指定気圧面のデータだけを用いて描いたエマグラムが下に示すものである。
指定気圧面のデータだけを用いた場合、状態曲線は滑らかな印象を受ける。指定気圧面のデータに、特異点のデータを加えて描いた状態曲線を以下に示す。エクセルで描く場合、指定気圧面の表の下に特異点のデーターを書き込み、最優先するキーとして気圧を選択して、降順に並べ替えてからグラフを描く。
特異点のデータを加えることで、945 hPaから918 hPaの間にある逆転層が見えるようになる。
ここで、持ち上げ凝結高度(LCL)を求めることが課題となっていた。1000 hPaの気温が19.1 ℃であることから、1000 hPaで19.1 ℃を通過する乾燥断熱線を赤線で記入した。1000 hPaの露点温度13.2 ℃のポイントは、10g/kgの等飽和混合比線がほぼ通過している。それらの直線の交点の高度が持ち上げ凝結高度となる。下に示したグラフからは、ほぼ920 hPaと読み取れる。
エクセルの表を使うと、その近似値を求めることができる。試行錯誤的に高度の値として923 hPaを代入すると、乾燥断熱線の温度が12.5 ℃、10g/kgの等飽和混合線の温度が12.6 ℃とほぼ等しくなることから、持ち上げ凝結高度はほぼ923 hPaであることが分かる。
続いて、自由対流高度(LFC)を求めることが課題とされた。持ち上げ凝結高度かる上空へは、空気塊は湿潤断熱線に沿って上昇する。持ち上げ凝結高度のポイントを通過する湿潤断熱線は、1000 hPaの高度で約15.8 ℃であり、この湿潤断熱線を赤の破線で記入した。この湿潤断熱線と状態曲線は、高度705 hPa付近で交わる。この高度が自由対流高度となる。
次の課題は、ショワルター安定指数(SSI)を求めることである。SSIは、850 hPaにある空気塊を乾燥断熱減率で持ち上げ凝結高度まで上昇させ、その後は湿潤断熱減率で500 hPa高度まで上昇させた時の気温を、500 hPa高度の気温から引いた値である。
850 hPaの気温は12.5 ℃であるが、その点を通過する乾燥断熱線は1000 hPaで26 ℃をほぼ通過することから、その乾燥断熱線を赤い線で記入した。850 hPaの露点温度は4.8 ℃で、そのポイントを通過する等飽和混合比線は、ほぼ6.2 g/kgのものである。これらの乾燥断熱線と等飽和混合比線は、気温がほぼ2.7 ℃のところで交差する。その時の高度は約753 hPaである。このポイントを通過する湿潤断熱線は1000 hPaで14.5 ℃を通過する。その湿潤断熱線を赤の破線で示した。この湿潤断熱線は500 hPaで-17.2 ℃を通過する。500 hPaの気温は-19.1 ℃であることから、SSIは、
SSI=-19.1 - (-17.2) = -1.9 ℃
となる。
このように、状態曲線に明らかな異常個所は見られず、ショワルター安定指数も-6 ℃以下といった極端に小さな値とはなっていない。Kインデックスを計算してみると、26.7であり、これも極端に大きな値とはなっていない。
Kインデックスは、850 hPaと500 hPaの気温の差に850 hPaの露点温度を加え、その値から700 hPaの気温と露点温度の差を引いたものである。これは、850 hPaから500 hPaの間の気温減率と850 hPa(下層)の水蒸気量及び700 hPaの湿潤状況を表したものである。Kインデックスが35以上になると激しい雷雨を示唆する。
結論として、竜巻という顕著現象を、その3時間前のエマグラムから読み取ることは難しい。ただ、高層気象観測データは貴重なデータであり、観測地が意味するものはよく理解する必要がある(下山紀夫講師)。
当日は、つくばから西南西55 kmの地点で、背が高く真っ黒な積乱雲が昼前に通過していくのを目撃した。それから間もなくして竜巻が発生したようである。午前9時では、館野より200~300 km西のデータの方がもっと有効な情報が含まれているのかもしれないと思った。
(2012.7.30)
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