発射痕鑑定用語集

発射痕鑑定用語集


          

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用語 用語説明 英語
ACP
エーシーピー

コルト社が販売する自動装てん式拳銃用に、ジョン・モーゼス・ブローニングが開発した拳銃用実包の識別呼称。「コルト自動装てん式拳銃用」(for Automatic Colt Pistol)を意味する語の頭文字に由来する。

25ACP、32ACP、380ACP、38ACP、45ACPの5種類がある。各口径とも全被甲弾丸が使用され、25ACP、32ACP及び38ACPは半起縁型薬きょうであり、380ACPと45ACPは無起縁型薬きょうが使用されている。38ACPを除く4種類のACPは、開発されてから1世紀を経た現在ても、自動装てん式拳銃の標準的実包として使用され続けている。

これらの中で、小型拳銃用の実包としてブローニングが最初に開発したのは32ACPである。ウインチェスター社とけんか別れしたブローニングが新天地を求めて渡ったベルギーで、彼の特許を買い取ったFN社が7.65mmブローニングの名称の実包として、その製造を開始したのは1899年のことであった。この実包を使用するブローニング1900年型自動装てん式拳銃もFN社で製造され、ベルギー陸軍によって1900年に制式採用された。その後コルト社は、ヨーロッパには輸出しないとの条件でFN社と折り合いをつけて、1903年に小型拳銃用実包の特許をブローニングから買い取った。ブローニングはコルト社用に、FN社向けの拳銃とは異なるものを設計提供した。それがコルト1903年型で、コルト・ポケット型とも呼ばれる。そしてアメリカでは、この実包が32ACPと呼ばれるようになった。

ACPの名称が最初に使用されたのは38ACPであり、1900年にコルト社の1900年型自動装てん式拳銃でこの実包が採用された。1900年型は試作品程度のものであったが、この実包を使用したコルト1902年型自動装てん式拳銃は、コルト社初の本格的な自動装てん式拳銃となった。ただ1929年に、これと寸法が同一で装薬量が多く、威力の高い38スーパー自動装てん式拳銃用実包(38スーパー・オートマティック)が開発されると、38ACPはすたれてしまった。その後、次第に38ACPの名前も忘れ去られることとなった。なお、38ACPはヨーロッパでは使用されなかった。

ブローニングは1903年型拳銃の使用実包の威力を高めるため、口径0.38インチの実包を1908年に開発し、その実包を使用する1908年型自動装てん式拳銃をコルト社に提供した。この実包が380ACPで、相手の反撃を効果的に抑止するうえで最低限必要な殺傷威力をもった実包として知られる。この実包は1912年になってFN社にも提供され、ヨーロッパでは9mmブローニング・ショートと呼ばれた。

38ACPを用いた1902年型自動装てん式拳銃の口径を45にしてパワーアップした拳銃と実包の開発を、ブローニングは1904年に開始した。当初、45ロングコルトの薬きょうを起縁型から無起縁型になるように削り、抽筒溝を刻んだものを使用していたが、拳銃の作動を安定化するために薬きょうを切りつめて1905年に完成させたのが45ACPである。なお、軍の要請で、被甲の厚みなどの変更がその後に加えられた。

コルト社は、アメリカ国内では早くから自動装てん式拳銃を積極的に開発してきたことから、1960年代頃までのアメリカでは、コルトの名前が付けられた実包名に違和感は少なかった。現在のアメリカでは、45以外の口径の自動装てん式拳銃のコルト社製品のシェアはわずかとなってきている。一方で、これらの実包は現在でも自動装てん式拳銃用の標準実包となっていることから、これらの実包の名称からコルト拳銃用を意味するACPを除くべきであるという声が1970年代から出てきた。単に拳銃用を意味するAPが提唱されたが、現在でもACPの名称の方が広く通用している。
ACP

for Automatic Colt Pistol
圧痕
あっこん

工具が、物体にほぼ垂直に作用し、あるいは移動した場合に、その工具によって物体に残される痕跡。型式特徴固有特徴を兼ね備えるか、そのどちらかの特徴が残されている。

発射痕鑑定の分野では、打ち殻薬きょうに残される撃針痕閉塞壁痕遊底頭痕蹴子痕などは、原則として圧痕である。原則としてとしたのは、これらの痕跡にも、部分的には擦過痕が付けられることがあるからである。
Impressed Toolmark
荒削りリーマー
あらけずりりーまー
ドリルで穴あけ加工した後、その穴の形状を整えるために最初に通されるリーマー
ガンドリルは、銃身素材に一気に深穴を切削加工できるが、加工された銃腔は、目的の口径より若干細く、また部位によって径が異なり、断面もいびつで真円度の低い部分が残されている。荒削りリーマーは、銃腔の内面からの切削除去量はごくわずかである代わりに、銃腔断面を真円に仕上げ、ガンドリルによって残された円周状の切削工具痕を除去していく。

加工中の銃腔内部から切り粉の排出を容易にするために、銃身荒削りリーマーもガンドリル同様、切削刃はらせん状に回転しておらず軸に平行となっている。また、リーマーの軸中心に、潤滑冷却油を加工部に送り込む管路が開けられており、リーマーのくびれ部の側方に開けられた吐出口から銃腔に向けて油が噴出される。

銃腔内を往復させて、銃腔形状を整え、銃腔表面を滑らかにする。これによってガンドリルによる工具痕は除去されるが、リーマーによる新たな工具痕が残されるものと考えられる。
Roughing Reamer
一枚刃ブローチ
いちまいばぶろーち
切削刃が1枚だけの腔旋ブローチ

一度にすべての旋底を切削するが、旋底を目的の深さにするまでに何本ものブローチを用意して順次銃腔を切削加工する。

腔旋ブローチでは、切削刃が並んでいるギャング・ブローチが一般的だが、小規模生産では一枚刃ブローチが用いられることがある。上質の腔旋を加工するためには一枚刃ブローチを80本も用意することになるが、これでは現実的でない。一枚刃ブローチでは、切削刃が一枚しかないことから、ブローチを引く力はギャング・ブローチよりずっと小さくて済むことから、1本ブローチで切削加工する削り代を大きく取ることができる。このことから、最初の何本かは削り代の多い荒削りを行い、仕上げ過程で削り代が少なくなるような組み合わせでブローチを用意して、全体の切削回数を減らすことが可能である。

銃腔に残される工具痕の性質はギャング・ブローチによる工具痕と同様の特徴を示す。すなわち、銃腔の異なる旋底には形状の異なる工具痕が残されるが、連続して製造された異なる銃腔に類似した工具痕が残される可能性がある。ただし、25枚もの刃が同一の組み合わせで切削を行うギャング・ブローチとは異なり、切削ごとに各旋底に当てられる刃の組み合わせが変化することから、連続製造した銃身であっても、工具痕の類似性はギャング・ブローチで加工されたものよりはるかに低いものと考えられる。

単一刃ブローチとも呼ばれる。
Single Broach
陰綫痕
いんせんこん

旋底痕を意味する用語。

昭和20年代後半から昭和30年代初期にかけて、この用語が使用された鑑定書が存在した。ただし、それらの鑑定書の保存期限がすでに切れており、この用語を目にする機会がすでに失われたことから、歴史的用語となっている。
Groove Impression
打ち殻薬きょう
うちがらやっきょう

銃器の薬室に装填された実包雷管撃針で打撃し、雷管が発火し、発射薬が急速燃焼し、弾丸が発射された後に、残された薬きょうをいう。銃器から自動的に排出されることもある。

実包を銃器の撃針で「打った」後に残される「殻」だけになった「薬きょう」の意。

打ち殻薬きょうには、撃針痕を初めとする発射痕鑑定を可能とする痕跡が残されている。

打ち空薬きょうと書く場合もある。

打ち殻薬きょうのことを空薬きょうと呼ぶこともあるが、雷管を取り付けていない組み立て前の薬きょう(Unprimed Cartridge Case)や雷管は取り付けてあるが、発射薬を入れる前の薬きょう(Primed Cartridge Case)を空薬きょうと呼ぶこともあり、混乱を避ける上でも打ち殻薬きょうといった方が無難だろう。

なお、1980年代までの英語の文献は、薬きょうはCartride Caseといい、略してCaseとするのが原則だった。ところが1990年以降導入されたIBIS関係の人たちは薬きょうをCasingと呼び、NIBINを紹介するアメリカの政府関係の文書も、薬きょうのことをCasingと表すことが多くなった。2000年代に入ったアメリカの発射痕鑑定分野では、薬きょうのことをCasingとするのが普通となった。

Expended Case,
Expended Casing,
Fired Case,
Fired Casing,
Empty Case,
Empty Casing
円錐台頭弾
えんすいだいとうだん

弾丸頭部が円錐台状をしている弾丸。

セミ・ワッドカッター弾とは異なり、円筒部と円錐台状の弾丸頭部との境界部分に段差がない。セミ・ワッドカッター弾と形状が類似した被甲弾丸で見られる。円筒部と頭部との間にある段差がセミ・ワッドカッター弾ほど大きくない鉛弾丸も、この形式の弾丸に分類される。
Truncated Cone Bullet
円筒型薬きょう
えんとうがたやっきょう

きょう体(胴部)の径が、きょう口からきょう体の底部まで同等の薬きょうをいう。

英語ではStraight cartridge caseがこの語に近いが、Straightは、先絞り型薬きょうのようにきょう体の途中に曲がりあのある薬きょうは除外されるが、きょう口部に向けてきょう体が滑らかに細くなるTaperedを含んでいる。一方、円筒型薬きょうの語は、通常テーパー型薬きょうを含まない。

起縁型半起縁型無起縁型減起縁型ベルト付きの各薬きょうに円筒型薬きょうがある。大半の縁打ち式薬きょう(現行のすべての縁打ち式薬きょう)と多くの縁打ち式薬きょう中心打ち式の拳銃用薬きょうがこの形式である。

円筒型とテーパー型の薬きょうの区別は必ずしも容易ではない。現行の縁打ち式薬きょうの代表である22ショート、22ロング、22ロングライフル、22スティンガー、22ウインチェスター・マグナム・リムファイヤーの各薬きょうは円筒型として扱うが、その寸法をCartridge of the worldで調べてみると、きょう口外径はきょう体外径より1000分の1インチ(0.0254mm)細くなっている。この値は、発射痕鑑定が対象とする打ち殻薬きょうで確認できる差異ではない。

発射前にその差があったとしても、発射に際して薬きょうが膨らむことから、差を検出できない可能性が高い。排きょう時、あるいは排きょう後の変形に伴う寸法変化は、この1000分の1インチの差よりずっと大きいであろう。
Straight Cartridge Case
円頭弾
えんとうだん
長形弾丸の中で、弾丸頭部が半球状あるいは半回転楕円体状をしている弾丸。弾丸頭部の形状を分類する際には円頭型の弾丸という。

文献によっては、弾丸頭部が半球状(弾丸頭部の曲率半径が弾径の半分)をしているものだけを円頭弾としているものがあるが、ラウンド・ノーズとされる拳銃用弾丸で、弾丸頭部が半球状のものはほとんどない。
Round Nose Bullet
オージャイブ 弾丸頭部の回転体面。O型回転体面と訳せるだろうか。

楕円オージャイブ接線オージャイブ、。 割線オージャイブの3種類がある。
Ogive
回転弾倉
かいてんだんそう

回転弾倉式銃器の部品で、実包を装填する複数の薬室が円周方向に等間隔に配置され、回転することで、装填されている実包を、次々に撃針の打撃位置に送り込む。

回転弾倉式の銃器で現在一般的なものは拳銃のみであり、普通は回転弾倉式拳銃の部品である。

シングルアクションの拳銃では、撃鉄を指で引き起こす動作によって回転し、ダブルアクションの拳銃では、引き金を引く動作によって回転する。

銃砲刀剣類所持等取締法の第三条の二により、拳銃の回転弾倉は、その所持が禁止されている。

英語ではCylinderという。日本語をそのまま英語に直したRevolving Magazineの用語は見ない。通常Revolving Cylinderとも言わない。ただ、銃器の発展の歴史を語る際には、銃身回転式の銃器と区別する上でRevoloving Cylinder Pistolという語は存在する。一方、銃身回転式の銃器は、Revoloving Barrel Gunとは言わずにMulti-Barrel Gunの方が一般的である。Multi-Barrel Gunの中には銃身が回転しないものもあるが、回転するものはRevolverに分類される。
Cylinder
外部潤滑型弾丸
がいぶじゅんかつがただんがん
鉛の長形弾丸のうち、薬きょうから露出してる部分に潤滑剤が塗布されている弾丸。

実包の黎明期に縁打ち式実包で用いられ、その後中心打ち式実包の一部でも用いられたが、現在では縁打ち式実包の一部でのみ見られる。

薬きょうきょう体から弾丸の円筒部までが、ほぼ連続した円筒状となっており、起縁型薬きょうでのみ採用できる形式である。

この形式の弾丸が使用されている22ロング・ライフルが廃れることはないものと考えられるが、この形式の弾丸を使用する実包が新たに開発されることはないであろう。
Outside Lubricated Bullet
加工ヘッド)(腔旋棒の
かこうへっど(こうせんぼうの)
腔旋加工に使用される腔旋棒の中央にあって、腔旋を加工する切削刃が顔を出す開口部が開けられている部分。

スクレイプ・カッターで用いる腔旋棒の加工ヘッドでは、対向する2箇所に窓が開いており、フック・カッターで用いる腔旋棒では片側1箇所に窓が開いている。
Rifling Head
ガスチェック
鉛弾丸の底部及び底部付近の円筒部を覆うギルディング・メタルや黄銅製のキャップ状の短い被甲

高初速の鉛弾丸では、発射ガスの熱で弾丸底部及び底部近くの円筒部が銃腔通過時に溶融してしまう。溶融が発生すると、命中精度の低下や銃腔への鉛の付着などの悪影響が生じる。これを防止するために、弾丸底部付近だけを被甲で覆う目的で使用されるものである。

ガスチェックを付ける鉛弾丸は、弾丸底部付近が被甲の厚み分だけ細くなった専用の鋳造鋳型で製造したものを用いる必要がある。この鋳型で鋳造された鉛弾丸ガスチェックを装着せずに発射すると、銃腔に悪影響があるだけでなく、命中精度が低下する。

鉛弾丸の弾丸底部付近の円筒部は、拳銃弾であっても銃腔通過時の溶融が多かれ少なかれ生じている。弾丸硬度を増加させるためにアンチモンや錫を混入させると、その分合金の凝固点降下が生じることから、溶融傾向が強くなる。弾丸頭部がマッシュルーム状変形をし、弾丸底部付近の円筒部表面が溶融している鉛弾丸では、発射痕鑑定に利用可能な部分は極めて限定されてしまう。その点、ガスチェックが付いていれば、発射痕鑑定の困難を軽減できる。ただし、最近の拳銃用の鉛弾丸で、ガスチェックの付いたものを見ることはほとんどない。
Gas Check
(薬きょうの)
かた(やっきょうの)
先絞り型薬きょうの円筒部からきょう口部(首部)との間にある、薬きょうの太さが絞られていく斜面となった部分。

薬きょうの胴体(Body)から首(Neck)の間にあり、その形状も位置も人体のとの間で共通性が高い。

薬きょう内にある発射薬が燃焼すると、発生した高温高圧ガスは四方八方に等圧で作用する。そのうち弾丸底部に作用した圧力によって弾丸は発射され、薬きょうのの部分に作用した圧力によって、薬きょうは薬室の肩の部分に押し付けられる。薬きょう底部に作用した圧力によって薬きょう底部閉塞壁面に押し付けられる。先絞り型薬きょうでは、ヘッドスペースが適正でないと、薬きょうのと底部との間に引き伸ばし力が作用し、薬きょうの円筒部の延伸が生じ、場合よっては円筒部が断裂し危険である。

ライフル実包のの傾斜角度は15度~20度程度のものが多いが、マグナム実包では発射薬量を少しでも多く入れるために、25度以上の急な角度つけられているものが多い。ウエザビー・マグナムが45度の急角度のをつけているのが有名である。
Shoulder
型式特徴
かたしきとくちょう
工具及び工具痕の特徴のうち、工具の種類や型式によって定まる特徴をいう。

工具の場合、その設計図面で指定されている寸法や仕上げに関する特徴があたる。これらの特徴は工具を製造する前から定められている。工具による加工痕跡である工具痕では、それを加工した工具の設計図面で指定されている寸法や仕上げに関する特徴を反映した特徴が型式特徴となる。数値や簡単な分類記号等で表現できる特徴である。

型式特徴は、工具痕鑑定の一分野である発射痕鑑定で発達した概念である。銃腔腔旋の条数や腔旋の回転方向は銃身の製造図面に指定されており、一定の製造公差内で製造される。その銃身から発射された弾丸には、銃身の製造図面に指定された腔旋と凹凸関係にある形状の腔旋痕が付けられる。したがって、発射弾丸の腔旋痕を測定すると、銃身の製造図面に指定された値を推定できる。その推定値から銃器の型式が推定される。

型式特徴は、痕跡の元ととなった工具の対象を絞り込む際に利用される。工具痕から推定される工具の型式が異なるということは、工具が異なることを意味することから、その工具を比較対象から除外できる。一方、型式特徴が互いに対応する工具痕は、同一工具由来の痕跡である可能性を除外できない。

工具と加工品との位置関係の自由度が高い場合には、工具痕工具の型式特徴を結びつけることは容易でない。たとえば手持工具によって表面を擦過した場合に、工具の刃先の幅と擦過痕の幅が対応するとは限らない。

工具痕を形状やパターンによって分類して、対象となる工具を絞り込むという観点から、分類特徴ということもある。
Class Characteristics
割線オージャイブ
かっせんおーじゃいぶ

オージャイブの1種で、尖頭弾に用いられる回転体曲面。

割線オージャイブでは弾丸頭部の円弧の曲率を小さくして弾丸頭部を尖らせる一方で、弾丸頭部と円筒部とを角度を持って接続させることによって、弾丸頭部の長さを抑えている。

弾丸頭部の円弧の曲率を小さくして尖がらせると、弾丸全長が延伸し、弾丸の飛翔姿勢の安定化が難しくなる(腔旋の回転角度を増加させ、弾丸の回転数を増加させる必要が生じる)。そこで割線オージャイブでは、円弧の曲率を小さくする一方で、円弧の中心を弾丸の円弧部と円筒部との接続部より後方に位置させることで、弾丸頭部の長さを抑えている。

割線オージャイブの形状は、円弧の径と、円弧の中心位置によって決定される。円弧の中心位置は、弾丸の円弧部と円筒部との接続位置から後方へのオフセット量で表される。このオフセット量が0の特別の場合が接線オージャイブである。割線オージャイブは14-s -0.33mmのように表示される。14-sは口径の14倍の半径の円弧を示し、-0.33mmは円弧の中心のオフセット量を示す。小文字のsはSecantの頭文字である。
Secant Ogive
空薬きょう
からやっきょう

打ち殻薬きょうと同意。

弾丸を発射して空になった薬きょうの意味であり、英語にもこれに相当するEmpty Caseの語がある。

ただ、弾丸を発射して空になった薬きょうと、実包を組み上げる前の薬きょうである雷管なし薬きょう(Unprimed Cartridge Case)や雷管付き薬きょう(Primed Cartridge Case)との混同を避けるためにも、弾丸を発射して空になった薬きょうを指す場合には、打ち殻薬きょうとする方が望ましい。
Empty Case,
Empty Cartridge,
Empty Cartridge Case
完全被甲弾丸
かんぜんひこうだんがん

弾芯を被甲金属で完全に覆った弾丸。

米国のCCIが最初に用いた名称で、略称のTMJは現在ATKグループのCCI/SPEERの登録商標となっている。鉛合金の弾芯に厚みのある丹銅のメッキを施したものである。鉛の露出部がないことから、健康被害を防止する弾丸とされている。

通常のメッキ弾丸は、メッキの厚さが3~5μ程度であり、メッキは弾芯からフレーク状に剥離する。一方、完全被甲弾丸ではメッキの厚さは70~80μ程度で、弾芯からシート状に剥離する。

弾丸底部で鉛の弾芯が露出していると、弾丸発射時に発射薬の燃焼によって生じた熱で、鉛が気化してガス状になって放散され、人体に有害である。これを防止するため、弾丸底部を丹銅や黄銅製の円盤で塞いでから、弾丸底部で被甲を折り返している前方被甲弾丸がある。これも完全被甲弾丸であるが、低汚染弾丸等と呼ばれることが多い。

後方被甲の尖頭弾で、弾丸頂部被甲がしっかりと閉じ合わされているものがある。弾丸の外側から弾芯は全く見えないので、これも完全被甲には違いない。
Totally Metal Jacketed Bullet,
TMJ Bullet
ガンドリル
がんどりる

深穴加工に使用される工具。

深穴とは、直径の5倍以上の深さのある穴をいう。深穴の代表例が銃器の銃腔であり、ガンドリルの名称もそれに由来する。ガンドリルは、銃腔の下穴加工をするために使用される。

ガンドリルが通常のドリルと相違する点は、ドリルの軸に沿って潤滑冷却油を流す穴が開いていることである。この潤滑冷却油の流れによって、ドリルとワークを冷却しながら切り粉(削りカス)を加工中の深穴の中から排出する。ドリルにこの潤滑冷却水の配管をする必要から、ドリルを回転させることができない。そのため、ドリルを固定して、ワーク(銃身)の方を回転させて加工する。

銃腔加工時に、銃身は毎分5,000~7,000回転させ、ガンドリルを毎分3.0~7.5cm程度送りながら加工する。

銃腔加工専用ものは銃身ドリルともいう。
Gun Drill
起縁
きえん

薬きょう底部で、きょう体から側方に突き出した厚みを持った円形部分をいう

。 英語では単にRimとしていることが多く、国内ではこれを単なる「縁」ではなく、「起縁」ということが多い。ハッチャーのテキストにはRaised Rimの用語が使用されている箇所があるが、現在この語を目にすることは少ない。

起縁は、薬室に装填した実包が薬室の奥に潜り込まないように保持する役割と、弾丸発射後に打ち殻薬きょうを排出する部品(排きょう子抽筒子)に、a href="#薬きょう">薬きょうを引っ掛ける場所を提供している。撃針雷管を打撃する際に発生する力に対抗する役割も果たす。
Rim
Raised Rim
起縁型薬きょう
きえんがたやっきょう

きょう底起縁の外径が抽筒溝近傍のきょう体外径より大きい薬きょうをいう。回転弾倉式拳銃に用いるほとんどすべての薬きょう、すべての縁打ち式薬きょう散弾銃用実包薬きょうが該当する。

この形式の薬きょうは、薬室後端部が薬きょうの縁の下部を支えることによって撃針の打撃力を受け止める。したがって、ヘッドスペース薬室後端部砲底面あるいは遊底頭面閉塞壁面などとの距離となる。
Rimmed Case
擬製弾
ぎせいだん

 実包あるいは空包と類似した外観をしていて、銃器に装填可能であるが、雷管点火薬が塗布されておらず、きょう体内に発射薬が装填されていないことから、火薬類の燃焼は生じない。そのため、国内での所持に対する法的規制はない。銃器操作の訓練用や展示用、鑑賞用に使用される。

 訓練用に製造されたものでは、きょう体側面に縦溝加工をしたり、青色のプラスチック製薬きょうを使用することによって、実包あるいは空包との識別性を向上させていることが多い。展示用、鑑賞用のものは、打ち殻薬きょうに弾丸を再組み付けしたり、雷管が未装着の薬きょう弾丸を組み付けて製造される。

 模擬弾と呼ばれることもある。  
Dummy Cartridge
キャネルア
 弾丸薬きょうの円周方向に刻まれた溝。模様のない溝とギザギザのある溝(ナーリング溝knurled cannelure)とがある。模様のない溝には、丸底溝とV字型溝などがある。

 鉛弾丸の円筒部に刻まれたキャネルアの最大の目的は銃腔の潤滑であり、溝内には通常潤滑目的でグリースが塗布されている。鉛弾丸では適切な潤滑が行われないと、銃腔への鉛の付着が増加し、命中精度が低下し、銃身の寿命を短縮させる。一方、被甲弾丸では、潤滑剤がなくても被甲金属の銃腔への付着は少なく、特に弾速の遅い拳銃弾丸ではその付着は大きな問題とならない。その代りに、弾丸薬きょうとの結合(クリンプ)をキャネルアのへこんだ場所で行うことによって、結合を確実にさせることが目的の一つになる。被甲弾丸の内、弾芯の鉛が弾丸頭部で露出しているソフトポイント弾では、被甲弾芯との結合が確実でないと、弾丸発射時に質量の大きな弾芯のみが発射され、被甲銃腔内に取り残されてしまうことがある。被甲弾丸ナーリング溝には、これを防止する目的もあるとされている。

 鉛弾丸では、薬きょう弾丸をクリンプする過程で、結果として弾丸の円筒部に溝ができてしまうことがある。これはクリンプ痕と呼ばれるが、これもキャネルアとすることもある。また、鉛弾丸では、深さのあるキャネルアを何条も刻むことによって、弾丸の質量を増加させずに弾丸長を増加させ、弾道の低伸性を向上させることもあるという。

 薬きょうでは、中心打ち式薬きょう抽筒溝キャネルアと呼ばれる。薬きょうの円筒部の周方向に付けられている浅いナーリング溝もキャネルアと呼ばれることがある。

これらのキャネルアは、弾丸薬きょうの種類の識別目的でも利用され、鑑識目的ではもっぱら識別目的で利用されている。

 英辞郎では、cannelureに「銃弾の薬きょう圧入溝」との意味を掲げているが、偏った定義と思われる。

 銃器の分野では円周方向の溝をキャネルアとすることが多いが、縦溝の入った柱の溝もキャネルアと呼ばれている。フランス語では、円柱状の柱をcolonne(コロン)といい、その柱に刻まれた縦溝をcannelureと呼んでいる。

 英語では、円柱状のものに入った縦溝はfluteと呼んでいて、日本語でもそのままフルートと呼ばれることが多く、フルート溝と呼ばれることもある。
Cannelure
きょう口
きょうこう

薬きょうの先端部。

実包ではここに弾丸が挿入されており、空包では紙蓋がされていたり、絞られたりしている。散弾銃用の実包(装弾)でスター・クリンプやロールクリンプで閉じられている。

英語ではMouthというが、Mouthは薬きょう先端の内側を指すという狭い定義がある。そのような定義をした場合、薬きょう先端の外側をNeckとする場合がある。その場合、Mouth Diameterはきょう口径と訳されるが、薬きょう先端の内径を示し、これは弾丸径とほぼ等しく、薬きょう先端の外径はNeck Diameterといい、これをきょう首径ということがある。

一方、Neckは、先絞り型薬きょうの絞られた部分から薬きょう先端部までを指すという定義もある。

Cartridge of the worldでは、薬きょう先端の外径を、先絞り型の薬きょうに限らず、円筒型の薬きょうについても、Neck Diameterとしており、Mouth Diameterの欄はない。

個人的には「きょう首」という用語は、積極的に使いたいという気はせず、薬きょうの先端部は円筒型薬きょうでも先絞り型薬きょうでも「きょう口」としたい。そして、Mouth Diameterはきょう口内径とし、Neck Diameterはきょう口外径と呼ぶことにしたい。
Mouth
きょう口外径
きょうこうがいけい

薬きょうの先端部の外径をいう

きょう首径ということもある。

発射痕鑑定で得られる計測値は、弾丸発射後の薬きょうのきょう口径であり、実包のきょう口径より若干太くなっていると思われる。その径は、きょう口部が収まっている薬室内径に近いものになると考えられる。ただ、変形薬きょうを除外した測定結果をまとめてみると、打ち殻薬きょうのきょう口径は、0.1mmの単位までなら規格値と一致していることが多い。
Neck Diameter
きょう口内径
きょうこうないけい

薬きょうの先端部の内径をいう。

弾丸発射を行う前の実包の状態では、弾丸径ときょう口内径は同一である。弾丸発射に伴いきょう口部が若干膨れることから、弾丸発射後の薬きょうから得られたきょう口内径の測定値は、弾丸径より若干太い。ただ、薬きょうの各部の寸法の中で、弾丸径を最もよく代表している値がきょう口内径である。 打ち殻薬きょうでは、きょう口部が変形することが多く、きょう口部が円形をしていないことも多い。実際の鑑定では、薬きょう口径をその寸法から判断することは少なく、一部の例外を除けば、きょう底刻印を基に決めた方が確実である。

英語ではMouth Diameterであり、きょう口径ということもある。ただ、きょう口外径と内径のどちらを指しているのかの曖昧性を除くために、きょう口内径と詳しく言った方がよいだろう。
Mouth Diameter
きょう首
きょうしゅ

(薬きょうの)に同じ。

先絞り型薬きょうの絞られた部分の先から薬きょう先端部までの円筒部分を指す。

「きょうしゅ」は、耳から入った場合にとまどう用語になっていると思う。文献にはこの用語が残っているが、発射痕鑑定分野で、耳から「きょうしゅ」の用語を聞くことは、最近ではほとんどない。「きょうくび」という言い方も聞いた覚えはない。射撃の分野では今でも使われているのであろうか?
Neck
きょう首径
きょうしゅけい

