内にある他国が管理する化学兵器が、自国内から撤去されるべく最大限の努力をしなければならない。これらの化学兵器が1年以内に撤去されない場合には、機関及び他の締約国に援助要請が可能である。

12 締約国は、化学兵器の安全で効率的な廃棄に関する手法や技術についての情報の提供要請を他国から受けた場合には、2国間で、あるいは技術事務局を通じて協力する義務を負う。

13 機関は検証活動を行うに際し、締約国間の化学兵器の貯蔵と廃棄の検証に関する2国間あるいは多国間の協定との間の不必要な重複を避ける方策を考えなければならない。

 このため、執行理事会は以下に掲げる条件を満たす場合には、検証作業は、当該2国間あるいは多国間の協定にしたがって実施する措置を補完する作業に限定しなければならない。

(a) 当該国間の検証規定が、本条約の規定と矛盾しない場合

(b) 当該国間の協定の実施によって、本条約の関連規定の遵守が十分確保できる場合

(c) 当該国間の協定の締約国が、その検証活動について機関に 、常時、十分な情報提供を行う場合

14 執行理事会が13の規定にしたがう限定した検証を行う決定をした場合には、機関は、2国間あるいは多国間の協定の実施結果を監視する権限を有する。

15 13と14の規定は、本条約の第3条、第4条及び検証附属書で定める締約国の申告義務に何らの影響を与えない。

16 締約国は、自国が廃棄の義務を負う化学兵器の廃棄費用を負担しなければならない。また、執行理事会が別段の定めをした場合を除き、締約国は、当該化学兵器の貯蔵及び廃棄の検証費用を負担しなければならない。執行理事会が、13の規定にしたがって機関の検証措置を限定することを決定した場合には、 機関が行う補完的な検証及び監視の費用については、第8条7に規定する国際連合の分担率にしたがって支払わなければならない。

17 本条の規定及び検証附属書第4部の関連規定は、1977年1月1日以前に締約国の領土内に埋められ、そのままにされる化学兵器と、1985年1月1日以前に海洋に投棄された化学兵器については、当該締約国の裁量によって適用しないことができる。

第5条    化学兵器製造施設

1 本条の規定は、締約国の国内及び支配地域に保有するすべての化学兵器製造施設に適用する。

2 本条の規定の実施細則は検証附属書に定める。

3 締約国が保有するすべての化学兵器製造施設は、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じて、体系的な検証を受けなければならない。

4 締約国は、化学兵器製造施設の活動を、閉鎖に伴う活動を除き、即座に停止しなければならない。

5 いかなる締約国も、今後新たな化学兵器製造施設を建設してはならず、既存の施設を化学兵器製造施設やこの条約が禁止している活動を行うための施設に改造してはならない。

6 締約国は、化学兵器製造施設の有無の申告後ただちに、化学兵器製造施設への現地査察を受け入れなければならない。

7 締約国には以下の義務がある。

(a) この条約が自国で発効した後90日以内に、すべての化学兵器製造施設を閉鎖し、その事実を報告すること。

(b) 現地査察と現地の機器による監視によって、化学兵器製造施設の閉鎖の継続とその後の廃棄が確認できるように、当該施設への立ち入りを認めること。

8 締約国は、合意された処理速度と手順(以下、廃棄規則)にしたがって、すべての化学兵器製造施設と関連施設を廃棄する。廃棄作業は、この条約が自国について発効後1年以内に開始し、この条約が発効後10年以内に完了させなければならない。ただし、これより早く廃棄完了することを妨げるものではない。

9 締約国には以下の義務がある。

(a) 化学兵器製造施設の廃棄の詳細な計画を、廃棄を開始する180日前までに提出すること。

(b) 自国の化学兵器製造施設の廃棄計画の実施状況を、各廃棄年度の満了後90日以内に申告すること。

(c) 化学兵器製造施設の廃棄処理の完了後30日以内に、廃棄が完了したことを証明すること。

10 8に規定する10年の廃棄のための猶予期間の完了後に条約を批准あるいは条約に加盟した締約国は、化学兵器製造施設をできるだけ速やかに廃棄する。当該締約国の廃棄規則と厳重な検証手続きは、執行理事会が定める。

11 締約国は、化学兵器製造施設の廃棄の際に、人的被害の発生と環境汚染の発生の防止を最優先しなければならない。締約国が化学兵器製造施設を廃棄をする際は、安全及び排出に関する自国の基準にしたがって行わなければならない。

12 化学兵器製造施設は、一時的に化学兵器廃棄施設として転換可能である。転換した施設は、化学兵器廃棄処理に使用しなくなった後速やかに廃棄されねばならず、いかなる場合であっても、この条約発効後10年以内に廃棄しなければならない。

13 締約国は、やむを得ず必要となった場合には、化学兵器製造施設を、この条約が禁止していない目的のために使用する許可を申請できる。その場合、執行理事会の勧告に基づき、締約国会議は申請の受諾の当否とそのための条件を決定しなければならない。

14 化学兵器製造施設を転換する場合には、表1に掲げる化学物質にかかわらない工業、農業、研究、医療その他の平和的目的で使用するものとし、化学兵器製造に再転換が可能であってはならない。

15 転換されたすべての施設は、現地査察と現地に設置する機器による監視による体系的な検証を受けなければならない。

16 機関は検証活動を行う際に、締約国間の化学兵器製造施設の廃棄の検証に関する2国間あるいは多国間の協定との間の不必要な重複を避ける方策を考えなければならない。

 このため、執行理事会は以下に掲げる条件を満たす場合には、検証作業を当該2国間あるいは多国間の協定にしたがって実施する措置を補完するものに限定するものとしなければならない。

(a) 当該国間の検証規定が、本条約の規定と矛盾しない場合

(b) 当該国間の協定の実施によって、本条約の関連規定の遵守が十分確保できる場合

(c) 当該国間の協定の締約国が、その検証活動について機関に 、常時、十分な情報提供を行う場合

17 執行理事会が16の規定にしたがう限定した検証を行う決定をした場合には、機関は、2国間あるいは多国間の協定の実施結果を監視する権限を有する。

18 16と17の規定は、本条約の第3条及び検証附属書で定める締約国の申告義務に何らの影響を与えない。 19 締約国は、自国が廃棄の義務を負う化学兵器製造施設の廃棄費用を負担する。また、執行理事会が別段の定めをした場合を除き、締約国は検証費用を負担しなければならない。執行理事会が、16の規定にしたがって機関の検証措置を限定することを決定した場合には、 機関が行う補完的な検証及び監視の費用については、第8条7に規定する国際連合の分担率にしたがって支払うものとする。

