銃器鑑定

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連邦捜査局
アメリカ合衆国司法省
ワシントンD.C.


(1) はじめに
(2) ジョン・エドガー・フーヴァーの序文
(3) 用語集
(4) 目的
(5) 試料採取と符号付け
(6) 試料送付
(7) 研究所における鑑定
(8) 連邦未解決事件弾丸類ファイル
(9) 関連鑑定
(10) 法廷での証言
(11) 銃器関連証拠の鑑定法の発展と証拠能力


(1) はじめに
 銃器鑑定は、今では世界中の法執行機関が連日行っている日常的な業務である。完成された技術として脚光を浴びることは少ないが、その技術の発展段階には、技術を育て、普及するために大きな努力が払われてきた。銃器鑑定がまだ発展段階にあった時代に、FBIが国内の法執行機関に向けて、「銃器鑑定とは何か」、「何ができるのか」を示したテキストが存在する。このテキストが作成されたのは1941年で、銃器鑑定に関する著名なテキストが揃って出版された1935年から6年後のことであり、日本がアメリカと戦争を開始した年である。

 アメリカ合衆国におけるこの分野の先駆者であるカルヴィン・ゴダード(Calvin H. Goddard)が、この鑑定分野に比較顕微鏡を導入し、その1号機が納入されたのは1925年4月であった。その後彼は、比較顕微鏡による発射痕鑑定技術の普及に努めた。ところが、彼が「カルヴィン・H・ゴダードが語る発射痕鑑定の歴史」の中で紹介しているように、FBIは1927~1928年になっても比較顕微鏡に興味を示さなかった。FBIが比較顕微鏡に興味を示し始めたのは、ゴダードがバレンタインデー虐殺事件の鑑定で大きな成果を挙げた後の1930年代になってからであった。それから10年が経過して、FBIの銃器鑑定部門では比較顕微鏡を用いて発射痕鑑定が行われており、成果を挙げていたことがこのテキストから分かる。さらにその成果を高めるために、このようなテキストが作られるまでになったのである。

 このテキストは、今から70年も前に法執行機関を対象に作成されたもので、証拠資料の収集や、それをFBIの研究所に送る手続きなどが詳しく書かれている。鑑定業務の実際については、詳細には書かれていはいないが、簡潔にその内容は示されている。これは、法執行機関の職員を対象とした文書であり、一般公開を意図したものではない。犯罪捜査技術を公開すると、犯罪捜査に支障が生じるとの怖れから、この種の技術が公開されないことがある。科学的証拠のドーバートの基準によれば、検証可能な技術でなければ科学的証拠として認定されないことから、現在のアメリカでは、この種の資料は積極的に公開されるようになってきた。

 このテキストの重要性は、当時のアメリカ国内における証拠物件の取扱いについて知ることができること、発射痕鑑定技術を紹介していることだけでなく、アメリカの各州の裁判所が、銃器関連証拠をどのように認定してきたか、裁判でどのような問題があったかの経緯を示すリストが付属していることにある。

 この貴重な資料は、訳者の畏友ジョン・マードック(John E. Murdock)を通じて入手したものである。

(2) ジョン・エドガー・フーヴァーの序文
 銃器鑑識が犯罪捜査に対して科学的分野から果たす貢献は、今や十分確立したものとなった。この技術が捜査機関で広く利用されることになったのは、最近になってからのことではあるが、検察官と裁判官は、連邦捜査局(FBI)の有能な鑑定専門家による証言は、信頼性が高く証拠価値のあるものと一致して表明している。その中で、法執行機関の係官が、銃器鑑識に対する知識が乏しいようなことになると、この鑑定技術に対する疑義を持たれることにもなりかねない。最近私は、「証拠物件の痕跡の状態がこのようなものであるが、それを鑑定物件として送付すべきだろうか」といった質問や、「この分野ではどのような鑑定が可能なのか」、あるいは「何かできることはないのだろうか」といった質問を受けることが多くなった。これらの質問に答える上でも、この小冊子が警察と検察関係者に大変有意義なものと信じている。

 もちろん、銃器鑑定のあらゆる局面で発生する問題について、そのすべてを吟味することは困難である。そこで、追加情報が必要であれば、連邦捜査局は、あらゆる可能な助力を喜んで与えることを約束する。

 FBIの技術研究所の設備は、すべての警察と検察の係官の要求に対して、無償で提供することとしている。そして、ためらうことなく鑑定の要求をしていただければ、これらの設備が有効に活用されることになり、それは私の望みとするところである。

 なお、鑑定にともなう文書作成業務が膨大になっていることから、現在のところ、この種の鑑定の受け入れ先は連邦捜査機関からに限らせてもらっている。

                                 J・エドガー・フーヴァー

(3) 用語集
アクション(Action 作動機構、構造) 銃器の作動機構を示す用語

アムニション(Ammunition 実包、弾薬) 金属実包と散弾実包を総称した用語

オートローディング(Autoloading 自動装填式銃器) 引き金を1回引くと弾丸が発射されるとともに、次に引き金を引く際に発射される実包が装てんされる銃器

オートマティック(Automatic 自動式銃器)引き金を引いている間、弾丸が発射され続ける銃器

バリスティックス(Ballistics 弾道学) 弾丸の運動を解析する科学
  エクステリア・バリスティックス(Exterior 砲外弾道) 銃口を飛び出した後の弾丸の飛跡、速度、エネルギーなどの運動を解析する科学
  インテリア・バリスティックス(Interior 砲内弾道) 弾丸が銃腔内にある間の運動を解析する科学。発射薬の燃焼、発生圧力、弾丸速度などを解析する
  フォレンシック・バリスティックス(Forensic 法弾道学) 裁判手続きにおける弾道学。時には発射痕鑑定を示す用語となっている。

ボーア(Bore 銃腔> 弾丸が通過する円筒状の部品

ブリーチブロック(Breechblock 銃尾)銃腔の後端部を閉鎖して、火薬の燃焼圧力を支える金属部品。この部品の表面はブリーチフェイス(Breechface 閉塞壁)という。

ブレット(Bullet 弾丸) 銃器から発射される飛翔体

キャリバー(Caliber 口径) 銃腔径を示す用語

キャネルア(Cannelure キャネルア) 弾丸を取り巻く溝で、潤滑目的でグリースが塗布されていることがある

キャップ(Cap 雷管体) 雷管体

カートリッジ(Cartridge 実包) 弾丸、雷管、薬きょうと発射薬から構成された、未発射の実包。

カートリッジ・ケース(Cartridge Case 薬きょう)雷管と発射薬の入れ物の役割を果たす円筒状の部品

チャンバー(Chamber 薬室) 銃器を射撃する際に実包が装てんされる部位

ジェネラル・キャラクタリスティックス(Characteristics: General 腔旋諸元、型式特徴、一般特徴)型式に共通する特徴を示し、固有特徴と対を成す用語

インディヴィデュアル・キャラクタリスティックス(Characteristics: Individual 固有特徴) 偶発的に生じる性格の痕跡であることから、特定の物体固有の特徴であり、物体の識別の基礎となる特徴

ダブル・アクション(Double Action 複作動) 引き金を引くと、撃鉄が後退して固定されるともに、続いて撃鉄が開放される作動機構の銃器

イジェクター(Ejector 蹴子) 薬きょうを銃器から勢いよく排出させる銃器の機構(を担う部品)

エクストラクター(Extractor 抽筒子) 薬きょうを薬室から引きずり出す銃器の機構(を担う部品)

ファイアアーム(Firearm 銃器) 発射薬の燃焼によって発生する膨張力によって、弾丸に推進力を与える装置

グルーヴズ(Grooves 旋底) 銃身内部(銃腔)に削られている溝

ランズ(Lands 旋丘) 腔旋銃身の内部(銃腔)に削られている溝の間にある、盛り上がった部分

ショット・パターン(Pattern: Shot 散弾パターン) 銃腔から発射された散弾の拡散状態を示す

パウダー・パターン(Pattern: Powder 発射薬パターン) 銃器を発射した際の、発射薬の残渣の付着堆積状態を示す

ピストル(Pistol 拳銃) 片手で操作する銃器で、通常単発と自動装てん式の銃器を指す

ブラック・パウダーズ(Powders : Black 黒色火薬) 木炭、硫黄と硝酸ナトリウムあるいは硝酸カリウムの機械的混合物

スモークレス・パウダーズ(Powders; Smokeless 無煙火薬) 基剤にニトロセルロースを含有する火薬

プライマー(Primer 雷管)雷管体に含まれる鋭敏で微量の爆発物。撃針によって起爆され、発射薬を発火させる。

レヴォルヴァー(Revolver 回転弾倉式拳銃) 次々に実包を発射位置に送るための回転する弾倉がある片手で射撃する銃器

リコシェイ(Ricochet 跳弾) 物体表面に衝突して、弾丸の進行方向が反れること

ライフル(Rifle ライフル銃) 肩付けして射撃する銃器

ショットガン(Shot Gun 散弾銃) 一発で何粒もの鉛弾を発射するように作られた滑腔銃身の銃器

シングル・アクション(Single Action 単作動) 弾丸を発射する際に、撃鉄を手動で引き起こして固定する必要がある銃器で、その後引き金を引くと撃鉄が解放される

スモール・アームズ(Small Arms 小火器) 一人で持ち運び可能で、一人で射撃するように作られた銃器

ワッド(Wad ワッズ) 散弾実包内で、発射薬と散弾を隔離するために用いられる、紙製、フェルト製や合成樹脂製の円盤

(4) 目的
 この小冊子の目的は、銃器鑑識に対して、捜査関係者と検察関係者が抱く疑問に答えることにある。このような方々が持たれているこの専門分野に対する視点と、科学的な教育を受けている技術者の視点との間には、違いがあろう。ここで紹介する情報は、特別に科学的勉強をしていない方々から、その期待に応えることができるものとして、特に歓迎されるものと期待している。このような目的から、この小冊子には、必要以上に技術的な内容は含まれていない。一方で、銃器関係の証拠物件の鑑定を実際に行う研究所に、それら証拠資料を送付するまでに捜査員が行わなければならないこと、すなわち犯罪現場から証拠物件を採取し、それに番号を振り、それを研究所に送付する具体的手続きについて、示唆に富んだ事柄が含まれているであろう。もちろん、研究所における鑑定内容についても簡単に紹介している。さらに、法廷での銃器鑑定者による証言についても触れており、これは検察官にとっては大いに参考になると思う。