先絞り型薬きょうの部分の外径。

きょう口外径と同じであるが、先絞り型薬きょうについてのみ、この呼び方がある。
Neck Diameter
きょう体
きょうたい

薬きょう円筒部と同意。

先絞り型薬きょうでは、薬きょう底部との間にある円筒部分を指し、円筒型薬きょうテーパー型薬きょうでは、薬きょう底部きょう口との間にある円筒部分を指す。

きょう体」の用語を「薬きょう本体」の意味で使用することもあるようだが、これらを区別するために、薬きょう全体を指す用語としては「薬きょう本体」を採用した。
Body,
Tube
きょう胴
きょうどう

薬きょう円筒部と同意。

英語ではBody。薬きょうの各部の名称は「口」、「首」、「肩」、「胴」、「頭」と人間の体にある名称が英語でも日本語でも用いられてきた。「肩」と「胴」はその形状と位置から違和感を感じる人は少ないであろう。英語では、「口」と「頭」が「胴」を挟んで対向した位置にあり、違和感があるかもしれない。「肩」は他の名称が思い浮かばないこともあり、このまま生き残るのだろうが、「胴」は最近使用する人が少なくなり、「円筒部」を用いる人が増えているように感じる。
Body,
Tube
ギルディング・メタル
米国で使用され始めた被甲弾丸の被甲用材料合金。

 米国は1911年に口径0.45インチM1911自動装填式拳銃を軍用制式拳銃に選定した。この拳銃に使用されることになった軍用制式の45ACP実包の弾丸は、銅95%、亜鉛5%のギルディング・メタルで被甲されていた。その後軍用の45ACPの被甲の材質は銅90%、亜鉛10%のギルディング・メタルに変更された。45ACPの最初に用いられた被甲の金属組成から、銅95%、亜鉛5%の合金をギルディング・メタルと説明しているものが多いが、現在では被甲弾丸用のギルディング・メタルは、銅90%、亜鉛10%が一般的と考えられる。

 ギルディング・メタルは、現在でも最上の被甲材料と考えられている。深絞り加工性に優れ、銃腔の損耗を最小限にとどめる点が長所である。欠点は価格が高く付くことで、米国でも戦時には銅の含有量の少ない黄銅被甲弾丸や軟鋼にギルディング・メタルをメッキした被甲弾丸が製造された。ギルディング・メタルの被甲に錫メッキした弾丸も使用されたが、摩擦や腐食低減の追求より、弾丸を白っぽい色調にすることが主目的だったと言われている。

 旧JIS H3241の丹銅板に、ギルディングメタルの規格に相当するものが含まれていた。丹銅板1種は銅95%、亜鉛5%、丹銅板2種は銅90%、亜鉛10%、丹銅板3種は銅85%、亜鉛15%、丹銅板4種は銅80%、亜鉛20%に相当する規格であった。これらはすべてギルディング・メタルとして使用できる組成であるが、丹銅板1種及び2種が上質のギルディングメタルに相当する。なお、旧JISでは丹銅の英語名はRed Brassであった。

国内ではギルディング・メタルで被甲された弾丸を、銅被甲弾丸と呼ぶことが多い。
Gilding Metal
金属性弾丸
きんぞくせいだんがん

銃砲刀剣類所持等取締法第一章第二の条(定義)の銃砲の定義の部分に現われる語。金属製でなくても、金属の性質(金属結合をしており、硬くて容易に粉体、液体、気体にはならな性質)をもった弾丸を発射する銃器を規制するために用いられた語。

通常の金属製の弾丸以外のものでも、発射された際の運動エネルギーの値に見合った侵徹、破壊能力を発揮するものの危険性を考慮して、このような材質の弾丸を含ませるために使用された語彙。
Metallic Bullet
空包
くうほう

実包から弾丸を取り去った構造をしているもの。雷管が組み付けられた薬きょうに発射薬を装填し、薬きょう口を紙蓋で塞いだり、薬きょう口を絞ることによって、発射薬がこぼれないように加工してある。

 発射音を出すことによる威嚇、自己防衛に使用される。また、発射音を発生させる状況下での訓練射撃に用いられる。自動銃用の空包では、弾丸を発射しなくても自動装填機構が作動するように、実包より発射薬量が増量されているのが普通である。

Blank Cartridge
(薬きょうの)
くび(やっきょうの

先絞り型薬きょうのきょう口部と肩との間にある円筒形の部分。

薬きょうの肩(Shoulder)と口(Mouth)の間にあり、その形状と位置は、人体の首との間で共通性が高い。

薬きょうの首の円筒部分の長さと、薬きょうに装填されている弾丸の円筒部の長さは、一般的にほぼ等しい。すなわち、円筒型の弾丸では、首と肩の境界部まで弾丸の円筒部が収まっている。ボートテール型の弾丸では、弾丸の尾部は薬きょうの首部より奥まで突き出ている。

円筒型薬きょうとテーパー型薬きょうには首はない。

Neck
クリーンナップ(腔旋ボタンの)
くりーんなっぷ(こうせんぼたんの)

腔旋ボタンのスムーザーの別名。押し込み型腔旋ボタンで、ボタン本体の後方に付けられた部分で、ボタンで加工された腔旋の平滑化処理を行う。あるいは、その部分で銃腔を擦り、銃腔内を平滑化する仕上げ加工をいう。

腔旋をブローチ加工した場合には、旋丘のエッジ部にバリが立つことは少ないが、腔旋ボタンの1回通しで加工された腔旋では、旋丘のエッジ部にバリが立ち、発射弾丸の旋丘痕のエッジ部が溝状に深くなることがある。このようなバリを取り除くのがクリーンナップの役割である。

腔旋ボタンで申し訳程度の腔旋が加工されている銃では、クリーンアップをせずに、わざとバリを残していると思われるようなものもある。この種の銃では、腔旋の旋丘と旋底との段差が浅くても(0.02mm程度)、バリがあるうちは弾丸に回転運動が付与される。弾丸をある程度発射することでバリが除去されてしまうと、発射弾丸には腔旋痕角のほとんどない浅い腔旋痕が残されるようになる。もちろん発射弾丸に十分な軸周り回転力が付与されないため、命中精度は期待できない。

単語ごとに区切ればクリーン・アップだが、クリーンナップが適切な日本語訳だろう。
Clean Up
グレイン
英国で古くから用いられていた重量単位の一つで、7000分の1(常衡)ポンドであり、0.06479891グラム重に相当する。単位の表示はgrが用いられる。通常の換算では0.0648グラム重で十分であり、「648=むしば」と覚えると先輩から教わった。重量単位での測定結果は重力加速度によって変化することから、ここまで有効桁数があっても意味がない。SI単位系の導入で、ものの量を、重量から重力加速度の影響を受けない質量で測るようになり、重量単位であったポンドを質量単位であるキログラムとの間で換算する係数が、1質量ポンド=0.45359237kgとされたことから、その7000分の1であるグレインが1質量グレイン=0.06479891gとなった。質量グレインはグレインマスと呼ばれ、単位の表示はgrmである。

グレインは粒や少量を意味する言葉で、重量単位のグレインは大麦の一粒の重さに基づくとされている。なお、長さの単位のインチは大麦の3粒分の長さに基づくとされている。(ちなみに、手近にある精米したコメ粒の質量は0.0185グラムであった。)

オンスには(常衡)オンスとトロイ・オンスがある。トロイ・オンスは貴金属や薬品の計量に用いられ1トロイ・オンスは480グレインである。一方、その他一般のものの計量には(常衡)オンスが用いられ、1(常衡)オンスは437.5グレインである。発射痕鑑定分野では、散弾やけん銃の重量をオンスで表示することが多いが、これには(常衡)オンスが用いられる。ポンドやオンスには複数の値が存在するが、グレインは単一の値しか存在しない。

英国と米国では、弾丸と発射薬の重量をグレイン単位で計量してきたことから、発射痕鑑定では、今でもSI単位系以外の単位として使用することが最も多い単位の一つとなっている。実包関係の参照文献では、今でも弾量と薬量はグレインで表示されているのが普通で、これは今後も当分変わらないものと思われる。発射弾丸は多かれ少なかれ変形や損傷を受け、部分的な欠落が生じることも多い。その質量をSI単位で計量しても、それをSI単位系で検索しても、規格値の境界を読み取りにくい。それをグレイン単位に換算すると、分かりやすい値の差となり、元の口径が分かることが多く、結局今でもグレイン換算することになる。

宝石の重量を測る単位でもグレインが用いられてきたが、宝石の重量単位の1グレインは4分の1カラットとされている。現在1カラットが0.2グラムとされているため、宝石の計量単位のグレインは0.05グラムとなる。この単位はパール・グレインとも呼ばれる。

グレーンという表記もあるが、発射痕鑑定の世界では以前からグレインの方をよく目にした。
grain
傾角
けいかく

旧軍で用いられていた腔旋角を示す語。

その分野の人しか対象としない専門語としては許容されるもしれないが、一般用語の中に混じると曖昧性が高い。傾いているものの角度はすべて傾角であり、「腔旋の傾角」とすべき語である。腔旋角の方が用語としては洗練されている。
Angle of Twist
撃茎
げきけい

雷管を直接打撃し雷管を発射させる部品で、撃鉄による打撃を受けずに雷管を打撃する発射方式を採用している銃の部品。通常、撃針バネで常に前進方向の圧力を受けている部品である。

英語ではStrikerで、英語のStrikerは撃鉄の撃針部分を指すこともあるが、この部分は日本語では撃茎とは言わない(旧JIS B9804散弾銃及びS7102散弾銃では、形状によっては撃茎というと記載されていた)。

通常、棒状の部品で、先端に撃針が加工され、後方の内側は内面がくりぬかれたパイプ状となっており、その中に撃針バネ(撃茎バネ)が挿入されている。撃茎発射式の銃器では、撃茎とシアとの結合を解除して、撃茎が雷管を打撃する機構となっている。そのため、撃茎にはシアと結合する突起部が加工されている。この部分が摩耗したり欠けると暴発しやすくなる。また、撃茎発射方式を採用している自動装填式拳銃では、薬室に実包を装填すると撃茎バネは圧縮された状態となり、撃発準備状態のままにしておくことは安全上も銃の耐久上も好ましくない。

撃針と撃茎は、その役割も形状もほとんど同じあるのに、なぜ二つの用語があるかといえば、英語のFiring pinを撃針と訳しStrikerを撃茎と訳しているという結論に至る。strikerと呼ばれる部品の類型と撃針の類型とがどれだけ異なるかを調べると、別のものに打撃されて、その力を受けて雷管を打撃する部品はstrikerとは言わないことはいえるようである。たとえこのような区別があったとしても、雷管を打撃する棒状の部品は、日本語では撃針と統一しても混乱するとは思われず、今後撃茎の言葉は廃止してもよいと思われる。

NRAのFirearm Fact Bookでは、米国でFiring pinとしているものは英国ではStrikerというとしている。
Striker
撃針
げきしん

実包あるいは空包の雷管を直接打撃し、雷管を発火させる部品

撃針は現行の銃砲刀剣類所持等取締法による所持の規制対象部品ではなく、武器等製造法でその製造が規制されている部品でもない。国連の銃器議定書でも不正製造並びに不正取引の対象部品として名称は明示されていないが、部品の定義が「銃器の機能を発揮する上で必須の部品をすべて含む」となっていることからは、当然規制対象となるものと考えられる。
Firing Pin
撃針口
げきしんこう

撃針を突出させるために、銃器の閉塞壁面に開けられた開口部。通常円形の穴が開けられている。
 (閉塞壁面は遊底頭面、砲底面ともいう。)

   英語ではFiring pin holeで、AFTE Glossaryはこの語しか登録していないが、Firing pin apertureということも多い。BR>
 撃針先端が長方形の縁打ち式の銃器でも、撃針口は円形のものが普通であるが、撃針先端が円形のフェニックス・アームズの小型自動装填式拳銃が、正方形の撃針口を採用している。
Firing Pin Hole,
Firing Pin Aperture
撃針口痕
げきしんこうこん

打ち殻薬きょうに残された銃器の撃針口の形状を示す痕跡。縁打ち式薬きょうではきょう体底部に付けられ、中心打ち式薬きょうでは雷管に付けられる。

撃針口の周囲には、撃針口加工の際に生じるバリや、撃針が撃針口の縁に衝突して生じる盛り上がりが形成されることがある。このような盛り上がりに、薬きょう底部あるいは雷管が押し付けられた際に食い込むことによって撃針口痕はできる。

発射薬の燃焼によって生じた高温高圧ガスは、弾丸底部を押して弾丸に推進力を与えると共に薬きょうに膨張及び後退力を与える。燃焼ガスは噴火口を通って火薬室から雷管の内側に入り込み、雷管は閉塞壁面に押し付けられる。撃針が雷管打撃後に元の位置に戻ると、雷管は吹き戻されて後方に膨らむことがある。その場合には、雷管は撃針口の内部にまで食い込み、閉塞壁面によって抑えられている部分との境界として、撃針口の形状が残される。これも撃針口痕である。

英語では、このような意味での撃針口痕の用語は使用されていない。firing pin apperture markingということはできるが、このような言葉を見ることはない。雷管が撃針口に吹き戻されて盛り上がった痕はprimer flow back(雷管吹き戻し痕)と呼ばれている。
Primer Flow Back
撃針痕
げきしんこん

撃針によって実包あるいは空包の雷管部分に生じるへこみ。中心打ち式雷管では、薬きょう底部の中央部にある雷管の中央部付近にへこみが生じ、縁打ち式雷管では、薬きょう底部の薬きょうの縁付近にへこみが生じる。

撃針痕を表す日本語にはこれ以外のものはなく、用語としては全く問題はないが、英語では撃針痕としての用語が何種類かあり、使用されるものが変遷してきたことから、どれを用いるか迷うところである。AFTE GlossaryはFiring Pin Impressionを採用している。この語は、Gunther&Guntherのテキストで用いられているので、古くから使用されていた言葉である。

一方これと同時期のHatcherの1935年のテキストではFiring pin imprintsが用いられている。Hatcherの1957年の改訂版では書き加えられた部分ではFiring pin markingsが用いられている。

Mathewesのテキストでは、本文中はFiring pin markingsが用いられているが、H.P.Whiteの縁打ち式薬きょうの撃針痕データを掲載した附録ⅧではRim fire firing pin impressionsの用語が用いられている。

BurrardのテキストではStriker indentationの用語が見られる。

 この10年でFiring pin markingsは用いられなくなってきている。それは、工具痕を擦過痕(工具が物体表面に沿って移動した際に物体表面に残される工具痕)と圧痕(工具が物体表面にほぼ垂直に作用したときに物体表面に残される工具痕)とに区別するようになってきたからである。撃針痕の多くは、雷管表面に対して撃針がほぼ垂直に作用して残される圧痕(Impressions)であり、Firing pin impressionの方が的確な表現とされたのである。

 一方Markingsの用語は、銃器鑑識の世界では銃器の製造所刻印のような標識の意味があるものに対して用いる傾向が強くなった。
Firing Pin Impression
撃針擦過痕
げきしんさっかこん

打ち殻薬きょうが薬室から排出される過程で、突出している撃針によって撃針痕の周辺に付けられる擦過痕。

打ち殻薬きょうに撃針擦過痕が付けられる拳銃としては、スライドと銃身との結合が銃身の後部が沈降することによって解除されるブローニング方式のショート・リコイル作動方式の自動装填式拳銃が挙げられ、コルトM1911A1、トカレフ、グロックなどの銃種が代表的なものである。この場合、撃針擦過痕は撃針痕の上方向に付けられる。

 撃針擦過痕が付けられるということは、銃身後部が下降を開始した時点で未だ撃針が撃針口から突出しているということであり、これは必ずしも好ましい状況ではない。実際、グロックのように新品のうちから撃針擦過痕が付けられてしまう例もあるが、コルトやトカレフでは拳銃が新品のうちは撃針痕周辺に撃針擦過痕は現れにくく、使い込まれたり、古くなった拳銃で現れやすくなる。撃針バネの劣化や撃針周囲への異物の堆積等によって、撃針の作動抵抗が増加することが、この痕跡出現の理由の一つであろう。

 銃身後端部の下降は、弾丸が銃口を離れた後に開始されるとされている。使い込まれた拳銃では、銃腔の焼食摩耗が生じており、これによって弾丸初速は新品時より低下する傾向にある。初速低下は、弾丸の銃腔内の滞在時間の増大を意味するから、銃身後端部の下降開始は新品の時よりむしろ遅延するものと考えられ、それだけ撃針が戻る時間的余裕は増大しているはずである。

 撃鉄の戻りが悪いスイングアウト式の回転弾倉式拳銃で、排きょうするために弾倉を開く際に撃針先端による擦過痕が雷管からきょう体底部にまで残されることがある。これも撃針による擦過痕には違いない。この痕は湾曲したものである点が自動装填式拳銃の撃針擦過痕とは異なる。

 英語ではFiring Pin Drag Marksである。古典のテキストにはこの語は出てこない。擦過痕であることから痕跡にMarksの語が使われている。
Firing Pin Drag Marks
撃鉄
げきてつ

撃針を前進させ、雷管を打撃させる部品。撃針と撃鉄とが一体となっている場合にも部品名称は撃鉄で、直接雷管を打撃する部分を撃鉄の撃針部分、撃鉄先端等と呼ぶことがある。旧JIS B9804散弾銃及びS7102散弾銃では、この部分も形状によっては撃茎というと記載されていたが、撃茎の定義はもう少し狭くした方が良いと思われる。

英語ではHammerで、撃鉄の撃針部分はHammer Noseという。

 撃鉄が撃針を打撃する機構となっている銃器は、撃茎発射式の銃より安全性が高い。回転弾倉式拳銃で撃鉄が撃針を打撃する形式の場合には、打撃される撃針を間接打撃撃針と呼ぶことがある。

NRAのFirearm Fact Bookには、英国ではHammerの代わりにTumblerが用いられると記載されている。実際、撃鉄内蔵型(hammerless)の散弾銃の撃鉄をTumblerと呼び、この撃鉄先端の撃針部分をStrikerと呼んでいる例がGreenerの本に見られる。一方、Greenerの本の7章は「Hammerless Gun」であり、英国でもHammerという用語が以前から一般的であったことがうかがわれる。

フリントロックでは、燧石を挟んでいる撃鉄に類似した形態をしている部品はHammerとは呼ばれず、Cockと呼ばれていた。日本語でこれに対応する用語は鶏頭である。現在Cockという用語は、名詞ではなく動詞として撃鉄を引き起こす動作として用いられることが多い。フリントロックではAnvil(当て金)とも呼ばれる板状の部品がHammerと呼ばれていた。
Hammer
減起縁型薬きょう
げんきえんがたやっきょう

きょう底の起縁の外径が抽筒溝近傍のきょう体外径より小さい薬きょうをいう。けん銃用では、口径0.41インチと口径0.50インチのアクション・エクスプレスの薬きょうがこの形式に該当する。 Rebated-rim Case
Reduced Head
減起縁ベルト付き薬きょう
げんきえんべるとつきやっきょう

ベルト付き薬きょうに似ているが、薬きょう底部の起縁外径がきょう体底部のベルト部の外径より細くなっている薬きょう。

主に、威力の大きなマグナム型のライフル銃用実包に用いられている薬きょうの形式。減起縁ベルト付き薬きょうを発射する銃器では、ベルト付き薬きょうを発射銃する銃器と同様で、薬室内に薬きょうのベルト部前端を支える段差がりあり、この部分が薬きょうを支えることによって撃針の打撃力を受け止める。したがって、減起縁ベルト付き薬きょうの実包を用いる銃器では、この薬室内段差部から砲底面あるいは遊底頭面、閉塞壁面などとの距離がヘッドスペースとなる。
Rebated Belted Case
拳銃実包
けんじゅうじっぽう

拳銃に使用される実包の所持規制の強化にともない、平成7年の銃砲刀剣類所持等取締法改正時に盛り込まれた語。

銃砲刀剣類所持等取締法第三条の三に、「実包のうちけん銃に使用できるものとして内閣府令で定めるもの」と定義されており、銃砲刀剣類所持等取締法施行規則第三条の三には「一薬きょうの長さが41.0mm以下であること、二薬きょうに係るきょう体の最大外径が15.0mm以下であること、のいずれにも該当するもの」と定義されている。
Pistol and Revolver Cartridge
拳銃用雷管
けんじゅうようらいかん

拳銃に使用する実包に用いる雷管。小型と大型に分かれ、それぞれに標準型とマグナム型とがある。

ライフル銃用雷管と比較して雷管体の金属の板厚が薄く、ライフル銃用雷管より打撃力の弱い撃針でも点火可能である。マグナム型雷管は標準型雷管と比較して点火時に発生する炎が強い。拳銃用のマグナム型雷管は、拳銃用の標準型雷管とライフ銃用の標準型雷管の中間の強さである。

弾丸の命中精度を保つためには、弾丸発射時に発生する腔圧の変動が少ないことが要請される。雷管が点火された際に発生する火炎が弱いと、発射薬の一斉燃焼が生じず、発生腔圧が発射ごとに変動してしまい、命中精度が低下する。拳銃のマグナム実包に使用される球状無煙火薬は、柱状無煙火薬やフレーク状無煙火薬と比較して火付きが悪いことから、発射薬の一斉点火と燃焼を生じさせるには、強い火炎を発生するマグナム型雷管が必要である。

このような要求に応えて、米国のCCI社が最初に拳銃用のマグナム型雷管を販売した。マグナム型雷管を使用した場合の効果は、低温時の射撃時に大きい。また、薬きょう内に火薬が密に装填されている場合にも効果が大きい。

拳銃用でマグナムと名の付く実包では、マグナム型雷管が使用されている。マグナムの名称がないものでも、例えばレミントン社の38SPL+P実包ではマグナム型雷管が使用されている。

マグナム型雷管を使用しても命中精度向上効果は少ないとの不満がある一方で、マグナム型雷管が発射痕鑑識上に与える影響は小さくない。拳銃の打ち殻薬きょうの発射痕の異同識別において、雷管面に残される閉塞壁痕は重要な役割を果たす。標準型雷管に残される閉塞壁痕とマグナム型雷管に残される痕跡は、雷管体の硬さに違いから、その相違は大きい。一般的にマグナム型雷管に残される痕跡は浅い。マグナム型雷管がマグナム型実包に使用された場合では、発生する高い腔圧による吹き戻しによって閉塞壁痕が深く残されることがあるが、マグナム型雷管が使用された+P実包では、閉塞壁痕が浅く、標準型雷管に残される痕跡との相違が大きい。

Pistol Primer
工具
こうぐ

機械的力を利用して、作業効率を上げる道具。

工具痕鑑定の対象となる工具は、必ずしも製品の加工や製造に用いられる道具だけを指すわけではなく、互いに接触した二物体のうち、変形の少ない方を工具と考え、変形の大きい方を加工品と考える。一般的には表面が固い物体の方が変形が少なく、柔らかい物体の方が変形が大きくなる。

工具痕鑑定の一分野である発射痕鑑定では、銃身が工具となり、銃身を通過した弾丸が加工品となる。
Tool
工具痕
こうぐこん

工具によって加工された物体表面に残される加工工具に起因する痕跡。

工具が加工物表面にほぼ垂直に作用した場合に残される圧痕と、工具が加工物表面に平行に作用した場合に残される擦過痕とがある。

工具痕鑑定における工具と加工物は、製品の加工や製造の分野で考えられる工具と加工品には限定されず、すべての接触する物体に拡大して適用される。通常、接触した2物体のうち、硬くて変形の少ない物体を工具、やわらかくて変形の大きい物体が加工品とされる。

何度も使用される物体が工具で、消耗品あるいは接触が限定的な回数(通常1回)である物体が加工品ともいえる。運動する物体が工具で、静止物体が加工品であることも多いが、これには例外がある。たとえば、銃身に銃腔を加工する際には、ガンドリルが工具で銃身が加工品であるが、多くの場合でガンドリルは固定されていて動かず、銃身が回転させられる。

同一の工具によって残される工具痕は、工具の損耗が小さい範囲では類似性が高く、同一の工具によって残された工具痕であると結論可能であるというのが、工具痕鑑定の成立根拠である。
Tool Mark
口径
こうけい

1.腔旋銃身の銃腔径で、旋丘径の呼び寸法。

口径0.38インチの回転弾倉式拳銃というように使われる。あくまでも呼び寸法であり、口径0.38インチの回転弾倉式けん銃の実際の銃腔径は0.357インチに近い。

JIS S 7101(小口径銃の銃こう(腔)および薬室の寸法)では、銃こう(腔)の直径を代表する呼びをいう、と定義されていた。

AFTE Glossaryでは、「腔旋銃身の旋丘表面が形成する円の直径の近似値」と定義されている。

インチ系の口径表示は、銃腔径のインチの値の100倍あるいは1000倍の整数で示され、メートル系の表示では、整数あるいは小数点以下1~2桁のミリメートルの数字で示される。

2.弾丸の直径を示す呼び寸法
 口径9mmの弾丸等として使われる。この意味でのAFTE Glossaryの定義は少し分かりにくく、「実包の弾丸直径の呼び寸法を示すために実包名称に含まれる数字部分で、小数点を除いたもの」とされている。「小数点を除いたもの」としているのは、口径をインチ表示した実包を念頭にした話と思われる。

3.弾丸直径との比で表した弾丸長
 たとえば、3口径の弾丸とは、その長さが直径の3倍である弾丸を示す。

4.砲腔径との比で表した大砲の砲身長

 砲腔径10センチメートルで砲身長5メートルであれば、砲身長50口径の大砲と呼ばれる。

  散弾銃では銃腔径は通常「番」あるいは「番径」で表せられるが、JIS B 9804(散弾銃)では、口径が「砲底面から229mmの点で測った銃コウの直径をいう」、と定義されていた。

銃器の諸元を示す上で、口径を用いないことが増えている。たとえばジェーン年鑑では銃器の諸元表にcaliberという項目は立てておらず、cartridge、すなわち使用実包(適合実包)を掲げている。

旧日本軍では、「口径○○」と「○○口径」で、上記1、2の意味と3、4の意味での使い分けを行っていたという人がいる。英語でも、そのような使い分けを感じる場合もあるが、実際には使い分けが区別できないことが多く、内容からどちらの意味かを判断する必要がある。
caliber
硬質クロームメッキ銃身
こうしつくろーむめっきじゅうしん

銃腔に硬質クロームメッキが施されるいる銃身をいう。施条銃身では、腔旋の加工が終了した後に、銃腔に硬質クロームメッキを施す。

銃腔に硬質クロームメッキを施すことによって、腔旋の耐摩耗性が著しく向上する。銃腔の旋丘部分にはガンドリルやリーマーによる円周方向の工具痕が残されていることが多い。この工具痕は弾丸の進行方向に直角方向の線条痕であり、弾丸金属、特に鉛がこの線条痕の段差部位に食い込んでしまい、鉛の堆積と脱落が繰り返し発生することになり、それによって銃腔の摩耗が促進される。硬質クロームメッキを施すことによって、弾丸金属の付着を低減させるとともに、銃腔の耐摩耗性が格段に向上する。

一般の硬質クロームメッキのメッキ厚は5~100μあるいはそれ以上と幅があるが、銃腔へのメッキは20~40μ程度とされている。腔旋の加工においてこの厚さは決して薄いものとはいえない。銃腔径はメッキ厚の2倍減少することから、40μのメッキを施すと銃腔径は0.08mm減少する。この場合、たとえば7.62mmの銃腔径は7.54mmになってしまう。当然、メッキ層の厚さを考慮して腔旋の加工を行う必要がある。

仕上げ加工リーマーを通した銃腔に残される工具痕の深さは5μ以下であり、最低厚のメッキを施した場合でも工具痕は完全にメッキ層で埋められる。そのため、発射弾丸に残される発射痕に、銃腔あるいは腔旋を加工した工具によって残される工具痕による影響が現れることはない。

Chrome Lined Barrel
腔旋
こうせん

発射弾丸に回転運動を与えるために銃腔に付けられたらせん状の溝

英語のライフリングがそのまま用いられることも多い。日本ではライフルという語もこの意味で用いられることがあるが、英語のrifleは、ライフル銃を示す語とされており、誤訳とされている。

ライフリングを腔旋とする根拠は、
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銃砲刀剣類所持等取締法
(昭和三十三年三月十日法律第六号)
(猟銃及び空気銃の許可の基準の特例)
第五条の二
4  都道府県公安委員会は、第四条第一項第一号の規定による許可の申請に係る猟銃がライフル銃(銃腔に腔旋を有する猟銃で腔旋を有する部分が銃腔の長さの半分をこえるものをいう。以下同じ。)である場合には、当該ライフル銃の所持の許可を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する者でなければ、許可をしてはならない。
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に登場するライフル銃の定義の部分に表れている腔旋がライフリングの意味だからである。

腔旋は、こうせんと読む。読みが同じこうせんである語には、腔線、腔綫があり、1980年代までは、腔綫を使う者も多かった。綫の字が常用漢字ではないことから、その代りに腔線が使われるようになった。綫も線も意味するところはすじである。よって、腔線も腔綫も、銃腔に刻まれたすじを意味している。一方腔旋は、ライフリングが、銃腔内で回転しているらせん状のすじであることを重視した用語となっている。
Rifling
腔旋角
こうせんかく

腔旋の回転角度。

腔旋の加工図面では、通常腔旋ピッチが指定されており、腔旋角は指定されていない。腔旋角は、腔旋ピッチと口径を用いて計算上得られる値である。回転量を銃身で測定する器具としてヘリクソメーター(helixometer)がある。