第6条    この条約によって禁止されていない活動

1 締約国は、この条約にしたがう限り、この条約が禁止していない目的のために毒性化学物質及びその前駆物質を開発し、製造その他の手法で取得し、保有し、移譲し及び使用する権利を有する。

2 締約国は、自国とその権限が及ぶ場所では、毒性化学物質及びその前駆物質が、この条約が禁止していない目的のためにのみ開発、製造、取得、保有、移譲及び使用されていることを保証するために必要な措置を取らねばならない。そのために、締約国はそれらの毒性化学物質及び前駆物質とその製造施設を検証措置の対象としなければならない。

3 締約国は、化学物質に関する附属書の表1に掲げる化学物質(以下、「表1の化学物質」という)を、製造、取得、保有、移譲及び使用が禁止された化学物質として扱わなければならない。締約国は、表1の化学物質とその製造施設を、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証対象としなければならない。

4 締約国は、化学物質に関する附属書の表2に掲げる化学物質(以下、「表2の化学物質」という)及びその製造施設について、(製造量、輸入量、輸出量等の)データ監視及び現地査察の対象としなければならない。

5 締約国は、化学物質に関する附属書の表3に掲げる化学物質(以下、「表3の化学物質」という)及びその製造施設について、(製造量、輸入量、輸出量等の)データ監視及び現地査察の対象としなければならない。

6 締約国は、化学物質に関する附属書の表には掲げられていないが、りん、硫黄またはフッ素を含む有機化合物(以下「PSF化学物質」という)の製造施設について、(およその製造量等の)データ監視及び現地査察の対象としなければならない。

7 締約国は、この条約が自国について発効した後30日以内に、関連する化学物質及び施設に関する冒頭申告を行わなければならない。

8 締約国は、関連する化学物質及び施設に関する年次申告を行わなければならない。

9 締約国は、現地検証のために、査察員を施設に立ち入らせねばならない。

10 検証活動を行うに当たり、技術事務局は、この条約によって禁止されていない目的のための締約国の化学的活動に対する不必要な干渉を回避せねばならない。特に、秘密情報の保護に関する附属書(以下「秘密扱いにに関する附属書」という)に定める規定を遵守しなければならない。

11 本条の規定は、締約国の経済活動と技術開発及びこの条約で禁止されていない目的にかかわる化学分野の国際協力を妨げるものであってはならない。それらの活動には、この条約によって禁止されていない目的での科学技術の情報交換、及び化学物質の製造処理、または使用に必要な化学物質と製造装置の貿易が含まれる。

第7条    国内の実施措置

一般的取組

1 締約国は、この条約に基づく自国の義務を履行するため、自国の憲法上の手続きにしたがって必要な措置を取らねばならない。特に、次のことを行わなければならない。

(a) この条約が締約国に対して禁止している活動を、自国の領土内あるいは支配地域内で自然人と法人が行うことを禁止するための刑事罰を含めた法的措置をとること。

(b) この条約が締約国に対して禁止している活動を、自国の支配地域内で禁止すること。

(c) (a)で定めた法制度を国際法に則って、この条約が締約国に対して禁止している活動を行った自国の国籍を有する自然人に対して、その活動場所を問わずに罰則を適用するように拡張すること。(国外犯の処罰法令の制定)

2 締約国は、1の規定に基づく義務の履行を促進するため、他の締約国と協力しなければならない。また、必要に応じて適切な法的援助を提供しなければならない。

3 締約国は、この条約に基づく自国の義務を履行するにあたって、人的被害の発生と環境汚染の発生の防止を最優先しなければならない。また、必要に応じて、この点に関して他の締約国と協力しなければならない。

締約国と機関との関係

4 締約国は、この条約に基づく自国の義務を履行するため、機関及び他の締約国との効果的な連絡先となる国内当局を指定あるいは設置しなければならない。締約国は、この条約が自国で発効する時点で、その国内当局を機関に通告しなければならない。

5 締約国は、この条約を実施するための立法措置と行政措置を機関に報告しなければならない。

6 締約国は、この条約を実施する上で機関から提供された秘密扱いの情報及びデーターは特別の注意を払い、その保秘を徹底しなければならない。締約国は、当該秘密情報及びデーターを、この条約に基づく自国の権利及び義務との関連においてのみ利用しなければならず、秘密扱いにに関する附属書の定めにしたがって取り扱わなければならない。

7 締約国は、機関のすべての任務の遂行に協力する義務を負い、特に技術事務局を援助しなければならない。

第8条    機関

A 一般規定

1 締約国は、この条約の趣旨及び目的を達成するため、この条約の遵守の国際的な検証を含む、この条約の実施の確保のため、及び締約国間の協議と協力のため、化学兵器禁止のための機関を設立する。

2 すべての締約国は、機関の加盟国となる。締約国は、機関の加盟国としての地位を奪われることはない。

3 機関の本部の所在地は、オランダ王国ハーグとする。

4 機関の内部機関として、締約国会議、執行理事会及び技術事務局を設置する。

5 機関は、干渉の程度を極力抑え、かつ、検証活動の目的が適時で効果的に達成できる方法で、この条約に規定する検証活動を行う。機関は、その責任を果たす上で必要とする情報とデーターのみを要請する。機関は、この条約の実施を通じて知り得た民間と軍事上の活動及び施設に関する情報の秘密を保護するために最大限の措置をとる。特に、秘密扱いに関する附属書の規定を遵守する。

6 機関は、その検証活動を行うに当たり、最新の科学・技術を利用するよう努めなければならない。

7 機関の活動に要する費用は締約国が支払うものとし、その額は、国際連合と機関との間の加盟国の相違を考慮して調整される国際連合の分担率と、第4条及び第5条に定めるところにより定める。準備委員会に対する締約国の財政的負担については、機関の通常予算に対する当該締約国の分担金から、適切な方法で控除する。機関の予算は、運営その他の活動費と、検証費用との別個の2項目から成る。

8 機関の加盟国の中で、それに先立つ2年間に機関に対して支払うべき分担金額以上延滞した加盟国は、機関において投票権を有しない。ただし、支払の不履行が当該加盟国にとってやむを得ない事情によると締約国会議が認めるときは、当該加盟国に投票を許すことができる。