(5) 試料採取と符号付け
 犯罪現場における証拠物件の捜索について、一定の規則を設けることは、言うまでもなく難しい。全く同じ事件は2度とは起こらないため、捜査指揮と適切な判断が重要となってくる。ただ、証拠物の鑑定法とその保存法については、確実な根拠に基づく原則が存在しており、それを軽視してはならない。採取された物件証拠を扱う際は、その変質や損壊を防止するために、最大限の注意を払わねばならない。証拠物件は適切に識別され、その裁判において犯罪事実と確実に関連付けられない限り、それは無意味なものとなってしまう。したがって、これらの証拠物件は、採取時点で適切な符号を与え、それを記録することによって、将来その証拠物件が犯罪事実と確実に関連付けられるときに備えなければならない。この原則は、遺体から弾丸を摘出した検視官にも、解剖医から弾丸を受け取った警察官にも、犯罪現場から弾丸を採取した捜査官にも、共通していえることである。

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                       現場弾丸の典型例

 ところで、証拠物件を確実に関連付けすることは、初めての方には難しいと思われるかもしれない。ところが、それはきわめて簡単にできることなのである。証拠物件が弾丸や薬きょうなどの場合には、捜査員のイニシャルやサインを、鑑定に重要となる痕跡部分を損なわない場所に書き込むだけでよい。場合によっては、一か所の犯罪現場から数個の弾丸が採取されることもあろう。このような場合には、それに続いて番号を振り、その番号順に記録を取ることによって、その後の整理が容易となる。弾丸の場合には、その底部が、このような符号を書き込む場所として適している。場合によっては、弾丸頭部に符号を書き込むこともあろう。間違っても、銃腔由来の痕跡が付けられている、弾丸の側面に符号を書き込んではならない。

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      現場弾丸に識別記号を書き込むのに理想的な場所は、多くの場合で弾丸底部である

 薬きょうの痕跡鑑定では、撃針痕、抽筒子痕、蹴子痕や閉塞壁痕を観察するが、これらの痕跡はすべて薬きょうの頭部(訳注:日本では底部と呼ぶ)にあることから、資料の識別符号は薬きょうの解放端(きょう口部)に付けることが適当であろう。識別符号を、薬きょうの解放端の内側に書き込めば、その符号の保存性は高い。先端がとがった金属を用いて符号を書き込めばよいが、通常はペンナイフ、針、ペーパークリップで書き込むことができる。

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                  現場弾丸類の適切な梱包方法例を示す

 証拠物件の中には、小さすぎて、通常の方法では符号を書き込む場所がないものがある。たとえば、破片化した弾丸の小粒やバードショットの散弾粒には、このような符号を書き込むだけの表面積がないだろう。このような小型の証拠物件の場合では、それらを容器に入れる必要が生じる。その容器としては、小型の丸薬入れが適しているだろう。この容器なら、口をワックスでシールすることができる。この場合、容器に識別符号を付けることになるが、その容器によって証拠物件を識別することになることから、この容器自体も証拠物件となる。

 発射痕鑑定の対象となる痕跡は、顕微鏡で観察しなければ分からない大きさのものであり、取扱いの際に不必要に大きな力を与えたり、試料表面を保護しないと、この貴重な痕跡が破壊されてしまうということは、肝に銘じておくべきである。資料に識別符号を付けたならば、この傷つきやすい痕跡を保護するために、資料を柔かい物の間で注意深く保管する必要がある。それには脱脂綿、ティッシュペーパーや柔らかい布が適している。絶対にそうしなければならない訳ではないが、実包類の証拠資料は、薬局で入手できる丸薬入れや粉末入れの小瓶に、個別に収納することを勧める。こうすれば、複数の資料が互いに接触することによって、それらの表面痕跡が傷ついてしまうことを防止できる。

 ほとんどすべての銃器には銃番号が振られており、その銃番号を記録しておけば、回収された銃器にわざわざ別の識別符号を付ける必要はない。銃番号以外の別の識別符号を記入する方針をとる捜査員もいるが、そうする場合には、目立たない位置に、小型の符号を丁寧に書き込むべきである。銃器には、大きな文字をけがいたりすべきではない。銃器が証拠物件となった場合には、少なくとも、その口径、銃器の種類(ライフル銃、散弾銃、回転弾倉式拳銃、自動装てん式拳銃など)、銃器の製造会社名と銃番号を記録しておく必要がある。特異な外観、例えば特注の握り側板が付いていること、などは記録しておくべきである。銃器を、木くずや紙くずの緩衝材を入れた箱に梱包する際は、それらの屑が銃器の機構部に混入しないようにするため、まずきれいな紙で銃器を包んでから箱に梱包しなければならない。

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                証拠物件の銃器を研究所に送付するための準備

 鑑定物件となた衣類を研究所に送付する場合には、各衣類に個別の符号を付け、それぞれをきれいな紙に包み、一箱にまとめて梱包して送付する。捜査員は、衣類一着ごとにその特徴を克明にノートに記述するとともに、鑑定箇所とはなりにくい、裏地などの目立たない場所に識別符号を書き込んでおくとよい。

 証拠物件の採取経緯に関するすべての情報を、その資料の上に書き込むことはもとより不可能であることから、資料の採取状況、識別符号の記入状況、その後の証拠物件の取り扱い状況などは、ノートに克明に記録する必要がある。証拠資料に書き込んだ識別符号は、捜査官のノートに控え、その下に証拠物件の詳細について書き留めておく。その内容として、その証拠物件が関わる事件の内容、資料を採取した場所の詳細、採取日時、資料の梱包方法、証拠物件から取り除いたものがあればその詳細などである。

(6) 試料送付
 FBI研究所は、法廷の要求に応じて、鑑定資料の移動と保管の全経緯(chain of custody)を開示できるようにしておきたい。この理由から、FBI研究所の証拠物件取扱い規則は、鑑定に提出された証拠物件を保護する最良の方法で規定されている。FBI研究所では、送付された鑑定物件を最初に開封するのは、原則として実際に鑑定を行う者となるように努めている。ただし、捜査機関からFBIの技術研究所に証拠物件を送付する際の宛先は、常に「ワシントンD.C. アメリカ合衆国司法省 連邦捜査局長官」としてもらいたい。また、その送付物件にかかわる事件の事件名、被害者名、容疑者名、事件の概要を記した鑑定嘱託書を送付されたい。かさばる証拠物件の場合はもちろんのこと、弾丸1個の場合でも、鑑定嘱託書の手紙と証拠物件とは別送とし、さらに証拠物件の中に別送した鑑定嘱託書のコピーを同封して頂けるとありがたい。したがって、鑑定嘱託書か鑑定物件のいずれかが到着した時点で、もう一方の配送物が配送途中であることが分かり、両者が到着した時点で、鑑定嘱託書の内容によって、希望する鑑定内容が分かり、鑑定担当者を割り当て可能となる。そして、鑑定を割り当てられた担当者が鑑定物件の梱包を開封し、鑑定物件を梱包して送付当局に返送するまでの間は、鑑定担当者が鑑定物件の保管責任を負う。

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      発射済みの弾丸類を研究所に鑑定送付するための最適な手段は書留郵便である

 発射済みの実包資料、すなわち、1個から数個の現場弾丸や現場薬きょうは、書留郵便で送付すべきである。未発射の実包は郵送できないため、鉄道便か航空速達便を利用して送付することになる。銃器と実包類資料をともに送付する場合には、実包類が発射済みか未発射かにかかわらず、梱包した上で「銃器」と大書し、それを鉄道速達便で送付するのが良いだろう。衣類資料や工具類などのかさばる証拠物件は、鉄道速達便か航空速達便で送付すべきである。

 鑑定物件を連邦捜査局の研究所に送付する際の梱包物の宛名は、いずれの送付方法でも「ワシントンD.C.、アメリカ合衆国司法省、連邦捜査局長官」とすべきである。そして、すべての梱包物に「技術研究所宛て」と目立つように記載することを忘れないでほしい。

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         かさばる荷物や郵送に適さない物件の送付には鉄道速達便を利用すること

 鑑定処理の順番は、もちろん受け付け順になされる。ただし、事件の内容によって、至急処理の特別な要請がある場合は、この限りではない。そのような場合で、電報あるいは航空便による回答の要請があれば、鑑定書をできる限り早く処理する最優先の扱いをする。

(7) 研究所における鑑定
 発射痕の識別鑑定は、機械加工される銃器の銃身には、工具の顕微鏡的な不完全性や、その他の機械的性質によって、銃身に微細な傷や欠陥が発生し、それが各銃身固有の特徴となり、その結果、同じ特徴を持った銃身が他に存在しない、という事実を根拠にして行われる。さらに、製造後の使用や摩耗は銃器に更なる固有特徴を与える。弾丸発射時にざらついた粒子が銃腔に押し付けられながら通過したり、銃腔に生じる錆や腐食によって銃腔内に更なる痕跡が追加されるからである。これらのことから、銃身を通過して発射される弾丸の表面には、通過した銃腔表面に固有な特徴が付けられる、と期待することには合理性がある。これは、発射弾丸を顕微鏡で観察することで、すぐに分かる事柄である。

 この基本原理は、銃器の発射機構にも適用できる。撃針、閉塞壁面、抽筒子と蹴子は、すべて薬きょうと接触する。そして、これらの部品には固有性があり、薬きょうに残されるこれらの部品との接触痕跡を用いると、薬きょうを排出した銃器を特定可能となる。

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          研究所の銃器鑑定部門の技術者が比較顕微鏡を操作している様子