発射痕鑑定では、発射弾丸から腔旋ピッチを測定することは困難で、測定が比較的容易な腔旋痕角を測定し、その値が腔旋角に相当するものと推定している。

英語のAngle of Riflingはハッチャーのテキストにしっかりと定義されているのだが(タイトルではAngle of the Rifling)、最近ではあまり使われておらず、AFTE Glossaryにも取り上げられていない。

Twistは指しているものが曖昧な用語であるため、鑑識分野では腔旋角を示す時は、Angle of Twistが使用されることが多いのだが、これもAFTE Glossaryには取り上げられていない。
Angle of Rifling
Angle of Twist
腔旋加工法と固有発射痕
こうせんかこうほうとこゆうはっしゃこん

発射弾丸に付けられる腔旋痕は、発射銃器の腔旋形状を反映したものである。一方、発射銃器の腔旋形状は、腔旋加工工具や加工法を反映した形状となっている。多くの加工工程を重ねて丁寧に仕上げられた腔旋では、完成品の表面に特定の工具の影響が現れにくい。また、最終工程に硬質クロームメッキが行われている場合は、加工工具工具痕の特徴が発射弾丸に残されることはない。発射弾丸の腔旋痕は、弾丸を発射するにしたがって腔旋に生じる表面形状の変化を反映した形状となっている。一方、単一のカッターで加工された腔旋では、そのカッターに特有な工具痕が残される。

ボタンの1回通しで加工された腔旋も、ボタンの形状を反映したものとなる。ただし、同一寸法のボタンによって加工された腔旋であっても、ボタンを通す銃身の材質や内径が異なっていたり、ボタンを通す速度や潤滑条件が異なっていれば、出来上がった腔旋の形状は異なったものとなる。

ボタンは高価な工具ではあるが、耐摩耗性の高い超硬合金製であることから、多数の銃身腔旋の加工が可能である。ボタン加工法が一般的になって来て、密造拳銃にも腔旋が付けられるようになった。密造業者の使用しているボタンの外観は大手のメーカーが使用しているものと変わりはないが、それを用いた加工法が荒っぽいものであることから、発射弾丸には、いかにも密造拳銃の発射痕といったものしか残されない。そして、それぞれの腔旋の形状の変化も大きく、発射痕形状も大きく異なったものとなる。

Rifling Method and Individual Markings
腔旋起部
こうせんきぶ

腔旋銃身の銃腔の薬室側の端部にある、腔旋が開始する部分をいう。腔旋基部、起綫部、圧入斜面という用語もある。回転弾倉式拳銃の銃身では、弾丸が無理なく腔旋とかみ合いを開始できるように、この部分にはテーパー状の加工が施されていることが多い。そのため、この部分が円錐状となっており、弾丸を腔旋に食い込ませる意味を含めて、英語ではForcing Coneの名称がある。その意味を汲んだ用語が圧入斜面である。

発射痕の鑑定では、スキッド痕やミスアライメント痕が腔旋起部付近に由来する痕跡であることから、この部分は重要である。一方、腔旋起部は、常に斜面になっているとは限らず、薬室先端と腔旋起部との距離がほとんどない自動装填式拳銃の銃身や廉価なあるいは密造系の回転弾倉式拳銃の銃身ではForcing cornの加工が省略されていることが多い。圧入射面が存在しなくても腔旋起部は存在し、その部分で発射弾丸に付けられる痕跡が重要である点に変わりはない。

腔旋起部が斜面となっている場合、その斜面の開始部(銃尾側)を始旋部(始綫部)、斜面の終了部(銃口側)を起旋部(起綫部)と分けて呼んでいる業界もある。
Forcing Cone
腔旋痕
こうせんこん

発射銃器の腔旋が発射弾丸に付ける(残す)痕跡。

ライフリング・マーク、ライフル・マーク、ライフル痕という用語が用いられることもある。

AFTE Glossaryには、これに対応する語であるRifling Marksは用語として掲げられているが、定義は、Bullet Engravingを参照せよとしている。

Bullet Engravingの定義はThe rifling impression on a fired bullet. であり、直訳すれば、発射弾丸上のライフリング痕となる。

ライフリングの日本語は現在腔旋が一般的であり、ライフリング痕は腔旋痕となる。

業界によっては、腔線痕が用いられており、過去の専門家はもっぱら腔綫痕を使用してきた。
Rifling Marks
腔旋痕深さ
こうせんこんふかさ

発射弾丸の腔旋痕旋丘痕旋底痕との段差。

弾丸径が適切な鉛弾丸では、腔旋痕深さ腔旋深さと同等な場合があるが、一般には腔旋痕深さ腔旋深さより浅い。特に、旋丘痕エッジ部で測定した被甲弾丸腔旋痕深さは、腔旋深さの半分程度のことも多い。一方、被甲弾丸旋丘痕の中央部はへこんでいることがあり、旋底痕の中央部分と旋丘痕の中央部分との径との差から計算される腔旋痕深さは、腔旋深さより深いこともある。

発射弾丸の腔旋痕深さは、その弾丸が通過した銃身腔旋深さを推定する上での手がかりであるが、弾丸径と推定される発射銃器の口径を加味してその深さを推定する必要がある。発射弾丸の腔旋痕深さが浅い場合に、腔旋深さが浅いのか、発射弾丸の弾丸径が細い(適合口径より小さな口径の弾丸が発射された)のかは、腔旋痕の形状、あれば打ち殻薬きょうの種類とその発射痕跡などを参考に結論を導くことになる。
Depth of Rifling Marks
腔旋銃身
こうせんじゅうしん

銃腔~腔旋が刻まれている銃身施旋銃身施条銃身とも呼ばれる。 Rifled Barrel
腔旋の数
こうせんのかず

腔旋の条数に同じ。

旧JIS S 7101 「小口径銃の銃腔および薬室の寸法」の表1では、「山または谷の数をいう」と定義されていた。正確には腔旋の山または腔旋の谷の数をいうとすべきであったろう。

ところで、腔旋数5とか、腔旋数6と数えることもある一方、5条の腔旋、6条の腔旋と数えることも多い。この場合、腔旋の条数とする。旧JISでは、腔旋の数に相当する英語としてNumber of riflingを掲げているが、そのような英語を目にすることはほとんどない。
Number of Rifling
腔旋の語の由来
こうせんのごのゆらい

昭和四六年四月二〇日の法律第四八号の銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律によって、ライフル銃の所持規制が強化され、それにともない法第五条の二の中でライフル銃が定義された。これより少し前の昭和43年8月1日に制定されたJIS S 7101「小口径銃の銃こう(腔)および薬室の寸法」の中に、こう(腔)旋の用語が、「弾丸に回転をあたえる目的で銃こう(腔)面に設けられたらせん状のみぞをいう。」として定義されている。ここでは、参考として英語がRifleと示してある。

このJISの用語の解説をそのまま下記に引用する。
こう(腔)旋について 旧陸軍が「こう(腔)旋」といい、旧海軍が「施条」といっていたものが「rifle」である。しかしながら、「rifle」という言葉は欧米ではあまりにも普及してしまって、「こう旋のある銃」および軍用「小銃」のことをもいうようになっている。したがって「ライフル」とは、「こう旋」のことをいう場合もあり「ライフル銃」のことをいう場合もあって、「こう旋」は「rifle」であるが、「rifle」は必ずしも、「こう旋」ではない。

このJISの定義を受けて、昭和46年の銃砲刀剣類所持等取締法のライフル銃の定義の中に腔旋の用語が用いられたことと関連があるだろう。
Rifling
腔旋の条数
こうせんのじょうすう

腔旋の溝の本数を示す。

腔旋の本数は5本、6本と数えずに、5条、6条と数えることが多いので、腔旋の本数とせずに腔旋の条数とした。

これに相当する英語はNumber of grooveで腔旋のうち旋底の条数を数えることになっている。
Number of Groove
腔旋の谷
こうせんのたに

腔旋の凹部を示す用語として、わが国で古くから使われてきたもの。

現在の発射痕鑑定用語としては旋底が用いられている。

旋底を指す用語として「腔旋の谷」を用いたときは、旋丘としては「腔旋の山」が用いられる。

旧JIS S 7101 「小口径銃の銃腔および薬室の寸法」の用語の意味を定義した表1に掲載されている。単に谷と言うこともあるが、さすがに谷という言葉は地形の谷を意味することが普通であることから、「腔旋の谷」と遠慮したものと思われる。
Groove
腔旋の山
こうせんのやま

腔旋の凸部を示す用語として、わが国で古くから使われてきたもの。

現在の発射痕鑑定用語としては旋丘が用いられている。

旋丘を指す用語に「腔旋の山」を用いたときは、旋底としては「腔旋の谷」が用いられる。

旧JIS S 7101 「小口径銃の銃腔および薬室の寸法」の用語の意味を定義した表1に掲載されている。単に山と言うこともあるが、さすがに山という言葉は地形の山を意味することが普通であることから、「腔旋の山」と遠慮したものと思われる。
Land
腔旋深さ
こうせんふかさ

銃腔に刻まれた腔旋旋丘旋底との間にある段差をいう。

旋底径から旋丘径を引いた値の半分に相当する。

拳銃ライフル銃などの小火器の腔旋深さの基準値は0.1mmである。

拳銃鉛弾丸に残される腔旋痕ドライブエッジの段差は、腔旋深さと同等であることが多い。一方、被甲弾丸に残される腔旋痕ドライブエッジの段差は、腔旋深さより浅いことが多い。

腔旋弾丸発射を繰り返すと、そのエッジ部から損耗が進行するため、発射弾丸の腔旋痕のエッジの段差と腔旋深さとの対応は次第に失われる。
Depth of Rifling
腔旋ブローチ
こうせんぶろーち

銃腔に腔旋を加工する棒状の工具で、少しずつ径が太くなった切削刃が連なっており、その刃は銃腔の断面と対応した形状となっており、1~3本のブローチを引くだけで、腔旋の加工を行うことができる。

腔旋ブローチは40~60cm程度の長さで、1本の腔旋ブローチに25枚から30枚の切削刃が、腔旋の回転角に相当するねじれを伴って連なっている。良質の腔旋を切削するブローチでは、連なっている各刃の径が1.25ミクロン(0.0005インチ)ずつ太くなっており、この差はスクレイプ・カッターやフック・カッターが1回で切削する削り代と同等である。そのため、25枚程度の刃が連なっているブローチで0.1mmの深さの腔旋を加工するためには、3本の径が異なるブローチを用意する必要がある。この場合、切削に使用する順に、1番ブローチから3番ブローチと呼ばれる。

なお、ブローチは腔旋の加工以外にも使用されるの切削工具一般の名称であるが、発射痕鑑定分野では腔旋ブローチを単にブローチということが多い。また、腔旋加工用のブローチのように、切削刃が連なっているブローチをギャング・ブローチという。

廉価な銃身の製造では、1本のブローチを1回通すだけで腔旋加工を終了させる。加工する銃身の口径や銃身長によって差もあるが、良質の腔旋加工では500~700本程度の銃身を加工するとブローチの刃の研ぎ直しが行われる。廉価な銃身製造用のブローチでは5,000本以上の銃身をブローチの手入れなしで製造する。場合によっては1万本の銃身を切削することもあるという。3本組のブローチでは、1番ブローチは摩耗すると廃棄され、2番ブローチは刃を研ぎ直して1番ブローチに、3番ブローチは同じく2番ブローチに使い回される。

ブローチで腔旋が削加工された銃身から発射された弾丸では、各旋底痕の間で発射痕の類似性は見られず、各旋底痕に異なるパターンの線条痕が残される。連続加工された銃身によって発射された弾丸の間では、各旋底痕の痕跡パターンが類似する傾向がある。ただし、これはあくまで旋底痕に見られる類似性で、旋丘痕にはこのような類似性が見られることは少ない。廉価な銃では、摩耗して刃の高さが減少したブローチが使用されることから、銃腔の旋丘部分にブローチの刃ではない部分が接触することがあり(旋丘への乗り上げ現象)、連続生産された銃身の旋丘にも再現性のある痕跡が残されることがあることが知られている。
Rifling Broach,
Broach,
Gang Broach
腔旋ボタン
こうせんぼたん

塑性加工によって銃腔に腔旋を加工する工具。

超硬合金で作られており、加工部本体は紡錘状をしている。腔旋ボタンを銃腔内に引き通して腔旋を加工する場合は、長い竿が溶接されている腔旋ボタンを使用する。腔旋ボタンを銃腔内に押し通す場合は、竿の付いていないボタンを押し棒で押すことによって加工することもある。

腔旋ボタンは紡錘状の本体部分に腔旋のオス型が加工されている。本体部分のみの腔旋ボタンもあるが、本体の前部にパイロットと呼ばれる円柱状部分があり、後部にスムーザーと呼ばれる円柱部が続いているものもある。銃腔内を引き通す腔旋ボタンでは、ボタン本体部のみのものが多い。

パイロットは銃腔径よりわずかに細い円柱状で、腔旋ボタンが押し通される際にボタンの銃腔内での位置を正す役目を果たす。ボタンの本体部分は、紡錘状で最大径は目的とする銃腔の旋底径よりわずかに太くなっている。ボタンが銃腔内を通過すると、銃腔の旋底が塑性加工されるが、ボタンの通過後若干の塑性回復が生じるので、その分ボタンの径が目的とする旋底径より太くなっている。スムーザーは、紡錘形をしており、その最大径が銃腔径となっている。スムーザーによって、ボタン通過後の銃腔形状が整えられる。特に、旋丘のエッジ部に生じることのあるバリ状の突起を整形する。

腔旋ボタンは表面が滑らかな工具であり、切削加工ではなく塑性加工によって腔旋を仕上げるため、バニシ仕上げ同様、旋底表面を極めて滑らかな鏡面状とする。その結果、銃腔の耐摩耗性や耐腐食性が向上するという利点がある。その一方で、銃腔に残留応力が発生し、弾丸発射に伴う銃身の温度上昇によって残留応力が解放され、銃身に変形が生じるという欠点がある。その結果、命中精度が低下(グループが拡大)することから、精密射撃を行う銃身ではボタン加工は行われない。
Rifle Button
腔旋ピッチ
こうせんピッチ

腔旋が1回転する間に進む距離。 腔旋ピッチは1回転16インチ、あるいは1回転長16インチのように表現される。 Rate of Twist,
Rifling Pitch
腔旋棒
こうせんぼう

腔旋加工に使用される棒状の工具。その中央部にある加工ヘッド内部にスクレイプ・カッターあるいはフック・カッターを挿入し、銃腔の腔旋の切削加工に使用する。

腔旋棒の直径は、腔旋を加工する銃身の銃腔径よりわずかに細い。腔旋棒を銃腔内で前後させることによって、腔旋を少しずつ切削加工する。

腔旋棒の中央にある加工ヘッドと呼ばれる部分には、腔旋加工刃が顔を出す開口部が開けられている。スクレイプ・カッターで用いる腔旋棒では、加工ヘッドの対向する2箇所に窓が開いており、フック・カッターで用いる腔旋棒では片側1箇所に窓が開いている。

加工ヘッドには、背中合わせにした2枚のスクレイプ・カッターが挿入されるか、1本のフック・カッターが挿入される。スクレイプ・カッターでは2枚の刃の間に、フック・カッターでは刃の背中と腔旋棒の内面との間にシムという楔状の工具が差し込まれる。腔旋棒の一端にはシムの押し棒がねじ込まれており、この押し棒をねじ込むことでシムは押し込まれ、カッターの突出量が調整できる。

スクレイプ・カッターは両引きのため、シムが差し込まれている側と反対側は腔旋棒の中で固定されている。フック・カッターは片引きのため、カッターの一端にはシムが差し込まれ、他端はコイルスプリングを介して押されている。そのため、腔旋棒を引くときは、フック・カッターには楔が食い込む側に力が作用することから腔旋の切削が行われ、腔旋棒を押すときは、楔が外れる側に力が作用してカッターは銃腔に強く接触しない。

腔旋加工棒ともいう。英語ではRifling Barであるが、Cutting Boxということもある。
Rifling Bar,
Cutting Box
固有特徴
こゆうとくちょう

工具の形状特徴のうち、工具の製造時にその形状や寸法を管理できない微細な特徴。工具が製造された後、その輸送、使用、誤用、手入れや修理、保管の過程で生じた形状変化に基づく特徴。その形状変化には、破損や腐食による変化も含まれる。同一型式の異なる工具によって付けられた工具痕の間で、使用された工具の違いを識別できる形状特徴。

工具の固有特徴は、ある時点での形状特徴であり、時間の経過とともに常に変化し、不変なものではない。同一型式の2本の工具の間に、それを識別できる固有特徴があったとしても、それら2本の工具を使用して付けられた工具痕に、使用された工具を識別可能な特徴が常に残されるとは限らない。
Individual Characteristics
先絞り型薬きょう
さきしぼりがたやっきょう

薬きょうのきょう口部が円筒部と比較して細くなっている薬きょう。

威力の高い(初速の速い)弾丸を発射するためには、発射薬量を増加させる必要がある。円筒型やテーパー型の薬きょうを用いて発射薬量を増加させていくと、薬きょう長がどんどん長くなってしまう。一定の限度を超えて薬きょうが長くなると、実包の装填と排きょうのストロークが長くなり、銃の操作性が低下するとともに、火薬の燃焼効率が低下する。薬きょうを適度の長さに抑えながら、十分な発射薬量を確保し、発射薬を効果的に燃焼させるために、円筒部を太くした薬きょうが先絞り型薬きょうである。

現在のライフル銃の実包の大半が先絞り型薬きょうを採用している。拳銃用実包で使用されることは少なく、モーゼル、トカレフ、南部などの古い実包でのみ見られる傾向が強いが、最近でも357Sigが先絞り型を採用している。

Bottleneck Cartridge Case
擦過痕
さっかこん

工具が、物体にほぼ平行に作用し、あるいは移動した場合に、その工具によって物体に残される痕跡。通常顕微鏡で観察しないと分からない程度に微細な凹凸のある、平行状の痕跡が並んで付けられている。型式特徴固有特徴を兼ね備えるか、そのどちらかの特徴が残されている。

線条痕という用語も用いられる。痕跡の形状に着目した用語が線条痕で、痕跡の生成過程に着目した用語が擦過痕である。
Scratch Mark
仕上げ加工リーマー
しあげかこうりーまー

荒削りリーマーで加工した銃腔に通す加工工具で、銃腔の寸法を最終的に調整し、銃腔面をさらに滑らかに仕上げる。

仕上げ加工リーマーによる削り代はわずかであるが、最終段階に行われる切削加工であり、銃腔に残される工具痕の最終形状に与える影響は少なくない。
Finishing Reamer
シェイブ痕
シェイブこん

回転弾倉式けん銃で弾倉と銃腔との軸ずれが過大となり、発射弾丸の頭部付近に極めて深く付けられたミスアライメント痕。弾丸頭部付近の一部が削ぎ取られたようになることからこの名前がある。この痕も、発射弾数が常識的な範囲内であれば再現性が高い。通常、中心角で60度から90度程度の範囲が削ぎ取られる。被甲弾丸では、被甲切れが生じることがある。

   この痕は、銃腔によって弾丸に付けられる損傷痕の1種ともいえる。そのため、発射弾丸が物体に衝突してできる損傷痕と紛らわしい点がある。たとえば、金属に浅い入射角で衝突して跳弾となった場合に弾丸頭部付近に付けられる痕の形状は、シェイブ痕と類似性がある。シェイブ痕の場合には、その痕跡から旋丘痕、旋底痕につながる間の形状に連続性があること、線条痕の粗さが互いに類似していることや、痕跡が付けられている部分の表面の曲率等から区別する。

 英語ではShaving Marksであることから「削ぎ取り痕」としてもよいのだが、シェイブ痕と名付けた。カタカナにする際、ingを省くという原則を用いている。
Shaving Marks
実包
じっぽう

弾丸を発射するために銃器に装填し使用されるもので、雷管が付けられた薬きょうに、発射薬を充填し、弾丸を取り付けたもの。

英語のCartridgeは1個の実包をいい、ammunitionは1個の実包を指すこともあれば、それらをまとめて箱に入れたりしたものを集合的に指す語としても用いられる。

 銃砲刀剣類所持等取締法では「けん銃実包」の語は多く出てくるが、一般的な「実包」の語は、第十条(所持の態様についての制限)で、「5  第四条又は第六条の規定による許可を受けた者は、第二項各号のいずれかに該当する場合を除き、当該銃砲に実包、空包又は金属性弾丸を装てんしておいてはならない。」とした部分と、第十条の四(銃砲の保管)で、「3  前項に規定する設備に銃砲を保管するにあたつては、当該設備に、保管に係る銃砲に適合する実包、空包又は金属性弾丸を当該銃砲とともに保管してはならない。」とした部分に出てくる。

 第三十一条の三  の、「2  前項の違反行為をした者で、当該違反行為に係るけん銃等を、当該けん銃等に適合する実包又は当該けん銃等に適合する金属性弾丸及び火薬と共に携帯し、運搬し、又は保管したものは、三年以上の有期懲役に処する。 」の部分にも「実包」の語が出てくるが、これはけん銃実包のことを言っている。

 一方、武器等製造法では、第十九条の二(保管)の「2  前項の場合において、猟銃等製造事業者又は猟銃等販売事業者は、当該設備に、保管に係る猟銃等に適合する実包、空包又は金属性弾丸を当該猟銃等とともに保管してはならない。」の箇所に出てくるのみである。武器等製造法施行令と武器等製造法施行規則の銃弾が実包に相当する語である。
Cartridge,
Amminition
シム
しむ

スクレイプ・カッターやフック・カッターの削り代を調整するくさび状の工具。

シムを2枚のスクレイプ・カッターの間あるいはフック・カッターと加工ヘッド内壁の間に押し込むことによって、切削刃の突出量を調整する。この調整は腔旋棒の端部に取り付けたねじ込み式の棒で行う。
Shim
銃口
じゅうこう

銃身の一端で、弾丸散弾が発射されて空中に飛び出していく側の端部をいう。

銃身の前端部。

銃身の前端部には、消音装置や消炎装置が取り付けられることがあるが、これらの装置は銃身には含まれないことから、これらの装置の弾丸が飛び出す側の端部を銃口とは言わない。
Muzzle
銃腔
じゅうこう

銃身の内側に開けられた空間あるいはその空間表面をいい、薬室部分を含まない。

弾丸発射時に、弾丸が移動しながら加速される部分である。

銃腔に腔旋が刻まれた腔旋銃身と、腔旋のない滑腔銃身とがある。
Bore
銃口クラウン
じゅうこうくらうん

銃口部分の腔旋端部に施される種々の形状の面取り加工。

銃口部分の腔旋のわずかな変形や損傷が命中精度に大きく影響するため、損傷を受け易い腔旋端部を初めから削り落しておくことで、命中精度の劣化を防止するのが銃口クラウンを付ける理由である。

銃口部の腔旋に変形や損傷を一切与えないのであれば、銃口クラウンを付ける必要はなく、標的射撃用や狙撃用のライフル銃では銃口クラウンが加工されていないものがある。この場合、銃口部の腔旋が変形すると命中精度は劣化する。この種の銃の銃口では腔旋の端部に沈み込み加工(Countersink)を施すこともある。

単にクラウンとも呼ばれる。

命中精度に影響が生じるような銃腔の変化は、発射痕をも変化させるのが普通である。銃口付近の腔旋が変形すると、被甲弾丸の弾丸底部付近に残される旋丘痕は変化する。弾丸が銃口を飛び出す際に、最後に強い接触をする部分が変化するのがその原因である。命中精度が劣化した銃に対して、銃口クラウンの加工をやり直すことがある。この加工によっても被甲弾丸の弾丸底部付近に残される発射痕に影響を与える。
Muzzle Crown,
Barrel Crown,
Crown
銃腔径
じゅうこうけい

銃腔の太さを代表する値で、腔旋銃身では、通常旋丘径を示し、散弾銃では薬室の前方部分の銃身内径をいう。チョークの付いた部分の径は銃腔径ではない。

 腔旋銃身の製造において、鋼鉄棒にガンドリルで銃腔の下穴加工をした後、リーマで銃腔表面を出来る限り滑らかにするとともに、その径を目標の径に正確に合うように加工される。このようにして加工された銃腔の径が銃腔径で、通常口径の値に相当し、旋丘径にも相当する。その後、この銃腔に旋底が加工される。

 散弾銃の銃腔径は、JIS B 9804(散弾銃)で定義されている口径。「砲底面から229mmの点で測った銃コウの直径をいう」がこれに相当する。
Bore Diameter
蹴子
しゅうし

銃の薬室から、実包あるいは打ち殻薬きょうの排出を容易にするために、薬きょう底面を押し出す部品。

抽筒子は薬きょうを薬室から引きずり出すが、それだけでは実包や打ち殻薬きょうを排きょう口からうまく排出することはできない。薬きょう底面の一部を押し出すことによって、抽筒子を支点とした回転運動を薬きょうに与えることによって排きょう口から排出されるようにする必要がある。

そのために薬きょう底面の一部をこの部品が蹴り出すわけであり、これを蹴子と命名した先人はさすがである。ただ、抽筒子、蹴子など小型の部品を「子」と呼ぶのに慣れるのには時間がかかったような記憶もある。
Ejector
Ejector Block
蹴子痕
しゅうしこん

蹴子によって薬きょう底面に付けられる工具痕。

薬室に実包を一旦装填したが弾丸を発射せずにこれを排出した場合にも、蹴子痕は薬きょう底面に原理的には残されるが、打ち殻薬きょうに残される蹴子痕より浅い場合が多い。ただ、複数の蹴子痕様痕跡が薬きょう底面に残されている場合に、どれが弾丸発射時に付けられた蹴子痕であるかを、その痕跡だけから決定することは一般には困難である。

一方、弾丸を発射せずに排きょうした実包の雷管面には、撃針痕、撃針口痕、遊底頭痕は付けられない。このうち遊底頭痕は、弾丸発射時の薬室への薬きょうの装填方向を示す重要な手がかかりとなる。また、弾丸発射時に付けられた抽筒子痕は、その周囲の火薬の燃焼残渣による汚れで区別できることが多い。したがって、複数の蹴子痕様痕跡が認められある場合には、遊底頭痕と抽筒子痕の形状や位置を基に、弾丸発射時に付けられた蹴子痕がどれであるかを推定できる場合がある。ただし、この推定精度を上げるためには、各種の銃器の構造に精通していなければならない。現実には、蹴子痕様痕跡が単一である場合に、この痕跡と、抽筒子痕との位置関係や遊底頭痕と撃針痕の形状を手掛かりにして発射銃種を推定する場合が多い。

銃器の中には、スコーピオンのように蹴子痕が2箇所に付けられる銃種もある。また、中心打ち式薬きょうの雷管部分にまで蹴子痕がかかる場合もある。一方、ワルサーPP型にあるような装填指示器(ローディングインジケーター)は、蹴子痕類似痕跡を薬きょう底面に残すことがある。撃茎打撃式(ストライカー式)の小型自動装填式拳銃では、突出した撃針が打ち殻薬きょうを蹴り出す役割を果たすことから蹴子が存在しないものがあり、この場合には蹴子痕は残されない。これらの拳銃では、蹴子の代役を果たす撃針が薬きょう底面に蹴子痕様痕跡を残すことは稀である。
Ejector Marks
Ejector Rod Marks
銃身
じゅうしん

銃器の部品で、中央部に弾丸が通過する空間のある筒状のもの。

このような定義では、パイプ状の部品はすべて銃身となりかねない。拳銃の銃身は、銃砲刀剣類所持等取締法 第三条の二により、その所持が禁止されており、違反すると三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処せられる。

材質を鋼鉄製に限るとの条件を付ければ、アルミニウムやプラスチック等のパイプが銃身とされる危険は減少するが、拳銃によっては銃身に鋼鉄以外の材質を用いているものもある。

筒の内面に腔旋が刻まれている鋼鉄製のパイプとすれば、銃器の銃身以外のパイプが該当する可能性は極めて低くなるが、拳銃の銃身と拳銃以外の銃器の銃身との区別をどうするかの問題が残る。

拳銃は、片手で操作できる小型の銃器とする簡単な定義がある。命中精度を上げるためには両手把持をするとお反論を受けるが、手のひらで銃把のみを保持し、肩付けせずに射撃する小型の銃器とすればよいであろうか。小型とは銃身長が20cm以下を基準とすればよいだろう。

それでは、全長が20cm程度以下の鋼鉄製のパイプで、その内面に腔旋のあるものは拳銃の銃身となり得るかというと、撃発機構が内蔵されている拳銃のフレームに固定できない限り、銃身としての役割は果たせない。それは銃身後端部に切られたオネジ、銃身後部横に設けられたピン穴、銃身後部に付けられたピン、銃身後部側面に刻まれた溝など、種々のものがあるが、このような加工が全く施されていないパイプは拳銃の銃身とはなりえない。

片手で操作できるためには、発射弾丸の威力にも制限があり、その口径は0.22インチから0.50インチの間になる。それぞれの口径に応じてパイプの肉厚もそれなりに必要となる。内径が5mmから12.5mmで厚肉の鋼鉄製の継ぎ目なしのパイプを入手するのはそれほど容易ではない。そうでなければ銃器メーカーが、ガンドリルを用いて手間をかけて銃身を加工する必要もない。

