発射痕鑑定の視点から見た腔旋加工法



腔旋(Rifling)
 銃身の中央には弾丸が通過する銃腔がある。初期には球形弾丸が用いられていたが、より遠方まで威力のある弾丸を到達できるようにするためには長形弾が有効であることが分かってきた。ところが長形弾丸を滑腔銃身から発射したのでは、弾丸発射直後から弾丸が転倒してしまい、命中精度は期待できない。そこで、発射弾丸に弾軸周りの回転運動を与え、回転慣性によって弾丸の向きを一定方向い保つ工夫がなされるようになった。この目的で銃腔に刻まれたらせん状の溝が腔旋である。

銃身に腔旋を加工する手順は、最初に銃身の素材である合金鋼の丸棒を用意し、そこにガンドリルで下穴を開け、リーマで下穴を仕上げ、腔旋を加工し、仕上げ加工を施すというものである。


銃身に用いる合金鋼の素材(多くで丸棒)に下穴を開けるのに用いられる工具がガンドリルである。

ガンドリル(Gun Drill)は、深穴加工に使用される工具である。
深穴とは、直径の5倍以上の深さのある穴をいう。深穴の代表例が銃器の銃腔であり、ガンドリルの名称もそれに由来する。

ガンドリルが通常のドリルと相違する点は、ドリルの軸に沿って潤滑冷却油を流す穴が開いていることである。この潤滑冷却油の流れによって、ドリルとワークを冷却しながら切り粉(削りカス)を加工中の深穴の中から排出する。ドリルにこの潤滑冷却水の配管をする必要から、ドリルを回転させることができない。そのため、ドリルを固定して、ワーク(銃身)の方を回転させて加工する。

銃腔加工時に、銃身は毎分5,000~7,000回転させ、ガンドリルを毎分3.0~7.5cm程度送りながら加工する。

銃腔加工専用ものは銃身ドリル(Barrel Drill)ともいう。

銃身ドリルは銃身に銃腔の下穴切削をする際に用いられる専用のガンドリルである。
ライフル銃では、直径の100倍程度の深さの深穴を開ける能力が要求される。銃腔の下穴を加工する銃身ドリルは、深い切削位置から切り粉を排出させるため、ドリルの軸に沿って潤滑冷却油を圧力をかけて流すための穴が開けられている。切り粉を排出しやすいように、切削刃は螺旋状とはなっておらず、ドリルの断面形状は軸に沿って変化していない。切り粉が排出される空間は、ドリルの先端から後方までV字型に開いている。ドリルの先端部では、このV字型空間と対向する位置に、潤滑冷却油が噴出する穴が開いている。

ガンドリルで銃腔の下穴加工をした後、銃身リーマー(Barrel Reamer)を用いて銃腔の下穴が仕上げられる。

ガンドリルで加工された下穴は、いびつな形状をしており、銃身軸に沿って内径が変動している。リーマー加工によって銃腔径をそろえるとともに、表面を滑らかに仕上げる。銃腔の加工はリーマーによる仕上げ加工が前提とされているため、ガンドリルで開けられた下穴の径は、目的とする口径より0.13mm(5/1000インチ)程度細くなっている。

この加工には円筒状のリーマーが使用され、ガンドリルと同様、リーマーの軸に沿って、潤滑冷却剤を流す穴が開けられている。ガンドリルと異なり、銃身リーマーは軸対称の形状をしているため、この穴は軸心に開けられている。そのため、潤滑冷却剤を流している状態でもリーマーを回転させることが可能で、通常はワーク(銃身)を固定し、リーマーを回転させて加工する。

通常、荒削りリーマー、仕上げ加工リーマー、バニシ仕上げリーマーの3本を用いて銃腔を仕上げる。この3本を通すことによって、銃腔内径が均一になり、ガンドリルで加工した下穴に残される工具痕はすべて除去される。