 現場弾丸を容疑銃器と直接比較することはできないので、始めに容疑銃器から試射弾丸を発射し、現場弾丸と試射弾丸との間で共通した固有特徴を探す努力をする。この作業は、この目的のために設計された特殊機材を用いて初めて可能となる。その機材は比較顕微鏡といい、二つの資料の拡大像を光学的に並べて表示できるもので、実際には離れたところにあるものの一部を、合成像として観察できる。この顕微鏡を用いると、銃身の固有特徴痕が付けられた現場弾丸を回転させて観察可能で、それと類似した痕跡が試射弾丸にもあるかどうか検査することができる。この検査で、十分な量の一致する特徴が見つかった場合には、現場弾丸が容疑銃器から発射されたものと確実に結論することができる。同様に、実包の爆発力によって薬きょうの底面が銃器の閉塞壁面に押し付けられて付けられる痕跡にも、不規則な過程による形状特徴が残されることから、その固有性を比較顕微鏡で比較することで、発射銃器の特定が可能となる。

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                     研究所の収集銃器保管庫

 さらに、発砲事件の際に容疑銃器が発見されていない場合でも、事件の直後に速やかに採取された弾丸や薬きょうは、それらの痕跡を比較資料として用いることができる。FBIの技術研究所には、各種の口径や形式の弾丸、薬きょうと、アメリカ国内はもとより、カナダとイギリス及びヨーロッパ大陸の多くの実包製造会社が製造した実包資料が取り揃えられている。現場弾丸と薬きょうの顕微鏡観察と精密測定機材を用いた測定結果をこの収集資料のものと比較することで、現場弾丸や薬きょうの正確な口径と種類が確定できる様になり、それによって発射銃器を絞り込むことが可能となる。それによって、捜査員の捜査対象を明確化することができ、容疑銃器の捜索範囲を限定させることが可能となる。さらに技術研究所では、弾丸の腔旋痕諸元の詳細なデータがある。発射弾丸の腔旋痕諸元の測定値と、この腔旋痕諸元表のデータを対照することで、現場弾丸を発射した銃器の種類を調べることができる。たとえば、ある特定の腔旋痕の数値はコルトの回転弾倉式拳銃のものであることを示しているとする。その場合、アメリカ国内で製造されているそれ以外の市販銃器からは発射されていないと結論することができる。これによって、捜査員が容疑銃器の捜索対象範囲を絞り込むことに役立つことはもちろんである。

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  きわめて良好な一致条痕の比較写真。好条件の銃身で発射した2個の弾丸を高倍率で比較した

 標的に衝突した弾丸が変形すると考えるのは合理的である。弾丸の変形程度は、弾丸が衝突する物体の種類によって変化するだろう。場合によっては、弾丸が破片化してしまい、その弾丸の口径や元の実包の種類の決定が困難になることもある。ただ、鑑定不能になるところまで変形してしまうことは、あくまで少数例である。たとえ、その弾丸の発射銃器を特定の1丁に絞ることが困難になるまで変形損傷していたとしても、発射銃器の種類や型式が分かることは多い。このような変形資料でも、現場弾丸を発射した候補銃器から、容疑者が所持していた銃器を除外する上では役に立つことがある。弾丸を肉眼観察しただけでは、研究所でどこまでの結論が得られるのかを推定することは不可能だということを肝に銘じてほしい。実際、大きく変形した弾丸や、小さく破片化してしまった弾丸からでも、発射銃器が特定された事例は少なくない。

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       銃身の状態が不良だったにも関わらず、決定的な一致箇所を発見した例

 研究所の鑑定者は、発射銃器が特定された場合には、比較写真を必ず撮影する。この写真は、鑑定者が鑑定の際に用いた比較顕微鏡で撮影されたものである。この比較写真は、法廷で証言する際に絶大な価値を持つが、法廷での証言については改めて後に説明する。

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            特徴痕のある銃身による発射弾丸の低倍率の比較例

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       銃身の旋底に不良個所があることから、発射痕による銃器の特定ができた例

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       閉塞壁痕の特徴痕が驚くほど良好に一致した散弾銃の打ち殻薬きょう

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          遊底頭痕が一致した自動装填式拳銃の2個の打ち殻薬きょう

(8) 連邦未解決事件弾丸類ファイル
 技術研究所には、アメリカ国内の未解決事件の犯罪現場から回収された弾丸と薬きょうを分類整理した、連邦未解決事件弾丸類ファイルが保管されている。このようなファイルが維持されているのは、それらの事件を解決するためである。技術研究所に送付されるすべての銃器は、研究所内で試射弾丸と試射薬きょうが採取され、この現場弾丸類ファイル内の資料と比較される。新たに送付される現場弾丸類資料も、この保管ファイル内の資料と比較される。同じ銃器を用いて場所を転々と移動して実行される犯罪や、繰り返される犯罪の場合、2件の未解決事件の証拠資料が別々の場所で保管されていることが多く、これまで、それらを比較対象することはできなかった。このような未解決事件ファイルを整備することによって、離れた場所で発生した事件を結び付けられる可能性が出てきた。さらに、ある事件の容疑者から銃器を押収した場合に、その銃器を過去の未解決事件と結び付けられるようになった。

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 試射薬きょうと現場薬きょうの撃針痕を比較して口径0.22インチのライフル銃を特定した例を示す

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               同一拳銃の抽筒子痕の痕跡の対応状態を示す

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双眼顕微鏡を用いて、連邦未解決事件弾丸類ファイルの弾丸と薬きょうの痕跡の予備検査をしている様子

(9) 関連鑑定
 技術研究所では、文字通りの弾道鑑定も行っている。それは、弾丸の標的への侵徹、弾丸の速度、弾丸の飛跡、等々の問題に答えることである。散弾銃から発射された散弾の拡散状況(パターン)から、射撃距離を決定することは、この分野に属する。

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左側のゴム引き電線は強盗事件の現場で発見されたもの、右側の物は被疑者の住居で発見されたものである。これは工具痕検査の一例を示したものである。

 銃器から被害者までの距離を推定する上で、衣服に残された射入口の周囲に発射薬残渣が存在するか否かを化学薬品を使用して調べている。この検査は「発射薬パターン検査」あるいは「α-ナフチルアミン検査」として知られているもので、射撃距離を精度よく決定できるものではないが、多くの場合で価値のある状況証拠を提供する。

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このホチキスの針は、多額の金銭が盗まれた際に封筒を閉じ直すのに用いられたものである。ペーパークリップは、サイズ比較用に置いた。

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前の写真のホチキスの針の切断面と、被疑者のホチキスにあった針の切断面との比較写真を示す

 工具痕の鑑定は、その鑑定手法が発射痕の鑑定と同種のものである。切断工具の刃先、鋏付け工具の鋏付け面や打撃工具の打撃面などには、偶然性に起因する微細な凹凸が存在し、その凹凸によってそれぞれの工具に固有性が存在する。これらの凹凸や固有性は、肉眼で見える顕著なものもあれば、顕微鏡で観察して初めて分かるものもあるが、それらの工具が接触した物体にその特徴がしばしば転写される。したがって、弾丸の比較検査と同様に、どの工具が接触したのかを確実に決定することができる。

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2枚の写真のうち上の写真は、最近の破壊活動で壊された高圧電線ケーブルに残されたハンマーによる打撃痕である。下の写真は、被疑者のハンマーによって作成した対照痕跡である。

 これまでに取り上げた鑑定手法例は、事件の証拠物件に対する科学的鑑定手法の応用例を挙げたに過ぎない。研究所では、さらに多種多様の検査技術を駆使し、現在各種の鑑定を行っている。

(10) 法廷での証言
 研究所での鑑定が、銃器を使用した犯罪の捜査に欠くことのできないものであると同様、鑑定者証言は刑事事件の裁判でしばしば必要とされる。容疑者の銃器が事件で使用されたものと確定できれば、一連の状況証拠がつながり、犯罪事実の証明となることが多いからである。したがって、連邦捜査局では、検察官との連携を密にし、銃器関連証拠物の鑑定を行った鑑定者が、可能な限り法廷でその鑑定内容について証言するようにしている。この証言は、一切の経費を要求せずに行っている。

 研究所の鑑定者に証言を求める場合には、確実に出廷できるようにスケジュールを調整できるように、できるだけ早めに、裁判の期日と場所を明記して要求されたい。なお、裁判が数日間継続するような場合には、鑑定者の時間の節約のために、その裁判期日のうちのどの日に鑑定者証言が行われる予定なのかを指定することを強く求める。

 裁判手続きが多種多様であること、事件によって鑑定証言が必要とされる内容が様々であることから、この種の鑑定に関する法廷証言を行う方法を定式化することは難しい。かえって定式化しないでおいた方がよいだろう。もちろん、鑑定者証言が法廷で受け入れられるようにすることは必要である。一般的に、鑑定者の資格について、職業、教育歴、鑑定分野における研究歴や行った鑑定と同種の仕事の経験数などが尋ねられることが多い。多くの裁判経験からいうと、鑑定者の資格について説明した後、可能であれば、発射痕鑑定の科学について簡単に説明すべきである。そうすることで、裁判官と陪審員は、その裁判の証拠資料に対して行った鑑定内容の説明を、より明確に理解できるようになる。続いて、鑑定した証拠物件を一つづつ特定しながら、それぞれの資料で行った鑑定内容を詳細に述べ、得られた結論について証言することになる。

 鑑定内容について説明した後、2個の資料の痕跡が一致していることを説明する。その際、必要ならば鑑定の際に撮影した比較写真を用いて説明すると、陪審員を説得するのに効果的だろう。

 経済的理由と重複を避ける目的から、同種の問題について他の鑑定証人がすでに証言している場合には、連邦捜査局では重複した証言を行わないという規定を設けている。

  (11) 銃器関連証拠の鑑定法の発展と証拠能力
 以下に示すものは、銃器関連証拠に関する法廷の主要な決定である。この資料は、連邦捜査局が各法執行機関の参照資料として準備したものである。