B 締約国会議

構成、手続及び意思決定

9 締約国会議(以下「会議」という。)は、機関のすべての加盟国により構成する。各加盟国は、会議において1人の代表を有するものとし、その代表は、代表代理及び随員を伴うことができる。

10 会議の第1回会期は、この条約発効後30日以内に寄託者が招集する。

11 会議は、別段の決定を行う場合を除くほか、毎年通常会期として会合する。

12 会議の特別会期は、次のいずれかの場合に招集される。

(a)会議が決定する場合

(b)執行理事会が要請する場合

(c)いずれかの加盟国が要請し、かつ、加盟国の3分の1が支持する場合

(d)22の規定にしたがってこの条約の運用について検討する場合

この場合において、(d)に規定する場合を除くほか、開催の要請において別段の明示がない限り、技術事務局の事務局長がその要請を受領した後30日以内に開催される。

13 会議は、また、第15条2の規定にしたがって改正会議として開催される。

14 会議の会期は、会議が別段の決定を行う場合を除くほか、機関の所在地で開催される。

15 会議は、その手続規則を採択する。会議は、各通常会期の始めに、議長及び他の必要な役員を選出する。これらの者は、次の通常会期において新たな議長及び他の役員が選出されるまで在任する。

16 会議の定足数は、機関の加盟国の過半数とする。

17 機関の各加盟国は、会議において1票を有する。

18 会議は、出席しかつ投票する加盟国の単純多数による議決で手続事項についての決定を行う。実質事項についての決定は、できる限りコンセンサス方式によって行うべきである。決定に当たりコンセンサスが得られない場合には、議長は、いかなる投票も24時間延期し、この間にコンセンサスを得るためのあらゆる努力を払い、その結果を24時間の終了の前に会議に報告する。当該24時間の終了の時にコンセンサスが得られない場合には、会議は、この条約に別段の定めがある場合を除き、出席しかつ投票する加盟国の3分の2以上の多数による議決で決定を行う。実質事項か手続事項かについて問題が生ずる場合には、会議が3分の2以上の多数による議決で別段の決定を行わない限り、実質事項として取り扱う。

権限及び任務

19 会議は、機関の主要な内部機関であり、この条約の範囲内のいかなる問題または事項(執行理事会及び技術事務局の権限及び任務に関するものを含む)も検討する。会議は、締約国が提起しまたは執行理事会が注意を喚起するこの条約に関するいかなる問題または事項についても、勧告及び決定を行うことができる。

20 会議は、この条約の実施を監督し、並びにその趣旨及び目的を推進するために行動する。会議は、この条約の遵守状況を検討する。会議は、執行理事会及び技術事務局の活動も監督するものとし、この条約にしたがい、これらのいずれの内部機関に対してもその任務の遂行に関し指針を与えることができる。

21 会議は、次のことを行う。

(a)執行理事会が提出する機関の報告、計画及び予算を通常会期において検討し及び採択し並びに他の報告を検討すること。

(b)7の規定にしたがって締約国が支払う分担金の率につき決定すること。

(c)執行理事会の理事国を選出すること。

(d)技術事務局の事務局長(以下「事務局長」という。)を任命すること。

(e)執行理事会が提出する執行理事会の手続規則を承認すること。

(f)この条約にしたがい会議がその任務を遂行するために必要と認める補助機関を設置すること。

(g)平和的目的のために、化学に関する活動の分野における国際協力を促進すること。

(h)この条約の運用に影響を及ぼす科学と技術の発展を検討すること。このため、事務局長がその任務の遂行に当たり会議、執行理事会または締約国に対してこの条約に関連する科学と技術の分野における専門的な助言を行うための科学諮問委員会の設置を事務局長に指示すること。科学諮問委員会は、会議が採択する付託事項にしたがって任命される独立した専門家で構成する。

(i)第1回会期において、準備委員会が作成する協定案、規則案及び指針案を検討し及び承認すること。

(j)第1回会期において、第10条の規定による援助のための任意の基金を設置すること。

(k)第12条の規定にしたがい、この条約の遵守を確保し並びにこの条約に違反する事態を是正し及び改善するため、必要な措置をとること。

22 会議は、この条約が効力を生じた後5年及び10年が経過した後1年以内に、あるいは会議が決定する場合にはその期間内の他の時期に、この条約の運用について検討するため特別会議を開催する。この会議では、関連する科学と技術の発展を考慮する。その後は、別段の決定が行われる場合を除いて、同様の目的の特別会議を5年ごとに開催する。

C 執行理事会

構成、手続及び意思決定

23 執行理事会は、41の理事国で構成する。締約国は、理事国の任務を輪番で遂行する権利を有する。理事国は会議が選出し、その任期は2年とする。この条約を効果的に機能させるため、執行理事会の構成は、地理的に公平な配分、化学産業の重要性並びに政治と安全保障上の利益を考慮して、次のとおりとする。

(a)アフリカから9カ国を指名する。9ヶ国中3ヶ国は化学の先進国から選ぶものとするが、その3カ国は他の地域的要素も考慮して選択する。

(b)アジアから9カ国を指名する。9ヶ国中4ヶ国は化学の先進国から選ぶものとするが、その4カ国は他の地域的要素も考慮して選択する。

(c)東欧地域から5カ国を指名する。5ヶ国中1ヶ国は化学の先進国から選ぶものとするが、その1カ国は他の地域的要素も考慮して選択する。

(d)ラテン・アメリカ及びカリブ地域から7ヶ国を指名する。7ヶ国中3ヶ国は化学の先進国から選ぶものとするが、その3ヶ国は他の地域的要素も考慮して選択する。

(e)西欧及び他の国の地域から10ヶ国を指名する。10ヶ国中5ヶ国は化学の先進国から選ぶものとするが、その5ヶ国は他の地域的要素も考慮して選択する。

(f)アジア並びにラテン・アメリカ及びカリブ地域の締約国が連続して指名する1ヶ国。この1ヶ国は、両地域から交互に選出されるものとする。

24 執行理事会の第1回の選挙では、41ヶ国中20ヶ国の任期を1年とするが、任期1年の理事国の地域による配分に十分考慮を払う。

25 第4条及び第5条の規定が完全に実施された後、会議は、執行理事会の理事国の過半数の要請があれば、23が規定する理事国の構成を再検討することができる。

26 執行理事会は、その手続規則を作成し、承認のためこれを会議に提出する。

27 執行理事会は、その議長を理事国より選出する。

28 執行理事会は、通常会議を開催するほか、必要に応じて、通常会議と通常会議との間に会議を開催する。

29 執行理事会の各理事国は、1票の投票権を有する。執行理事会における実質事項の決定は、この条約で別の定めがない限り、すべての理事国の3分の2以上の多数をもって議決する。執行理事会における手続事項についての決定は、すべての理事国の単純多数で議決する。実質事項か手続き事項かについて問題があるときは、執行理事会が3分の2以上の多数をもって手続き事項であるとの決定を行わない限り、実質事項として取り扱う。