以上のように、適度な寸法、適切な材質、腔旋の有無、フレームへの固定機構の有無が拳銃の銃身に該当するか否かの判断基準となる。ただ、この基準をすべて満たさなければ拳銃の銃身としての機能がないかといえば否であることから、総合的な判断が必要となる。
Barrel
銃身ドリル
じゅうしんどりる

銃身に銃腔の下穴切削をする際に用いられるガンドリル

ライフル銃では、直径の100倍程度の深さの深穴を開ける能力が要求される。銃腔の下穴を加工する銃身ドリルは、深い切削位置から切り粉を排出させるため、ドリルの軸に沿って潤滑冷却油を圧力をかけて流すための穴が開けられている。切り粉を排出しやすいように、切削刃は螺旋状とはなっておらず、ドリルの断面形状は軸に沿って変化していない。切り粉が排出される空間は、ドリルの先端から後方までV字型に開いている。ドリルの先端部では、このV字型空間と対向する位置に、潤滑冷却油が噴出する穴が開いている。
Barrel Drill
銃身リーマー
じゅうしんりーまー

ガンドリルで加工した銃腔の下穴を仕上げる工具。

ガンドリルで加工された下穴は、いびつな形状をしており、銃身軸に沿って内径が変動している。リーマー加工によって銃腔径をそろえるとともに、表面を滑らかに仕上げる。銃腔の加工はリーマーによる仕上げ加工が前提とされているため、ガンドリルで開けられた下穴の径は、目的とする口径より0.13mm(5/1000インチ)程度細くなっている。

円筒状のリーマーが使用され、ガンドリルと同様、リーマーの軸に沿って、潤滑冷却剤を流す穴が開けられている。ガンドリルと異なり、銃身リーマーは軸対称の形状をしているため、この穴は軸心に開けられている。そのため、潤滑冷却剤を流している状態でも。リーマーを回転させることが可能で、通常はワーク(銃身)を固定し、リーマーを回転させて加工する。

荒削りリーマー、。仕上げ加工リーマー、。バニシ仕上げリーマーの3本を用いて銃腔を仕上げる。この3本を通すことによって、銃腔内径が均一になり、ガンドリルで加工した下穴に残される工具痕はすべて除去される。
Barrel Reamer
銃弾
じゅうだん

銃器に使用される実包をいう。

武器等製造法施行規則の第二条 二 イ に銃弾が掲げられている。同条 九 イには、「銃弾の弾丸」が掲げられており、弾丸が銃弾の一部品であることが分かる。

銃器議定書といわれる「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する銃器並びにその部品及び構成部品並びに弾薬の不正な製造及び取引の防止に関する議定書」の第3条 用語の(c)に、「弾薬」とは、銃器に用いられる完全な実包又はその構成部品(薬きょう、雷管、発射火薬、銃弾又は発射体を含む。)をいう。との記述がある。この銃弾は、明らかに銃器に使用する弾丸を指しているが、これまでの銃弾の語が銃器に使用する実包を指して用いられていたことからすると、矛盾した定義となっている。

日本の軍関係者は古くから銃弾の語でbulletではなくcartridgeを指してきたことから、武器等製造法で銃弾がcartridgeを指すことになったと思われる。銃器議定書は英語では"bullet"となっているものを銃弾と訳したわけだが、これは「弾丸」に訂正すべきと思われる。英辞郎でもbulletの訳語として「銃弾、弾丸」を掲げているが、これが世間一般の感覚であろう。
Cartridge
Ammunition of Firearm
銃尾
じゅうび

薬室一体型銃身の尾部。

英語のBreech(ブリーチ)に相当する語であり、薬室一体型銃身の後端部を意味する。銃器の尾部ではない。

回転弾倉式拳銃銃身には薬室がないことから、その銃身の尾部はブリーチではない。回転弾倉式拳銃では弾倉がブリーチに相当するが、回転弾倉をブリーチということはない。

ブリーチは、銃器で実包発射薬を装填する場所を意味しており、銃尾という言葉からその部分を思い浮かべる必要がある。
Breech
スキッド痕
スキッドこん

発射弾丸が銃腔に突入した直後に付けられる、腔旋角より角度の小さな発射痕。弾丸の回転開始時に付けられる痕跡で、弾丸が腔旋と十分かみ合っていないことから、腔旋角より角度の小さい線条痕となる。多くの場合で湾曲した線条痕となっている。

回転弾倉式拳銃の発射弾丸には顕著に現れるが、自動装填式拳銃の発射弾丸にも弾丸頭部付近には現れていることが多い。回転弾倉式けん銃では、弾丸が旋丘の開始部(起旋部)に接触するまでに直進する距離が長く、旋丘とかみ合う時にすでに速度が上昇していることから、滑りが多く発生するからである。自動装填式拳銃やライフル銃では、薬室のすぐ前方から腔旋が開始しており、滑り量は少ない。競技用ライフル銃では、実包を薬室に装填した際に、弾丸が腔旋と接触していることが、命中精度を上げる上で重要である。

英語ではSkid MarksでSlippageとも呼ばれる。

スキッドとは滑ることであり、弾丸が旋丘に沿って進まず、旋丘との間で滑りながら進むことからこの名前が付いている。タイヤのスキッド痕と同じで、ブレーキ痕の分野でスキッド痕が使われていたため、発射痕鑑識分野でも「滑り痕」とまで日本語化されなかった。

弾丸に付けられるスキッド痕が、銃腔の薬室付近によって付けられる痕跡であることを心得ておくことは、発射痕鑑定上きわめて重要である。

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 発射痕鑑定をかじった人の中に、スキッド痕を1次痕、旋丘痕を2次痕と呼ぶ人たちがいる。スキッド痕が弾丸に最初に付けられる痕で、旋丘痕がその次に付くことがその理由だが、銃腔内で付けられる痕を1次痕、弾丸が銃口を離れた後に付けられる痕を2次痕と呼ぶ人もいる。このような命名法を用いて旋丘痕を2次痕とすると、サイレンサー痕は3次痕、衝突痕は4次痕となるといった具合に数字がどんどん増加してしまい、その内容も分かりにくくなる。スキッド痕や旋丘痕という痕跡をうまく表現した用語があるのに、全くもったいないものである。
 2種類の地震波をP波、S波と呼ぶことになっているが、これは1次波(Primary)、2次波(Secondary)という意味で、縦波(縦振動・初期微動)、横波(横振動)という良い用語があるのにもったいない。スキッド痕をP痕、旋丘痕をS痕などと呼ぶ人が出てこないことを願う。用語は内容を伝えているものの方が良いというのが持論である。
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Skid Marks
スクレイプ・カッター
銃腔の腔旋加工工具の一つ。初期の腔旋加工に用いられたものだが、現在でも最高精度の腔旋の加工には使用されることがあるとされている。

スクレイプとは擦り取るという意味で、1度の切削量はわずかである。カッターの刃は切削面に対して直角方向であるが、刃は横幅方向に湾曲してねじれており、刃は切削移動方向に対して傾斜して当たる。スクレイプ・カッターは、銃腔内の往復の両方向で切削可能となっている。

腔旋加工に際して、2枚のスクレイプ・カッターを背中合わせにし、その間にあシムというくさびを挿入したものを、腔旋棒の加工ヘッド部に組み込む。加工ヘッドの対向する位置には開口窓があり、その窓から2枚のスクレイプ・カッターをわずかに突出させた腔旋加工棒を用いて腔旋を加工する。腔旋棒は、腔旋の回転角度に相当する回転をさせながら銃腔内を押し、引きされる。腔旋棒を銃腔内で1往復させたら、2枚のスクレイプ・カッターの間に挿入したシムが少量移動され、加工刃の突出量がわずかに増大する。スプリングフィールドM1903小銃では、0.1mmの深さの腔旋を加工するのに腔旋棒を80往復させたいう。したがって、1往復の切削量は1.25ミクロンとなる。これが最高品質の腔旋加工の削り代である。

4条の腔旋を加工する場合、腔旋加工棒を1往復させた後、腔旋加工棒を90度回転させて別の2条の腔旋を同時に切削してから、シムをを押しこむ。この工程を繰り返して、偶数条の腔旋を少しずつ目的の深さまで加工して行く。6条の腔旋では60度ずつ回転させて、加工を繰り返す。したがって、1条の旋底の加工に用いられるスクレイプ・カッターが交互に変化する。

スクレイプ・カッターで加工された腔旋の旋底には、すべての条で互いに類似した線条加工痕が残される傾向がある。その一方で、同一カッターで加工されたとしても、次に加工される銃身との間で、4条の腔旋でたとえば160回、6条の腔旋では240回もカッターの使用歴に差が生じるため、旋底に残される加工工具痕(線条痕)は変化している。すなわち、銃身ごとの加工痕跡の差異は、同一銃身の異なる旋底との間に見られる痕跡差異よりずっと大きい。

このことから、同一銃身で連続して発射した弾丸の、非対応旋底痕の間で見られる発射痕跡の類似性を上回る痕跡の類似性が、連続生産された異なる銃身による発射弾丸との間では認められないことが保障されている。

スクレイプ・カッターの中には、ねじれた刃が間隔を開けて2枚付けられたタンデム刃のものがある。2枚のスクレイプ・カッターの間にはさむくさびの効果で、削り代に差を出し、1回の切削で1枚刃の2回分の加工を行える。

廉価な銃では、20回から40回の腔旋棒の往復で腔旋を仕上げることから、粗い加工工具痕が旋底に残される傾向にあり、同一銃身の隣り合う旋底に類似性の高い工具痕が見られることがある。ただ、そのような加工を行うとカッターの刃の変化も大きく、連続生産された銃身に類似工具痕が残される可能性は低い。
Scrape Cutter,
Scrape Rifling Cutter
スムーザー(腔旋ボタンの)
押し込み型腔旋ボタンで、ボタン本体の後方に付けられた部分で、ボタンで加工された腔旋の平滑化処理を行う。主に腔旋のエッジ部に発生するバリを平滑化する。

紡錘状をしていて、最大径が旋丘径となっている。1本のボタンで腔旋を仕上げる場合に、ボタン本体の後部に接続されている。腔旋ボタンで腔旋を加工した後にバニシボタンを通す場合には、スムーザーが付けられていないボタンが使用される。

クリーン・アップと呼ばれることもある。
Smoother
滑り痕
すべりこん

スキッド痕と同義。 Slippage Marks
施条銃身
せじょうしゅうしん

銃腔腔旋が刻まれている銃身

腔旋銃身施旋銃身とも呼ばれる。
Rifled Barrel
施旋銃身
せせんじゅうしん

銃腔腔旋が刻まれている銃身

以前は施綫銃身と表記されたものであるが、腔綫を腔旋と表記するのに倣い、施旋銃身と表記した。 腔旋銃身施条銃身とも呼ばれる。
Rifled Barrel
接線オージャイブ
せっせんおーじゃいぶ

オージャイブの1種で、尖頭弾に用いられている回転体曲面

尖頭弾の弾軸を含む断面では、弾丸頭部は円弧となっており、弾丸の円筒部と円弧部の接続部では、円筒部が円弧の接線となっている。

接線オージャイブでは円弧の中心点が円筒部に立てた垂線上にあり、円弧の半径を定めるとその形状は決定される。接線オージャイブの形状は、円弧の半径が弾丸口径の何倍であるかによって、 たとえば6-Sのように示される。ここで6は口径の6倍を示し、大文字のSによって接線オージャイブであることが示されている。大文字のSはSpitzerを示し、接線の意味のTは用いない。

0.5-Sの接線オージャイブは0.5-Eの楕円オージャイブと同形となり、これより小さい接線オージャイブは存在しない。オージャイブ形状の小さな差異による弾丸の空力性能の変化は小さいことから、円弧の半径は通常口径の偶数倍が選ばれる。中でも、6-Sが高速ライフル銃弾の標準的な接線オージャイブとなっている。

接線オージャイブの弾丸頂部は、一般的にとがっているが、ソフトポイント弾では、通常頂部に丸みを持たせた半尖頭弾となっている。
Tangent Ogive,
Spitzer Ogive
セミ・ワッドカッター弾
せみ・わっどかったーだん

円錐台状の弾丸頭部と、弾丸円筒部との間に段差がある平頭弾。

頭部の平坦部の径は口径の半分以上ある。弾丸頭部と円筒部との間にある段差の肩の部分で、ワッドカッター弾と同様に標的紙に綺麗な円形の穴を開ける効果がある。ただし、セミ・ワッドカッター弾は標的射撃に用いるための弾丸ではない。

1935年にS&W社と共同でウインチェスター社が開発した、マグナム型実包の草分けの口径0.357インチ・S&Wマグナム型実包に使用された。その後1955年に、当時最強の拳銃弾として登場した口径0.44インチ・レミントン・マグナム型実包でも採用され、威力の大きな実包に使用される弾丸形状として知られるようになった。その後1964年には、0.41インチ・レミントン・マグナム型実包でも使用され、口径0.38インチ・スペシャル型実包でも一部で使用されている。

なお、レミントンの口径0.22インチ・ロングライフル型のイエロー・ジャケットの弾丸は、これと形状が類似しているが、Truncated Coneに分類されている。

平頭弾の特徴の貫通力を過大にせずに標的に大きなダメージを与えるという効果をさらに高めた形状と考えられる。薬きょうの中に目いっぱい発射薬を装てんし、弾丸重量を減少させずに弾丸長を短くするために弾丸頭部を切り詰めるとこのような形状の弾丸になるともいえる。ちなみに、口径0.357インチ・S&Wマグナム型実包の薬きょう長は、口径0.38インチ・スペシャル型実包の薬きょう長より0.13インチ(3.3mm)長いが、実包長の差はわずか1.0mmしかない。

鉛弾丸に特有な形状の弾丸である。被甲弾丸では、弾丸頭部と円筒部の間に直角の段差を付ける加工には無理があることから、これと類似した形状ではあるが円錐台頭となっている。

鉛弾丸を成型加工をする際に使用する型に無理な力を作用させないために、成型ダイの弾丸頭部と円筒部との間に段差を設ける必要があり、このような形状の弾丸が製造されているといわれる。

半ワッドカッター弾と呼ぶ人はいないようである。
Semi-Wadcutter Bullet
旋丘
せんきゅう

腔旋の凸部。以前は綫丘の語が用いられた。読みはおなじ「せんきゅう」である。線丘が用いられることもあるかも知れない。腔綫から腔旋へと用語が変更されたと同様の理由から、現在は旋丘の語が用いられる。この用語変更から、筋目への着目から、らせん状の筋目への着目が強調されている。

国内では、古くは山の語が用いられ、旧JISの用語解説にも山が採用されている。英語では、Landであり、日本の軍関係者が「山」と思うものは、英語を使用する人は「陸」と思うのだ。日本の警察関係者は「丘」と思うのだと解説する人もいた。

Landに関しては、英辞郎に的確な意味が掲載されている。
英辞郎によれば、名詞の4番目の意味として、「機械加工できずに残ってしまう、部分的に機械加工された表面の面積(部分)」が掲げられている。

銃身にガンドリルで銃腔の穴開け加工後、腔旋の加工がされる過程で、加工されずに残った部分が旋丘であり、加工されて溝となった部分が旋底である。加工されずに残っているから、Landなのであり、山や丘の語には、残された部分という意味が感じられない。

 フックカッターやブローチのような切削加工から塑性加工法であるボタン加工、電気化学腐食加工へとその加工法は変化しても、加工されずに残った部分が旋丘である点に変わりはない。ただし、冷間鍛造法によって加工された場合には、加工されずに残った部分という定義は当たらないかもしれない。
Land
旋丘径
せんきゅうけい

銃腔の旋丘と接する仮想円の直径。山径ともいう。 Land Diameter
旋丘痕
せんきゅうこん

発射弾丸が銃腔を通過する際、もっぱら銃腔の旋丘部分にあった弾丸の円筒部。旋底痕に挟まれた凹部。通常、銃腔の旋丘と強い接触をする。 Land Impression
旋丘痕径
せんきゅうこんけい

発射弾丸の弾丸径を測定する際に、測定されることのある値。

偶数条の腔旋痕の発射弾丸の外径を、ノギスのような両側から挟む測定器具で測定した際に、旋丘痕部分を挟んで測定すると得られる。奇数条の腔旋痕の発射弾丸の弾丸径をノギスなどで測定しても、
旋丘痕径は得られない。

弾丸径の測定値を範囲を持って示した場合に、その下限値となっている場合がある。

一方、鑑定物件の弾丸には変形があり、旋丘痕部分で測定した弾丸径の測定値が弾丸径の下限値とならないことも多い。こんな事情もあり、旋丘痕径と断って測定値を示すことはほとんどなく、これに相当する英語を見たこともない。ただし、変形の少ない発射弾丸の外径の測定値に変動がある場合、旋丘痕径旋底痕径による変動が生じていることが考えられる。
(Diameter of bullet measured at landmark)
旋丘痕幅
せんきゅうこんはば

発射弾丸に付けられる旋丘痕の幅をいう。

旋丘痕ドライブエッジからトレイルエッジまでの幅を、ドライブエッジと直角方向に計測する。ドライブエッジの斜面の底からトレイルエッジの斜面の底までの距離を測定する決まりである。ドライブエッジトレイルエッジの位置が分かりやすく、互いに平行であれば測定は容易である。

旋丘痕のエッジの斜面と旋丘痕の円筒部分との境界部が丸みを帯びている場合には、測定起点の選択が難しいことから、旋丘痕幅の測定は必ずしも容易でない。一般的にドライブエッジの段差は大きく、その位置が分かりやすいが、トレイルエッジの段差はそれより小さく、その位置が分かりにくいことがある。

ドライブエッジトレイルエッジとは、必ずしも平行でなく、弾丸底部方向から頭部方向に向けて角度が付いているいることがある。この場合、弾丸底部付近で測定した旋丘痕幅は弾丸頭部付近で測定した旋丘痕幅より狭くなる。

1個の弾丸に残される複数の旋丘痕の幅は、通常同等である。各旋丘痕の間で、その幅の差が大きいものは、発展途上国の銃器メーカーのものや、20世紀初期までの銃器に見られることがあり、腔旋痕の型式特徴となる。ただし、このようなばらついた幅の旋丘痕は、製造図面に示された特徴ではないので、厳密には型式特徴とは言えない。

銃腔旋丘幅とその銃身から発射された弾丸腔旋の旋丘痕幅は同等と考えられ、発射弾丸の旋丘痕幅の測定値から、その弾丸を発射した銃器の腔旋旋丘幅が推定される。

銃腔の摩耗が進行している場合には、旋丘痕のエッジ位置が分かりにくく、旋丘痕幅の信頼性の高い測定値を得ることは一般的に困難である。
Land Impression Width
旋丘幅
せんきゅうはば

腔旋銃身銃腔に刻まれた隣り合う2条の旋底の間の部分の幅。

発射痕鑑定では、発射弾丸の旋丘痕幅の測定値が銃腔旋丘幅と対応した値であると想定している。発射弾丸では旋底痕幅より旋丘痕幅の方が安定した測定値が得られることから、旋丘痕幅の測定に重きが置かれてきた。それに対応した旋丘幅は、銃腔の製造図面には指定されておらず、図面に示された旋底幅の値と銃腔径の値から算出される。その値は銃腔の垂直断面における値であり、旋丘痕の左右のエッジに直角方向に測定した旋丘痕幅の値との間には若干の相違がある。

エンフィールド型腔旋の場合、旋丘の断面は台形状をしているため、旋丘の表面が摩耗すると、それに応じて旋丘幅は拡大する。一方、旋底幅旋丘が摩耗しても変化しない。一見矛盾しているように思えるが、エンフィールド型腔旋では旋底幅は銃腔の半径方向で一定であり、銃腔径が拡大することによって延長される円周長の影響は旋丘幅のみが受ける。
Width of Land
線条痕
せんじょうこん

工具が、物体にほぼ平行に作用し、あるいは移動した場合に、その工具によって物体に残される痕跡。通常顕微鏡で観察しないと分からない程度に微細な凹凸のある、平行状の痕跡が並んで付けられている。型式特徴固有特徴を兼ね備えるか、そのどちらかの特徴が残されている。

擦過痕という語も用いられる。痕跡の形状に着目した用語が線条痕で、痕跡の生成過程に着目した用語が擦過痕である。
Striated Toolmark
旋底
せんてい

腔旋の凹部。

以前は綫底の語が用いられた。読みはおなじ「せんてい」である。線底が用いられることもあるかも知れない。

腔綫から腔旋へと用語が変更されたと同様の理由から、現在は旋底の語が用いられる。この用語変更によって、単なる筋目から、旋回しているらせん状の筋目へと着目点も変更されている。

国内では、古くはの語が用いられ、旧JISの用語解説にもが採用されている。英語では、Grooveであり、溝の意味合いである。

銃器関連分野では、溝を意味する語としては、キャネルア(cannelure)もある。
Groove
旋底径
せんていけい

銃腔旋底と接する仮想円の直径。谷径ともいう。 Groove Diameter
旋底痕
せんていこん

発射弾丸が銃腔を通過する際、もっぱら銃腔の旋底部分にあった弾丸の円筒部。旋丘痕に挟まれた凸部。弾丸の旋底痕は、必ずしも銃腔の旋底と接触するとは限らない。 Groove Impression
旋底痕幅
せんていこんはば

発射弾丸に付けられる旋底痕の幅をいう。ただ、旋底痕銃腔旋底と接触した部位ではなく、隣り合う旋丘痕に挟まれた部位とする。

測定対象となる旋底痕の両側にある旋丘痕のドライブエッジからトレイルエッジまでの幅を、ドライブエッジと直角方向に計測する。ドライブエッジの斜面の底からトレイルエッジの斜面の底までの距離を測定する決まりである。ドライブエッジとトレイルエッジの位置が分かりやすく、互いに平行であれば測定は容易である。

旋丘痕のトレイルエッジ付近の旋底痕表面には、旋丘痕スキッド痕が付けられている。特に腔旋痕角の大きな発射弾丸では、このスキッド痕が付けられている部分の幅が広い。このスキッド痕部分は旋底痕幅に含める。

旋丘痕が等間隔に配置されている形状の整った腔旋痕の場合、旋底痕幅は弾丸の円周の長さを腔旋の条数で除した値から旋丘痕幅を引くことによって概略値他求められる。概略値としたのは、旋丘痕幅と旋底痕幅はドライブエッジに直角に測定する決まりで、円周方向に測定しないことと、旋丘痕幅も旋底痕幅も直線距離を測定しており、円周に沿った長さを測定していないからである。ただし、その誤差は通常の腔旋痕角の場合で1%以下である(このように算出した旋底痕幅は通常0.1~1.0%程度広くなる)。

一方、口径の分かっている損傷弾丸で、腔旋痕条数を算出する際には、口径から算出される弾丸の円周長を、隣り合う旋丘痕旋底痕の幅の和で除してもとめることから 旋底痕幅を測定する必要がある。このような場合でも、隣り合う旋丘痕の間の中心角が測定可能な場合には、旋底痕幅を測定する必要はない。

 旋底痕幅の測定が敬遠されるのは、このような冗長性以外に、その測定が旋丘痕幅の測定より難しいことにある。その理由は、多くの場合で旋底痕幅は旋丘痕幅より広く、特に腔旋痕の条数が少ない場合は中心角が90度を超える円筒面の測定となる。そのため、観察倍率を下げる必要が生じたり、照明の陰となって分かりにくいエッジ位置の確認に手間がかかったりする。そして、変形していない試射弾丸では、旋丘痕幅から計算した値以上の測定結果は通常得られない。

他方、発射痕の検索作業を行う場合には、各旋丘痕旋底痕の幅が異なるグレードの低い腔旋痕の場合に、旋底痕幅を検索に用いることが効果的な場合がある。幅が極端に狭かったり広かったりする旋底痕をキーに検索すると、該当する対象を一気に絞り込めるからである。
Groove Impression Width
旋底痕径
せんていこんけい

発射弾丸の弾丸径を測定する際に、測定されることのある値。

偶数条の腔旋痕弾丸の外径を、ノギスのような両側から挟む測定器具で測定した際に、旋底痕部分を挟んで測定すると得られる。奇数条の腔旋痕の発射弾丸の弾丸径をノギスなどで測定しても、旋底痕径は得られない。

弾丸径の測定値を範囲を持って示した場合に、その上限値となっている場合がある。

一方、鑑定物件の弾丸には変形があり、旋底痕部分で測定した弾丸径の測定値が弾丸径の上限値とならないことも多い。こんな事情もあり、旋底痕径と断って測定値を示すことはほとんどなく、これに相当する英語を見たこともない。ただし、変形の少ない発射弾丸の外径の測定値に変動がある場合、旋丘痕径旋底痕径による変動が生じていることが考えられる。
Diameter of bullet measured at groove impression
旋底幅
せんていはば

腔旋銃身に刻まれた旋底の幅。

銃腔の製造図面にはこの幅の値が必ず指定されており、腔旋型式特徴となる。一方、旋丘幅は製造図面には表れない。

図面に示されている旋底幅は、銃腔軸に直角な断面における値である。したがって、発射痕鑑定で発射弾丸で測定される腔旋痕のエッジに直角方向に測定される旋底痕幅より若干広い(腔旋の回転角をθとすると旋底幅は旋底痕幅のsec(θ)倍となる)が、その差は通常の腔旋角では1%に満たない。

エンフィールド型腔旋では、が摩耗しても旋底幅は変化しない。一方、銃腔が摩耗して銃腔径が拡大すると、旋丘幅は拡大する。

ハッチャーによれば、製品管理の基準がしっかりとしている軍用銃のM1903スプリンフリールド小銃で、旋底幅の寸法公差は-97/10000インチ~+3/10000インチ(-0.246mm~+0.008mm)で、これは銃腔径の寸法公差の-5/10000インチ~+15/10000インチ(-0.0127mm~+0.0381mm)よりかなり大きい。

発射痕鑑定の駆け出し時代に、同一型式の拳銃の旋丘痕幅の測定範囲が0.2mm(±0.1mm)であることを知った。エッジ位置の見極めが難しいことによる測定誤差とも考えられたが、製造公差がこの程度あったのだ。
With of Groove
尖頭弾
せんとうだん

弾丸頭部が尖った形状をしている弾丸。主にライフル銃用実包に持ちいられる弾丸形状。

黒色火薬の時代はライフル銃用の弾丸円頭弾であったが、無煙火薬が利用できるようになるとともに高初速の弾丸の発射が可能となり、空気抵抗を低減し低伸性の高い弾丸の利点が認識されるようになった。当時、高性能の無煙火薬の製造において抜きん出ていたドイツはいち早く、7.92mmモーゼル実包の弾丸円頭弾から尖頭弾に変更した。米国も1903年制式の.30-03は円頭弾であったが、これを急遽尖頭弾に変更した.30-06を1906年に制式採用し、その後これが第二次世界大戦までの標準軍用小銃実包となった。

現在、高初速のライフル銃用実包に用いられる弾丸の形状は尖頭弾が一般的である。

尖頭弾では、弾丸頭部曲面に接線オージャイブが使用されている。

円頭弾でも鉛弾丸では、弾丸頂部が丸くつぶれていることが多いように、尖頭のソフトポイント弾では、弾丸頭部に露出している鉛の弾芯は丸みを帯びているものが多い。この種のソフトポイント弾は、半尖頭弾(Semi-Spitzer)と呼ばれることがある。

7-S以上の接線オージャイブあるいは7-s以上の割線オージャイブの弾丸を尖頭弾とする定義もあるようだが、これは狭すぎる定義と考えられる。

英語ではSpitzerが用いられているが、これはこの種の弾丸を最初に導入した国の言語であるドイツ語から来ている。
Spitzer Bullet,
Sharp Point Bullet
装填痕
そうてんこん

実包を銃器に装填したり、実包あるいは打ち殻薬きょうを銃器から排出する際に、実包あるいは薬きょうに付けられる工具痕の総称。

自動式あるいは自動装填式銃器では、実包>を弾倉から薬室に送り込む際に、薬きょう底面の縁近くの部分が、遊底頭の角に押されるが、この際に残される痕跡は装填痕の代表的なものである。

銃身後部にある装填斜面(フィーディング・ランプ)と実包先端付近の弾丸頭部とが接触することで、弾丸頭部に残される擦過痕も装填痕と呼ぶことがある。

薬室痕実包薬室に装填される際に、薬室内面の凹凸によって、主に薬きょう円筒部に残される痕で、これも装填痕と呼ぶことがある。

弾倉マガジンリップによって薬きょう円筒部に残されるマガジンリップ痕装填痕と呼ばれることがある。

実包製造時に、弾丸薬きょうに取り付ける作業は、弾丸の装填作業とも呼ばれ、その際、薬きょうきょう口部にある凹凸によって弾丸円筒部線条痕が残されることが多いが、この線条痕装填痕と呼ぶこともある。

このように種類の異なる痕跡に対して用いられているため、単に装填痕といわれても、写真や図を示されないと、それを具体的にイメージすることが難しいことがある。
Feed Marks,
Mechanism Marks
ソフト・ポイント弾
そふとぽいんとだん

弾丸頂部に鉛の弾芯が露出している弾丸。通常弾丸底部方向から弾芯を被甲した後方被甲弾丸で用いられている形式である。

ソフトとは鉛を指しており、先端に軟鋼や超硬合金の弾芯が露出している弾丸はソフト・ポイント弾とは言わない。

ポイントとは尖ったという意味であり、ソフト・ポイントは、弾丸先端に尖った鉛の弾芯が露出している弾丸というのが本来の意味である。しかし、鉛の先端が尖ったもののみをソフト・ポイントとするのは狭い定義と思われる。先端が尖った鉛の弾芯が露出している弾丸には、ポインティッド・ソフト・ポイント(Pointed Soft Point)という用語があり、尖頭ソフト・ポイント弾丸と訳される。