ドリルで穴あけ加工した後、その穴の形状を整えるために最初に通されるリーマーが荒削りリーマー(Roughing Reamer)である。
ガンドリルは、銃身素材に一気に深穴を切削加工できるが、加工された銃腔は、目的の口径より若干細く、また部位によって径が異なり、断面もいびつな部分が残されている。荒削りリーマーは、銃腔の内面からの切削除去量はごくわずかである代わりに、銃腔断面を真円に仕上げ、ガンドリルによって残された円周状の切削工具痕を除去していく。

加工中の銃腔内部から切り粉の排出を容易にするために、銃身荒削りリーマーもガンドリル同様、切削刃はらせん状に回転しておらず軸に平行となっている。また、リーマーの軸中心に、潤滑冷却油を加工部に送り込む管路が開けられており、リーマーのくびれ部の側方に開けられた吐出口から銃腔に向けて油が噴出される。

銃腔内を往復させて、銃腔形状を整え、銃腔表面を滑らかにする。これによってガンドリルによる工具痕は除去されるが、リーマーによる新たな工具痕が残されるものと考えられる。

荒削りリーマーで加工した銃腔には、続いて仕上げ加工リーマー(Finishing Reamer)を通して、銃腔の寸法を最終的に調整し、銃腔面をさらに滑らかに仕上げられる。

仕上げ加工リーマーによる削り代はわずかであるが、最終段階に行われる切削加工であり、銃腔に残される工具痕の最終形状に与える影響は少なくない。

仕上げ加工リーマーで仕上げられた銃腔には、続いてバニシ仕上げリーマー(Burnishing Reamer)が通される。銃腔面にフルートの入った円筒状のリーマーを強く押しつけながら回転させることによって、銃腔面に残存する工具痕を塑性変形させてつぶし、銃腔を最終形状に仕上げる。

バニシ仕上げリーマーは、形状や構造は荒削りリーマーや仕上げ加工リーマーと類似しているが、切削刃は付いておらず、タングステンカーバイドの円筒面が実質的な加工工具となる。

他の銃身リーマーと同様、加工粉を排出するためのフルートがあり、潤滑油を送り込む管路が軸心に開けられている。

  バニシ仕上げリーマーを通された銃腔表面は極めて滑らかな鏡面状になり、耐摩耗性や耐腐食性が向上する。そして銃腔内径が口径となっている。

良好な仕上げ加工が行われた銃腔には、発射弾丸に深さのある線条痕を残すような工具痕は除去されている。新製品の段階で再現性のある深い線条痕が発射弾丸の旋底痕に残される場合は、バニシ仕上げが行われていない銃身の可能性が考えられる。

セブ島、ダラ村等の密造銃では、そもそも銃腔にリーマー加工をしないものもある。リーマー加工を行っている場合でも、荒削りリーマーを通すだけの場合が多い。

リーマーによって銃腔が仕上げられると、続いて切削加工工具や塑性加工工具を用いて銃腔に腔旋が加工される。古くはスクレープ・カッターやはフック・カッターを用いて腔旋が加工された。

スクレイプ・カッター(Scrape Cutter,Scrape Rifling Cutter)は銃腔の腔旋加工工具の一つで、初期の腔旋加工に用いられたものだが、現在でも最高精度の腔旋の加工には使用されることがあるとされている。

スクレイプとは擦り取るという意味で、1度の切削量はわずかである。カッターの刃は切削面に対して直角方向であるが、刃は横幅方向に湾曲してねじれており、刃は切削移動方向に対して傾斜して当たる。スクレイプ・カッターは、銃腔内の往復の両方向で切削可能となっている。

腔旋加工に際して、2枚のスクレイプ・カッターを背中合わせにし、その間にシムというくさびを挿入したものを、腔旋棒の加工ヘッド部に組み込む。加工ヘッドの対向する位置には開口窓があり、その窓から2枚のスクレイプ・カッターをわずかに突出させた腔旋加工棒を用いて腔旋を加工する。腔旋棒は、腔旋の回転角度に相当する回転をさせながら銃腔内を押し、引きされる。腔旋棒を銃腔内で1往復させたら、2枚のスクレイプ・カッターの間に挿入したシムが少量移動され、加工刃の突出量がわずかに増大される。スプリングフィールドM1903小銃では、0.1mmの深さの腔旋を加工するのに腔旋棒を80往復させたいう。したがって、1往復の切削量は1.25ミクロンとなる。これが最高品質の腔旋加工の削り代である。