権限及び任務

30 執行理事会は、機関の執行機関である。執行理事会は、会議に対して責任を負う。執行理事会は、この条約によって与えられる権限及び任務並びに会議によって委任される任務を遂行する。執行理事会は、これらを遂行するに当たり、会議の勧告、決定及び指針にしたがって行動し、並びにこれらの勧告、決定及び指針の適切かつ継続的な実施を確保する。

31 執行理事会は、この条約の効果的な実施及び遵守を促進する。執行理事会は、技術事務局の活動を監督し、締約国の国内当局と協力し、並びに締約国の要請に応じて締約国間の協議及び協力を促進する。

32 執行理事会は、次のことを行う。

(a)機関の計画案及び予算案を検討し及び会議に提出すること。

(b)この条約の実施に関する機関の報告案、執行理事会の活動に関する報告及び執行理事会が必要と認める特別報告または会議が要請する場合には当該要請による特別報告を検討し及び会議に提出すること。

(c)会議の会期のための準備(議題案の作成を含む。)を行うこと。

33 執行理事会は、会議の特別会期の開催を要請することができる。

34 執行理事会は、次のことを行う。

(a)会議の事前承認を条件に、機関に代わって国及び国際機関と協定または取決めを締結すること。

(b)第10条の規定に関連して機関に代わって締約国と協定を締結し及び同条に規定する任意の基金を監督すること。

(c)技術事務局が締約国と交渉する検証活動の実施に関する協定または取決めを承認すること。

35 執行理事会は、この条約の遵守についての懸念や違反を始めとする、この条約及びその実施に影響を及ぼすあらゆる事項について、その権限の範囲内で検討する。また、適当な場合には、締約国に通報し及び当該問題または事項について会議の注意を喚起する。

36 執行理事会は、特に、この条約に規定する権利の濫用をを始めとした、この条約の遵守についての疑義または懸念及び違反を検討するに当たり、関係締約国と協議し及び、適当な場合には、当該締約国に対し、一定の期間内に事態の是正措置を要請する。執行理事会は、更に行動が必要であると認める場合には、特に、次の1つ以上の措置をとる。

(a)すべての締約国に対し問題または事項を通報する。

(b)問題または事項について会議の注意を喚起する。

(c)事態を是正し、この条約の遵守を確保するための措置を会議に勧告する。

 執行理事会は、特に重大かつ緊急な場合には、関連する情報及び判断を始めとする問題または事項につき、直接に、国際連合総会及び国際連合安全保障理事会の注意を喚起する。執行理事会は、同時に、すべての締約国に対しこの措置を通報する。

D 技術事務局

37 技術事務局は、会議及び執行理事会の任務の遂行を補佐する。技術事務局は、この条約に規定する検証措置を実施する。技術事務局は、この条約によって与えられるその他の任務並びに会議及び執行理事会によって委任される任務を遂行する。

38 技術事務局は、次のことを行う。

(a)機関の計画案及び予算案を作成し、それを執行理事会に提出すること。

(b)この条約の実施に関する機関の報告案及び会議または執行理事会が要請する他の報告を作成し、それを執行理事会に提出すること。

(c)会議、執行理事会及び補助機関の運営上、及び技術上の援助を提供すること。

(d)この条約の実施に関する事項につき、機関に代わり、締約国に対し通報し及び締約国からの通報を受けること。

(e)この条約の実施に当たり、化学物質に関する附属書の表の、あるいは表にない化学物質の評価を含む、技術上の援助及び評価を締約国に対して提供すること。

39 技術事務局は、次のことを行う。

(a)執行理事会の承認を条件に、検証活動の実施に関する協定または取決めにつき締約国と交渉すること。

(b)この条約の発効後180日以内に、第10条7の(b)及び(c)の規定に基づき、締約国が行う緊急及び人道上の援助を永続的に行うための備蓄とその維持について調整すること。技術事務局は、常備されている援助物資が使用に供し得ることを検査することができる。備蓄物資の一覧表は、21(i)の規定にしたがって会議が検討し及び承認する。

(c)第10条に規定する任意の基金を管理し、締約国が行う申告の取りまとめ及び、要請がある場合には、同条の規定の実施のために締約国間で締結する2国間協定または締約国と機関との間で締結する協定を登録すること。

40 技術事務局は、任務の遂行に関連して生じた問題(検証活動の実施に当たり知るに至ったこの条約の遵守についての疑義、あいまいな点または不確かな点であって、当該締約国との間の協議により解消することができなかったものを含む。)を執行理事会に通報する。

41 技術事務局は、技術事務局の長でありかつ首席行政官である事務局長、査察員及び科学要員、技術要員その他の必要な人員により構成する。

42 査察部は、技術事務局の1の組織であり、事務局長の監督の下で行動する。

43 事務局長は、執行理事会の勧告に基づき4年の任期で会議が任命する。その任期は、1回に限り更新することができる。

44 事務局長は、技術事務局の職員の任命、組織の管理と任務の遂行の責任を負う。職員の最高度の能率、能力と誠実さを確保するためには、職員の人選と勤務条件に最大限の注意を払わなければならない。締約国の国民のみが、事務局長、査察員並びに他の専門職員及び事務職員に就くことができる。地理的に分散した国から職員を採用しなければならない。職員数は、技術事務局の職務遂行上、必要最小限にとどめるものとする。

45 事務局長は、21(h)に規定する科学諮問委員会の組織及び任務について責任を負う。事務局長は、科学諮問委員会の委員を任命し、任命された委員は個人の資格で職務を遂行する。科学諮問委員会の委員は、科学的専門知識の豊富な者から任命する。事務局長は、必要に応じて特定の問題について勧告を行うための科学専門家からなる暫定的な作業部会を設置することができる。締約国は、そのための専門家名簿を事務局長に提出することができる。