これに対して、弾丸頂部が尖っておらず、平坦状となっているものでは、円錐台頭ソフト・ポイント弾丸(Truncated soft point bullet)、あるいは鈍頭ソフトポイント弾丸(Blunt soft point bullet)の名称がある。

被甲弾丸の弾丸頂部に鉛を露出させる目的は、弾丸が標的に命中した際に弾丸先端の拡大を促進することである。弾丸頭部が適度に拡大した場合には、キノコ状になることから、そのように変形した弾丸はキノコ状になった弾丸(Mushroomed bullet)と呼ばれている。

陸戦の法規と慣例に関するハーグ条約にしたがい、軍用実包にソフト・ポイント弾を使用することはできない。
Soft Point Bullet
楕円オージャイブ
だえんオージャイブ

オージャイブの1種で、円頭弾に用いられている曲面形状。

楕円オージャイブは半回転楕円体をしており、2本の軸のうち弾軸に垂直方向の軸の長さは口径に一致し、通常これが短軸となる。そして、弾軸と重なる軸の長さと口径との比によって楕円オージャイブの形状が特徴付けられる。完全な円頭弾(半球状)は弾軸と一致する軸の長さが口径の半分の長さであり、この比の値と楕円の頭文字Eとを組み合わせて、0.5-Eオージャイブと表現する。ただし、完全な円頭弾はほとんどなく、0.5-E以下の円頭弾は存在しない。

拳銃用の弾丸では円頭部の長さが口径の3/4である0.75-Eオージャイブが最良とされている。実際、長い間米国の軍用制式拳銃であったM1911及びM1911A1に使用された45ACPの軍用全被甲弾丸の円頭部は0.75-Eオージャイブとなっていた。

弾丸の形状は製造所、製品によって様々なものがあるが、軍用弾丸の形状は一定している。軍用弾丸の中で、ずんぐりとしていて、半球状に近い円頭弾に見えるマカロフ弾丸では約0.6-Eオージャイブとなっており、流線型に感じられるトカレフ弾丸では約0.9-Eオージャイブである。38SPLの円頭弾には各種のものがあるが、レミントンのR38S5は0.75-Eオージャイブである。

拳銃弾丸が楕円オージャイブをしているといっても、実際に計測してみると弾丸頭部形状が楕円にフィットしないものも多い。特に鉛弾丸では、弾丸頂部がつぶれる傾向がある。

ライフル銃用の円頭弾では円頭部の長さが口径の1.5倍である1.5-Eオージャイブが標準的である。
Elliptical Ogive
裁ち落し痕
たちおとしこん

シェイブ痕と同義。

弾丸頭部付近が裁断機で裁ち落したように削り取られた痕なのでこう名付けた。ただし、銃腔の曲率に倣って表面に湾曲がある。被甲弾丸では、被甲が裁ち落され、弾芯の鉛が露出することがあり、この弾芯の上にも再現性のある痕跡が付けられていることがある。

シアリング痕もシア痕も馴染まないので裁ち落とし痕とした。特にシア痕とすると、銃器の重要な部品のシアとの混同が生じるので避けるべきであろう(英語では発音が異なるが、片仮名では区別が付かない)。
Shearing Marks
谷径
たにけい

旋底径に相当し、銃腔の谷(旋底)に外接する仮想円の直径をいう。

旧JIS S 7101 「小口径銃の銃腔および薬室の寸法」の表1では、「銃腔の相対する谷の底間の直径をいう」と定義されていた。

この定義では、奇数条の腔旋では具合が悪い。

形状の整ったエンフィールド型の腔旋では、谷の部分の深さはエッジ部を除くと一定だが、腔旋の形状にはポリゴナルやメトフォード型など谷の深さが一定でないものがあり、谷の底間の直径とされた。
Groove Diameter
弾核
だんかく

被甲弾丸の被甲の内側にある芯の部分。

英語ではCoreで、この直訳が核であることから警察関係者は弾核と呼んでいた。一方、軍関係者は弾身(だんしん)と呼んでおり、字だけでなく、音も異なっていた。警察も音は軍に歩み寄って「だんしん」とすることにしたが、「しん」には「身」ではなく、最終的には「芯」を選択した。弾心という用語が最もやさしい字であるとの主張もあったが、弾丸の中心という意味と混同するのではないかということで「芯」を用いることになった。

核は周囲をすべて覆われている場合に用いられる語で、芯は鉛筆の芯のように円筒状の物体の軸心に入っているものを指す場合に用いる用語であるという主張もあった。

この決定は強制力のあるものではないので、現在でも「弾核」の用語が用いられている場合がある。
Core
弾丸
だんがん

銃器から発射される物体。

その形状から球形弾丸や長形弾丸(長弾)がある。その材質により、鉛弾丸、被甲弾丸、頭部の形状から円頭弾丸、平頭弾丸、尖頭弾丸などがある。

損傷程度によって、変形損傷が少ないもののみを弾丸といい、破損して小型化したものは弾丸片といって区別する。被甲弾丸の中心部にある鉛を弾芯といい、弾芯を覆っている殻を被甲という。被甲弾丸の弾芯が完全に脱落し、かつ被甲に欠落部がないものを被甲といい、破損脱落部のある被甲を被甲片と区別することもある。

英語では腔旋銃身で発射する長形弾丸をBulletといい、球形弾丸はShotという。Pelletという語は球形の散弾や空気銃用の鼓弾に用いられる語である。これらの語が小火器の弾丸を指す語であるのに対し、Projectileは広範囲の発射体を指す語で、ミサイルや投石、矢なども含まれる。ただ、銃器の弾丸もProjectileには入るので、この語が使われている文献も多い。Slugは散弾銃から発射される一発弾(いっぱつだま)を意味する。

   武器等製造法施行令第三条二に、銃砲弾の中の銃弾の部品として弾丸が挙げられており、武器等製造法で定める許可なく製造できない武器とされている。
Bullet,
Pellet,
Projectile,
Shot
弾丸鋳型
だんがんいがた

鋳造鉛弾丸を製造する際に、溶融鉛合金を注ぐ鋳型。

2分割されており、鋏型の工具の先端に取り付けて使用するか、あるいはヒンジを中心にした開閉式の工具で、ヒンジとハンドルとの間に取り付けて使用する。

余熱してから使用し、銅やアルミニウムといった熱伝導の良い材料でできている。2、3個の弾丸を鋳造した後から、本番の鋳造に取り掛かる。

1個だけを鋳造する鋳型から2個並列に鋳造する鋳型、数個同時に鋳造する鋳型がある。数個同時に鋳造する鋳型は、一括弾丸鋳型といわれる。

一括弾丸鋳型では、ヒンジがその一端にあり、ハンドルや鋏を用いずに製造するものがある。

鋳型の合わせ目がずれて弾丸がいびつになると、命中精度が極端に低下するため、2分割された鋳型がいかに精度よく閉じ合わされるかが極めて重要である。品質の高い鋳型で鋳造された弾丸では、鋳型の合わせ目は目立たない。ただし、ほとんどの鋳造弾丸にはパーティング・ラインが残されており、発射弾丸でもキャネルアの底の部分でそれを確認できる。湯口痕とパーティング・ラインがあれば、鋳造弾丸に間違いない。

英語ではBullet Moldである。一括弾丸鋳型はGang Bullet Moldという。
Bullet Mold,
Gang Bullet Mold
弾丸円筒部
だんがんえんとうぶ

長形弾丸で、弾丸頭部弾丸底部との間にある円筒形をした部分。

弾丸円筒部銃腔腔旋とかみ合い、弾軸周りの回転力を発生させる。この結果、弾丸円筒部には腔旋痕が付けられ、弾丸の発射痕の鑑定においてもっとも重要な部分である。

弾丸円筒部の周方向には、キャネルアと呼ばれる溝が刻まれているものがある。

弾丸円筒部の長さが長いと、銃腔との間の摩擦抵抗が増加するので、円筒部にキャネルアを刻んで接触面積を減少させるとの説がある。ただ、摩擦力は、アモントン・クーロンの法則から接触面積に依存しないものと考えられる。

英語では、円筒形に着目した名称がShankであり、銃腔と接触する部分であることに着目した名称がBearing Surfaceである。
Shank,
Bearing Surface
弾丸径
だんがんけい

球形弾丸では弾丸の直径を、長形弾丸では弾丸円筒部の直径をいう。弾丸口径ともいい、弾丸の大きさをもっともよく代表する値である。

発射弾丸の口径の推定は、発射痕鑑定における重要な1歩である。

発射前の長形弾丸の円筒部はほぼ円筒状であり、弾丸円筒部のどこで外径を測定しても同等の結果が得られる。しかし、発射弾丸の場合は話は別である。弾丸の変形がわずかであったとしても、円筒部分には腔旋痕が付けられていることから、ノギスなどの測定具を用いた測定結果は、測定位置によって変化することがある。腔旋痕の条数が偶数の場合には、測定位置によって旋丘痕径旋底痕径の値が得られ、それらの測定値の差が腔旋痕深さの2倍に相当する。これに対してS&Wのような奇数腔旋の発射弾丸では、測定位置による測定値の変動は少なく、銃腔旋底径旋丘径との中間の値が得られる。

発射以前の弾丸径は、その弾丸が適合する銃腔旋丘径旋底径との中間の値を示す。したがって、奇数腔旋の銃身から発射された弾丸弾丸径の測定値は、発射前の弾丸径に近い値となる。

弾丸径弾丸円筒部のどこで計測するかも問題となる。標的にほぼ垂直に衝突した弾丸では、弾丸頭部側は拡大変形し、弾丸底部付近は縮小する傾向にある。そのため、弾丸の中間部での測定値がひとつの目安であろう。一方、銃身長の短い拳銃から発射された鉛弾丸や、マグナム実包の鉛の発射弾丸では、弾丸底部付近では弾丸径が拡大する。これは、弾丸銃口を離れた直後に鉛弾丸の底部に過大な推進力が作用すると、、銃腔による拘束力を失った弾丸底部付近が側方に拡大するからである。

適合口径の規格を外れて太い銃腔から弾丸が発射された場合には、弾丸円筒部腔旋痕は刻まれないか、刻まれたとしても浅いものとなり、弾丸径は発射以前の値とあまり変わらない。規格より細い銃腔から発射された場合には、弾丸は細長く変形する。このような場合、本来の弾丸径より細くなっていることは、腔旋痕部分が標準的な値より長くなっていることで確認できる。

変形が大きくても脱落部分の少ない発射弾丸では、弾丸径より弾丸の質量の方が、口径推定における信頼性の高い手がかりになることが多い。かなり大きな変形をしている弾丸であっても、脱落部分がほとんどないことがよくある。また、弾丸が破片化しているような場合では、弾丸径の測定は難しく、やはり弾丸径以外の形状特徴や腔旋痕などから口径を推定することが普通である。
Bullet Diameter
弾丸頂部
だんがんちょうぶ

弾丸頭部の先端部分。

どのような形状の弾丸でも、弾丸の先端部分の形状は、それより後方の部分と比較して曲率が低くなっている(平坦状となっている)。尖頭弾といえども、弾丸頭部の先端には少し丸みを持たせた部分がある。この部分が弾丸頂部であるが、英語のMeplatの訳語として考案した。

接線オージャイブ割線オージャイブ尖頭弾では、弾丸先端部分には目視で分かる丸くなった部分がある。楕円オージャイブの円頭拳銃弾では、目視では分からないものの、断面形状を測定してみると、弾丸頂部の曲率は楕円から外れて小さくなっているのが普通である。これは、弾丸先端部分の不必要な変形損傷を防止する上で役立つ。また、自動装填式あるいは自動式銃器では、実包の薬室へのスムーズな装填動作につなげる方策となる。

チューブ型弾倉(チューブラ弾倉)を用いているレバー式ライフル銃などでは、実包が弾倉内で数珠つなぎとなっており、弾丸頂部が雷管と接触している。そのため、弾丸発射に伴って生じる反動の衝撃で弾丸頂部が雷管を打撃し、実包の暴発が生じる危険性がある。このような暴発を防止するため、弾丸頂部に丸みをつけたり、弾丸頂部を平坦にすることは必須とされている。

弾丸頂部に丸みをつけたり、平坦にすることで、命中精度が向上するともいわれている。

なお、英語のMeplatは、弾丸頂部の尖りを丸くした部分、あるいは弾丸頂部で平坦状にされている部分の直径を指すこともある。
Meplat
弾丸底部
だんがんていぶ

弾丸の底部下面あるいは底面をいう。

鋳造鉛弾丸では、この部分は平坦状で、中央部に鋳造の湯口の痕が残されていることが多い。

成型鉛弾丸では、平坦状、浅い球形(皿状)、深い球形(半球状)、きわめて深い穴(ホローベース)のものがある。なお、弾丸底部の周縁部にリング状の平坦部分があることが多い。

前方被甲弾丸では、弾丸底部には鉛の弾芯が露出しており、露出した弾芯は平坦状のものが大半で、浅い球形の窪み状のものもある。

後方被甲弾丸では、弾丸底部は被甲に覆われており、その形状は平坦状と皿状のものが多い。皿状のものでは周縁部にリング状の平坦部のあるものが見られる。

弾底あるいは弾底面と略して呼ばれることが多い。

鉛弾丸あるいは前方被甲弾丸の弾丸底部に露出している弾芯の表面には、発射薬の衝突痕が付けられることがある。アンチモンの含有量の少ない弾丸に付けられることが多く、トカレフ弾の弾丸底部に露出している弾芯などでよく見られる。
Base
弾丸底部弾芯露出型
だんがんていぶだんしんろしゅつがた

弾丸底部で弾芯が露出している弾丸。

弾丸頭部方向から弾芯を覆っている前方被甲弾丸では、弾丸底部に弾芯が露出しているのは普通であり、特別このように表現されることは少ない。一方、弾丸頭部で弾芯が露出している被甲弾丸では、弾丸底部は被甲で完全に覆われており、弾芯は露出していないことが多い。しかし、この種の弾丸でも弾丸底部で弾芯が露出しているものがある。このような弾丸を示すためにこの用語が使用される。

弾丸底部弾芯露出型ソフト・ポイント弾(Soft point bullet, open base)、弾丸底部弾芯露出型ホロー・ポイント弾(Hollow point bullet, open base)といった具合に使用される。
Open base
弾丸頭部
だんがんとうぶ

長形弾丸の前方部分をいう。

日本の軍関係者は伝統的に実包を銃弾と呼び、弾丸を弾頭と呼んで来た。警察関係者はこれをそれぞれ実包、弾丸と呼び、弾丸頭部を弾頭と呼んできた。そのため、弾丸頭部を意味するつもりで用いた「弾頭」が、弾丸全体と勘違いされる虞があった。そこで意味を明確にするため、文字数は増えるが、この部分を弾丸頭部とした。弾頭部という言い方もあるが、これも軍関係者の弾頭(弾丸の意)との混乱が避けられない。

英語ではNoseがこれに相当するが、Noseは弾丸の先端部分の丸みを持った部分あるいはとがった部分をいい、ワッドカッターなどの平頭弾丸では弾丸頭部はあってもNoseはない。
Nose
弾丸尾部
だんがんびぶ

弾丸円筒部より後方の、弾丸の口径より細くなった部分。

尾部の形状は、ボートテールと呼ばれるボートの尾部の形状と類似したものと、ヒールと呼ばれる弾丸円筒部より径が細い円筒状になったものとがある。

ボートテールは弾丸の空気抵抗を減少させる目的で弾丸の後方を少し絞ったものである。

弾丸径と薬きょう径が等しい実包では、薬きょうに挿入されている弾丸部分の弾丸径は薬きょうの厚み分だけ細くなっている。弾丸尾部で、弾径が一段細くなった部分をヒールという。このような形状の弾丸はヒール弾と呼ばれ、口径0.22インチの縁打ち式実包の弾丸がその代表例である。

弾丸の底部まで径が変化していない弾丸には、弾丸尾部はない。尾部のない弾丸でも、弾丸底部の周縁部はヒールと呼ばれる。
Boattail,
Heel
弾心
だんしん

被甲弾丸の被甲の内側にある芯の部分。

「だんしん」という読みの語の中では、最もやさしい字の組み合わせの用語。ただ、弾丸の中心を指すものと誤解されるという指摘があった。鑑定用語としては弾芯を選択したが、弾心の語が用いられることもあるかもしれない。
Core
弾芯
だんしん

被甲弾丸の被甲の内側にある芯の部分。

弾丸の目的は、標的に打撃力や貫通力を与えることであり、その目的では、安価で比重が大きく、銃腔に損傷を与えない材料が求められる。安価で比重が大きい材料としては鉛を凌駕するものはないが、鉛は銃腔に付着しやすいという欠点がある。それを補うために銅合金等で鉛を覆ったものが被甲弾丸である。

英語ではcoreであり、弾核と呼んでいた先輩も多い。また、軍関係者は弾身と呼んでいた。弾心という用語が最もやさしい字であるとの主張もある。

核は周囲をすべて覆われている場合に用いられる語で、芯は鉛筆の芯のように円筒状の物体の軸心に入っているものを指す場合に用いる用語であるという先輩もいた。

各種の意見を聞いた上で、読みは「しん」とすることにし、「しん」の字には「芯」を選び「弾芯」という用語を採用することにした。
Core
弾身
だんしん

被甲弾丸の被甲の内側にある芯の部分。

軍関係者が用いていた用語。その方面では現在でも用いているかもしれない。鑑定用語としては弾芯を選択したため、最近の発射痕の鑑定書では使用されていないはずである。
Core
弾倉
だんそう

一定量の実包あるいは空包を、薬室に装填するまでの間、詰めて保管しておく銃器の部品、あるいは銃器のフレームに作りこまれた部分。

着脱可能な部品となっているものが多いが、銃器から取り外せない場合もある。

英語ではMagazineというが、Magazineの第一義は弾薬庫であり、軍隊が補給用の弾薬類を保管しておく建造物を指す。

回転弾倉式拳銃の回転弾倉(cylinder)は、実包を詰めて保管している銃器の部品ではあるが、薬室を兼ねている。回転弾倉は、薬室実包を送り込む動作を行わないことからmagazineには相当しない。回転弾倉式拳銃の回転弾倉は回転式弾倉兼用薬室とでもいうべきものである。
Magazine
弾底周縁部
だんていしゅうえんぶ

弾丸円筒部が弾丸底部まで続いている弾丸(薬きょうの内径と弾丸の円筒部の径が等しい弾丸)の、弾丸円筒部と弾丸底部との境界接続部。

英語ではHeelというが、ヒール弾のヒールとは位置も形状も異なる。ここでいうヒールは足のかかとと同じような曲面をしている場合がある。ヒール弾のヒールと混同するので、弾底周縁部とした。
Heel
中心打ち式実包
ちゅうしんうちしきじっぽう

雷管が薬きょう底部の中央部にある実包。

弾丸を発射する際に、薬きょう底部の中央部分にある雷管を、銃器の撃針で打撃し、雷管の点火薬を発火させることによって発射薬の燃焼を開始させ、弾丸の発射に至ることから「中心打ち」の名称がある。

「うち」には、打撃の「打」と「撃」のどちらも使うわれてきたが、次第に「打」を使う人が増加したという記憶がある。英語ではCenterfire cartridgeで直訳すれば中心発射式実包である。

 雷管の中央には、撃針の打撃を受けとめる発火金があり、撃針が雷管の中央部を打撃しないと不発につながる。

 打ち殻薬きょうを再使用することを前提としたボクサー型雷管を使用するものと、再使用することを前提としていないベルダン型雷管を使用するものとがある。
Centerfire Cartridge
中心打ち式雷管
ちゅうしんうちしきらいかん

薬きょう底部の中心部に、内部に点火薬が塗布された管体が埋め込まれている雷管の形式。

通常薬きょう底部で雷管部分が容易に区別できるが、中には薬きょう底部の内側に埋め込まれており、縁打ち式雷管のように外部から確認できないものもある。

 撃針は、雷管の中心部を打撃することによって、点火薬を発火させる。

 発火金が雷管の一部品になっているボクサー型雷管と、発火金が薬きょう底部に作りこまれているベルダン型雷管とがある。
Centerfire Primer
抽筒子
ちゅうとうし

銃器の薬室に装填された実包あるいは打ち殻薬きょうを薬室から引き出す働きをする部品。

旧JIS散弾銃JIS B9804ではこの部品は「カラカキ」, JIS S7102では「からかき」と記載されていた。
Extractor
Ejector Hook
抽筒子痕
ちゅうとうしこん

自動式銃器の抽筒子によって薬きょうに付けられる痕跡。

必ずしも打ち殻薬きょうにのみ付けられるわけではなく、薬室に実包を装填する操作、薬室に装填した実包を発射せずに取り出す操作を行っても、薬きょうには抽筒子痕が残される。したがって、再生実包でなくても、1個の打ち殻薬きょうに複数の抽筒子痕が付けられていることがある。同一口径の複数の銃器を所持している者が、一丁の自動式銃器に装填した実包を発射しないまま取り出し、別の自動式銃器に装填した場合、その薬きょうには複数種類の銃器の抽筒子痕が残されることになる。抽筒子痕の定義は、「弾丸を発射した銃器の抽筒子によって付けられた痕跡」ではない。

抽筒子痕は、抽筒子が薬きょうと接触することによって生じる痕であるが、それは薬きょうの薬室装填時と、薬きょうを薬室から排出する時の2種類の痕で構成される。薬きょうが薬室に装填される際には、抽筒子の先端が薬きょう底面の縁を押しならがら縁の側面を通過して抽筒溝にはまりこむまでの間に、薬きょう底部の縁に打撃痕と擦過痕が、縁の側面に擦過痕が及び抽筒溝に圧痕が付けられる。薬きょうを薬室から排出する際には、薬きょうの縁の下面に圧痕が、抽筒溝表面を中心とした部分に圧痕と擦過痕が付けられる。 実際に弾丸が発射された際に刻まれた抽筒子痕では、痕跡周囲に火薬の燃焼残さによる汚れが認められることによって、弾丸の発射が伴わない抽筒子痕と区別できる場合が多い。弾丸発射時の抽筒子痕が決定できることは、自動式銃器の打ち殻薬きょうの痕跡の位置合わせ(オリエンテーション)において重要である。すなわち、弾丸発射時の抽筒子痕の位置をまず確定させることによって、弾丸発射時に薬きょうが薬室に装填されていた方向を精度高く推定できる。

抽筒子痕は、薬きょうの薬室への装填方向を決定する上ではきわめて重要であるが、発射痕の異同識別をする上では、遊底頭痕や撃針痕ほどの価値がない。痕跡の再現性が低いこと、痕跡の多様性が低いことがその理由である。縁の側面や抽筒溝に残される痕跡は、円筒面と平坦面との接触痕跡であり、接触範囲が狭く、痕跡の特徴量も少ない。縁の下部に付けられる痕跡は、平坦面同士の接触であり、接触面積はあるが、痕跡の境界形状は分かるが、再現性の高い痕跡が一般的に少ない。これに対して、きょう体底部の縁に残される抽筒子の先端によって付けられる痕跡は、銃種によっては痕跡の範囲、痕跡の深さ、痕跡の量の3点で優れている場合があり、その場合は発射痕の異同識別の決め手にできる。

Extractor Marks
Extractor Hook Marks
抽筒溝
ちゅうとうみぞ

自動式あるいは自動装填式銃器に用いられる無起縁型、半起縁型及び減起縁型の中心打ち式薬きょうで、薬きょう底部の起縁部に隣接したきょう口側の部分に切削された溝。

自動装填式拳銃やライフル銃では、この溝に抽筒子が掛かり、スライドやボルトの後退時に打ち殻薬きょうが薬室から排出する動作が可能となる。

抽筒溝は、薬きょう底部を旋盤で切削加工されることから、線状工具痕が残されている。この痕跡は、連続して切削された薬きょうの間で、それらが同一の工具によって製造されたことを推定可能な特徴が残されていることが知られている。

縁打ち式薬きょうでは抽筒溝は存在せず、抽筒子は起縁に掛けられる。

回転弾倉式拳銃等に用いられる起縁型薬きょうでは、溝を刻まなくても起縁に抽筒子あるいは排きょう子が掛けられる。デザート・イーグルなどの357マグナム等の回転弾倉式拳銃用実包を発射する自動装填式拳銃では、起縁に抽筒子が掛けられる。一方、回転弾倉式拳銃用の薬きょう底部の起縁部に隣接したきょう口側の部分にも、幅の狭い溝が切削されたものが多い。黒色火薬を用いる古い時代の薬きょうでは、このような溝があるものは見られず、無煙火薬を用いる薬きょうで見られる傾向にある。ただ、この溝の名称や由来を記述した文献を見たことはない。
Extractor Groove
超清浄無毒弾
ちょうせいじょうむどくだん

弾丸発射によって発生する鉛の汚染がほとんどないソフト・ポイント弾。

米国のウインチェスター社(オーリン社)が登録商標としている弾丸の種類を翻訳したもの。

後方被甲弾丸で、弾芯に錫を用いているため、弾芯からの鉛の発生はない。雷管からも鉛成分を除去している。錫の比重は鉛の約2/3であるため、軽量弾とならざるを得ない。38SPLでは110グレインの弾丸となっているが、それでも弾丸頂部の平坦部が広い弾丸形状となっている。

NTはNon-Toxic(無毒)の頭文字である。
Super Clean NT
テーパー型薬きょう
てーぱーがたやっきょう

きょう体(胴部)の径が、きょう体底部からきょう口まで滑らかに細くなっている薬きょう。英語ではTapered cartridge caseというが、Straight cartridge caseの分類にも含まれる。

起縁型半起縁型無起縁型減起縁型ベルト付きの各薬きょうにテーパー型薬きょうがある。

円筒型薬きょうテーパー型薬きょうとの区別は、打ち殻薬きょうでは必ずしも容易でない。代表的なテーパー型薬きょうである30カービンのように、きょう口外径ときょう体外径との差が0.5mmもあるもので、打ち殻薬きょうでもテーパーが付いていることは容易にわかる。一方、9mmルガーのようにテーパー型薬きょうであっても、きょう口外径ときょう体外径の差が0.012インチ(0.305mm)程度であると、発射前の薬きょうではきょう口外径ときょう体外径との差が検出可能であっても、打ち殻薬きょうでは、その寸法差の検出が難しくなり、円筒型薬きょうとして計測されることが多い。9mmルガーでは薬きょうはテーパー型であっても薬室が円筒形であることから、発射後の打ち殻薬きょうでは、薬室の寸法にまで打ち殻薬きょうが膨らんで円筒型になってしまうからである。

薬きょうをテーパー型にすることによって、弾丸発射後の打ち殻薬きょうが薬室から排きょうしやすくなる。また、弾丸径よりきょう体径が若干太くなっていることから、装薬量を増加させることができるが、その効果は先絞り型薬きょうほどではない。そのため、威力の大きなライフル銃用実包の大半が先絞り型薬きょうを使用しているが、ニトロ・エクスプレスはテーパー型薬きょうである。
Tapered cartridge case
電解加工腔旋
でんかいかこうこうせん

リーマー仕上げ加工がなされたブランク銃身を電解液に浸して、銃腔に挿入された電極と銃身との間に通電することによって、旋底部分を電解腐食させる腔旋加工法。

電極は、ブランク銃身にしっかりとはめ込まれるプラスチック製円筒でできており、円筒面には旋底の形状に対応する螺旋状の金属が埋め込まれている。この金属はプラスチック円筒面からわずかにへこんでいることから、銃腔と電極金属との間に生じるわずかな隙間に電解液(硝酸ナトリウム)を強制的に流動させながら、銃身とこの電極との間に通電する(たとえば銃身を正極、電極を陰極とする)ことで、旋底部分の金属が腐食されて除去される。除去された金属は強制対流されている電解液によって流し去られる。

プラスチック円筒を腔旋の回転に同期させて回転させながら銃腔内を移動させることによって、電極の長さより長い銃身に深さが一定の螺旋状の旋底が加工される。1インチあたり10秒程度で移動させる加工法が一般的である。

電解加工された銃腔の旋丘部分はリーマー仕上げ加工されたままの状態で残され、旋底部分は梨地状のざらついたものであるが、表面形状が連続製造された銃腔に再現される可能性は全くない。
Electro Chemical Rifling,
ECR
伝火口
でんかこう

噴火口と同じ。

ベルダン型雷管では、2~3個の噴火口(伝火口)が開けられているが、これらの噴火口(伝火口)の径は、各種の口径で1.1~1.2mmとほぼ同様である。ボクサー型の噴火口(伝火口)と比較して直径が約半分であり、噴火口(伝火口)一つ当たりの開口部面積は1/4である。例え複数個の噴火口(伝火口)が開けられていたとしても、ベルダン型の開口部の面積の合計はボクサー型の噴火口(伝火口)の開口部の面積より狭い。

ただ、ボクサー型の噴火口(伝火口)は、発火金によって部分的に蓋をされた構造となっているが、ベルダン型の噴火口(伝火口)では覆うものがないことから、雷管が発火して発生する炎の伝播効率は同程度なのかもしれない。

