十代の狙撃犯




事件概要

 静かな田舎町で、小口径の銃で窓ガラスを割る事件が連続して発生した。付近から犯人のものらしい小さな靴跡が見つかった。そのうち、窓ガラスの奥にいた主婦が犠牲者となり・・・・。

 銃器関係証拠物から浮かび上がった意外な容疑者とは?



オリジナル写真を用いた解説

図6のオリジナル写真のコピー
             図6のオリジナル写真のコピー

 発砲事件に限らず犯罪現場の写真は、現場保存とその後の鑑識作業を誤りなく行う上で極めて重要である。この事件の現場写真を撮影したときには、おそらく家の外は積雪の照り返しで極めて明るい状態で、その光が窓から入ってきていたであろう。弾丸が貫通してガラスに生じた貫通口やクラックを明るい背景の下で撮影することは元々難しい。この写真は、暗い室内から明るいガラス窓を撮影するという悪条件でなされたもので、ガラスの状態はこの写真からは全く確認できない。その一方で、室内の状況も暗くて分かりにくい。

 室内の状況を写しこむには、ストロボを使用すれば可能で、現在のデジタルカメラは適切な光量でストロボを発光させるような撮影モードもある。ただ、このような手段も、ガラスの破壊状況をうまく撮影することには役立たない場合も多い。逆に、ガラスのように光を発射しやすい物体をストロボを用いて撮影した写真には、元々は存在していなかったものがあるような写真となる危険も生じる。

 この事件の1970年代と現在とでは、写真撮影の機材が大きく変化して、撮影が容易になった。その場で撮影結果が確認できるようになって、撮りそこないはなくなった。デジタル写真には加工可能な点で批判があるが、撮りそこなってしまった場合に、重要な情報を取り戻すことはできない。

図7のオリジナル写真のコピー
              図7のオリジナル写真のコピー

 これは、弾道探索棒を用いて、弾道が室外に向けて約20度下向きであることを示した現場検証写真であろう。この写真も明るい外部から光が入ってくる窓の面積が広く、室内が暗いという撮影条件であり、窓ガラスと室内の両者の様子が分かりにくい。その中で、ストーム・グラスらしいものがわずかに確認できる。

 キッチンの標準的な寸法や、弾道探索棒を持った人物の姿勢から考えて、窓ガラスへの弾丸射入位置は、室内の大人の背丈に対して、胸ぐらいの高さと考えられる。弾道が地面に対してほぼ平行であったとすると、顔面(目の角)に弾丸を受けた被害者は、シンクの前にかがみこんで洗い物等の動作をしていたことが考えられる。弾道が斜め上に向いていたのなら、立ち姿勢で被弾したと考えるのが自然であろう。

図8のオリジナル写真のコピー
              図8のオリジナル写真のコピー

 これは、射撃位置の現場検証を行っている様子であろう。テープを用いた弾道探索を行ったものと思われる。この写真では、窓ガラスに開いた弾丸の射入口を約20度の角度で延長したときの接地位置と窓との距離をメジャーで計測している様子を示したものと思われる。現在米国ではレーザーポインタ式の弾道探索具を用いて、弾丸発射位置の捜索を行うことが多い。


    一部が脱落した弾丸貫通ガラスを用いた弾丸貫通位置の推定法

 この事件では、ガラスに残された弾丸の貫通口が、事件解決に重要な物的証拠として残された。この家の窓ガラスと、その内側にあったストームグラスの平行な2枚のガラスを弾丸が貫通していた。そして、この2枚のガラスに残された貫通口の位置関係から弾丸の射撃位置が推定された。ところが、同じ貫通口から推定された射撃位置が、地元警察の鑑定と州警察の鑑定とで異なっていた。

 ガラスは一旦亀裂が入ると、その性質上脱落しやすいことから、貫通口そのものが長く保存されているとは限らない。

 地元警察は、貫通口周囲のガラスが脱落して残された大きくなった穴の中心位置を弾丸の通過位置と推定したことから、誤った結論を導いてしまった。

最初に生じた貫通口とクラック

中央部分のガラスが脱落

最初に生じた貫通口とクラック 中央部分のガラスが脱落

 合わせガラスやフィルムで補強していない板ガラスでは、貫通口周囲のガラスが脱落することがある。
必ずしも貫通口を中心としてガラスが脱落するわけではない。本来の貫通口は、放射状亀裂の交点で推定することができる。

脱落部位の重心位置で推定した貫通口

放射状亀裂の交点から推定した貫通口

脱落部位の重心位置で推定した貫通口 放射状亀裂の交点から推定した貫通口

 平行な2枚の板ガラスに生じた貫通口から射撃位置を推定する場合、貫通口推定位置の小さなずれが、推定射撃位置の大きなずれにつながる。

 この事件では、内側のガラスがストーム・グラス(天気管)で試験管状のガラス管であり、その貫通口の正確な位置の推定には深い経験が必要とされたと思われる。さらに外側のガラスとストーム・グラスとの間にはカーテンもあった。地元の警察では、破壊欠落したストーム・グラスの中央位置を貫通口と推定して、ほぼ水平の弾道を導いたのであろう。

 ところが、原著者は広範囲で脱落したストーム・グラスの貫通口の位置を高精度で推定できたことから、窓の外に向けて約20度下向きの(射撃位置から見ると20度上向き)弾道となり、近距離からの射撃が結論される。

(7ページ後ろから3行目で「地面に対して急角度をもった弾道であった」と訳したが、急角度とした語の原文はsignificant angleであり、必ずしも急角度ではなく、「地面に対して角度がついた弾道であった」とすべきで、誤訳となってしまった。

   立った姿勢で腕を伸ばしてけん銃を約20度上に向けて射撃したとすると、けん銃の位置は犯人のほぼ目の高さであり、被害者の射入口が目の角であるから、銃口と被害者の射入口との高さの差は(加害者と被害者の身長差)+(床の高さ)となる。 この高さの差を70センチメートルと仮定すると、水平射距離は、0.7/tan(20°)≒1.92m となる。

 窓の内側約1メートルのところに立っていた人物の顔に向けて、窓の外約1メートルの位置にある銃口から弾丸が発射されたことになる。


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