46 事務局長及び査察員その他の職員は、その任務の遂行に当たって、いかなる政府からも、機関外のいかなるところからも指示を求めまたは受けてはならない。これらの者は、会議及び執行理事会に対してのみ責任を有する国際公務員であり、その立場に影響を及ぼすおそれのあるいかなる行動も慎まなければならない。

47 締約国は、事務局長及び査察員その他の職員が国際的な責任を果たそうとすることを尊重し、これらの者の責任ある職務の遂行に影響を及ぼしてはならない。

E  特権及び免除

48 機関は、その任務の遂行のために必要な場合は、締約国の領域内と管轄あるいは管理地域において、法的能力並びに特権及び免除を享受する。

49 締約国の代表、その代表代理及び随員並びに執行理事会に選任された代表、その代表代理及び随員並びに事務局長及び機関の職員は、機関に関連する自己の任務を独立して遂行するために必要な場合は、特権及び免除を享受する。

50 この条に規定する法的能力、特権及び免除については、機関と締約国との間の協定及び機関と機関の本部が所在する国との間の協定で定める。これらの協定は、21(i)の規定にしたがって会議が検討した上で承認する。

51 48及び49の規定にかかわらず、検証活動の間に事務局長及び技術事務局の職員が享受する特権及び免除については、検証附属書第2部Bに定める。

第9条     協議、協力及び事実調査

1 締約国は、本条約の趣旨、目的について、または実施上問題が生ずる場合は、当該問題について、締約国間で直接にまたは機関を通じて、若しくは国際連合の枠内で及び国際連合憲章にしたがう手続を始めとした他の適当な国際的手続をとおして、協議し及び協力する。

2 すべての締約国にはチャレンジ査察を要求する権利はあるものの、この条約の遵守についての疑義や、曖昧な事項があるときは、まずは締約国間の情報交換及び協議による解決に向けて最大限努力すべきである。他の締約国からこの種の疑義や懸念に対する説明を要求された締約国は、その要請から10日以内で、できる限り速やかに、問題解決に十分な情報を提供し、その理由を説明しなければならない。この条約のいかなる規定も、条約遵守について疑義や曖昧な点を明らかにして解決するため、締約国間で査察やその他の手続について取り決める権利を妨げない。このような取決めは、この条約の他の規定に基づく締約国の権利及び義務に影響を及ぼさない。

事態を明らかにするための説明を要請する手続

3 締約国には、曖昧な事態や、他の締約国の本条約への違反の懸念を明らかにするに当たって、執行理事会に援助要請する権利がある。執行理事会は、それに関連した保有情報を提供しなければならない。

4 締約国には、曖昧な事態や、他の締約国の本条約への違反の懸念を明らかにするに当たって、説明を当該締約国から得られるよう執行理事会に要請する権利がある。この場合には、次の規定を適用する。

(a)執行理事会は、事務局長を通じ、説明要請を受領後24時間以内に、当該締約国にこれを送付する。

(b)説明要請を受けた締約国は、要請受領後10日以内で、できる限り速やかに、執行理事会に説明を行う。

(c)執行理事会は、(b)の規定で受領した説明を記録した上で、受領後24時間以内に説明要請を行った締約国に対しこれを送付する。

(d)説明要請をした締約国が(b)の規定で行われた説明が不十分と認める場合には、その締約国は問題のある締約国から更に説明が得られるよう執行理事会に要請する権利がある。

(e)(d)の規定により更に説明を得るため、執行理事会は、事務局長に対し、懸念のある事態に関連するすべての利用可能な情報及びデーターを検討するために、技術事務局の職員あるいはそれ以外の専門家で構成される専門家の会合を設置するよう要請することができる。専門家の会合は、その検討結果に基づく事実報告書を執行理事会に提出しなければならない。

(f)説明の要請を行った締約国が(d)及び(e)の規定に基づいて得た説明が不十分と認める場合には、その締約国には、執行理事会の理事国でない関係締約国が参加することのできる執行理事会の特別会期を要請する権利がある。執行理事会は、その特別会期で問題の検討と事態解決への適当な措置を勧告しなければならない。

5 締約国には、自国について曖昧な事態、または自国による本の条約違反の可能性について懸念のある事態について、執行理事会にその状況解明を要請する権利もある。執行理事会は、この要請に対して適当な援助を提供しなければならない。

6 執行理事会は、本条に規定する説明の要請について、そのすべてを締約国に通報しなければならない。

7 締約国は、本条約の違反についての疑義または懸念が、説明要請を執行理事会に提出した後60日以内に解消されなかった場合、またはこのような疑義の検討に緊急性があると信ずる場合には、締約国のチャレンジ査察を要請する権利を侵害せずに、前条12(c)の規定に基づき、会議の特別会期を要請できる。この特別会期において、会議はこの問題を検討し、及び事態を解決するための適当な措置を勧告しなければならない。

チャレンジ査察のための手続

8 締約国には、他の締約国の領域内と管轄、管理下にある場所のすべての施設または区域に対して、現地のチャレンジ査察を要請する権利がある。ただし、このチャレンジ査察の目的は、本条約の違反の問題の解明と解決に限られる。また締約国には、この査察が事務局長が指名する査察団により、いかなる場所においても検証附属書にしたがって遅滞なく行われることを要求する権利がある。

9 締約国は、査察の要請を本条約の範囲内で行う義務を負い、及びこの条約の違反の懸念を引き起こす根拠となったすべての適切な情報を、検証附属書にしたがって査察要請の際に提供する義務を負う。締約国は、根拠のない査察要請を慎み、濫用防止に注意を払わなければならない。チャレンジ査察は、本条約への違反の可能性に関する事実の決定のみを目的として行わなければならない。

10 この条約の遵守の検証のため、締約国は、8の規定にしたがって技術事務局が行う現地のチャレンジ査察を受け入れなければならない。

11 査察を受ける締約国には、施設または区域に対するチャレンジ査察の要請及び検証附属書に規定する手続にしたがい、次の権利があり義務を負う。

(a)自国が本条約を遵守していることを証明するためい合理的な努力を払う権利及び義務、並びにこのために査察団がその査察命令を遂行できるようにする権利及び義務

(b)本条約の違反の懸念に関連する事実確認のみを目的として要請された施設または区域内への立ち入りを認める義務

(c)本条約に関係しない機微に係る設備を保護する権利並びに本条約に関係しない秘密の情報及びデーターの開示の防止措置をとる権利

12 オブザーバーについては、次の規定を適用する。

(a)査察要請締約国は、被査察締約国の同意を得て、自国または第3の締約国の国民である1名のオブザーバーをチャレンジ査察の実施に立ち会わせるために派遣することができる。