 便宜上、各州をアルファベット順に並べ、新しい決定を先にして並べた。

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            アラバマ州

(アラバマ州 1933年)
オラレッテ対州事件
アメリカ南部州判例集第147巻641ページ
アラバマ州控訴裁判所判決 1932年6月21日。再審理却下 1933年2月21日。アラバマ州最高裁判所の上訴却下 1933年4月19日。

 侵入盗事件における保安官の証言では、口径0.38インチの拳銃が被告の家から発見された。保安官は、4年以上の保安官としての職歴の間、銃器の取り扱い経験は豊富であり、その間に銃器の取扱件数は多数に上り、多種多様の銃器を検査したと証言した。彼の銃器鑑定経験から、その銃器は最近発射されたものと考えられると証言した。アラバマ州控訴裁判所は、以下のように、この証言に証拠能力があると決した。

 「保安官による前述の証言は、鑑定専門家としての証言として、証拠能力を有すると断言する。」

(アラバマ州 1931年)
ヒューズ対州事件
アメリカ南部州判例集第135巻310ページ
アラバマ州控訴裁判所判決 1931年2月24日、事件移送命令却下 1931年6月11日(アメリカ南部州判例集第135巻311ページ)

 殺人未遂となった暴行事件を処理したのは、20年以上の拳銃取扱い経験を有すると証言するパトロール警察官であり、「発射したばかりの拳銃である」とする証言には、証拠能力があると認めた。

 アラバマ州控訴裁判所は、以下のように決する:
 「州側証人であるパトロール警察官ベイツは、警察在職中に20年以上の拳銃取り扱い経験を有し、発射直後の拳銃を検査すれば、それが発射直後のものかどうか判別できると証言した。そして、発砲事件現場に彼が同僚警察官とともに到着した時、被告は拳銃を手に持って階段の最上段に立っていたことから、その拳銃をその場で確保し検査した。その結果、その拳銃が発射直後(5分程度)であったと証言した。以上の点を考慮した結果、当裁判所は、その時、控訴被告人の拳銃に打ち殻薬きょうが1個入っており、拳銃は発射直後の状態であり、実包4発が装てんされていたとする証人の証言には、証拠能力があるものと認める。」

(アラバマ州 1922年)
パインズ対州事件
アメリカ南部州判例集第92巻663ページ、アラバマ州判例集第207巻413ページ。
アラバマ州最高裁判所判決 1922年2月9日、再審理却下 1922年4月27日。

 殺人被告事件でアラバマ州最高裁判所は次のように判決した。
「道路上の死体の脇で、1丁の回転弾倉式拳銃が発見された。弾倉内には1個の打ち殻薬きょうが残されていた。検察側証人は、この種の事例に詳しく、拳銃や実包を数多く扱ってきたと述べた上で、弾倉内の打ち殻薬きょうと、回転弾倉式拳銃の銃身を調べたところ、その拳銃は最近発射されたものではないと主張した。この証言と事件との関連性が高いことは明らかである。これに対し、証人は鑑定専門家とは思えないという異議が申し立てられた。証人は、この事件以外の数件の事件でも、もっと日常的な事柄に対する専門的知識に関する証言を行っており、当裁判所は、この証人の証言に証拠価値を認める。」

(アラバマ州 1914年)
ワイズ対州事件
 アメリカ南部州判例集第92巻663ページ、アラバマ州判例集第207巻413ページ。
アラバマ州最高裁判所判決 1922年2月9日、再審理却下 1922年4月27日。

 本件の殺人事件は、アラバマ州控訴裁判所で原判決が破棄され、差し戻された。他のことに合わせ、とりわけ原審で証言した2名の証人は、事件で使用されたとされる武器に関して証言するだけの資格がないと判断されたことがその理由である。この点について、控訴裁判所では次のように結論した。

 「証人マセニーは医師であり、それ以上の知識があるものではないと率直に判断する。十分な知識があるとして証言台に立ち、銃器の発射距離についての専門家として資格があると称し、女性が射殺された際の射距離について専門家としての意見を述べたとしても、裁判所がそれを証言資格のある専門家の意見と認めなかったからといって何の誤りもない。鑑定専門家としての証言をするためには、初めにその資格があることを示さなければならない。」

 「当法廷は、証人J・F・ジョンソンが、被告人の異議に対して答えるに当たり、その仮定的質問に専門家として答えるだけの十分な知識を持ち合わせていないものと結論する。証人の経験と観察は、戦争で使用された近代武器に限られており、本件殺人事件で使用された銃身を切断した単銃身の散弾銃については、たとえ知識があったとしても限られたものでしかないと認める。証人の意見は、問われた事柄に対する知識に基づく必要があり、鑑定専門家としての経験を有するとして、法律が要求する資格を認められた者のみが述べることができる。」

(アラバマ州 1913年)
スミス対州事件
 アメリカ南部州判例集第62巻184ページ、アラバマ州判例集第182巻38ページ。
アラバマ州最高裁判所判決 1913年4月15日。

 本件の殺人事件は、アラバマ州最高裁判所で原判決が破棄され、差し戻された。その中で最高裁判所は、当該の銃創が、特定の口径の弾丸によって形成されたものであるとの証言について触れている。:

 「博識で熟練した証人であれば、肉眼による傷害の観察から、それが銃創であると証言することは一般的な知識の範囲であろう。しかし、その傷が特定の口径の弾丸で形成されたと証言するためには、いかなる博識で熟練の証人といえども、専門家としての特別な知識が必要とされる。ところが、本件では傷害と弾丸の口径について、特別の議論が交わされたことはなく、重要なことではないとされている。そして、このように不十分は証明であっても、被告人には無害であるとの扱いがなされてしまっている。」

(アラバマ州 1913年)
スミス対州事件
 アメリカ南部州判例集第62巻575ページ、アラバマ州判例集第8巻控訴集187ページ。
アラバマ州控訴裁判所判決 1913年4月8日。

 本件の殺人事件は、アラバマ州控訴裁判所で原判決が破棄され、差し戻された。その中で銃器に関する目撃証言に付いて触れている。:

 「どのくらいの距離から銃器が発射されたのかに関する証拠は、現在のところ論争中となっている。州側の証人は、その距離の推定値として40ヤード、50ヤードと60ヤードを挙げ、別の距離の測り方として63歩の距離としている。*** 一方で、被告側の証人は、その距離を125ヤードとしている。当裁判所は、詳述された事実を考慮した上で、被告人が所持していて犯行に使われたとされる銃器と被害者までの距離が、危険範囲にないとする被告側の主張には法的能力があると考える。すなわち、使用された銃器には発射薬と弾丸が込められていたが、携行していた発射薬は、どのような条件下においても40ヤードの距離から致命傷を与えたり、重大な傷害を与えるには不十分なものであるとする被告側証人の意見には説得力がある。また、証人は、そのような意見を述べるにあたって、十分な経験と一般知識並びにこの分野の専門知識を有することを初めに示している。

(アラバマ州 1911年)
サンダース対州事件
 アメリカ南部州判例集第56巻69ページ。
アラバマ州控訴裁判所判決 1911年6月30日。

 本件の殺人事件の第1審では、弁護側証人が散弾銃の射距離に関して証言することを、裁判官が拒絶している。この点に関して控訴裁判所では次のように述べている。:

 「証人サッフォードは、尋ねられた問題について専門家としての資格があることを示さなかった。証人は、散弾銃に関する知識について、『人生の大半を田舎で過ごし、これまでの間、散弾銃を扱い慣れてきた。』と述べている。ところが、法廷で質問されている事項に関した研究は、断片的なものですら行ったことがあるとの証言は得られなかった。*** 当裁判所は、通常の観察力があり、これまで銃器の取り扱に慣れてきた者とはいえ、それまでに見たこともなく、その口径、番径、銃身長などについて何も知らない散弾銃の射程距離、すなわち散弾がどこまで到達するかを、十分な精度をもって主張することについては、重大な疑問を持たざるを得ない。したがって、当法廷は、証人がこの分野について証言することを拒否する判断に誤りはなかったと結論する。」

(アラバマ州 1910年)
フィリップス対州事件
 アメリカ南部州判例集第54巻11ページ、アラバマ州判例集第170巻5ページ。
アラバマ州最高裁判所判決 1910年12月22日。

 本件の殺人未遂暴行事件で、アラバマ州最高裁判所は、銃器専門家の発射薬による焼け焦げ痕、散弾実包の特性、散弾銃による傷害の広がり方などについての証言には証拠能力があると結論した。この点に関して最高裁判所では次のように述べている。:

 「被告が被害者のメルトンを射撃した際に、どのくらい離れていたかに関する証拠には論争がある。そこで、銃器専門家であるファリッシュ博士は、発射薬による焼け焦げ痕、散弾実包の特性、射距離による散弾粒の広がり方もついて証言した。この証言は、被告が銃を発射した際に被告人と被害者とがどれだけ離れていたかを陪審員が判断する際の証拠として用いることを認める。」

(アラバマ州 1896年)
エヴァンス対州事件
 アメリカ南部州判例集第19巻535ページ、アラバマ州判例集第109巻11ページ。
アラバマ州最高裁判所判決 1896年2月6日。

 本件は殺人事件として起訴された過失致死事件で、アラバマ州最高裁判所は原判決を破棄した。その中で、銃器専門家が弾丸の貫通口と弾丸径との関係を確かめるために行った、壁板に貫通口を作る射撃実験について証言することを拒否した。

            カリフォルニア州

(カリフォルニア州 1932年)
検察対ボルトン事件
 アメリカ太平洋州判例集第8巻の2 814ページ。
カリフォルニア州最高裁判所判決 1932年2月9日。

 本件の殺人事件で被告人は、砲内弾道についての専門家証言と拳銃の権威者による拳銃の発射機構に関する証言が、第一審裁判所で証拠として認められたのは不当であると異議を申し立てた。

 この論点について、カリフォルニア州最高裁判所の判決では、次のように述べている:

 「当裁判所は、砲内弾道に関する専門家証言を認めたことは誤りであるとの控訴人の主張には同意できない。被告人の主張は、犯罪に使用された拳銃と証言の対象となった拳銃とが同種のものと示さないで、自動装てん式拳銃の発射機構を証言していることはおかしいというものである。ところで、死亡した被害者も被告人も、ともに口径0.25インチの自動装てん式拳銃で撃たれたとみられること、繰り返して述べることはしないが、その他の関連証拠を合わせることで、事件全体について適切に考慮されていると考える。」

(カリフォルニア州 1931年)
検察対ファリントン事件
 アメリカ太平洋州判例集第2巻の2 814ページ。
カリフォルニア州最高裁判所判決 1931年8月25日。

 本件は殺人事件である。結審直前に、被告人は理由を示すことなく、殺害された男の体内から摘出されたとする現場弾丸を「鑑定のため」として提出した。その弾丸は受け入れられた。しかし、本事件の証拠調べはすでに終了しているため、被告人は、その弾丸が証拠品の拳銃から発射されたものであることを腔旋痕によって示すことができないかの鑑定を「弾道の専門家あるいは顕微鏡の専門家の誰か」に行ってもらえるように求めた。

 第1審の判事がこれを拒否したことを受け、審議を求められたカリフォルニア最高裁判所は次のように判断した。:

 「第1審裁判所の判事の裁量を求めて提出されたこのような要求は、そこで拒否されることなく、被告人に不利な判定は下らなかった。ただ、その要求が第1審で拒否されたとしても、控訴審でその判断が逆転することはない。我々は、拳銃と弾丸に関するすべての証拠を総合し、控訴被告人の要求を拒否したとしても、被告人に何ら不利益や実質的な損害を与えることにはならないと判断した。」

(カリフォルニア州 1925年)
検察対ウイリス事件
 アメリカ太平洋州判例集第233巻 812ページ。カリフォルニア州控訴判例集第70巻 465ページ。
カリフォルニア州第二地区第2部地方控訴裁判所判決 1924年12月31日。最高裁判所における審問却下 1925年2月26日。

 本件は、カリフォルニア州の控訴裁判所が殺人としての起訴を保留した殺人事件である。被告が使用したとされる銃の機能についての専門家証言によると、被告がそこで発射したとされる銃は、引き金を引くことが困難であるとしたが、その証言は法的に有効であると結論した。この点について、控訴裁判所は次のように述べた:

 「証人は、その銃をある方向で把持すると、引き金を引くことが困難であると証言した。この証言は、単に事実を述べたものであるが、同時に銃器の機械的動作に関する説明にもなっている。」

 その銃器を用いた実験結果の法的有効性について、裁判所は次のように述べた:

 「銃器を用いた実験は、殺人事件ではしばしば行われ、その結果は被告人が有罪か無罪かを示す証拠とされる。このような実験結果は決定的なものではないが、法的に有効で許容されるものである。そして、その結果の重要性は、陪審員によって判断されるべきものである。」

(カリフォルニア州 1922年)
検察対エリス事件
 アメリカ太平洋州判例集第206巻 753ページ。カリフォルニア州判例集第188巻 682ページ。

 本件は、カリフォルニア州最高裁判所が1922年5月5日に判決を下した殺人事件である。その判決の中で最高裁判所は、その他の事柄と合わせて、法医の専門家と銃器の専門家による次のような証言を法的に有効であると判断した。すなわち、「その弾丸が被害者の背中から射入して腹部に貫通したとする証言は法的に有効であり、その重要性と価値は、陪審員が決すべきものである。」

(カリフォルニア州 1896年)
検察対コンクリング事件
 アメリカ太平洋州判例集第44巻 314ページ。カリフォルニア州判例集第11巻 615ページ。カリフォルニア州最高裁判所判決1896年3月21日

 本件は、カリフォルニア州最高裁判所が原判決を破棄した殺人事件である。その他の事柄と合わせて、原判決を破棄する根拠となったのは、ある陪審員自らが行った実験結果にある。その実験では、被告が被害者を殺害するのに用いたとされるライフル銃と同様のライフル銃を用いて、どの位の距離まで離れていても発射薬の痕跡が着衣に付着するのかを調べた。

            コネチカット州

(コネチカット州 1924年)
州対ハロルド・イスラエル事件
 コネチカット州フェアフィールド郡刑事最高裁判所 1924年5月27日判決。アメリカ刑法・犯罪学研究所雑誌 第15巻11月号(1925年)406ページ。アメリカ法律レヴュー誌 第59巻3-4月号(1925年)161ページ。

 この有名な事件は、アメリカ合衆国の前司法長官のホーマー・S・カミングス閣下が、(1924年に)コネチカット州スタンフォードで州検事をしていた時の事件である。彼は、イスラエルに対する第1級殺人の訴えの取り下げを勧告した。彼の意見を最大の根拠とし、さらに、殺人の被害者の脳から摘出された弾丸が、被告人の拳銃から発射されたものではないとする6名の弾道専門家の意見によって、この訴えは取り下げられた。

   これらの一連の証拠について、当時のコネチカット州検事であった、前司法長官は以下のように述べている。:

 「ここにきて、我々は鑑定可能な弾丸と拳銃の両者の関連性を扱った一連の専門家証言について熟慮する事となった。本件では、イスラエルの回転弾倉式拳銃と現場弾丸の両者が証拠品となっている。最近になって、このような場合に、科学的理論を用いた検査法によって行う鑑定手法が発達してきた。この手法は、確かな科学的手法となっている。この手法の経験を持ち、資格を持った鑑定人が生まれている。時には、この手法は「弾丸指紋」の科学と呼ばれることがある。これによると、それぞれの銃器から発射された弾丸には、必ずその銃器から発射されたことを示す痕跡が残され、発射弾丸が検査に利用できる良好な状態で回収されたならば、その痕跡を利用して、その弾丸が発射された銃器を間違いなく言い当てることができる。まず鑑定人は、弾丸に残されている「旋丘痕」と「旋底痕」として知られている痕跡の幅を計測する。鑑定人は、続いて容疑銃器の銃腔の型をとり、旋丘と旋底の幅を測定する。続いて、容疑銃器から試射弾丸を発射し、それを回収する。この試射弾丸は、通常綿のような柔らかい物体に向けて発射する。回収された試射弾丸は、現場弾丸と比較顕微鏡あるいは拡大写真を用いて比較検査する。これに加えて、試射弾丸は特徴痕の検査を行う。特徴痕が存在する場合は、その測定を行うとともに、その位置を特定する。続いて、現場弾丸に、そのような特徴痕があるか否かを検査する。旋丘痕と旋底痕の条数と寸法を調べ、銃身内の腔旋の回転方向や弾丸の口径についても調べる。弾丸が衝突によって反転していないか、あるいは変形していないかも検証する。弾丸の重量を検査し、グリース溝の有無についても検証する。」

 「試射弾丸に見られた特徴痕を、現場弾丸の中で探す。対応する特徴痕が見つかる場合もあれば見つからない場合もあろう。弾丸によっては、痕跡の識別に用いる特徴の多くが破損していることもある。しかしながら、鑑定専門家の手に係れば、現場弾丸と容疑銃器の両者が利用できる場合には、現場弾丸が容疑銃器によって発射されたか否かを確実に言い当てることができることが多い。」

 これらのことを総合して、カミングスは次のことを付け加えた。:

 「すべての弾道専門家の意見を詳細に検討し比較した結果、私は、これらの6名の紳士たちが到達した結論を、 ためらうことなく受け入れることにした。もちろん、この特徴痕の鑑定結果を受け入れれば、本件は終結する。このような意見があるにもかかわらず、本件裁判を継続することは不合理であり、さらに言えば、イスラエルを殺人の容疑者としておくことは不法行為に当たる。」

  (コネチカット州 1881年)
州対ジェームズ・スミス事件
 コネチカット州判例集第49巻 376ページ。コネチカット州破棄裁判所(上訴裁判所)判決 1881年12月開廷期。

 コネチカット州最高裁判所は、本件殺人事件の判決の中で、致命傷を与えた弾丸が、収監人の拳銃から発射されたものであるか、それとも死亡した被害者の手に握られていた拳銃によって発射されたものであるかについての論争に裁定を下した。この両者の拳銃は、第1審で証拠品として提示され、どちらの拳銃から弾丸が発射されたかの専門家による鑑定請求が出されたが、第1審裁判所の裁量権の範囲内として、これは拒否された。最高裁判所は、第1審判事によるこの鑑定拒否は、誤った判断ではなかったと裁定した。

            コロンビア特別区

(コロンビア特別区 1927年)
レーニー対合衆国事件
 連邦判例集第294巻 412ページ。コロンビア特別区控訴判例集第54巻 56ページ。コロンビア特別区控訴裁判所判決 1923年12月3日。 再審理却下 1923年12月21日。

 この過失致死事件で、コロンビア特別区控訴裁判所は、他の事柄に加えて、被害者の頭部から摘出された弾丸が、被告人が所持していた拳銃によって発射されたものであるとする専門家証言が、法的に有効であると裁決した。この点について、裁判所は次のように述べた。:

 「専門家の法廷証言で示されたことは、死者の頭部から摘出された弾丸が、被告人の所有物から発見された拳銃によって発射されたということである。この鑑定は、先入観を持って行われたとは認められない。また被告人が、人通りで混雑する道路に向けて拳銃を数発発射したことを認めていることと合わせ考えれば、この証言には法的効力があるものと結論できる。」

            ジョージア州

(ジョージア州 1914年)
バード対州事件
 アメリカ南東部州判例集第83巻513ページ。ジョージア州判例集第142巻633ページ。ジョージア州最高裁判所判決 1914年11月11日。