ベルダン型雷管を使用しているマカロフやトカレフなどでは、腐食性の点火薬を使用していること、薬きょうの材質が鋼であることから、打ち殻薬きょうの噴火口(伝火口)周囲は腐食が激しく、発射後時間が経過すると噴火口(伝火口)が腐食でふさがってしまう場合もある。

最終決戦期に製造された南部8mm実包では、工数及び工具の損耗低減を図るために、本来2個開けるべき噴火口(伝火口)を1個に削減する努力までなされたという。
Flash Hole
纏度
てんど

腔旋ピッチあるいは腔旋角

JIS S 7101では、「腔旋が1回転するのに要する長さまたは軸方向に対する角度をいう。」と定義されていた。纏度が長さを示す場合も、角度を示す場合もあり、その値からそのいずれであるかを判断する必要があることから、このような定義となったのだろう。

Pitchは、ねじの世界ではねじの山と山の距離、すなわち1回転するのに要する軸方向の長さと定義されているが、腔旋の場合では、Pitchが螺旋の回転角度を意味することもある。
Twist,
Angle,
Pitch
頭隙
とうげき

実包を薬室に装填して機関部を閉鎖した際に、薬きょうが薬室内で前方への移動を停止されている部分から、砲底面までの距離をいう。

実包の後退運動を止める部分は砲底面(閉塞壁面、遊底頭面)であるが、前進運動を止める部分は実包の種類により、薬室後端面(起縁型薬きょう、半起縁型薬きょう)、薬室前端にある薬きょうのきょう口部を支える段差部(無起縁型薬きょう)、薬室前方にある、薬きょうの肩部を支える斜面部(無起縁先絞り型薬きょう)、薬室後方にある、薬きょうのベルト部を支える段差部(ベルト付き薬きょう)に分かれる。

薬室の頭隙と薬きょうの基準長との間には、一定の差、すなわち「遊び」が存在する。頭隙が過小の場合はこの遊びがなく、実包の円滑な装填動作に支障をきたす、さらに過小な場合には銃器の発射機構を完全に閉鎖できない。スイングアウト式の回転弾倉式拳銃では回転弾倉を閉じることができない。自動装填式拳銃等の自動式の銃器では安全機構が働き引鉄を引けないことが多い。頭隙が過大の場合は、撃針による雷管打撃力が不足することによる不発や、弾丸発射後の薬きょう切れの原因となる。特に先絞り型薬きょうでは薬きょう切れが生じることが多いが、円筒型薬きょうでも、発射薬量の多い実包では、発射薬の燃焼によりきょう口部が膨張して薬室に張り付き、その後弾丸が銃口から出る前の高い腔圧が持続している際に、きょう体底部が砲底面に押し付ける力が作用している間に薬きょう切れが生じることがある。

実包の円滑な装填及び排きょうを行う上では適度な遊びが必要で、その量は0.10~0.15mmとされている。

なお、無起縁先絞り型薬きょうの場合、薬室で肩部を支える傾斜部には幅があるが、その中間点を基準線とし、その基準線から発射機構閉鎖時の砲底面までの距離を頭隙としている。

砲底間隙といわれることもある。

英語ではHeadspaceであり、民間ではそのままヘッドスペースと呼ぶことの方が多いと思われるが、軍関係では直訳である頭隙が用いられている。
Headspace
導火口
どうかこう

噴火口と同じ。

ボクサー型雷管を使用する薬きょうでは、雷管室の中央に切削加工されることは噴火口の項で説明した。Flash Holeを通じて、打撃された雷管から発生した炎が薬きょうの火薬室内に導かれるのだが、この穴の太さはどの程度であろうか?もっぱらボクサー型雷管が使用されている米国の薬きょうでは、最も小型の口径0.25インチの自動装填式拳銃用実包(25ACP)から、拳銃としては大型の50アクションエクスプレスまで2.0~2.1mm程度と共通である。.30-06のライフル銃用実包でも、やはり2.0~2.1mm程度である

リロードの際には、Flash Holeにピンを刺して雷管を取り外す。このとき使用する雷管パンチを通す必要から、Flash Holeの径にも制約が生じるのだろう。各種薬きょうの測定は行っていないが、ダイナミート・ノーベルなどの欧州メーカーでは、これより細い直径1.6mm程度のものも見られる。
Flash Hole
ドライブエッジ
 発射弾丸の旋丘痕の左右の端部のうち、銃腔の旋丘から回転力を受ける側の端部。右回転の腔旋痕では、旋丘痕の右側の端部がドライブエッジとなり、左回転の腔旋痕では、旋丘痕の左側の端部がドライブエッジとなる。

 銃腔の旋丘の左右の端部のうち、弾丸に回転力を付与する端部。右回転の腔旋では、旋丘の右側の端部がドライブエッジとなり、左回転の腔旋では、旋丘の左側の端部がドライブエッジとなる。

 現在英語では発射弾丸の旋丘痕と銃腔の旋丘の両者のドライブエッジに対して、Driving Edgeという語が使用され、Leading Egedが使用されることもある。ingは省略するという原則にしたがい、ドライブエッジとした。

 Gunther&Guntherのテキストでは、銃腔の旋丘のドライブエッジはDriving edge of the landとし、発射弾丸の旋丘痕のドライブエッジはDriven edge of the landmarkという語が使用されている。

 導側面、駆動面あるいは駆動端の用語が使用されることもある。
Driving Edge,
Leading Edge
ドリル
 回転するドリルビット(ドリルの刃)を加工材料に押しつけることによって穴あけ加工を行う工具。

ドリルの回転軸の先端にあるチャックでドリルビットを締め付け、ドリルビット先端をワークに押しつけながら回転させる。人力を用いた手回しでドリルビットを回転させるものから、電動、打撃力などで回転させるものがある。銃器の部品加工に用いられるドリルは通常ボール盤(Drill press)である。最近では数値制御工作機械にドリルビットを取り付けて穴あけ加工されることが多くなっている。

ドリルビットには先端が尖っており、刃がらせん状に回転しているツイストドリルが用いられることが多い。

ドリルによる加工物には、穴の周方向の線状工具痕が残される。

ドリルビットを回転させる工具をドリルというが、日本ではドリルビットのことをドリルということも多く、ドリルビットを回転させる工具をドリルドライバーと呼ぶことがある。
Drill
ドリルビット
ドリルに取り付けて穴あけ加工に使用するドリルの刃。軸方向に沿ってらせん状にねじれた刃が付けられたツイストドリルが一般的である。

ツイストドリルの先端の角度は118度のものが多い。この角度は、広範囲の加工に適し、慣れない作業者が使用した場合でも穴あけ開始時の刃先の振れ周りや、急激な食い込みが生じにくいとされる。

ガンドリルのビットでは、ねじれていないストレート刃が用いられる。刃の間にあるV字型のストレートな空間から、潤滑冷却油の流れを用いて切り粉が排出される。ビットの先端は角度が付けられたものと平坦(180度)なものとがある。
Drill Bit
トレイルエッジ
 発射弾丸の旋丘痕の左右の端部のうち、ドライブエッジの反対側の端部。右回転の腔旋痕では、旋丘痕の左側の端部がトレイルエッジとなり、左回転の腔旋痕では、旋丘痕の右側の端部がトレイルエッジとなる。

 銃腔の旋丘の左右の端部のうち、ドライブエッジの反対側の端部。右回転の腔旋では、旋丘の左側の端部がトレイルエッジとなり、左回転の腔旋では、旋丘の右側の端部がトレイルエッジとなる。

 英語ではTrailing Edgeという語が使用され、Following Edgeが使用されることもある。ingは省略するという原則にしたがい、トレイルエッジとした。

 Gunther&Guntherのテキストでは銃腔の旋丘のトレイルエッジはTrailing edge of the landとし、発射弾丸の旋丘痕のトレイルエッジはTrailing edge of the landmarkという語が使用されている。

 反導側面、追従面、追従端の用語が使用されることもある。
Trailing Edge,
Following Edge
内部潤滑型弾丸
ないぶじゅんかつがただんがん

鉛の長形弾丸のうち、薬きょうに挿入されている円筒部に潤滑剤が塗布されている弾丸。

縁打ち式実包を除くと、現在生産されている鉛弾丸を使用する実包はすべて内部潤滑型弾丸を使用している。

32ショート・コルト、32ロング・コルトのように、当初は外部潤滑型弾丸が使用されていた実包の中には、後に内部潤滑型に変更されたものがある。32ショート・コルト、32ロング・コルトでは、その変更によって、弾丸径は7.95mm(0.313インチ)から7.59mm(0.299インチ)と細くなり、弾丸重量は5.8g(90グレイン)から5.2~5.3g(80~82グレイン)へと軽量化された。これに対して、初めから内部潤滑型弾丸を用いている32S&Wでは、弾丸径が7.95mm(0.313インチ)で、薬きょうの先端径は8.48mm(0.334インチ)とこれより太くなっていることから、32ショート・コルトやロング・コルトとの互換性はない。

ところで、弾丸径を0.36mmも細くして、腔旋と十分にかみ合ったのだろうか?腔旋の深さの標準値は0.10mmであることから、弾径を0.2mm以上細くすると、腔旋との十分なかみ合いは期待できない。
Inside Lubricated Bullet
鉛弾丸
なまりだんがん

鉛合金で製造された弾丸。不純物として鉛以外の成分を含有する弾丸と、弾丸の硬度を高める目的でアンチモンあるいは錫、あるいはその両者を含有した弾丸とがある。

発射薬として黒色火薬が用いられていた時代の銃器に使用された弾丸はすべて鉛弾丸である。弾丸の硬度を高める目的は、発射弾丸の変形を減少させることにあるが、これは標的に対するしんてつ威力を増加させる目的ではなく、銃腔内で変形を防止する目的である。滑腔銃身から球形弾丸を発射している時代は純鉛に近い鉛弾丸で問題はなかった。長形弾丸を銃腔に腔旋が刻まれた銃身から発射するようになると、柔らかい鉛弾丸では腔旋と弾丸がかみ合って回転を始めるまでの間に、弾丸の表面が削られて滑ってしまう。発射弾丸は十分な回転力が得られない上、幅の広いスキッド痕が付けられた形状な弾丸となり、ず命中精度が著しく低下する。このような問題を防止するため、弾丸の硬度を上げるために、現在では主にアンチモンが添加される。

鉛弾丸は鉛の線材を切断して型に入れてプレスして製造する型成形の方法と、溶融鉛を型に流し込んで固める鋳造の方法で製造される。鋳造の手法で製造する場合に、添加する錫の量を増加させると合金の融点が低下し、製造に用いる燃料費と発生する鉛の有毒ガスのの低減を図ることができる。そのため、小規模の業者は錫の含有量の多い鋳造弾丸を製造している。このような弾丸では、弾丸の硬度は増加しても融点が低下するため、弾丸発射時に弾丸表面が溶融し、銃腔とのかみ合い不良が生じるとともに、異同識別が困難な発射痕となることが多い。

英語ではLead Bulletだが、国内の狩猟界等では、古くからこれをリードあるいはリード・ブレットと呼ぶ習わしがあった。リード線など導く意味では同じ綴りをリードと読むが、鉛の意味ではレッドと読む。これも赤の意味のRedの発音とは区別を付けなければならず、日本人には難しい読みである。
Lead Bullet
鉛ラッピング
なまりらっぴんぐ

腔旋の最終仕上げで行われる仕上げ加工。

鉛ラッピングを行うには、まずラップ棒と呼ばれる銃腔より若干細い鋼鉄製の円筒棒を銃身の一端から銃腔に通し、銃身の他端を銅板等でシールする。ラップ棒とシール部との間隔が2~3cmとなるようにラップ棒を固定し、銃身を垂直に保持する。銃腔とラップ棒との間に適量の溶融鉛を注ぎこみ、鉛が凝固するのを待つ。

鉛が凝固したら、シールを取り外し、鉛の円筒部分が銃身から出てしまわないように、ラップ棒を手で握って、腔旋に沿った回転が自然に行われるように手でゆっくりと押しこむ。鉛の円筒部分が適度に露出したところで、ラップ棒を手前にゆっくりと引く。やはり鉛の円筒部分が銃身から外れない部分で止める。この操作を、ラップ棒を押し引きする時の抵抗が一定(どこかで引っかかったりしない)となるまで繰り返す。通常10回以上は繰り返さない。終了後は鉛ラップを静かに引き抜く。

この操作によって、鉛ラップの表面から脱落する鉛の粉末が研磨剤となって、腔旋表面が磨き上げられる。腔旋のエッジ部にあるバリや、切削くずを巻き込んで生じた損傷痕が滑らかになる一方で、鉛粉末による腔旋に沿った微細な線条痕が付け加わる。

鉛ラップは、使い込んで痛んだり錆が発生した銃腔のリフレッシュにも用いられる。その場合は、銃身の前後で露出する鉛の円筒部に研磨液をまぶしながら操作する。この種の鉛ラップでは、銃腔表面は清浄化、平坦化されるものの、10往復以上繰り返すと、旋丘が20~30μも研磨されてしまうため、過度の鉛ラップは禁物である。
Lead Lapping
ノーベロイ
弾丸被甲鉛弾丸のメッキに用いられる合金で、英国のノーベル工業(Nobel Industires Limited)の登録商標。ウエスタン実包のルーバロイと同等のもの。

銅と亜鉛の割合が9:1のギルディングメタルに1~2%の錫を添加した合金。メッキ弾丸の製造に用いる場合は、この割合に調整した電解液を用いて鉛弾丸にメッキが施される。
Nobeloy
乗り上げ痕(ブローチの)
のりあげこん(ぶろーちの)
腔旋ブローチの刃の間の部分が腔旋加工を行っている銃腔の旋丘部分に接触することによって、旋丘に残され銃身の長手方向の線条痕。<BR>
腔旋ブローチによって切削加工された腔旋の旋底には長手方向の線条痕が残され、連続生産された銃身の旋底に類似した線条痕が残される可能性がある。そのため、このような類似線条痕のある銃身から発射された弾丸の旋底痕にもその類似性が引き継がれる可能性があることが指摘されている。一方、腔旋の切削加工の過程で、銃身の旋丘部分に切削刃は接触せず、旋丘には長手方向の線条痕は残されず、例え連続生産された銃身から発射された弾丸の間であっても、旋丘痕には類似線条痕が出現しない。

この原則に対する例外の報告がある。腔旋ブローチが旋丘部分に乗り上げることよって、旋丘に長手方向の線条痕が残されることがあることがその理由である。ブローチの刃は、腔旋の断面の形状と対応した、山と谷が交互に並んだ歯車のような形状をしている。ブローチの山の部分が切削刃であり、この部分が腔旋(旋底)切削に使用される。谷の部分は口径より細くなっていることから銃腔の旋丘とは接触しない。腔旋ブローチは使用を重ねると刃が摩滅し、そのたびに刃の研ぎ直しが行われ、限度以上に刃が摩滅すると廃棄される。

ところで、廉価な銃では、廃棄された腔旋ブローチを研ぎ直したブローチまで利用して腔旋の加工が行われることがあるという。乗り上げ痕が生じるのはこのような場合だとされ、米国製の口径0.32インチの回転弾倉式拳銃やメキシコ製の0.22インチのライフル銃でその例が見られたとの報告がある。摩滅した腔旋ブローチは口径が一段階細い銃身に利用されるため(摩滅した口径0.38インチ用の腔旋ブローチで口径0.32インチの腔旋を加工したり、摩滅した口径0.32インチ用の腔旋ブローチで口径0.22インチの腔旋を加工する)、口径0.38インチや9mmの拳銃で乗り上げ痕が生じることは考えにくい。

このような痕を根拠にして、複数の発射弾丸の旋丘痕の間に対応痕跡があったとしても、それらが必ずしも同一銃器によって発射されたものと結論できないとする主張がある。ただ、一般的にはこのような廉価な銃は、例え銃腔形状が類似していたとしても、銃身のフレームへの取り付け方の変動によって発生するミスアライメント痕が銃ごとに異なることや、弾丸発射(この種の銃では通常鉛弾丸が発射される)に伴う銃腔への鉛の付着による固有特徴の発生などの理由から、経験を積んだ発射痕鑑定者の結論を誤らせる可能性は低いと考えられる。また、このような特殊な銃器が、捜査線上に浮かんだ容疑者周辺に2丁あることは、国内の銃器情勢からは考えにくい。
Ride on Marking
排きょう口
はいきょうこう

自動式銃器で、薬室に一旦装填したものの発射しなかった実包、あるいは打ち殻薬きょうを銃器から排出する開口部。

自動装填式拳銃では、スライドの上方、右側、右上方に開けられているものが多い。
Ejecton Port
排きょう口痕
はいきょうこうこん

排きょう口から排出される際に、薬きょうの一部が排きょう口と衝突することによって、薬きょうの側面に残される工具痕。

衝突形態によって、小型の圧痕から範囲の広い擦過痕まで、その痕跡形状には様々なものがある。痕跡形状の異なる複数の痕が残されることもある。

銃種によっては痕跡特徴の多い排きょう口痕が残されることがあり、痕跡の再現性も意外に高く、その他の種類の痕跡に特徴が乏しい場合には、発射銃器の異同識別にきわめて重要な役割を果たす場合がある。この種の特徴量の多い痕跡は、薬きょうの変形を伴って付けられており、再生実包に見られる古い痕跡ではないことも、その変形状態から推定できる。
Ejecton Port Marks
パイロット(腔旋ボタンの)
押し込み型のボタンの先頭にある円筒部分。銃腔径よりわずかに細い円筒となっている。腔旋加工を開始する際に銃腔に差し込まれる部分で、その後ボタンが真っすぐに押し込まれるためのガイドの役割を果たす。

押し込み型ボタンで腔旋を加工する手順は、銃腔に銃腔径と同等径の円筒状プラスチックプラグを少し押し込み、生じた空間に潤滑油を満たす。続いて、腔旋ボタンのパイロット部分を銃腔に差し込む。それから銃身を油圧プレスにセットし、腔旋ボタンを押し棒を用いて押し込む。

紡錘状をしているボタン本体の表面には低摩擦窒化チタニウム処理が施されており、黄色い色調をしている。潤滑油と低摩擦窒化チタニウム処理の効果により、ボタンの形状に従い、ボタンは自然と回転しながら銃腔内に腔旋を塑性加工しながら押し通される。
Pilot
箱弾倉
はこだんそう

自動装填式銃器あるいは全自動式銃器に用いられる弾倉。英語のBox Magazineの訳語であり、箱形弾倉とも呼ばれる。

銃器本体から取り外せるものと、銃本体に作りつけられているものとがある。取り外せるものは着脱式箱弾倉、あるいは単に着脱弾倉と呼ばれることもある。箱型弾倉とも呼ばれてきた。

細長い直方体状の箱形のものが多いことから、この名称がある。特に箱弾倉と言わなくても、拳銃の弾倉の大半は箱弾倉である。必ずしも直方体状をしていないもの、たとえば、AK47の弾倉に代表されるようなバナナ型の弾倉も箱弾倉に分類される。

実包をまっすぐに並べて弾倉内に収納している単列弾倉(シングル・カラム・マガジン)と、実包が千鳥状に並んで収納される複列弾倉(スタッガード・カラム・マガジン)とがある。グリップの内側に弾倉が収納される場合に、単列弾倉では手の小さな者でもグリップを握りやすくできる。複列弾倉は、グリップは厚くなるが、装弾数を倍近くにできる利点がある。

実包と弾倉との間には接触部があり、実包を弾倉に装填する際と、実包が弾倉から薬室に装填される際に、接触部には擦過痕が残される。箱弾倉の側板頂部の湾曲部(マガジンリップによってが薬きょうの縁に付けられるマガジンリップ痕がその代表的なものである。箱弾倉の後端面が薬きょう底面に擦過痕を残すこともある。特に後端面の頂部の凹凸が大きい場合に、薬きょう底部に残される擦過痕が遊底頭面による擦過痕と類似した形態となることがある。

同一銃器から排出された打ち殻薬きょうに残される発射痕であっても、弾倉に由来する痕跡は、弾倉が交換されれば当然変化する。比較対照している資料間で遊底頭痕様の痕跡に矛盾点がある場合、それが弾倉に由来する痕跡の可能性がないか、弾倉を用いずに薬室に直接装填された実包が含まれていないか等の検討が必要となる場合がある。
Box Magazine,
Stick Magazine
発火金
はっかきん

雷管の内部にある金属部品あるいは薬きょうの金属部分で、撃針の雷管への打撃力を受け止め、撃針との間で雷管内部に塗布された爆粉を挟み付け、生じた断熱圧縮に伴う温度上昇によって発火させる。

ボクサー型雷管では、黄銅等の金属板を山状にプレス加工した曲面構造をした部品で、山の裾野部分は、2弁あるいは3弁に分かれており、点火された爆粉の炎は、その隙間を通過して噴火口へと導かれる。

ベルダン型雷管では、薬きょう底部の雷管室中央が山形に盛り上がった形状にプレス加工されており、この部分が発火金である。

散弾銃用実包に使用される猟用雷管では、黄銅等の金属板をプレスで打ち抜いた平板状部品で、一端の中央部が山状にとがっており、他端が丸くへこんでいる。

英語ではAnvilで、撃針の雷管への打撃力を受け止める部品という定義から、縁打ち式実包を使用する銃器では、薬室の後端面の起縁を受け止める部分をAnvilとしていることから、この部分も発火金に相当する。
Anvil
発火金分離型雷管
はっかきんぶんりがたらいかん

ボクサー型雷管のこと。

ハッチャーのテキストにはベルダン型雷管の名称はあるが、ボクサー型雷管の名前はなくseparate anvil primerの語が用いられている。発火金が個別の部品となっている雷管という感じの用語だが、日本語が長くなるので発火金分離型雷管とした。

発火金が別の場所、すなわち雷管室内にあるベルダン型雷管の方が発火金分離型雷管のように感じるかもしれないが、ここで発火金が分離しているのは雷管からではなく薬きょうから分離してることを指しており、ボクサー型雷管の名称として初期に使用されたものである。

現在ではボクサー型雷管の用語が一般的になっている。

わざわざ発火金分離型という特別な用語があることから分かるように、発火金が雷管に内蔵されていないベルダン型の雷管は、管打ち銃で使用されていたパーカッション・キャップがそのまま利用でき、古くから存在した。薬きょう底部に発火金付きの雷管室を加工するのと、発火金なしの雷管室を加工するのでは、その手間は変わらない。ただ、ベルダン型では噴火口の加工を細いドリルで2回行う点が、ボクサー型と比較して工数増となるだけである。そのため、単純な雷管を使用するベルダン型の方が廉価製造が可能であり、軍用実包では現在でもベルダン型雷管が使用されることがあり、急場しのぎの製造では特にベルダン型雷管が利用される。
Separate Anvil Primer
発射済み薬きょう
はっしゃずみやっきょう

弾丸を発射した後に残される薬きょうのことで、打ち殻薬きょうと同意。 Discharged Cartridge,
Discharged Cartridge Case
バニシ仕上げリーマー
ばにししあげりーまー

仕上げ加工リーマーで仕上げられた銃腔に通す加工工具。

銃腔面にフルートの入った円筒状のリーマーを強く押しつけながら回転させることによって、銃腔面に残存する工具痕を塑性変形させてつぶし、銃腔を最終形状に仕上げる。

バニシ仕上げリーマーは、形状-や構造は荒削りリーマー仕上げ加工リーマーと類似しているが、切削刃は付いておらず、タングステンカーバイドの円筒面が実質的な加工工具となる。

他の銃身リーマーと同様、加工粉を排出するためのフルートがあり、潤滑油を送り込む管路が軸心に開けられている。 

バニシ仕上げリーマーを通された銃腔表面は極めて滑らかな鏡面状になり、耐摩耗性や耐腐食性が向上する。そして銃腔内径が口径となっている。

良好な仕上げ加工が行われた銃腔には、発射弾丸に深さのある線条痕を残すような工具痕は除去されている。新製品の段階で再現性のある深い線条痕が発射弾丸の旋底痕に残される場合は、バニシ仕上げが行われていない銃身の可能性が考えられる。

セブ島、ダラ村等の密造銃では、そもそも銃腔にリーマー加工をしないものもある。リーマー加工を行っている場合でも、荒削りリーマーを通すだけの場合が多い。
Burnishing Reamer
バニシボタン
ブローチやボタンで加工された腔旋の形状を整えるとともに、腔旋の表面を磨き上げるために通されるボタン。

ボタン加工された腔旋の旋底は、鏡面状の滑らか表面となっており、銃腔の対摩耗性や耐腐食性を向上させるが、銃身に残留応力を発生させ、命中精度に問題を残す。そのため、塑性加工量を抑え、かつ滑らかな腔旋を仕上げるために、最初は腔旋ブローチを通し、仕上げ用にボタンを通し、さらにバニシボタンを通すという順で腔旋を加工することで、表面が滑らかで、かつ残留応力の少ない銃身として加工される。

たとえば、3本組のブローチで腔旋を切削加工する代わりに、3番ブローチの切削加工ををボタン加工に変更し、最後にバニシボタンを通す。このような加工法を採用すると、腔旋ボタンのみによる加工と比較して塑性加工量が減少する上、腔旋の表面も滑らかに仕上げることができ、命中精度と耐久性の高い銃身が製造可能である。

バニシボタンで仕上げられた腔旋では、ボタンと銃腔との間に切削くず等の異物の巻き込みさえなければ、きわめて滑らかな表面に仕上げられることから、発射弾丸に再現性のある痕跡を残すだけの深さのある工具痕は残されていない。
Burnishing Button
半起縁型薬きょう
はんきえんがたやっきょう

きょう底の起縁の外径が抽筒溝近傍のきょう体外径より若干大きい薬きょうをいう。

口径の小さい自動装填式拳銃に用いる薬きょうはがこれに該当する。

この形式の薬きょうは、薬室後端部が薬きょうの縁の下部を支えることによって撃針の打撃力を受け止める。したがって、ヘッドスペースは薬室後端部と砲底面あるいは遊底頭面、閉塞壁面などとの距離となる。
Semi-rimmed Case
半被甲弾丸
はんひこうだんがん

被甲弾丸を側方から見たとき、弾丸頭部側に弾丸の長さのほぼ半分の長さで弾芯が露出している弾丸。

英語のHalf-Jacketed Bulletの訳語として採用した

発射痕鑑定の分野では、従来Semi-Jacketed Bulletの訳語として「半被甲弾丸」の用語が用いられてきたが、これを「部分被甲弾丸」に変更することで、半被甲弾丸の定義を厳密化した。

Semi-Jacketed Bulletと呼ばれる弾丸の大半は、弾丸の長さの1/5~1/4程度しか弾芯が露出しておらず、半分の被甲という用語からは外れている。

英語では1/2Jacketedと呼ばれることは少ないが、1/2被甲弾丸と呼んでもよいだろう。

弾丸頭部側から弾芯を覆った前方被甲の円頭弾丸で、弾丸底部側のほぼ半分で弾芯が露出した弾丸を、Metal Pointという商品名で米国のレミントン社が以前販売していた。この弾丸は、被甲する方向が異なることから、Semi-JacketedにもHalf-Jacketedにも該当しない。
Half-Jacketed Bullet
被甲
ひこう

弾丸弾芯を覆う金属の薄板材をいう。

多くの場合で、弾芯より硬い金属材料が用いられる。その例外には、弾芯に鋼が用いられる徹甲弾丸と、鉛の弾芯をナイロン樹脂で覆うナイクラッドが挙げられる。

被甲に用いられる材料の主なものには、ギルディング・メタル、銅、黄銅、ニッケルメッキ黄銅、クロームメッキ黄銅、青銅、白銅、白銅メッキ鋼、クロームメッキ鋼、ニッケルメッキ鋼、塗装した鋼、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、アルミニウム合金、ナイロン(ナイクラッド)等がある。鋼被甲の場合は、鋼の腐食防止のために被甲の内外面ともメッキされていることが多い。

代表的な被甲材料であるギルディング・メタルは、90~95%の銅とその残部を亜鉛で構成した合金である。ルーバロイあるいはノーベロイと呼ばれるものは、ギルディング・メタルに少量の錫を添加した合金で、良質の被甲材として知られる。被甲材に用いられる白銅は、通常の白銅よりニッケル成分が多い銅60%、ニッケル40%のものが用いられてきた。

被甲の厚さや硬さは、目的に応じて調整される。弾丸が標的に命中した際に大きく拡大させたい場合には、弾丸頭部被甲は薄くされ、侵徹性能を狙う弾丸では頭部の被甲が厚くされる。

被甲の製造法は薬きょうの製造法と同様で、薄板からプレスによって円盤状の板を打ち抜き、引き抜き加工で深絞り成形し、弾芯と結合した上でナーリング溝の加工などが施される。
Jacket,
Bullet Jacket
被甲弾丸
ひこうだんがん

通常鉛の弾芯を被甲金属で覆った弾丸。

無煙火薬の出現により、高初速、高威力の弾丸が発射できるようになると、鉛弾丸では腔旋とのかみ合い時に滑りが多くなり、弾丸が変形したり、弾軸周りの回転が不足する傾向が生じた。さらに弾表面の鉛の溶融が促進され、銃腔への鉛の付着量が増加も深刻となった。このような不都合を防止しながら、比重の大きな鉛弾丸の特性を生かすために開発されたのが被甲弾丸である。