(b)(a)の場合において、被査察締約国は、検証附属書にしたがってオブザーバーの立ち入りを認めなければならない。

(c)被査察締約国は、原則として、提案されたオブザーバーを受け入れなければならない。ただし、被査察締約国が受け入れを拒否した場合には、その事実を最終報告書に記録しなければならない。

13 査察要請締約国は、執行理事会に対し現地のチャレンジ査察の要請を行い、また同時に、事務局長に対して、その速やかな開始を要請する。

14 事務局長は、直ちに、査察の要請が検証附属書第10部4に定める要件を満たすことを確認し及び、必要な場合には、査察要請締約国が当該要件にしたがって査察の要請を行うことを援助する。査察の要請が当該要件を満たす場合には、チャレンジ査察の準備を開始する。

15 事務局長は、被査察締約国に対し、査察団の入国地点への到着予定時刻の少なくとも12時間前までに、査察の要請を伝達する。

16 執行理事会は、査察の要請を受領した後、当該要請に基づいて事務局長がとる措置に留意し、査察が行われている間を通じてこの問題を検討する。ただし、執行理事会の検討は、査察を遅滞させるものであってはならない。

17 執行理事会は、査察の要請に根拠がなく、権利の濫用でありまたは8に定める本条約の範囲を明らかに超えると認める場合には、査察の要請を受領した後12時間以内に、執行理事会のすべての理事国の4分の3以上の多数による議決で、チャレンジ査察の実施の反対を決定できる。その決定には、査察要請締約国及び被査察締約国は参加できない。執行理事会がチャレンジ査察の反対を決定した場合には、査察の準備は停止され、査察の要請に基づく新たな措置はとられず、及び関係締約国にその旨通報する。

18 事務局長は、チャレンジ査察実施の査察命令を与える。査察命令は、8及び9に規定する査察の要請を遂行するためのものであり、かつ、査察の要請に適合するものとする。

19 チャレンジ査察は、検証附属書第10部の規定にしたがい、または化学兵器の使用若しくは戦争の方法としての暴動鎮圧剤の使用の疑いがある場合には同附属書第11部の規定にしたがって行う。査察団がチャレンジ査察を行う際の原則は、できる限り干渉が低く、かつ、効果的で適時の任務遂行を可能なものとする。

20 被査察締約国は、チャレンジ査察が行われている間を通じて、査察団を援助し、その任務の遂行を手助けしなければならない。被査察締約国は、検証附属書第10部Cの規定にしたがい、本条約の遵守を証明する措置として、十分で包括的な立ち入りと代替する方法を提案する場合には、査察団との協議を通じて、この条約の遵守を証明するために、それが事実を確認する方法として適切であるとの合意に達するための、あらゆる合理的な努力を払わなければならない。

21 最終報告には、事実関係の調査結果とともに、チャレンジ査察の際に認められた立ち入り範囲及び協力の程度と内容に関する査察団の評価を含めなければならない。事務局長は査察団の最終報告を、査察要請締約国、被査察締約国、執行理事会及び他のすべての締約国に速やかに送付する。事務局長は、事務局長に提出された査察要請締約国と被査察締約国による査察に対する評価並びに、他の締約国の見解が事務局長に提出された場合にはその見解を、速やかに執行理事会に送付し、その後これらをすべての締約国に送付しなければならない。

22 執行理事会は、その権限及び任務にしたがい、査察団の最終報告が提出され次第それを検討し、次の事項について検討しなければならない。

(a)違反発生の有無。

(b)査察の要請が本条約の範囲内の行為であったか否か。

(c)チャレンジ査察の要請が権利の濫用に当たらなかったか否か。

23 執行理事会は、その権限及び任務にしたがい、22の規定に関して更なる措置が必要と結論される場合には、会議に対する具体的な勧告を始めとする、事態の是正と本条約の遵守を確保するための適当な措置をとらなければならない。査察要請の権利が濫用された場合には、執行理事会は、査察要請締約国がチャレンジ査察の財政的負担の一部を負うべきであるか否かについて検討する。

24 査察要請締約国及び被査察締約国には、査察後検討に参加する権利がある。執行理事会は、査察後検討の結果を、締約国に報告するとともに次の会期の会議に報告する。

25 執行理事会が会議に対して具体的な勧告を行った場合には、会議は、第12条の規定にしたがって措置を検討する。

第10条    援助及び化学兵器に対する防護

1 本条の規定の適用上、「援助」とは、化学兵器に対する防護につき調整するとともに締約国に対しその防護を提供することをいう。その中には特に、探知装置及び警報装置、防護機具、除染装置及び除染剤、解毒剤及び治療並びにこれらの防護手段に関する助言を含む。

2 本条約のいかなる規定も、この条約によって禁止されていない目的のために、締約国が化学兵器に対する防護手段の研究、開発、製造、取得、移譲または使用する権利を妨げるものと解してはならない。

3 締約国は、化学兵器に対する防護手段に関する装置、資材並びに科学・技術的情報を最大限交換するものとし、その交換に参加する権利を有する。

4 締約国は、防護目的に関係する自国の計画の透明性を増進するため、第8条21(i)の規定に基づき会議が検討・承認する手続にしたがい、毎年、その計画に関する情報を技術事務局に提供する。

5 技術事務局は、この条約が効力を生じた後180日以内に、化学兵器に対する各種の防護手段に関する情報データバンクを、要請する締約国の使用に供するため設置しそれを維持しなければならない。

 また技術事務局は、利用可能な資源の範囲内で、締約国の要請がある場合には、締約国が化学兵器に対する防護能力の開発及び向上計画をどのように実施したらよいかについて、当該締約国に専門的な助言と援助を与える。

6 本条約のいかなる規定も、締約国が、2国間で援助を要請し及び提供する権利を妨げるものではなく、援助の緊急な調達に関して他の締約国と個別の協定を締結する権利を妨げるものでもない。

7 締約国は、機関を通じて援助を提供すること、及びこのために、次の1または2以上の措置を選択することを約束する。

(a)会議の第1回会期において設置される援助のための任意の基金に拠出すること。

(b)この条約が自国について効力を生じた後できる限り180日以内に、要請に基づく援助の調達に関して機関と協定を締結すること。

(c)この条約が自国について効力を生じた後180日以内に、機関の要請に応じ提供することのできる援助の種類を申告すること。締約国は、その後、申告した援助を提供することができなくなった場合にも、引き続き、この7の規定にしたがって援助を提供する義務を負う。