 本件殺人事件で、ジョージア州最高裁判所は、裁判で証言した専門家の証言内容に法的効力を認めた。その専門家は、問題となっている種類の実包を発射した経験を有し、その種の発射弾丸が標的に衝突した際に生じる痕跡を観察した経験があると主張した。そして、その専門家は、殺害されたとされる人物の傷害を観察し、被害者は弾丸の先端を切り詰めた弾丸、いわゆる「リング弾」を撃ち込まれたとする彼の意見を証言した。

(ジョージア州 1876年)
モートン対ジョージア州事件
 ジョージア州判例集第57巻102ページ。ジョージア州最高裁判所判決 1876年7月開廷期。

 本件の殺害目的暴行事件(その他の理由で原判決は破棄された)で、ジョージア州最高裁判所は、裁判で証言した専門家の証言内容は証拠として認められると結論した。その専門家は、長年にわたって銃器を扱ってきた経験があり、発砲事件の翌日に収監者の銃の一方の銃身から発射された弾丸と、被害者及び被害者の周辺の場所から回収された弾丸とを比較し、それらが互いに類似しているとした意見は、受容される証拠である。なお、他方の銃身は空であった。(訳注:銃身が2本ある銃器が用いられたらしい。emptyは打ち殻薬きょうが薬室になかったことを意味すると思われる。)

            アイダホ州

(アイダホ州 1894年)
州対ヘンデル事件
 アメリカ太平洋州判例集第35巻 836ページ。アイダホ州最高裁判所判決 1894年2月19日。

 本件の第2級殺人事件でアイダホ州最高裁判所は、被告人の弁護士から要求のあった、弾丸表面に人血あるいは人組織の存在を確認するため、弾丸を化学的及び顕微鏡的に鑑定するという要求を、その検査には1~2週間消費することを理由に第1審が拒否したことは、その他の要求事項を拒否したことと合わせて不当ではないと結論した。弾丸表面には、指摘されているような物質片の存在を示すいかなる兆候も認められないことがその根拠である。

 加えてアイダホ州最高裁判所は、(1個の弾丸に、被告の体を貫通する際に残された布目痕が存在するか否か)に関する専門家証言を認めるか拒絶するかについては、第1審の自由裁量権にゆだねるが、そのような証言は、陪審員が納得する結論を得る上で参考となるかもしれず、本件において証言を許諾することは誤りとは言えまいとした。

            イリノイ州

(イリノイ州 1930年)
検察対フィッシャー事件
 アメリカ北東部州判例集第172巻 743ページ。イリノイ州判例集第340巻 216ページ。イリノイ州最高裁判所判決 1930年6月20日。

 本件殺人事件で、イリノイ州最高裁判所は、資格のある弾道専門家が、根拠を示して彼の鑑定結果を証言することを許可した。その鑑定結果は、遺体から摘出された1個の弾丸の発射拳銃が特定されたこと、遺体から摘出された散弾銃のワッズは、打ち殻薬きょうとなっている特定の散弾実包のものであること、その散弾実包を発射した散弾銃は、何丁かの散弾銃の中から特定の1丁に絞り込まれたことを示している。

 本件は、発射痕関連証拠を最も包括的に扱ったもので、発射痕関連証拠の法的有効性を示したものである。

(イリノイ州 1923年)
検察対バークマン事件
 アメリカ北東部州判例集第139巻 307ページ。イリノイ州判例集第307巻 492ページ。イリノイ州最高裁判所1923年決定。

 本件は殺意のある暴行事件で、イリノイ州最高裁判所で原判決が破棄され、発砲事件があったとされる日から1か月後に開かれた第1審裁判所に差し戻された。その発砲事件では、被告の発砲を察知した鉄道の操車場の警備員が、操車場から被告を追跡したが、そこから少し離れた別の操車場で1丁の回転弾倉式拳銃が発見された。それは警察官によって証拠化され、検察官が鑑定専門家に鑑定させて、被害者から摘出された弾丸を発砲した拳銃であることを確定しようとしたものであるが、第1審は、これは実に不合理というほかないとした。最高裁判所はこの点について、次のように述べた。

 「この事件で、その弾丸が、問題の拳銃から発射されたものであるか否かが決定できたとすると、それは腔旋や拳銃に固有な特徴によって、弾丸に付けられる特定の痕跡によって、両者の関係が決定できるということである。」

 「もし、銃器と腔旋(痕)との間に、そのようなことを確定できる関係が知られているのなら、証人がそのことを証言することは適切であり、その証言に基づいて陪審員に自らの結論を導かせるべきであろう。」

            カンザス州

(カンザス州 1911年)
州対ノルドマーク事件
 アメリカ太平洋州判例集第114巻 1068ページ。カンザス州判例集第84巻 628ページ。カンザス州最高裁判所判決 1911年4月8日。

 本件殺人事件で、カンザス州最高裁判所は、他のことと合わせ、銃器に関する特別な知識があり、銃器の取扱いに慣れた証人が、その経験及び、散弾や弾丸が手足や低木を貫通する様子の観察及び実践の結果に基づき、問題となっている低木と、(被害者の)手足を貫通した弾丸はバックショットであり、問題となっている散弾実包の打ち殻薬きょうに装填されていた散弾が、大粒の散弾であったか小粒の散弾であったかは判別可能である、とした証言には法的効力があると結論した。

(カンザス州 1896年)
州対ノルドマーク事件
 アメリカ太平洋州判例集第46巻 770ページ。カンザス州判例集第57巻 398ページ。カンザス州最高裁判所判決 1896年11月。

 本件の殺人事件で、カンザス州最高裁判所は次のような決定を行った。証人は銃器の取り扱いに習熟しており、その証人は、被害者の殺害に使用された拳銃と、その拳銃に装填されていた実包と同種の実包を用いて、人間の頭髪と紙を標的にし、6インチから10インチの射距離で射撃実験を行っている。この実験結果をもとに、頭髪に向けた射撃の影響と、発射薬による焼け焦げ痕について、第1審が証人に証言を許可したことは、適切な判断であったと結論する。

(カンザス州 1889年)
州対ジョーンズ事件
 アメリカ太平洋州判例集第21巻 264ページ。カンザス州判例集第41巻 369ページ。カンザス州最高裁判所判決 1889年4月5日。

 本件殺人事件で、カンザス州最高裁判所は原判決を破棄し、第1審に差し戻した。最高裁判所は、その他の根拠に加えて、以下のように判断した。被告側が裁判で申請した証人が、30年にわたって銃製造業を営み、(散弾)銃やマスケット銃で発射された(散)弾が、どこまで密集して飛んで行くかについて長年にわたって実験を行い、被害者が受けた傷害が、どのくらい遠くからそのマスケット銃を発射したことによって生じたものであるかについて、資格のある専門家として証言する能力があり、証言することは許されるべきであり、その証言には証拠能力があることを認める。

            ケンタッキー州

(ケンタッキー州 1929年)
エヴァンス対州事件
 アメリカ南西部州判例集第19巻(2d) 1091ページ。ケンタッキー州判例集第230巻 411ページ。ケンタッキー州控訴裁判所判決 1929年5月31日。 再審問却下の際の修正 1929年9月27日。

 本件過失致死事件で、ケンタッキー州控訴裁判所は、その他のことと合わせて次のように裁決した。銃器の専門家としての資格のある証人が黒板に図を描いて、異なる拳銃には異なる工具痕が付けられており、それぞれの拳銃によって発射された弾丸は区別できると説明した。

 裁判所は、このような銃器の専門家が、発射弾丸がどの拳銃から発射されたものであるか識別する能力がある、とする発言を許容する。これに反対する2名の証人は、ある複数の拳銃から発射した弾丸を持ち込み、それらの痕跡が区別できるかどうか、陪審員に顕微鏡で観察させ判断させたが、その行為も誤りではなく、偏ったものではないものと結論する。

 裁判所は、銃器鑑定専門家の、(現場)弾丸が被告人の拳銃から発射されたものであるとする結論は、証拠として認めることが適切であり、証拠として排除しなければならないほど、技術的に難解な点はなく、納得できない点が多いとは言えず、疑問の余地は少ないものと判断された。

 本件では、発射痕証拠の証拠能力とその発展について、包括的な議論がなされている。

(ケンタッキー州 1928年)
ローソン対州事件
 アメリカ南西部州判例集第1巻(2d) 1060ページ。ケンタッキー州判例集第222巻 614ページ。ケンタッキー州控訴裁判所判決 1928年1月17日。

 本件殺人事件でケンタッキー州控訴裁判所は、第一審裁判所が、保安官に被告人の拳銃を提出させ、殺人事件の現場周辺から採取された打ち殻薬きょうとの痕跡比較を行うには及ばない、と判断したことに対し、そのような実験を行うことは、、被告人に許されてしかるべきであろうと裁決した。

(ケンタッキー州 1928年)
ジャック対州事件

 本件殺人事件でケンタッキー州控訴裁判所は、原判決を破棄し第1審に差し戻した。その裁決の中で、前副保安官兼看守ともう一人の看守には、拳銃の銃身の鑑定を行う資格はなく、通常の拡大率の拡大鏡を用いて得られた現場弾丸と現場薬きょうが被告人の拳銃で発射されたものであるとのした鑑定証言に、法的効力はないと断じた。なぜならば、この鑑定は技術を要するものであるところ、これらの証人に、そのような証言をするのに必要な特別な研究歴はなく、それに適した機材や装置を持っていないからである、と述べた。

 控訴裁判所はさらに、現場弾丸と容疑拳銃を結びつける技術的な問題について、それは本件の関連証拠となり、専門家でない証人が行った鑑定結果は、その証言によって陪審員の判断に大きな影響を与えることから、その資格を持った証人にのみ許されることであり、本件証人には証言が許されないと述べた。 

 ケンタッキー州控訴裁判所が、通常の拡大率の拡大鏡による観察によって、現場弾丸が証拠物件の拳銃から発射されたとする上記2名の鑑定証言が、偏見に基づく誤った結論であるとして原判決を破棄する根拠としたことは注目に値する。