弾丸頭部方向から弾芯を覆う前方被甲弾丸、弾丸底部方向から弾芯を覆う後方被甲弾丸、弾芯を完全に覆っている完全被甲弾丸がある。被甲長と弾丸長の比に基づき、全被甲(弾丸長と被甲長が同等)、3/4被甲、半被甲(1/2被甲)、1/4被甲弾丸がある。

被甲に用いられる材料には、丹銅、黄銅、白銅、軟鋼があり、白銅にはニッケルメッキがされることがあり、軟鋼には銅メッキ、丹銅メッキ、黄銅メッキ、白銅メッキ、ニッケルメッキがされることがある。

弾芯には純鉛が使用されることが多いが、軍用の弾丸では鋼鉄芯を埋め込んだ鉛が使用されることもある。

後方被甲弾丸では、弾丸先端に露出している鉛の弾芯の形状により、ソフトポイント、ホローポイントに2大別される。

現在、口径0.22インチを除くライフル銃用実包の大半は被甲弾丸を用いており、自動装填式拳銃用の実包も被甲弾丸が用いられている。回転弾倉式拳銃でも、威力の大きな実包では原則的に被甲弾丸が用いられている。軍用の実包は、陸戦の法規と慣例に関するハーグ条約にしたがい前方被甲の全被甲弾丸を用いることになっている。警察用の実包も、多くの国が前方被甲の全被甲弾丸を用いているが、アメリカ合衆国は、後方被甲のホローポイント弾丸を用いている警察が多い。
Jacketed Bullet
ヒール
弾丸径薬きょうきょう口外径とほぼ等しい実包弾丸で、薬きょうに挿入されている部分をいう。

この部分の弾丸径は、それより弾丸頭部側の弾丸径より、薬きょうの肉厚分だけ細くなっている。

このような形状の弾丸はヒール弾と呼ばれ、過去には鉛弾丸を使用する各種の縁打ち式実包でヒール弾が使用されてきた。現在でも、口径0.22インチ・ショート型、口径0.22インチ・ロング型、口径0.22インチ・ロングライフル型の縁打ち式実包ではヒール弾が用いられている。
Heel
ヒール弾
ひーるだん

>鉛の長形弾丸で、薬きょうに挿入されている弾丸尾部薬きょうの肉厚分だけ細くなっている弾丸

過去には鉛弾丸を使用する各種の縁打ち式実包ヒール弾が使用されてきた。現在でも、口径0.22インチ・ショート型、口径0.22インチ・ロング型、口径0.22インチ・ロングライフル型の縁打ち式実包ではヒール弾が用いられている。その他に、22CBキャップ、22BBキャップ、22スティンガーなどでもヒール弾が使用されている。

これらのヒール弾は鉛弾丸であることから、弾丸表面を適切に潤滑しないと銃腔への鉛の付着と堆積が問題となる。ヒール弾ではこれを防止するための潤滑剤(グリース)が薬きょうから露出している弾丸円筒部に塗布されている。このことから外部潤滑型弾丸とも呼ばれる。

外部潤滑型弾丸では、取り扱い時に手や衣服(ポケットに入れた場合など)が潤滑剤によって汚れることや、潤滑剤が砂粒や埃を堆積させるなどの欠点がある。そのため猟用に用いる実包では、潤滑剤を塗布する代わりに、弾丸表面に銅や黄銅をメッキした弾丸が用いられることが多い。
Heel Bullet
フック・カッター
銃腔の腔旋加工工具の一つ。初期の腔旋加工に用いられたもので、加工に手間がかかることから、現在ではほとんど使用されることはない。

フックとは、鉤(かぎ)あるいは鉤で引っ掛けるという意味で、鉤状の段差のある切削工具で腔旋を切削加工する。

腔旋加工に際して、フック・カッターはスクレイプ・カッターと同様に腔旋棒の加工ヘッド部に組み込んで使用する。フック・カッター用の腔旋棒の加工ヘッドには開口窓は一方向にしかなく、その窓からフック・カッターの鉤型の刃をわずかに突出させた上で、腔旋加工棒を引いて腔旋を加工する。腔旋棒は、腔旋の回転角度に相当する回転をさせながら銃腔内を引かれる。フック・カッターによる1回の切削量はスクレイプ・カッターの切削量より多くできることから、短時間での腔旋加工が可能だが、その分、仕上げ面が粗くなる。精度の高い銃身の製造には、スクレイプ・カッターと同様の少量の切削を繰り返すことになる。

奇数条の腔旋の加工には、1条ずつ腔旋を加工するフック・カッターが用いられる。ただ、フック・カッターでも偶数条の腔旋の加工を行うこともできる。5条の腔旋をフック・カッターを用いて加工する場合、腔旋加工棒を1回引いて1条の旋底を加工したら、銃身を72度回転させて、次の旋底を加工する。このように順次5条の旋底を少量切削したら、腔旋棒の端部にあるねじを回転させて、フック・カッターの頭を押しこむことによって、腔旋棒の加工ヘッドからフック・カッターが突出する量を増加させる。この工程を繰り返して、腔旋を少しずつ目的の深さまで加工して行く。

フック・カッターで加工された腔旋の旋底には、すべての条で互いに類似した線状加工痕が残される傾向がある。その一方で、一本の銃身の腔旋を加工する過程で、切削カッターに損耗が発生するため、次に加工される銃身に残される加工工具痕と前に加工した銃身に残される工具痕の間では相違が大きい。すなわち、銃身ごとの加工痕跡の差異は、同一銃身の異なる旋底との間に見られる痕跡差異よりずっと大きくなる。

このことから、連続生産された異なる銃身による発射弾丸との間に見られる発射痕の類似性は、同一銃身から連続して発射された弾丸の非対応旋底痕の間に見られる発射痕跡の類似性を下回ることが保証されている。

廉価な銃では、腔旋棒を20回から40回引くことで腔旋を仕上げてしまうが、このような加工では粗い加工工具痕が旋底に残されることになり、発射弾丸の隣り合う旋底痕に類似性の高い線条痕が見られることがある。ただ、そのような加工を行うとカッターの刃の変化も大きく、連続生産された銃身から発射された弾丸に類似した旋底痕が残される可能性は低い。ただし、フック・カッターの刃に大きな欠けが生じた状態で加工を続けた場合は例外である。
Hook Cutter
部分被甲弾丸
ぶぶんひこうだんがん

被甲弾丸を側方から見たとき、弾丸頭部側に弾芯が露出した部分のある弾丸。英語のSemi-Jacketed Bulletの訳語として採用した。

発射痕鑑定の分野では、従来Semi-Jacketed Bulletの訳語として「半被甲弾丸」の用語が用いられてきたが、これには、以下のような問題点がある。

法廷証言の速記録に「反被甲弾丸」と書き取られてしまった例があり、「はん」という用語には耳から入った場合の曖昧性が大きい。今後裁判員制度が導入されると、法廷で鑑定書が読み上げられる機会が増大することが考えられ、聞いた時の分かり難さを減少させる必要性が高くなる。

被甲の種類を細分する場合にはHalf Jacketed、 3/4Jacketed、4/5Jacketedの用語が使用されることがあり、半被甲は、弾芯の長さの半分程度を被甲したHalf Jacketedとの混同を招く(従来半被甲弾丸と称されてきた弾丸の大半は3/4被甲から4/5被甲である)。

この二つの理由から、従来使用されて来なかった用語とはいえ、今後は部分被甲弾丸と表現すべきとの結論に至った。
Semi-Jacketed Bullet
噴火口
ふんかこう

薬きょう底部の雷管室と薬きょう円筒部内側を連絡する小口。

ボクサー型雷管を使用する薬きょうでは、雷管室の中央部に1個の噴火口が開けられている。ベルダン型雷管を使用する薬きょうでは、雷管室中央にある発火金の周囲に2~3個の噴火口が開けられている。噴火口は、薬きょう製造の最終工程近くで、ドリルによる切削加工で穴開けされる。その後の工程は熱処理や洗浄、磨き上げの工程のみである。

撃針が雷管を打撃すると、発火金との間に挟まれた爆粉に点火され、発生した炎は噴火口を通じて薬きょう円筒部の火薬室内に伝えられ、発射薬の急速燃焼が開始される。

旧JIS(JIS B9805 散弾銃用薬きょう)では噴火口の名称を採用していたことからこの呼び名を採用したが、以前は噴火孔の漢字を用いており、導火口あるいは伝火口とも呼ばれていた。
Flash Hole
閉塞壁>
へいそくへき

薬きょうの底面と雷管の底面に接して、弾丸発射時に発生する高温高圧ガスによって作用する薬きょうの後退力を受けとめる銃の部品の表面。

主に、回転弾倉式拳銃の部品についていう。回転弾倉式拳銃では、多くの場合でフレーム(銃刀法では機関部体)の一部となっており、この部分に円形の閉塞板という別部品が埋め込まれていることもある。
Breechface
閉塞壁痕
へいそくへきこん

 薬きょう底部が閉塞壁面に圧着された際に、閉塞壁面の工具痕が薬きょう底部及び雷管底部に転写されてできる痕跡。

日本では、回転弾倉式拳銃が薬きょうを支える部分を閉塞壁と呼ぶことから、回転弾倉式拳銃の打ち殻薬きょう底面に転写された痕跡を閉塞壁痕と呼んできた。英語ではBreechface markingsである。

回転弾倉式拳銃の中には、薬きょう底部と接する部分に閉塞板という部品がはめ込まれていることがある。しかし、そのような場合でも、薬きょうの底面に付けられる痕跡を閉塞板痕と特にいうことはない。発射痕跡から閉塞板の有無の判別を確実に行うことができないことがその理由であろう。

薬きょう底面はきょう体の底部と雷管面とに大きく二分できる。雷管は完全な消耗品で、再使用不能であることから、雷管面に残される閉塞壁痕は、その痕跡を発射拳銃とを結びつける上で特に重要である。逆に再使用を繰り返した薬きょうのきょう体底部に残される痕跡は、複数の拳銃の痕跡が重なり合っている可能性が高く、最後に使用した拳銃の痕跡がどれであるかを見極める必要がある。

一方、雷管面には、雷管製造時に工具痕が深く付けられることがある。このような工具痕は平行状のものが多く、同心円状のものは少ない。閉塞壁痕が付けられている雷管面は、拳銃の閉塞壁と接触して平坦状となっている。この雷管製造時に付けられる工具痕は、撃針痕周囲の斜面や雷管外縁の傾斜部にも付けられていることから、閉塞壁痕と区別可能である。雷管の平坦部、すなわち拳銃の閉塞壁との接触部位がどこであるかは、雷管面に同軸落射照明を当てて観察することによって判別できる。
Breechface Markings
平頭弾
へいとうだん

弾丸頂部に平坦面のある弾丸。

円頭弾の中央部を平坦にした形状のものと、円錐台状のものとがある。円錐台状のものはTruncated Coneと呼ばれる。これを截頭弾(せっとうだん)と呼ぶと先輩から教わったが、余り使われていないようだ。

チューブ型弾倉を用いるライフル銃では、弾丸発射で生じた反動で弾丸頭部が次弾の雷管を打撃して暴発するのを防止する上で、弾丸頭部を平坦にする必要がある。

ライフル銃用の弾丸では、平頭といっても弾丸頂部の平坦部の径が口径の半分以上あるものは少ない。その理由は、空中での弾道性能の低下の防止するためと考えられる。

平頭弾は、円頭弾や尖頭弾より水中での直進性が高いことが知られている。

口径が大きく威力の大きな拳銃弾では、平坦面の径の大きな平頭弾が多く見られる。拳銃は短射程で用いられるため、空気抵抗を気にすることはなく、貫通力が過大にならないようにしながら、標的に大きなダメージを与える効果を狙っているものと考えられる。
Flat Nosed Bullet,
Flat Point Bullet,
Truncated Cone Bullet
ヘッドスペース
頭隙を意味する英語をカタカナにしたもの。

銃器に実包を装填した際に、実包の前後が薬室内で固定される部位間の距離を表す。

頭隙はヘッドスペースの直訳だが、具体的に何を指しているのか分かりにくい用語であり、ヘッドスペースの方が指している事柄を感じ取りやすい用語である。
Headspace
縁打ち式実包
へりうちしきじっぽう

雷管が薬きょう底部の周辺部にある実包。

その起源は19世紀フランスのパリの銃工ニコラ・フローベル(Nicholas Flobert)が1840年代に発明した22BBキャップ(22 BB Cap)まで起源をさかのぼる。22BBキャップでは、銅製の縁打ち式薬きょうに鉛の球形弾丸が装填されたものであり、発射薬は用いられていなかった。 現在でも銅製の薬きょうが用いられているものもあるが、通常黄銅板を打ち抜いた円板を深絞り加工して製造された薬きょうが用いられる。細長い円筒カップ状のものを製造したのち、薬きょう底部の周辺部にフランジ状のふくらみが成形され、その内側に遠心力を利用して点火薬が塗布されるといわれる。その後、発射薬を装填し、弾丸が組み付けられる。

縁打ち式実包の製造技術をもっている会社は、世界的に大手の実包メーカーに限定されているが、これらの会社が廉価な大量生産品を提供している。

英語ではRimfire cartridgeで、直訳すれば縁(へり)発射式実包である。点火薬を発火させるためには、撃針の打撃力で黄銅の薄板をつぶす必要があり、不発防止のために薬きょう底部の板厚を増加させることができない。威力の大きな実包を縁打ち式にすると、弾丸発射時に生じる発射薬の燃焼圧力によって薬きょう底部が破断する。

以前は0.44インチといった大きな口径のものも製造されていたが、現在では、口径0.22インチ以下のものだけが製造されている。この口径の黄銅の板厚は約0.3mmとなっている。なお、0.22インチ以上の口径のものは、口径0.32インチの縁打ち実包をブラジル連邦共和国のCBCが1990年に製造販売したものが最後とされている。

縁打ち式実包は廉価ではあるが、打ち殻薬きょうを再使用して実包を製造することはできない。
Rimfire Cartridge
縁打ち式雷管
へりうちしきらいかん

縁打ち式実包あるいは縁打ち式空包の縁の内側に点火薬が塗布されている雷管の形式。

きょう体と雷管部分の境界を薬きょう外部から確認できない。

撃針が薬きょう底部の縁のどこを打撃しても、点火薬を起爆可能である。
Rimfire Primer
ベルダン型雷管
ベルダンがたらいかん

中心打ち式雷管の形式の一つで、雷管体の内側に、点火薬を塗布し、裏ぶたで押さえた構成となっている。

この雷管は、薬きょう底部の中心部に穿たれた雷管室に押し込んで固定される。雷管室の中央には発火金が作りこまれており、撃針が雷管の中心部を打撃すると、へこんだ雷管体と発火金との間で挟まれた点火薬が発火する。その火は発火金の脇に開けられた通常2つの、場合によっては3つの噴火口からきょう体内部に入り、発射薬に点火する。

発火金が中央にあることから噴火口を中央に開けることはできず、噴火口は発火金の周囲の2~3箇所に開けられている。そのため脱管が難しいが、たとえ同時に2本あるいは3本の脱管棒で押して脱管し、新たな雷管を装着しても、1度雷管を撃発させると発火金もいくばくかはへこんんでしまうことから、新たな雷管を挿入して実包を製造したとしても、その実包は不発につながりやすく、正常な機能は保障されない。そのため、打ち殻薬きょうの再使用はできない。

1860年代に、アメリカ陸軍軍需品部のハイラム・S・ベルダン大佐(Colonel Hiram S. Berdan)が設計した。軍用実包では、もっぱらベルダン型雷管が使用されてきた。
Berdan Primer
ベルト付き薬きょう
べるとつきやっきょう

無起縁型薬きょうに似ているが、抽筒溝近傍のきょう体部が、ベルトを巻いたように短い区間が隆起していて、それよりきょう口側が細くなっている薬きょう。

主に、威力の大きなマグナム型のライフル銃用実包に用いられている薬きょうの形式。起縁の外径とベルト部の外径とはほぼ等しい。ベルト付き薬きょうでは、ベルト部前方の薬きょう径をきょう体径とする。

ベルト付き薬きょうを発射する銃器では、薬室内に薬きょうのベルト部前端を支える段差がりあり、この部分が薬きょうを支えることによって撃針の打撃力を受け止める。したがって、ベルと付き薬きょうの実包を用いる銃器では、この薬室内段差部から砲底面あるいは遊底頭面、閉塞壁面などとの距離がヘッドスペースとなる。
Belted case
砲底間隙
ほうていかんげき

頭隙あるいはヘッドスペースと同じ。

  銃器に実包を装填した際に、実包の前後が薬室内で固定される部位間の距離を表す。
Headspace
砲底面
ほうていめん

薬きょうの底面と雷管の底面に接して、弾丸発射時に発生する高温高圧ガスによって作用する薬きょうの後退力を受けとめる銃の部品の表面。

主に、散弾銃、手動装填式のライフル銃の部品について用いられている。
Breechface
ボクサー型雷管
ボクサーがたらいかん

中心打ち式雷管の形式の一つで、雷管体の内側に点火薬を塗布し、発火金を挿入し裏ぶたで押さえた構成となっている。この雷管は薬きょう底部の中心部に穿たれた雷管室に押し込んで固定される。雷管室の中央には、きょう体内部と通じる噴火口と呼ばれる穴が開いている。

撃針が雷管の中心部を打撃すると、へこんだ雷管体と発火金との間で挟まれた点火薬が発火し、その火は噴火口からきょう体内部に入り、発射薬に点火する。雷管は1回限りの使い捨てであるが、きょう口側から噴火口を通して脱管棒(Decapper)で突くことにより雷管を取り除き(脱管)、新たな雷管を雷管室に挿入することによって、打ち殻薬きょうの再使用が可能である。

フランスのウールウッチ兵器工場の研究所のエドワード・M・ボクサー大佐が1866年に開発した。
Boxer Primer
ボートテール
弾丸円筒部より後方で、ボートの尾部のように弾丸底部に向けて弾丸径が絞られた部分、あるいはその形状をいう。船尾型弾丸尾部といえるだろうか。

ボートテールは、弾丸底部に生じる空気の希薄部によって弾丸に作用する引き戻し力を低下させる効果がある。しかし、この抗力低減効果が発揮されるのは長射程においてのみであり、最大でも50mの射程でしか利用されない拳銃の弾丸では、ボートテールを付けても、それによる存速増大効果や横風の影響低減効果はほとんどん現れない。したがって、拳銃用の弾丸ではボートテールはなく、弾丸底部まで円筒部となっている。

逆に超音速の弾丸では、弾丸底部に作用する引き戻し抵抗力は弾丸頭部に作用する空気抵抗力と比べるとはるかに小さい。ただ、このわずかな抵抗力の差も、長射程では存速増大効果を発揮するため、高初速のライフル銃用弾丸や、長射程の狙撃用の弾丸ではボートテールが付けられることが多い。
Boattail
ボールバニシ加工
ぼーるばにしかこう

リーマー仕上げされた銃腔内に、銃腔内径より径が若干大きな鋼球を押し通し、銃腔面を塑性加工することによって、銃腔を最終形状に仕上げる加工法。バニシ仕上げリーマー加工の代わりに行われることがある。

ボールバニシを施すと、銃腔表面は極めて滑らかな鏡面状になり、耐摩耗性や耐腐食性が向上する。そして銃腔内径が口径となる。

シャンクに取り付けられた鋼球を、一定速度で1回だけ押し通す。それまでに行われた銃腔の加工に伴う銃腔面に残された円周方向の工具痕は完全に潰され、銃腔は鏡面状となる。残される工具痕があるとすれば、銃腔の軸方向の擦過痕である。これに対して、バニシ仕上げリーマーによる加工では、円周方向の擦過痕が残される可能性があるが、いずれにしても発射弾丸に再現性のある痕跡を残すだけの深さのある工具痕は消されている。

ボールバニシ仕上げは、鋼球を一定速度で送ることが重要で、密造銃身で行われるように、鋼球を叩いて押し通した場合には、銃腔内にリング状の段差が生じてしまう。
Ball Burnishing
ホロー・ポイント弾
ほろー・ぽいんとだん

弾丸頂部に穴のある弾丸。穴をあける目的は、生体に命中した際の弾丸頭部の拡大を促進することにある。

ホローとは穴を意味しており、ポイントは先端を意味している。先端穴付き弾と訳せる。多くの場合で鉛合金の弾芯に穴が加工されているが、銅あるいは銅合金等の中実弾(solid bullet)の先端に穴が開けられたホロー・ポイント弾も例外的に存在している。

生体命中時の弾丸頭部拡大効果はソフト・ポイント弾より大きい。標的命中時に生体組織が穴の中に連続的に流入し、先に流入した組織が側方への拡大を伴いながら逆流する際に発生する圧力で、弾丸の中心部から側方へと頭部が拡大される。この弾丸頭部拡大効果は、弾丸着速が大気中の音速を超えた付近から増加し、亜音速域での効果は小さい。弾丸頭部の拡大効果を発揮する超音速域では銃腔への鉛の付着が問題となることから、後方から弾芯を覆う部分被甲弾丸で利用されることが多い。その種の弾丸は、ジャケッティド・ホロー・ポイント弾(部分被甲先端穴付き弾)と呼ばれ、JHPと略称される。

弾丸頭部が適度に拡大した場合には、キノコ状になることから、そのように変形した弾丸はキノコ状になった弾丸(Mushroomed bullet)と呼ばれている。拳銃用の代表的な口径である38SPLでは、弾丸先端に穴をあけても弾丸頭部の拡大は期待できない。38SPL+Pでも、弾丸頭部拡大効果は限定的である。

生体組織の流体圧力効果が阻害されると、弾丸着速が高くても、弾丸頭部拡大効果が著しく低下することがある。たとえば着衣のジーンズなどの布が穴に詰まると、弾丸着速が十分高くても拡大効果は貧弱となる。生体に着弾する前に通過した物体によって弾丸頭部に変形が生じた場合にも、その後の頭部拡大が損なわれる。

その一方で、試射弾丸の採取では弾丸頭部拡大効果に悩まされることがある。水槽へ射撃すると頭部拡大の流体効果が発揮されやすく、亜音速域でも頭部拡大が生じ、超音速域の弾丸では被甲の著しい反転が生じることから腔旋痕の観察が困難になる。試射水槽で弾丸を採取するときには、穴に樹脂系接着剤を充填する等の頭部拡大防止措置を取る必要がある。

穴の元の形状が失われている変形の大きな現場弾丸では、ソフト・ポイント弾とホロー・ポイント弾との識別をすることが困難な場合がある。ホロー・ポイント弾はソフト・ポイント弾より軽い場合が多いが、メーカーによっては、穴の有無を除くと、被甲の形状や弾丸の質量まで全く同等の弾丸を製造している場合があり、その識別を頭部形状に頼らざるを得ずないからである。

陸戦の法規と慣例に関するハーグ条約にしたがい、軍用実包ホロー・ポイント弾を使用することはできない。
Hollow Point Bullet
マガジン

自動装填式あるいは全自動式銃器の弾倉。あるいは軍の弾薬庫をいう。

銃砲刀剣類所持等取締法の第十条の七((消音器等の所持の制限))に「弾倉」という用語があり、銃砲刀剣類所持等取締法施行令第五条の三、第六条の四、第七条の二にも「弾倉」の用語がある。また、同第七条の二には「着脱弾倉」の用語もある。これらの条文を参考にすると、弾倉とは、実包又は金属性弾丸を充填することができる銃器の構造の一部を指す。

銃器関連雑誌の最近の記事では、銃器弾倉のことをマガジンと記述しており、弾倉よりマガジンの方が一般的な用語となっている。弾倉マガジンであるが、マガジン弾倉と弾薬庫の両方の意味がある。ただ、国内では弾薬庫のことをマガジンと呼ぶことは少ない。
Magazine
マンドレル
冷間鍛造銃身製造に際して、ブランク銃身の内側に通す超硬合金で作られた心棒。腔旋と凹凸が反転した形状をしている。

超硬合金でできているマンドレルには鋼鉄棒が溶接されている。マンドレルはダイヤモンド・カッター等で研削加工されるが、その際にマンドレルの腔旋形状に沿った線条痕が残されることがある。

マンドレルを使用して加工された腔旋に残される工具痕と、ブローチやボタンで加工された腔旋に残される工具痕には、異なる性質がある。マンドレルで加工された腔旋では、腔旋の各部位でマンドレルと腔旋との間で形状の凹凸関係が対応していることで、ブローチやボタンで加工された腔旋では、工具の線状部分の形状が腔旋の面状部分の形状に反映されることから、工具と腔旋との直接的な形状の対応関係は存在しない。

マンドレルを使用して連続製造された銃身の銃腔の間には、面の形状が類似していることから、発射弾丸に残される痕跡が類似する可能性も高い。
Mandrel
ミスアライメント痕
ミスアライメントこん

弾丸が腔旋とかみ合う前に付けられる再現性のある線条痕で、弾軸と銃腔軸とがずれていることがその成因である。これはAFTE Glossaryの訳である。

顕著に付けられるスキッド痕の1種で、もっぱら回転弾倉式けん銃の発射弾丸に見られる痕跡である。発射痕鑑定上重要な点は、用語の定義に現われている、「再現性のある線条痕」という点である。衝突によって変形損傷を受け易い弾丸の頭部付近に付けられる痕である点が欠点で、損傷弾丸では確認できないことが多い。ただし、この痕跡が発射痕鑑定上きわめて重要な痕であることは、経験を積むことによって体得できる。

 スキッド痕の1種であることから、腔旋起部、すなわち銃腔の薬室付近で付けられる(由来する)痕跡である。

 日本語にするなら「軸ずれ痕」となるが、カタカナとした。
Misalignment Marks
無起縁型薬きょう
むきえんがたやっきょう

きょう底の起縁の外径と抽筒溝近傍のきょう体外径が同等である薬きょうをいう。

口径の大きな自動装填式拳銃に用いる薬きょうが該当する。ライフル銃用の実包の多くもこの形式の薬きょうを採用している。

無起縁円筒型薬きょうでは、薬室前方にある段差部位が薬きょうの先端部を支えることによって撃針の打撃力を受け止める。したがって、この種類の実包を用いる銃器のヘッドスペースは、薬室前方部の段差位置から砲底面あるいは遊底頭面、閉塞壁面などとの距離となる。

ライフル実包のように無起縁先絞り型薬きょうの場合には、先絞りとなった斜面が撃針の打撃力を受け止める。この場合は、先絞りの肩の部分(絞られた斜面の後端部)と砲底面あるいは遊底頭面、閉塞壁面などとの距離がヘッドスペースとなる。
Rimless Case
メッキ弾丸
めっきだんがん

弾芯を被甲金属で完全に覆った弾丸。

米国のCCIが最初に用いた名称で、略称のTMJは現在はATKグループの傘下となっているCCI/SPEERの登録商標となっている。鉛合金の弾芯に厚みのある丹銅のメッキを施したものである。鉛の露出部がないことから、健康被害を防止する弾丸とされている。

通常のメッキ弾丸は、メッキの厚さが3~5μ程度であり、メッキは弾芯からフレーク状に剥離する。一方、完全被甲弾丸ではメッキの厚さは70~80μ程度で、弾芯からシート状に剥離する。

弾丸底部で鉛の弾芯が露出していると、弾丸発射時に発射薬の燃焼によって生じた熱で、鉛が気化してガス状になって放散され、人体に有害である。これを防止するため、弾丸底部を丹銅や黄銅製の円盤で塞いでから、弾丸底部で被甲を折り返している前方被甲弾丸がある。これも完全被甲弾丸であるが、低汚染弾丸等と呼ばれることが多い。

後方被甲の尖頭弾で、弾丸頂部で被甲がしっかりと閉じ合わされているものがある。弾丸の外側から弾芯は全く見えないので、これも完全被甲には違いない。
Plated Bullet,
Washed Bullet,
Coated Bullet
模擬弾
もぎだん

実包あるいは空包と類似した外観をしていて、銃器に装填可能であるが、雷管に点火薬が塗布されておらず、きょう体内に発射薬が装填されていないもの。

火薬類の燃焼は生じないことから、国内での所持に対する法的規制はない。銃器操作の訓練用や展示用、鑑賞用に使用される。

訓練用に製造されたものでは、きょう体側面に縦溝加工をしたり、青色のプラスチック製薬きょうを使用することによって、実包あるいは空包との識別性を向上させていることが多い。展示用、鑑賞用のものは、打ち殻薬きょうに弾丸を再組み付けしたり、雷管が未装着の薬きょうに弾丸を組み付けて製造される。

英語ではDummy Cartridgeで、擬製弾(ぎせいだん)と呼ばれることもある。  
Dummy Cartridge
薬室
やくしつ

回転弾倉式銃器を除く銃器では銃身の後部に位置し、回転弾倉式銃器では回転弾倉内にあって、実包あるいは空包が装填される部分。

管打ち銃などの古式銃では、発射薬が入れられる部分が文字通り薬室である。

回転弾倉内の薬室を弾倉薬室、銃身の後部にある薬室を銃身薬室と呼んで区別することがある。

発射痕鑑定の立場では、薬室内面の形状が打ち殻薬きょうの薬きょう円筒部に残される点にある。

旧JIS S 7101 「小口径銃の銃腔および薬室の寸法」の用語の意味を定義した表1では、「発射時に薬きょうの外面と接触する面をいう。」と定義されていた。この定義は、薬室内面を指していると思われる。chamberには「部屋」や「室」の意味がある言葉で、「面」を指す用語ではない。
Chamber
薬室一括鍛造銃身
やくしついっかつたんぞうじゅうしん