8 以下に掲げることが考えられる場合は、締約国には援助要請する権利があるとともに、9から11までに規定する手続にしたがって、化学兵器の使用または使用の脅威に対する援助と防護を受ける権利がある。

(a)化学兵器が自国に対し使用されたこと。

(b)暴動鎮圧剤が自国に対する戦争で使用されたこと。

(c)自国が、第1条の規定によって締約国に対し禁止されている活動によって、いずれかの国から脅威を受けた場合。

9 前項の要請は、その要請を裏付ける情報を付して事務局長に対して行うものとし、事務局長は、その要請を執行理事会及びすべての締約国に、直ちに伝達しなければならない。事務局長は、化学兵器が使用され、または暴動鎮圧剤が戦時に使用された場合には、7の(b)及び(c)の規定にしたがって自発的な援助を申し出た締約国に対し、緊急の援助派遣要請を直ちに伝達しなければならない。化学兵器の使用または暴動鎮圧剤の戦時使用の重大な脅威がある場合には、援助要請の受領後12時間以内に援助に関心のある締約国に、人道上の援助要請があったことを伝達しなければならない。事務局長は、当該要請の受領の後24時間以内に、更にとるべき措置の根拠を提供するために調査を開始する。事務局長は、72時間以内に調査を完了し、執行理事会に対し報告を提出する。調査完了までにさらに期間を必要とする場合には、当該72時間以内に中間報告を提出しなければならない。調査に必要な当該追加の期間は、72時問を超えてはならない。ただし、72時間ごとの更なる期間の追加を可能とする。各追加期間の終了時に執行理事会に報告を提出する。この調査によって、援助要請とその要請に付された情報が適切で本条約にしたがっていることが確認された場合は、援助要請に関係する事実の確定並びに必要とされる追加的な援助及び防護の種類と範囲を確定する。

10 執行理事会は調査報告を受領後24時間以内に、事態を検討するために会合するものとし、次の24時間以内に単純多数による議決により、技術事務局に対し追加的な援助を提供するよう指示するか否かを決定する。技術事務局は、調査報告及び執行理事会の決定を、直ちにすべての締約国及び関係国際機関に対し送付する。執行理事会が技術事務局に対し追加的な援助提供の指示を決定する場合には、事務局長は、直ちに援助を提供する。この目的のために、事務局長は、要請した締約国、他の締約国及び関係国際機関と協力して行動する。締約国は、援助の提供のために可能な最大限度の努力をする。

11 実施中の調査や他の信頼し得る情報源から得られた情報により、化学兵器の使用による犠牲者の存在が明らかで、速やかな措置が不可欠である場合には、事務局長は、すべての締約国にこれを通報し、このような緊急事態に備えて、会議が事務局長の利用に供した資源を用いて、援助のための緊急措置をとる。事務局長は、本規定にしたがってとる措置を常時執行理事会に通報する。

第11条    経済的及び技術的発展

1 この条約の実施にあたっては、締約国の経済的または技術的発展を妨げず、また、この条約によって禁止されていない目的のための化学物質の製造、処理または使用に関する科学、技術的情報や化学物質並びに装置の国際的な交換を含む、この条約によって禁止されていない目的のための化学に関する活動の分野における国際協力を妨げないようにしなければならない。

2 締約国は、この条約の規定にしたがうことを条件として、かつ、国際法の諸原則及び適用のある国際法の諸規則を害さない範囲で、以下の権利を有し義務を負う。

(a)単独または共同して、化学物質の研究、開発、製造、取得、保有、移譲及び使用する権利。

(b)この条約によって禁止されていない目的のための化学の開発及び利用に関係する化学物質、装置並びに科学的、技術的情報の交換に参加する権利。締約国は、これらの化学物質や情報は、可能な限り容易に交換させることを約束する。

(c)国際協定による制限を含み、平和的目的の化学分野における貿易や科学的、技術的知識の開発及び促進を妨げる制限を、この条約の名の下に締約国間で維持してはならない。

(d)この条約が規定し、またはこの条約が認める措置以外の措置を実施するための根拠として、この条約を利用せず、及びこの条約に適合しない目的を追求するために、他のいかなる国際協定も利用しない。

(e)化学物質の貿易の分野における既存の国内法令を、この条約の趣旨及び目的に適合させることを約束する。

第12条    事態の是正と条約の遵守を確保するための制裁を含めた措置(

1 会議は、この条約の遵守の確保と条約に違反する事態の是正及び改善のため、2から4までに規定する必要な措置をとる。会議は、本規定に基づく措置を検討する際は、問題に関して執行理事会が提出するすべての情報と勧告を考慮する。

2 執行理事会により、本条約が遵守されていないので是正することを要請され、かつ、一定の期間内に当該要請に応ずることができなかった締約国に対して、会議は、特に執行理事会の勧告に基づき、その締約国が必要な措置をとるまでの間、その締約国の権利及び特権を制限あるいは停止することができる。

3 特に第1条の規定を始めとするこの条約によって禁止されている活動から、この条約の趣旨及び目的に対する重大な障害が生ずる可能性のある場合には、会議は、締約国に対して国際法に適合する集団的な措置を勧告することができる。

4 特に重大な場合には、会議は、関連する情報及び判断を含めた問題点を、国際連合総会及び国際連合安全保障理事会に持ち込んで、その注意を喚起する。

第13条    他の国際協定との関係

この条約のいかなる規定も、1925年のジュネーヴ議定書並びに1972年4月10日にロンドン、モスクワ及びワシントンで署名された細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、製造及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約に基づく各国の義務を限定しまたは軽減するものと解してはならない。

第14条    紛争の解決

1 この条約の適用または解釈に関して生ずる紛争は、この条約の関連規定と国際連合憲章の規定によって解決する。

2 この条約の解釈または適用に関して、締約国間で、あるいは締約国と機関との間で紛争が生ずる場合には、関係当事者は、本条約の内部機関への提起や国際司法裁判所への付託、その他の平和的手段による速やかな解決に向けて協議しなければならない。関係締約国は、その措置の途中経過を執行理事会に常時通報しなければならない。

3 執行理事会は、あっせんを提供すること、紛争当事国となっている締約国が、選択する手続の開始要請や解決までの期限の勧告を含め、執行理事会が適当と認める手段によって紛争の解決に貢献することができる。