(ケンタッキー州 1899年)
フランクリン対州事件
 アメリカ南西部州判例集第48巻 986ページ。ケンタッキー州判例集第105巻 237ページ。ケンタッキー州判例集第20巻 1137ページ。ケンタッキー州控訴裁判所判決 1899年1月10日。

 本件は、ケンタッキー州控訴裁判所が原判決を破棄した殺人事件で、判決の中で控訴裁判所は、控訴人が申請した証人は数年にわたる銃器の経験を有し、専門家として資格が認められ、問題となった傷害を与えた銃器の種類について証言することは許されるべきであるとした。さらに、その音が被告人の銃器から発生したものではありえないとする証人の証言も、判断する上での証拠として認められるとした。

            ルイジアナ州

(ルイジアナ州 1932年)
州対シャープ事件
 アメリカ南部州判例集第141巻 859ページ。ルイジアナ州判例集第174巻 860ページ。ルイジアナ州最高裁判所決定 1932年4月25日。

 本件殺人事件で、ルイジアナ州最高裁判所は、医師ではあるが弾道学の専門家ではない検視官の意見に、証拠価値があると判断した。その検視官は、被害者が頭部に貫通銃創を受けて殺害された際に、被害者の体を貫通した弾丸の飛翔方向と、被害者が見ていた方向について証言した。

(ルイジアナ州 1905年)
州対ヴォーヒーズ事件
 アメリカ南部州判例集第38巻 964ページ。ルイジアナ州判例集第115巻 200ページ。ルイジアナ州最高裁判所決定 1905年6月19日。

 本件殺人事件で、ルイジアナ州最高裁判所は、自らが熟練した医師で外科医であると宣誓した検視官が、殺害された被害者の銃創を自ら検査し、使用された銃器の種類と、その銃器の射撃距離について意見を述べた証言には証拠価値があると支持した。

            メリーランド州

(メリーランド州 1919年)
ニューカーク対州事件
 アメリカ大西洋州判例集第106巻 694ページ。メリーランド州判例集第134巻 310ページ。メリーランド州控訴裁判所決定 1919年4月8日。

 本件の第2級殺人事件でメリーランド州控訴裁判所は、鑑定証人が意見を述べるに先だって、どのような知識が必要とされるかの判断は、第1審の自由裁量権に属するものであると述べた。その上で、本件で鑑定証人となった医師が、どれだけの距離から銃器が発射されると被害者とその衣服に付けられているような痕跡が形成されるかを、実験を行って確かめた事柄に基づいて行った証言を、第1審裁判所が証拠採用したことは適切であったと判断した。

            マサチューセッツ州

(マサチューセッツ州 1933年)
州対スナイダー事件
 アメリカ北東部州判例集第185巻 376ページ。マサチューセッツ州最高裁判所決定 1933年4月7日。

 本件殺人事件で、マサチューセッツ州最高裁判所は、第1審が銃器専門家に次のような証言をすることを許したのは誤りではなかったと決定した。この事件で鑑定専門家は、発砲があった際に、被害者が居たおよその方向とおよその位置について証言し、殺害された被害者の体から拳銃までの距離を決定するに際して、発射薬痕が役立つことを説明した上で、殺人事件発生当時と同様の条件で実験を行って得られた結果に基づいて射距離を推定したと証言した。

(マサチューセッツ州 1928年)
州対フリーソン事件
 アメリカ北東部州判例集第159巻 518ページ。マサチューセッツ州最高裁判所決定 1928年1月10日。

 本件殺人事件で、マサチューセッツ州最高裁判所は、第1審が銃器専門家に対して行った次のような決定は正当であったと支持した。第1審は、銃器専門家に対して、たとえ彼の役職の前任者が拳銃の専門家であったとしても、本件の証人は、問題となっている事項に関して専門家として証言する資格がなく、その証言に証拠価値がないとして拒否したが、その判断は適切であったと決定した。

(マサチューセッツ州 1902年)
州対ベスル事件
 アメリカ北東部州判例集第62巻 748ページ。マサチューセッツ州判例集第180巻 492ページ。マサチューセッツ州最高裁判所決定 1902年2月27日。

 本件殺人事件で、マサチューセッツ州最高裁判所は、問題となった特定のライフル銃の銃身を押し通した弾丸の表面に残された錆による痕跡と、殺された被害者の死体から見つかった2個の弾丸に残された痕跡とは、きわめて類似していた、との州側証人の証言を第一審が認めたことは、適切であったと支持した。そして、これら3個の弾丸の写真は、この論点を確かなものとするために証拠採用できるものだとした。

 さらに最高裁判所は、死体から発見された弾丸に付けられている痕跡は、そのライフル銃を押し通した弾丸に付けられた痕跡と同様に、錆によって付けられたものであり、ライフル銃にそのような錆が発生するには数か月を要する、とした専門家証言には証拠価値があると支持した。

            ミシガン州

(ミシガン州 1878年)
ブラウネル対検察事件
 ミシガン州判例集第38巻 732ページ。ミシガン州最高裁判所決定 1878年6月4日。

 本件は第2級殺人事件(過失致死事件)で、ミシガン州最高裁判所は、証人が拳銃弾丸の専門家ではないことを根拠に、第1審がその証言を排除したことは適切であったと支持した。

 この点について最高裁判所は,次のように指摘した:

 「ある距離で衣服に向けて発射された拳銃弾丸の影響について、専門家として呼ばれた人物の証言は、あまりにも乏しい経験に基づいたものと言わざるを得ない。自らの衣服に、たった1発だけ発射した実験をもとに証言しており、装薬量や発射薬の種類を変化させたり、射撃距離を増減させて実験をすることもなく、さらに、同一射距離で拳銃の種類や口径を変化させた実験も行っておらず、一般化した結論を導く上では、あまりにもお粗末な実験といわなければならない。」

            ミシシッピ州

(ミシシッピ州 1893年)
フォスター対州事件
 アメリカ南部州判例集第12巻 822ページ。ミシシッピ州判例集第70巻 755ページ。ミシシッピ州最高裁判所決定 1893年4月17日。

 本件は、ミシシッピ州最高裁判所が原判決を破棄した殺人事件である。その決定の中で、被害者の頭部を貫通した弾丸の射撃距離と、被害者が腕と体を撃たれた際の被告の手と腕の位置について、第1審が証人となった医師に意見を述べさせたことは誤りであったとした。その理由として、証人の意見は、他のすでに証明された事実から導かれたものであり、陪審員は、これらのすでに証明された事実から結論を導くことになってしまうからであるとした。

            モンタナ州

(モンタナ州 1921年)
州対ベス事件
 アメリカ太平洋州判例集第199巻 426ページ。モンタナ州判例集第60巻 558ページ。 モンタナ州最高裁判所決定 1921年7月2日。

 本件殺人事件で、モンタナ州最高裁判所は、ライフル銃の取り扱いに関しての専門家として、裁判所の基準を満たす資格を有する元兵士と猟師の2名に、第1審裁判所が以下の証言をさせた判断は誤りではなかったと決定した。この事件で被告側の証人は、被害者の殺害に使用された弾丸は、被告がこれまでに使用したことも所持したこともない被甲弾丸であると宣誓証言した。この証言に反論するため、州側の証人となった両証人は、被甲弾丸とソフトポイント弾丸によって生じる効果について証言した。

            ニュージャージー州

(ニュージャージー州 1932年)
州対バッソーネ事件
 アメリカ大西洋州判例集第160巻 391ページ。ニュージャージー州判例集第109巻 176ページ。 ニュージャージー州破棄及び控訴裁判所決定 1932年5月16日。

 本件の第2級殺人事件(過失致死事件)で、ニュージャージー州破棄及び控訴裁判所は、弾道専門家の証言は意見証拠から外れており、事実証拠とはなりえないとする被告による告訴を、第1審が拒否したことは正しい判断であったと支持した。

            オハイオ州

(オハイオ州 1930年)
バーチェット対州事件
 アメリカ北東部州判例集第172巻 555ページ。オハイオ州控訴裁判判例集第35巻 463ページ。 オハイオ州控訴裁判所決定 1930年5月9日。

 本件の第2級殺人事件(過失致死事件)で、オハイオ州控訴裁判所は、腔旋痕の比較結果に基づき、特定の弾丸が特定の銃器で発射されたものである、とした専門家による証言には証拠価値があると決定した。そして、証人に能力があるか否か、十分な教育があるか否か、問題となっている事項について「専門家」として証言するに十分な経験を有するか否かの判断は、第1審裁判所の専権事項であるとした。

 本件は、弾道学が進歩して科学となったことを示す好事例となっている。

            オクラホマ州

(オクラホマ州 1932年)
クイン対州事件
 アメリカ太平洋州判例集第16巻2d 591ページ。オクラホマ州刑事控訴裁判所決定 1932年11月29日。

 本件殺人事件は、オクラホマ州刑事控訴裁判所によって破棄され、第1審に差し戻された。その決定の中で刑事控訴裁判所、ある弾丸がある銃器によって発射されたものであるか否かを陪審員が決定する前に、証人が弾道検査及びそれに類似した検査をすることを拒否したことは、第1審裁判所の誤りであると判断した。

(オクラホマ州 1918年)
コリンズ対州事件
 アメリカ太平洋州判例集第175巻 124ページ。オクラホマ州刑事判例集第15巻 96ページ。オクラホマ州刑事控訴裁判所決定 1918年10月7日。

 本件殺人事件で、オクラホマ州刑事控訴裁判所は、銃器についての問題と、異なる種類の拳銃から発射された弾丸の寸法についての問題は、資格を有する人物には意見を表明することが許可されるテーマであるとの見解を示した。その種の意見は、この裁判で扱っている問題(例えば、ある弾丸が口径0.38インチの拳銃で発射されたものか、それとも口径0.41インチの拳銃で発射されたものか)にとって本質的なものであり、これについての意見を第1審が証拠として認めたことは、適切な判断であったと支持した。

            オレゴン州

(オレゴン州 1923年)
州対キャシー事件
 アメリカ太平洋州判例集第213巻 771ページ。オレゴン州判例集第108巻 386ページ。オレゴン州最高裁判所決定 1923年3月20日。