ブランク銃身に冷間鍛造で腔旋を加工する際に、薬室部分まで一括して鍛造加工された銃身。

冷間鍛造は設備投資が必要だが、大量生産に向く製造法で、技術の進展に伴い、さらに生産性を高めるために薬室部分まで一括して鍛造する工法が発達した。ただし、銃腔と薬室との間には径の差があり、途中には段差が存在することから、一括鍛造の技術的要求は高い。

発射痕鑑定の視点から見ると、弾丸の発射痕に反映される部分の形状がほとんど同一の銃身が連続生産されることを意味する。腔旋のみ冷間鍛造された銃身では、その後薬室部分が切削加工されるが、銃身の工作機械への取り付けや銃身の芯出し作業における変動によって、微妙な製品間差異が生じることが避けられない。その差異は、弾丸が薬室から銃腔に突入する際に発生するミスアライメント痕等の痕跡の相違に反映される。

薬室一括鍛造銃身でも、切削や研削による最終仕上げ加工によって、若干の製品間差異が生じる場合もあるが、鍛造のみで製品が仕上げられた製品では、連続製造された新品の銃身から発射された弾丸の間には、類似性が極めて高い発射痕が現れる可能性を否定できない。
Integral Forged Chamber
薬室痕
やくしつこん

薬きょうに残される薬室内面由来の痕跡。

発射痕鑑定上重要なのは、打ち殻薬きょうを排出する際に薬室内面との擦過によって、薬きょう円筒部の長手方向に残される線条痕である。

薬きょう円筒部には、薬きょうの製造時に行われる引き抜き加工に伴う長手方向の線条痕が元から付けられていることが多い。まずこの痕跡と排きょう時の痕跡とを区別をする必要がある。発射後すぐに観察することができる場合にば、線条痕の新旧により、その判別ができることがある。薬きょう製造時にダイとの間の摩擦で生じる擦過痕は、連続製造された薬きょうの間に対応痕跡が見られることが知られている。表面の滑らかな薬室から排きょうされた打ち殻薬きょうに、薬きょう~の引き抜き加工痕より深い線条痕~が残されることは稀である。

薬室が腐食して粗い表面となっている場合には、打ち殻薬きょうに深さのある薬室痕が残される。それでも、撃針痕や雷管面の遊底頭痕の方を重視すべきである。薬室内面が荒れている場合には、実包を装填する際にも薬室痕薬きょう円筒部の表面に残される可能性がある。その後弾丸を発射せずに排きょうし、薬室内面が滑らかな銃に再び装填して弾丸を発射すると、その打ち殻薬きょうには、発射銃器とは異なる銃器に由来する特徴的な深さのある薬室痕が残されることになる。

犯罪現場に複数の打ち殻薬きょうが遺留され、それらの間で痕跡の対応関係を確定できる薬室痕が残されている場合には、容疑銃器を用いた試射薬きょうとの発射痕跡の異同識別を行う際に、薬室痕を不安なく利用することができる。

深さのある薬室痕が残されるような銃器は、使用後の手入れが不十分な銃であることが多く、試射前に銃腔薬室の手入れを念入りに行ってしまうと、痕跡が変化する可能性がある。
Chamber Marks
薬室内面
やくしつないめん

薬室の内壁の表面を指す。

発射痕鑑定では、薬室内面の形状が、打ち殻薬きょうの薬きょう円筒部薬きょう円筒部に残される点で重要である。

弾丸発射時に薬きょうが膨張し、薬きょう円筒部きょう口部薬室内面に張り付く。その際、薬室内面の大きな凹凸や形状が打ち殻薬きょうに反映される。その形状が特殊な場合には利用価値が高い。ただし、多くの場合で、薬室内面の形状がそのまま打ち殻薬きょうに反映されるのではなく、打ち殻薬きょうが薬室から排出される際に、膨れたきょう体表面の軸方向の擦過痕として反映される。

薬室は円筒状(軸対称の回転体形状)であり、回転式工具による切削加工で仕上げられるか鍛造加工される。切削加工された薬室内面の加工工具痕と加工工具の形状との間に直接的な関連性は低く、加工ごとにその表面の微細形状は変化する。そのため、薬室内面に残される加工工具痕の固有性は高い。その一方で、打ち殻薬きょうの円筒部に残される軸方向の擦過痕は、特徴の少ない均質な線条痕となることが多く、また、排きょうごとの痕跡変動もあることから、位置決め(オリエンテーション)が難しいことが多い。これらの線条痕が薬きょう製造時に薬きょう円筒部に残される引き抜き加工痕と同質であることも、痕跡特徴の見極めを難しくする。したがって、薬室内面に由来する痕跡単独で発射銃器の異同識別を行うことは一般的に難しい。

一方、薬きょうの発射痕の重要性が高い自動式あるいは自動装填式銃器では、薬きょう底面蹴子痕抽筒子痕が残されることが多い。薬きょう円筒部の軸方向擦過痕の対応関係がもっとも良好な位置と、蹴子痕抽筒子痕との位置関係との間に矛盾がないことを確認できた場合には、一見均質に見える薬きょう円筒部擦過痕にも意味が生じる。
Chamber Surface
薬室リーマー
やくしつりーまー

薬室を加工する切削工具。荒削りリーマーと仕上げ加工リーマーの2本組みで使用される。段差のある特殊な形状の円筒状リーマーが用いられる。

薬室リーマーによって加工された薬室内壁には、リーマーの回転による周方向の工具痕が残される。弾丸を発射すると、発射薬の燃焼によって発生する高温高圧ガスによって薬きょうが薬室内壁に張り付く。そのため、打ち殻薬きょうは排きょう子や抽筒子の力を借りて薬室から排出される。この排きょう動作がスムーズに行われるには、薬室内壁は十分滑らかである必要があるが、銃腔ほどの滑らかさは要求されないため、リーマーの工具痕は放置されるのが普通である。また、硬質クロームメッキが施されることもない。リーマー加工時にメッキの厚さは考慮されていないため、メッキを施すと実包の装填不良が生じる可能性がある。

薬室内壁に残される微細な表面凹凸は、打ち殻薬きょうに残される各種の装填痕の発生源となる。薬室リーマーは回転によって切削を行うため、薬室に長手方向(軸方向)の工具痕は残されず、同一工具によって連続加工された薬室から排きょうされた薬きょうであっても、互いに類似した薬室痕が付けられることは考えにくい。
Chamber Reamer
薬きょう
やっきょう

実包の構成部品の一つで、実包製造過程で、他の部品が順次取り付けられて行く部品。

 薬きょうを簡単に定義することは難しく、このようになった。実包の中には薬きょうが存在しないもの(ケースレス実包)もあり、常に実包の構成部品の一つとなっているわけではない。弾丸発射に伴う損耗が最も少ない部品でもあり、実包製造の際に再使用されることも多い。

 英語ではCartridge Caseで、省略してCaseとのみ云われることも多い。実包の部品の中で「入れ物」の役割をしている部品の意味である。Cartridgeは紙を表すカルテに由来するといわれるが、先込め式銃器の時代に、発射薬をあらかじめ紙で包んでおき、装填の迅速化や薬量の均一化を図ったところから、最終的に金属製薬きょうへと発展したとされる。

 現在薬きょうの材質は、黄銅、軟鋼、アルミニウム合金、部分プラスチック、全プラスチックのものが多い。部分プラスチックのものは、薬きょう底部が黄銅や軟鋼製で、きょう体部のプラスチックと結合されている。全プラスチック製のものは散弾銃用のものにある。黄銅薬きょうでは、表面にニッケルメッキがされることがあり、軟鋼薬きょうの表面には銅や黄銅メッキがされたり、ラッカー塗装されることがある。

 武器等製造法施行令第三条二に、銃砲弾の部品として薬きょうが挙げられており、武器等製造法で定める許可なく製造できない武器に含まれる。

中心打ち式薬きょうでは雷管装着前の状態で、縁打ち式薬きょうでは点火薬を縁の内部に装填する前の状態が薬きょうであり、わざわざ「雷管未装着の薬きょう(Unprimed Cartridge Case)」ということもある。
Cartridge Case,
Unprimed Cartridge Case
薬きょう円筒部
やっきょうえんとうぶ

薬きょう本体の円筒部分をいう。

円筒型薬きょうテーパー型薬きょうでは、薬きょう底部のきょう口側境界からきょう口までの間の円筒部分をいう。先絞り型薬きょうでは、薬きょう底部のきょう口側境界から薬きょうの肩までの間の円筒部分をいう。縁打ち式薬きょうでは、起縁のきょう口側境界からきょう口までの間の円筒部分をいう。

以前は、きょう胴と呼んでいた。
Body
薬きょう底部
やっきょうていぶ

薬きょうを側面から見たとき、薬きょう底面から、薬きょう内部の火薬室の空間までの間の部分をいう。

英語では薬きょう底面を示す語と同じHeadが用いられている。

中心打ち式薬きょうでは、薬きょう底部の部分の金属は厚みがあり、それよりきょう口側は薄い金属となっている。

縁打ち式薬きょうでは、厚い金属部分はないが、薬きょう底面から縁の部分までが薬きょう底部に相当すると思われる。
Head
薬きょう底面
やっきょうていめん

薬きょうの、きょう口とは反対側にある平坦面となっている部分。

英語ではHeadといい、この部分をBaseなどと呼ぶと、何も知らないといわれるが、日本では昔から底面といい、頭面とは呼ばなかった。

中心打ち式薬きょうでは、薬きょう底面の中央部に雷管が挿入されている。発射痕鑑定者の間では、薬きょう底面という用語では、薬きょう本体の底面のみを指し、雷管の表面は「雷管面」と呼んでいる。

弾丸発射時に発生する反動は、薬きょう底面と雷管面を通して閉塞壁面に伝えられるため、薬きょう底面と閉塞壁面との間には、強い密着圧力が発生する。これによって、薬きょう底面と雷管面には、閉塞壁面の凹凸と対応関係のある痕跡が残される。雷管は使い捨てであることから、深さのある痕跡は最後に発射した銃器の痕跡であるといえるが、薬きょう本体は再使用されることがあるため、薬きょう底面の痕跡に何種類かの銃器の閉塞壁面の痕跡が混合している場合がある。

薬きょう底面には、多くの場合で薬きょうの製造所等を示す記号が打刻されている。
Head
薬きょう本体
やっきょうほんたい

中心打ち式の薬きょうでは、雷管を取り除いた薬きょう部分をいう。縁打ち式薬きょうでは、薬きょうの金属部分すべてをいう。

薬きょうの底部から、きょう口部まですべてを含む。中心打ち式薬きょうでは、Unprimed cartridge caseとして販売されているものが、薬きょう本体に相当する。縁打ち式薬きょうでは、点火薬を縁の内部に装填する前の金属部品の状態をいう。

発射痕鑑定の分野では、打ち殻薬きょう、すなわち発火済みの雷管が装着された状態の薬きょうを、単に薬きょうと言うことが多かった。このような用語を用いた場合に、雷管の装着されていない薬きょう、あるいは雷管部分を含まない薬きょうを指す用語が必要となるために考案した。
Cartridge Case,
Unprimed Cartridge Case
山径
やまけい

旋丘径に相当し、銃腔の山(旋丘)に内接する仮想円の直径をいう。

旧JIS S 7101 「小口径銃の銃腔および薬室の寸法」の表1では、「銃腔の相対する山の頂上間の直径をいう」と定義されていた。この定義では、奇数条の腔旋では具合が悪い。

形状の整ったエンフィールド型の腔旋では、山の部分の高さはエッジ部を除くと一定だが、腔旋の形状にはポリゴナルやメトフォード型など山の高さが一定でないものがあり、山の頂上間の直径とされた。
Land Diameter
遊底頭
ゆうていとう

薬きょうの底面と雷管の底面に接して、弾丸発射時に発生する高温高圧ガスによって作用する薬きょうの後退力を受けとめる銃の部品の表面。

主に、自動装填式拳銃、自動装填式ライフル銃、全自動式小銃等の自動式銃器の部品についていう。
Breechface
遊底頭痕
ゆうていとうこん

弾丸発射時に薬きょう底部が銃器の遊底頭に圧着された際に、遊底頭面に残されている工具痕が、薬きょう底部及び雷管面に転写されて残される痕跡。

日本では、銃器の種類によって薬きょうの後退力を受けとめる部分の名称が異なり、主に自動装填式拳銃等の自動式の銃器の打ち殻薬きょう底面に転写される痕跡を遊底頭痕と呼んできた。英語ではBreechface Markingsで、回転弾倉式拳銃の打ち殻薬きょうに残される閉塞壁痕との間で用語の区別はない。

薬きょう底面はきょう体の底部と雷管面とに大きく二分できる。雷管は完全な消耗品で、再使用不能であることから、雷管面に残される遊底頭痕は痕跡を発射拳銃とを結びつける上で特に重要である。逆に再使用を繰り返した薬きょうきょう体底部に残される痕跡は、複数の拳銃の痕跡が重なり合っている可能性が高く、最後に使用した拳銃と痕跡を結びつける際には、余計な痕跡が付いていることに注意する必要がある。

自動装填式拳銃では、遊底頭痕の形状から蹴子痕抽筒子痕が付けられるべき位置を推定できることがあり、きょう体底部にこの種の痕跡が複数ある場合に、最後に用いられた拳銃の発射痕跡を決定できる場合がある。

雷管面には、管体製造時に付けられた工具痕が深く付けられていることがあることは、回転弾倉式拳銃用の実包と自動装填式拳銃用の実包で状況は変わらない。このような工具痕は、やはり平行状のものが多い。遊底頭痕が付けられている雷管面は、拳銃の遊底頭と接触して平坦状となっている。

一方、雷管管体製造時の工具痕撃針痕周囲の斜面や、管体周辺部の傾斜部にも付けられていることがあり、判別できる。管体の平坦部、すなわち拳銃の遊底頭との接触部位がどこであるかは、雷管面に同軸落射照明を当てて観察することによって容易に判別できる。
Breechface Markings
湯口
ゆぐち

弾丸鋳型を用いて鋳造鉛弾丸を製造する際に、溶融した鉛合金を鋳型に注ぐ際の注ぎ口。通常円形をしている。

鋳型は2分割されており、鋏のように開閉する道具の先端や、中央にヒンジのある開閉式の道具のヒンジとハンドルの中間に取り付けられている。左右の鋳型を閉じ合わせ、その上をスイングする板(湯口切り)で蓋をする。この蓋には小型の円形の穴が開いており、これが湯口である。この穴から溶融した鉛合金を注ぎ込み、。弾丸が凝固した後、湯口切りを木の棒でたたいて回転させることで湯口の上にはみ出した鉛を削ぎとる。

英語のSprueには、このとき削ぎとった鉛のくずを意味することもある。

工具痕鑑定の分野では、弾丸以外の鋳造品一般の鋳型に開けられた湯の注ぎ口をいう。
Sprue
湯口切り
ゆぐちきり

鋳造弾丸を製造する鋳型の上にあり、湯口からはみ出した鋳造金属を剪断して弾丸底部の形状を整える部品。

通常この部品の中央部に湯口がある。弾丸が凝固したのち、湯口切りを木の棒で打撃して湯口を切断し、その後閉じ合わされていた鋳型を開放して鋳造弾丸を取り出す。
Sprue Cutter
湯口切り痕
ゆぐちきりこん

鋳造弾丸の製造過程で、鋳型の内部で弾丸が凝固したのち、鋳型の上部にある湯口からはみ出した鋳造金属を湯口切りで剪断する際に、弾丸底部に湯口切によって擦られて残る擦過痕。

湯口切りが旋回運動をして湯口を剪断するため、円弧状の湾曲した擦過痕となる。ただし、国内の鋳造弾丸では湯口痕は残されているが、湯口切り痕とはっきり分かる線条痕を見ることはほとんどない。
Sprue Cutter Mark
湯口痕
ゆぐちこん

鋳造弾丸の弾丸底部の中央の湯口のあった部分に残される丸い痕跡。

円形痕の内側は、わずかに隆起していることが多いが、逆にへこんでいることもある。湯口切りによる擦過痕が残されることもある。

国内で見られる38SPLの鋳造鉛弾では、湯口痕の直径は3.9mmから5.5mmの間に分布している。
Sprue Mark
陽綫痕
ようせんこん

旋丘痕を意味する用語。

昭和20年代後半から昭和30年代初期にかけて、この用語が使用された鑑定書が存在した。ただし、それらの鑑定書の保存期限がすでに切れており、この用語を目にする機会がすでに失われたことから、歴史的用語となっている。
Land Impression
雷管
らいかん

実包>と空包の撃発に使用される部分。

必ずしも薬きょうに取り付けられる部品ではなく、薬きょうきょう体雷管の構成部分となっているものがある。小火器用実包空包雷管には、縁打ち式雷管中心打ち式雷管があり、中心打ち式雷管にはベルダン型雷管ボクサー型雷管がある。
Primer
雷管蓋
らいかんがい

雷管体と同じ。

雷管室に蓋をするようにかぶせることから、このように呼ばれたが、最近は目にしない。

「らいかんぶた」とも読む。
Primer Cup
雷管室
らいかんしつ

中心打ち式薬きょう薬きょう底面中央部に開けられた円筒状の穴。

拳銃やライフル銃用の中心打ち式薬きょうで、ボクサー型雷管が用いられるもの、及び散弾銃用の薬きょうでは、雷管室は円筒状の穴で、その底部の中心に噴火口(Flash hole)が開けられている。ベルダン型雷管が用いられている中心打ち式薬きょうでは、雷管室の中央に発火金の盛り上がりがあり、その周囲の2、3か所に噴火口が開けられている。

雷管室は、バンターという工具を薬きょう底面に押しつけるプレス加工で成形される。この加工は、最終の引き抜き成形加工がおこなわれた細長いカップ状となった薬きょうの中間成形品に対して行われる。この中間成形品では、薬きょう底面は丸みを帯びた形状となっている。この薬きょう底面にバンターを叩きつけて、底面を平坦にすると同時に雷管室の成型加工とヘッドスタンプの打刻を行う。

この成形加工に使用される工具であるバンターは、中央部に雷管室に対応した円柱状の突起部があり、その周囲の平坦面にきょう底刻印の浮き出し文字が加工されている。

薬きょう底面の成形加工は1工程あるいは2工程で行われる。小口径の薬きょうでは、1回のプレスで、雷管室を加工しながら薬きょう底面を平坦にし、さらにヘッドスタンプまで打刻してしまう。2工程で行われる場合は、第1プレスで雷管室の予備成形加工が行われ、第2プレスできょう底面の平坦化を行うと同時にきょう底刻印を打刻する。
Primer Pocket
雷管体
らいかんたい

中心打ち式薬きょうに用いられる雷管を構成する、内面に点火薬が塗布されているカップ状の部品。

黄銅板あるいは銅板をプレス成型して作られる。雷管体の外表面には、ニッケルメッキが施されているものもある。

軍用実包の中には、軟鋼板に銅あるいは黄銅メッキされた雷管体を用いているものがある。 以前は雷管蓋(らいかんがい)と呼ばれていた。雷管の管体と呼ぶこともある。 雷管体の材質やメッキの種類は、雷管に残される発射痕跡に大きな影響を与える。
Primer Cup
雷管の大きさ
らいかんのおおきさ

拳銃とライフル銃に用いられる雷管の大きさには、基本的に2種類のものがある。それは小型と大型で小型は0.175インチ=4.445mm、大形は0.210インチ=5.334mmである。

拳銃用の実包では、小型雷管を使用するか大型雷管を使用するかの境界が口径10mmあるいは口径0.40インチにある。40S&W AUTO、41アクション・エクスプレスは小型雷管を使用している。古い実包では、41ショート・コルトと41ロング・コルトが小型雷管である。10mmオートは大型雷管を使用し、40以上の名称の付いた実包はほとんどが大型雷管を使用している。なお、38等の40より小さな寸法を冠した実包で大型雷管を使用しているものは、先絞り型薬きょうを使用しているもののみである。

一方、ライフル銃用実包では、実包名称にある口径の大きさから使用している雷管の種類を決めることは一般にできない。0.219インチを冠した実包でも大型雷管を使用しているものがあり、0.22インチを冠した実包で大型雷管を使用しているものは多い。一方、454カスールが小型雷管を使用している。ただ、最近のライフル銃用実包の大半は大型雷管を使用しており、小型雷管を使用しているのは古い実包か、薬きょうの起縁径が0.40インチ以下のものであるというのが一般原則である。223レミントンは起縁径が0.375インチであり、ライフル銃用小型雷管を使用している。

ただ、大きさが2種類しかないというのは、リロード(再装填)が前提となっているボクサー型雷管の基準寸法と考えた方がよい。ベルダン型雷管では、この2種類以外の寸法のものがある。たとえば、日本の8mm南部の雷管径は約4.55mmで、小型雷管より若干太い。ソビエト連邦時代に開発された、トカレフやマカロフの雷管は、いずれもベルダン型雷管を採用しており、雷管径は5.0~5.2mmと、小型雷管と大型雷管のほぼ中間の大きさである。
Size of Primer
雷管面
らいかんめん

中心打ち式実包雷管体の表面で、薬きょう底面に露出している部分をいう。

打ち殻薬きょう雷管面には、発射痕の鑑定上重要な撃針痕が必ず付けられており、閉塞壁痕遊底頭痕撃針口痕が残されていることもある。

たとえ再生実包であっても、雷管面発射痕は、最後に使用した銃器に由来する発射痕であることから、薬きょうの発射痕鑑定上最も重要なものとなる。

一方、雷管面には、閉塞壁痕あるいは遊底頭痕類似の深さのある加工痕(工具痕)が、初めから付けられていることがある。これらの痕跡は、多くの場合で平行状の擦過痕であり、旧共産圏諸国が製造した、あるいは現在も製造している製品に見られることが多い。鑑定に当たっては、推定される銃種の閉塞壁遊底頭の加工痕と矛盾しないか、連続した条痕が撃針痕の中にまでないか、複数の打ち殻薬きょうがある場合には、相互の痕跡の間で方向が異なっていないか等を確かめて、発射痕と製造加工痕の識別を行う必要がある。

縁打ち式実包の薬きょうの縁は雷管体の表面に相当するが、この部分を雷管面と呼ぶことはない。
Primer Surface
ライフル銃用雷管
らいふるじゅうようらいかん

ライフル銃に使用する実包空包に用いる雷管。小型と大型に分かれ、それぞれに標準型とマグナム型とがある。

拳銃用雷管と比較して雷管体の金属の板厚が厚いためく、撃針の打撃力が弱いと不発となる可能性が拳銃用雷管より高い。マグナム型雷管は標準型雷管と比較して点火時に発生する火炎が強い。

ライフル銃用雷管拳銃用雷管より丈夫にできており、雷管体表面にライフル銃の包底面(閉塞壁面)の痕が残されにくい。威力の大きな実包では、発生する反動圧力も高いことから、深さのある閉塞壁痕が残される可能性がある。これに対して、30カービンや223レミントンなどの相対的に威力の小さな実包では、ライフル銃閉塞壁面に深い工具痕がある特殊な場合を除くと、雷管体表面に発射痕異同識別に有効な閉塞壁痕が残されることは稀である。
Rifle Primer
ラップ棒
らっぷぼう

鉛ラッピング加工を行う際に使用する鋼鉄製の棒状の工具。

鉛ラッピングは、銃腔に通したラップ棒を手で前後させながら行う作業なので、手で握る部分にチェッカリング等が施されていることがあるが、基本的には鋼鉄棒である。

命中精度が低下したライフル銃銃腔手入れ用として、特定の口径腔旋用の鉛ラップが入手できる。この鉛ラップは、軸心に穴が開けられた鉛円柱で、これをワッシャーとねじを使用して専用のラップ棒に固定して使用する。この鉛ラップと研磨剤を使用すると、健康に害を及ぼす鉛の溶融作業をせずに鉛ラッピングを行うことができる。
Lapping Rod
リーマー
ドリルで開けられた穴を、機械的切削による仕上加工を行う工具。

リーマーには、刃が付けられた部分が円筒状のストレート・リーマー、この部分が円錐状となっているテーパー・リーマーがあるが、太さが可変のものや段階状のものなど、その他の形状のものもある。

リーマーを用いた切削加工によって、ドリルで開けられた穴の径を指定寸法に正確に合わせるとともに、真円度、真直度を向上させ、表面粗さを低減させることができる。テーパー・リーマーは正確なテーパー状の穴あけ加工を行うものと、穴の周囲に発生するバリ取り作業や、穴の入り口部分の加工に使用するものとがある。

リーマーはボール盤や旋盤に取り付けて使用されるほか、軽作業では手回しのハンドリーマーが使用される。バリ取り作業などでは手持ちで作業が行われることもある。

加工面の表面粗さの程度に応じて、荒削りリーマー仕上げ加工リーマー、。バニシ仕上げリーマーの種類の異なるものが順次使用される。
Reamer
ルーバロイ
弾丸の被甲鉛弾丸のメッキに用いられる合金で、ウエスタン実包(Western Cartridge Company, 現オーリン社Olin Corporation)の登録商標となっている。

錫を若干量含有したギルディング・メタルといえる、銅90%、亜鉛8%、錫2%の合金。メッキ弾丸の製造に用いる場合は、この割合に調整した電解液を用いて鉛弾丸にメッキが施される。

潤滑(性の良好な)合金(lubricating alloy)がその名称の由来である。英国のノーベル工業(Nobel Industires Limited)のノーベロイもこれと同等の合金である。

表面に錫メッキを施した弾丸銃腔に付着しにくく、潤滑性が良好であることが知られていた。ところが、錫メッキをした弾丸を使用した実包は、保存しておくと薬きょうの黄銅と弾丸の錫が反応して、弾丸薬きょうとが固着してしまうことが知られた。この固着により、弾丸発射時の抜弾抗力が異常上昇し、薬きょう切れの発生につながった。そのため、アメリカでは錫メッキ弾丸を軍用には使用しないことになった。その後、錫メッキではなく合金化することで、錫の潤滑性を生かすことを可能にして誕生したのがルーバロイである。
Lubaloy
冷間鍛造銃身
れいかんたんぞうじゅうしん

仕上げ加工リーマーが通されたブランクと呼ばれる銃身にマンドレルと呼ばれる超硬合金の芯を挿入し、室温で銃身の外側を叩いて圧縮成型して腔旋付き銃身に加工された銃身。

第二次世界大戦前にドイツのアペル博士によって開発された方法で、主に、損耗の激しい機関銃の替え銃身の大量生産をする目的で使用された。米国でも第二次世界大戦中にM3サブマシンガンの銃身製造に使用されたという。当初は命中精度より生産効率を重視した製造法と考えられていたが、現在ではきわめて精度の高い銃身の製造が可能となっている。

ブランク銃身は、他の加工法に用いられるブランク銃身と異なり、銃腔径が目的とする銃腔径より20%以上太く仕上げられている。また、銃身長は目的の長さより数%短くなっている。なお、細い下穴を加工する方が太い下穴の加工よりずっと困難であることから、銃腔径より50%以上太い銃腔径のブランク銃身を用いることも多い。

マンドレルを挿入したブランク銃身を回転させながら、鍛造機で銃口側から銃身外側を叩いて加工していく。薬室側まで加工したらマンドレルを引き抜く。この工程をうまく行うには技術が必要とされている。離型を促す適切な潤滑剤を使用することに加えて、マンドレルをわずかにテーパー状にすることでこれを可能としている。

発射痕鑑定上の問題として、マンドレルに付けられている工具痕が銃腔旋丘及び旋底の両者に残されること、その工具痕の多くが腔旋に沿った方向の線条痕であり、連続製造された冷間鍛造銃身の発射弾丸の旋丘痕旋底痕の両者に、類似した発射痕跡が残されることがあることが指摘されている。
Cold Hammer Forged Barrel
ワッドカッター弾
わっどかったーだん

弾丸前方に径が細くなったノーズ部がほとんど存在せず、弾丸全体が円筒部となっている弾丸

弾丸円筒部が弾丸前端部まで達しており、前端部に断面が直角となった肩の部分がある。この部分で標的紙を円形に打ち抜くことから、正確な採点を可能とする。ワッドとは厚紙を意味し、それをスポッと打ち抜く弾丸の意味である。

弾丸の円筒部が薬きょうに深く挿入されているため、この種の弾丸の存在を知らないと、ワッドカッター弾が装填されている実包空包と間違える危険性がある。

口径0.32インチS&Wロング型(32S&W Long)と口径0.38インチ・スペシャル型(38SPL)のみに見られる鉛弾丸の形式である。32S&W Longでは98グレイン(6.35g)の鉛弾丸で、標準的円頭弾と弾量は同一だが、38SPLでは158グレインの円頭弾より若干軽い148グレイン(9.59g)の鉛弾が使用されている。どちらの口径の弾丸も底部に深い穴が開けられたホローベース弾が用いられている。これにより、標的射撃用いられる短射程での弾丸の安定性の向上のために、弾丸重心の前方への移動と、弾丸後方が拡大して銃腔に密着することで、発射ガスの漏洩防止や腔旋とのかみ合いの向上が図られている。

ワッドカッター弾の前後を逆にして薬きょうに装填すると、極めて深い大型の穴が開いたホロー・ポイント弾となる。弾丸がコップを思わせる形状となることから、このように逆にした弾丸あるいは実包をカップポイントと呼ぶことがある。
Wadcutter Bullet

最終更新日 2011年2月11日



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