地上気象観測所の平均気温の平年値から計算した気温減率
気温減率について、気象科学辞典には、概略次のように記載されている。
実際の気温減率がどの程度なのかを調べるために、日中は、地上気温の上昇により、地表付近では気温減率がかなり大きく、大気が不安定になるとがわかる。
回帰直線の式の勾配の値-0.8977は、緯度が1度上昇すると気温が何度下がるかを示すもので、ここでは「緯度気温減率」と呼ぶことにする。そして、通常の気温減率を、「高度気温減率」と呼ぶことにする。北緯35度付近で上に飛び出している観測点は富士山である。富士山以外にも甲府、諏訪、松本、奥日光、河口湖、飯田といった高度の高い観測点の値が上に飛び出していた。そのため、決定係数は0.9708と十分に高いものの、その値を下げているものと考えられた。そこで、決定係数を極大とする高度気温減率の値を探った。
その結果が上に示すもので、高度気温減率を5.65℃・km-1としたときに、決定係数が0.9708と極大になり、その時の緯度気温減率の値は-0.8979℃・°-1であった。富士山、甲府、諏訪、松本、奥日光、河口湖、飯田といった観測点の値が回帰線に近づいた。
高度気温減率、緯度気温減率ともに、冬場に大きく、夏場に小さい値となっている。このように一見するときれいな結果が得られたが、各月のグラフを見ると、少し異なった印象がする。
上に示したグラフは8月の各観測地点の平年値をもとに計算した結果である。気温減率を5.0℃・km-1としたときに、決定係数が0.7261と極大になった。しかし、分布が逆くの字型に屈曲しているように見える。
上に示したグラフのように、北緯35度付近を境に別々の回帰直線で近似した方がよいように思える。
もっとも、冬季は、グラフの屈曲は小さく、逆に若干くの字型に屈曲している。いずれにしても、北緯35度付近で傾向が異なっているように見えた。そこで、各月の平年値を北緯35度付近で分割して集計してみた。ただ、北緯35度の必然性が見当たらないので、東京の緯度である北緯35.69度で分割集計してみた。
上に示したグラフは、東京で北と南に分割して集計した高度気温減率である。夏場に値は小さく、冬場に大きいことがわかる。その季節変動は、高緯度側で大きく、低緯度側で小さい。冬場は、地上と上空の温度差が大きく、大気が不安定になりやすいことがわかる。ただ実際には、冬季の太平洋側は大気が乾燥しているため、大気が不安定になりにくい。一方、日本海側は大気が湿潤なことが多く、大気が不安定になりやすいといえる。
上に示したグラフは、東京で北と南に分割して集計した緯度気温減率である。夏場に値は小さく、冬場に大きいが、その季節変動は、高緯度側で小さく、低緯度側で大きい。夏場は、低緯度側では緯度が変化しても気温の変化は極めて小さく、どこでも同じような気温となっていることを示している。一方、冬場は低緯度側も高緯度側も緯度が上がると気温が下がり、1月には、緯度1度上がるごとに低緯度側で1.2℃、高緯度側では1.4℃近く気温が低下することを示している。
東京以北と東京以南の観測地点の8月の気温の平年値の値をもとに、回帰線を引いたとき、その上下に大きく飛び出した観測地点の名称を書き込んでみた。これらの観測点は、高度と緯度の割に、他の観測点より気温が高い、あるいは低い観測点である。たとえば、広尾、釧路、根室などは、8月には周囲の同等の高度と緯度の観測地点の気温より低いといえる。逆に、札幌、旭川、大阪、諏訪、松本などは気温が高いといえる。
上に示したグラフは、同様に東京以北と東京以南の観測地点の2月の気温の平年値の値をもとに、回帰線を引いたとき、その上下に大きく飛び出した観測地点の名称を書き込んでみた。回帰線の上下に突出する観測地点が、8月の時とは異なった場所となっていることがわかる。
上に示したグラフは、東京以北の観測地点の月別の順位統計の抜粋である。赤い線で示した旭川は、冬気温が低く、夏高い傾向が顕著である。札幌も同様な傾向ではあるが、その傾向は旭川ほど顕著ではない。赤の点線で示した帯広も同様の傾向であるが、全体的に線が下にある。一方、緑色の線で示した根室は、その逆で夏気温が低く、冬高い傾向が顕著である。釧路は、前季節を通じて気温が低めである。
上のグラフは、関東甲信の観測地点を抜粋したものである。東京は、冬の気温が高いのは都市化現象として当然と思えるが、夏場に気温が低い傾向を示しているのは意外である。夏の気温が高いことで有名になった熊谷も、意外と夏の気温は、緯度と高度の割には低いことがわかる。一方、松本の気温は、冬低く夏高い傾向がみられ。水戸は全季節を通じて気温が低い。 上に示したグラフは東京以南の順位統計の抜粋である。富士山を除き、夏気温が高く、冬低い傾向を示している観測点が多い。その傾向は日田が一番強い。東京以南では、ここに示したような都市部の多くの観測点でこのような傾向となっている。その理由は、東京以南では逆の傾向を示す島しょ部や岬、海岸地域の観測点が多いからだ。そのような観測点の結果を次のグラフに示す。
父島、三宅島、潮岬、室戸岬など、冬場に気温が高く、夏場に気温が低い傾向の観測点が多く見られる。そんな中で、同じ島しょ部であっても、名瀬や石垣島は少し異なる傾向となっている。 |