 本件殺人事件でオレゴン州最高裁判所は、死体から発見された複数の弾丸が、被告が所持している拳銃と同型のコルト・アーミー・スペシャル回転弾倉式拳銃によって発射されたものである、との拳銃専門家の証言に法的能力を認めた第1審の判断は、適切であったと支持した。

 この点について、最高裁判所は次のように述べた:
 「著名な拳銃の専門家であるロバート・H・クラドックは、その資格を認められた上で、裁判で次のように証言した。
 複数の試射弾丸の腔旋痕と、殺害されたフィリップの死体から発見された2個の鉛弾丸に見られる腔旋痕とを比較対照した結果として、その鑑定専門家は、その資格を認められた上で、殺害された男の体内から摘出された弾丸は、いずれもコルト・アーミー・スペシャル回転弾倉式拳銃から発射されたものであるとする意見を証言した。その証言には法的能力がある。その証言の重みは陪審員だけが判断すべきものである。」

            ロードアイランド州

(ロードアイランド州 1903年)
州対ネーグル事件
 アメリカ大西洋州判例集第54巻 1063ページ。ロードアイランド州判例集第25巻 105ページ。アメリカ州判例集第105巻 864ページ。 ロードアイランド州最高裁判所決定 1903年4月15日。

   本件殺人事件で、ロードアイランド州最高裁判所は再審請求を認めた。その中で最高裁判所は、発射薬による焼け焦げ痕の特性を調べるために、口径0.32インチの回転弾倉式拳銃を用いて実験を行った銃創の専門家の証言について、第1審が法的能力を認めた判断は正しかったと支持した。さらに、被告が使用したとされる回転弾倉式拳銃を用いた実験が、専門家による証拠価値のある証言であるとした第1審の判断を支持した。

            サウスカロライナ州

(サウスカロライナ州 1899年)
州対デイビス事件
 アメリカ南東部州判例集第33巻 449ページ。サウスカロライナ州判例集第55巻 339ページ。サウスカロライナ州最高裁判所決定 1899年6月22日。

 本件殺人事件で、サウスカロライナ州最高裁判所は、銃器の取り扱いに慣れた証人による証言に証拠価値を認めた第1審の判断は、適切であったと支持した。その証人は、提示された銃器の外観から、その銃器が最近発射されているか否かが分かると主張し、その証言には証拠能力があり、その死体付近から発見された銃器と打ち殻薬きょうには、最近発射された兆候が認められなかったとする証言は許容され、その証言を証拠として認めた第1審の判断は適切であったと支持した。

 最高裁判所は、この事件についてさらに、専門家でない複数の証人による、その死体付近から発見された銃器と打ち殻薬きょうが、最近発射されたものであるとする証言にも証拠能力があるとした。その理由として、それらの証人は、自らの意見に基づいて、それを事実として証言しているからだとした。

            テキサス州

(テキサス州 1932年)
ケント対州事件
 アメリカ南西部州判例集第50巻(2d) 817ページ。テキサス州刑事控訴裁判所決定 1932年5月4日。 再審理却下 1932年6月15日。

 本件殺人事件で、テキサス州刑事控訴裁判所は、被告人の所持品から発見された銃器を用いて、被告人の立会無しに行った実験結果についての専門家証言を、第1審が証拠として採用したのは適切であったと支持した。その専門家の証言によると、死体付近で発見された1個の薬きょうと、被告人所有の銃器から発見された1個の薬きょうとは、あらゆる観点から同じものであり、このことを根拠に、その専門家は、それら2個の薬きょうは類似しているとする単純な意見を述べた。

 さらに、この事件について刑事控訴裁判所は、保安官に依頼されて、殺人事件発生後に被告人の所持品から発見された銃器を用いて、その専門家が行った実験に関する鑑定証言を、第1審が証拠として認めたことは適切であったと支持した。

            (テキサス州 1914年)
ホールデン対州事件
 アメリカ南西部州判例集第194巻 162ページ。テキサス州刑事判例集第81巻 194ページ。テキサス州刑事控訴裁判所決定 1917年3月21日。 再審理の申請却下 1917年4月18日。

 本件過失致死事件で、テキサス州刑事控訴裁判所は、第1審が証拠として示した拳銃は、殺人発生時に死亡した者が所持していたもので、拳銃の専門家として完全な資格を有する保安官代理の、その銃からは1発だけ発射されたとする意見証言を、第1審が証拠として認めたことは適切であったと支持した。さらに、保安官代理が、証言事項に関する専門家として資格があるか否かは、多くの場合で第1審の裁量権の範囲であるとした。

 刑事控訴裁判所は本件についてさらに、第1審が、その証言台に立つまで見たこともなかった拳銃について、証人が証言することを拒否するという裁量権の乱用がなかったことを評価し、証人は銃を扱っている平均的な人物と同等以上の知識を有していると第1審が評価し、証人にその拳銃から何発の弾丸が発射されたかについて証言させたことは正しかったと判決した。

(テキサス州 1911年)
ストレイト対州事件
 アメリカ南西部州判例集第138巻 742ページ。テキサス州刑事判例集第62巻 453ページ。テキサス州刑事控訴裁判所決定 1911年4月19日。 判決の見直し申請却下 1911年5月24日。

 本件殺人事件で、テキサス州刑事控訴裁判所は、原判決を破棄し、第1審に差し戻した。その決定の中で、被告人が申請した、銃器の専門家としての資格のある証人の証言を、第1審が拒否したのは誤りであったと判決した。その専門家の証言内容は、人毛の眉毛を付けたダミー人形を、被害者が射殺された時に居たと思われる場所に横たえ、被告人が使用したとされる拳銃と同一口径の拳銃と、同一メーカー製の実包を用いて、想定し得る様々な条件で射撃実験を行ったところ、いかなる射距離においても、被害者の眉毛を発射薬によって燃やすことは不可能であったとするものである。

(テキサス州 1903年)
ベアデン対州事件
 アメリカ南西部州判例集第73巻 17ページ。テキサス州刑事判例集第44巻 578ページ。テキサス州刑事控訴裁判所決定 1903年3月18日。

 本件殺人事件で、テキサス州刑事控訴裁判所は、第1審が専門家証言を証拠として認めたことは正しい判断だったと支持した。その証人は、先込め式散弾銃から発射された散弾が、それぞれの距離でどれだけ散開するかについて証言した。その証人が、先込め式散弾銃によって射殺された被害者の射距離を、散弾の散開状況から推定した手法は、適切であり、証拠として認められる。証人は父親が使用していた先込め式散弾銃と、自らが5年間にわたって所有する1丁の先込め式散弾銃を用いて、立木に向けた射撃実験を行い、散弾の散開状況の比較から射距離を決定した。

(テキサス州 1903年)
メイヤーズ対州事件
 テキサス州控訴審判例集第14巻 35ページ。テキサス州控訴裁判所決定 1903年4月18日。

 本件の殺人目的暴行事件で、テキサス州控訴裁判所は、第1審が銃器の取り扱い経験の豊富な複数の証人に、次のような証言をさせたことは適切であったと支持した。その証人らは、暴行事件発生直後とされる時間帯に、被告の銃の銃口から銃腔内に指を挿入し、銃器の状態を調べた結果、それぞれの証人は、その銃が発射直後の状態であったとの意見を証言した。

            ワシントン州

(ワシントン州 1928年)
州対グルーバー事件
 アメリカ太平洋州判例集第272巻 89ページ。ワシントン州判例集第151巻 66ページ。ワシントン州最高裁判所決定 1928年11月30日。

 本件第2級殺人事件(過失致死事件)で、ワシントン州最高裁判所は、この種の問題について特別に研究している証人の証言を第1審が認めたことは適切であったと支持した。その証人は、回転弾倉式拳銃をどの程度の距離から発射した場合に、殺害された被害者の遺体に見られるような傷害と痕跡が残されるかについて、犯罪に使用された回転弾倉式拳銃を用いて、事件と実質的に同じ条件で行った実験結果に基づいて証言した。

            ウィスコンシン州

(ウィスコンシン州 1908年)
州対グルーバー事件
 アメリカ北西部州判例集第116巻 851ページ。ウィスコンシン州判例集第136巻 136ページ。ウィスコンシン州最高裁判所決定 1908年6月5日。

 本件過失致死事件で、ウィスコンシン州最高裁判所は、致命傷となった弾丸は、きわめて近い距離から発射されたとする被告の証言に対抗して、州側の証言を許可したのは適切であったと支持した。州側の専門家証人は、死体には発射薬痕が見られないと証言した後、事件と同一の拳銃と同種の実包を用いて、被害者着用のチョッキに向けて、射距離を2インチから4フィートまで変化させて射撃実験を行った。その結果、射距離2インチから8インチの場合には、チョッキの上に発射薬による汚れが残されたと証言した。

 さらに最高裁判所は、その拳銃を6インチの距離から発射した場合に、(チョッキの下の)死体表面に発射薬の汚れが付けられるであろう、とする州側の専門家の証言を第1審が許可したのは適切であったと支持した。

            アメリカ合衆国

(アメリカ合衆国 1896年)
アメリカ合衆国対ボール事件
 アメリカ合衆国判例集第163巻 662ページ。最高裁判所判例集第16巻 1192ページ。法律編 300ページ。 アメリカ合衆国巡回控訴裁判所テキサス州東地区決定 1896年5月25日

 本件殺人事件で、アメリカ合衆国巡回控訴裁判所テキサス州東地区は、ボールに対する原判決を破棄した。その決定の中で、被告人の所持品から発見された銃器を用いて保安官代理の立会いの下行われた、バックショットがどれだけ一体となって飛ぶか、あるいは散開するかの射撃実験を認めるか認めないかは、第1審の裁量権であるとした。散弾の散開状況については、矛盾する証拠があるところから、そのような実験を命ずることを拒否した第1審の決定を支持した。

                              アメリカ合衆国政府印刷局:1941年

(2011.2.10)



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