4 会議は、締約国が提起しまたは執行理事会が注意を喚起する紛争に関係する問題を検討する。会議は必要と認める場合には、紛争の解決に関連して
補助機関を設置しまたは補助機関に任務を委託する。

5 会議及び執行理事会は、それぞれ独自に国際司法裁判所に対して、国際連合総会が許可することを条件に、機関の活動の範囲内において生ずる法律問題に対する勧告的意見を与えるよう要請できる。これは、第8条34(a)の規定に基づく執行理事会の権限である。

6 本条の規定は、第9条の規定または事態を是正し及びこの条約の遵守を確保するための、制裁を含む措置に関する規定を害するものではない。

第15条    改正

1 いずれの締約国も、この条約の改正を提案することができるものとし、また、4に規定するこの条約の附属書の修正を提案することができる。改正のための提案は、2及び3に規定する手続にしたがう。4に規定する修正のための提案は、5に規定する手続にしたがう。

2 改正案については、すべての締約国及び寄託者に対して回章に付するため事務局長に提出する。改正案は、改正会議においてのみ検討する。改正会議は、改正案の回章の後30日以内に、3分の1以上の締約国が改正案を更に検討することを支持する旨を事務局長に通報する場合に開催される。改正会議は、改正案の検討を要請する締約国が早期の開催を要請する場合を除くほか、会議の通常会期の後直ちに開催される。いかなる場合にも、改正会議は、改正案の回章の後60日を経過するまで開催されない。

3 改正は、次の(a)及び(b)の要件が満たされる場合には、(b)に規定するすべての締約国が批准書または受諾書を寄託した後30日で、すべての締約国について効力を生ずる。

(a)改正会議において、いかなる締約国も反対票を投ずることなく、すべての締約国の過半数の賛成票により採択されること。

(b)改正会議において賛成票を投じたすべての締約国が批准しまたは受諾すること。

4 この条約の実行可能性及び実効性を確保するため、附属書の規定は、修正案が運営上のまたは技術的な性質の事項にのみ関連する場合には、5の規定にしたがって行われる修正の対象とする。化学物質に関する附属書のすべての修正は、5の規定にしたがって行われる。秘密扱いに関する附属書のA及びCの規定、検証附属書第10部の規定並びに検証附属書第1部に規定する定義であって申立てによる査察にのみ関係するものは、5の規定にしたがって行われる修正の対象としない。

5 4に規定する修正については、次の手続にしたがって行う。

(a)修正案は、必要な情報と共に事務局長に送付する。すべての締約国及び事務局長は、当該修正案を評価するための追加の情報を提供することができる。事務局長は、すべての締約国、執行理事会及び寄託者に対し、当該修正案及び情報を速やかに通報する。

(b)事務局長は、修正案の受領の後60日以内に、この条約の規定及び実施に及ぼし得るすべての影響を把握するために当該修正案を評価するものとし、その結果についての情報をすべての締約国及び執行理事会に通報する。

(c)執行理事会は、すべての入手可能な情報に照らして修正案を検討する(当該修正案が4に定める要件を満たすか否かについての検討を含む。)。執行理事会は、当該修正案の受領の後90日以内に、適当な説明を付して、執行理事会の勧告を検討のためにすべての締約国に通報する。締約国は、10日以内にその受領を確認する。

(d)執行理事会がすべての締約国に対し修正案を採択することを勧告する場合において、いずれの締約国もその勧告の受領の後90日以内に異議を申し立てないときは、当該修正案については、承認されたものとみなす。執行理事会が修正案を拒否することを勧告する場合において、いずれの締約国もその勧告の受領の後90日以内に異議を申し立てないときは、当該修正案については、拒否されたものとみなす。

(e)執行理事会の勧告が(d)の規定にしたがって締約国によって受け入れられない場合には、会議は、次の会期において実質事項として修正案の承認についての決定(当該修正案が4に定める要件を満たすか否かについての判断を含む。)を行う。

(f)事務局長は、この5の規定に基づく決定をすべての締約国及び寄託者に通報する。

(g)この5に定める手続にしたがって承認された修正は、他の期間を執行理事会が勧告しまたは会議が決定する場合を除くほか、すべての締約国につき、事務局長が当該承認を通報した日の180日後に発効する。

第16条    有効期間及び脱退

1 この条約の有効期間は無期限とする。

2 締約国は、この条約の対象である事項に関係する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する。この権利を行使する締約国は、他のすべての締約国、執行理事会、寄託者及び国際連合安全保障理事会に対しその90日前にその旨を通告する。その通告には、自国の至高の利益を危うくしていると認める異常な事態についても記載する。

3 この条約からの締約国の脱退は、国際法の関連規則、特に1925年のジュネーヴ議定書に基づく義務を引き続き履行することについての国の義務に何ら影響を及ぼすものではない。

第17条    附属書の地位

 附属書は、この条約の不可分の一部を成す。「この条約」というときは、附属書を含めていうものとする。

第18条    署名

 この条約は、発効前は署名のためにすべての国に開放しておく。

第19条    批准

 この条約は、署名国により、それぞれ自国の憲法上の手続にしたがって批准されなければならない。

第20条    加入

 この条約が発効する前にこの条約に署名しない国は、その後はいつでもこの条約に加入することができる。

第21条    発効

1 この条約は、65番目の批准書が寄託された日から180日後に発効する。ただし、いかなる場合にも、署名のための開放の後2年を経過するまでは発効しない。

2 この条約が発効した後に批准書または加入書を寄託する国については、その批准書または加入書の寄託の日の30日後にその国に対して条約が発効する。

第22条    留保

 この条約の本文については、留保は付することができない。この条約の附属書については、この条約の趣旨及び目的と両立しない留保は付することができない。

第23条    寄託者

 国際連合事務総長は、ここに、この条約の寄託者として指名されるものとし、特に、次のことを行う。

(a)すべての署名国及び加入国に対し、各署名の日、各批准書または各加入書の寄託の日、この条約の発効日及びその他の事項に係る通告の受領を速やかに通報すること。

(b)この条約の認証謄本をすべての署名国政府及び加入国政府に送付すること。

(c)国際連合憲章第102条の規定にしたがってこの条約を登録すること。

第24条    正文

 この条約は、アラビア語、中国語、英語、フランス話、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とし、国際連合事務総長に寄託する。

 以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。

1993年1月13日にパリで作成した。




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