4条の腔旋を加工する場合、腔旋加工棒を1往復させた後、腔旋加工棒を90度回転させて別の2条の腔旋を同時に切削してから、シムをを押しこむ。この工程を繰り返して、偶数条の腔旋を少しずつ目的の深さまで加工して行く。6条の腔旋では60度ずつ回転させて、加工を繰り返す。したがって、1条の旋底の加工に用いられるスクレイプ・カッターが交互に変化する。

スクレイプ・カッターで加工された腔旋の旋底には、すべての条で互いに類似した線状加工痕が残される傾向がある。その一方で、同一カッターで加工されたとしても、次に加工される銃身との間で、4条の腔旋でたとえば160回、6条の腔旋では240回もカッターの使用歴に差が生じるため、旋底に残される加工工具痕(線条痕)は変化している。すなわち、銃身ごとの加工痕跡の差異は、同一銃身の異なる旋底との間に見られる痕跡差異よりずっと大きい。

このことから、同一銃身で連続して発射した弾丸の、非対応旋底痕の間で見られる発射痕跡の類似性を上回る痕跡の類似性が、連続生産された異なる銃身による発射弾丸との間では認められないことが保証されている。

スクレイプ・カッターの中には、ねじれた刃が間隔を開けて2枚付けられたタンデム刃のものがある。2枚のスクレイプ・カッターの間に挟み込むくさびの効果で、削り代に差を出し、1回の切削で1枚刃の2回分の加工を行える。

廉価な銃では、20回から40回の腔旋棒の往復で腔旋を仕上げることから、粗い加工工具痕が旋底に残される傾向にあり、同一銃身の隣り合う旋底に類似性の高い工具痕が見られることがある。ただ、そのような加工を行うとカッターの刃の変化も大きく、連続生産された銃身に類似工具痕が残される可能性は低い。

フック・カッター(Hook Cutter)は、初期の腔旋加工に用いられた銃腔の腔旋加工工具の一つである。加工に手間がかかることから、現在ではほとんど使用されることはない。

フックとは、鉤(かぎ)あるいは鉤で引っ掛けるという意味で、鉤状の段差のある切削工具で腔旋を切削加工する。

腔旋加工に際して、フック・カッターはスクレイプ・カッターと同様に腔旋棒の加工ヘッド部に組み込んで使用する。フック・カッター用の腔旋棒の加工ヘッドには開口窓は一方向にしかなく、その窓からフック・カッターの鉤型の刃をわずかに突出させた上で、腔旋加工棒を引いて腔旋を加工する。腔旋棒は、腔旋の回転角度に相当する回転をさせながら銃腔内を引かれる。フック・カッターによる1回の切削量はスクレイプ・カッターの切削量より多くできることから、短時間での腔旋加工が可能だが、その分、仕上げ面が粗くなる。精度の高い銃身の製造には、スクレイプ・カッターと同様の少量の削り代の切削を繰り返すことになる。

奇数条の腔旋の加工には、1条ずつ腔旋を加工するフック・カッターが用いられる。ただ、フック・カッターでも偶数条の腔旋の加工を行うこともできる。5条の腔旋をフック・カッターを用いて加工する場合、腔旋加工棒を1回引いて1条の旋底を加工したら、銃身を72度回転させて、次の旋底を加工する。このように順次5条の旋底を少量切削したら、腔旋棒の端部に備えられたねじを回転させて、フック・カッターの頭を押しこむことによって、腔旋棒の加工ヘッドからフック・カッターの突出量を増加させる。この工程を繰り返して、腔旋を少しずつ目的の深さまで加工して行く。

フック・カッターで加工された腔旋の旋底には、すべての条で互いに類似した線状加工痕が残される傾向がある。その一方で、一本の銃身の腔旋を加工する過程で、切削カッターに損耗が発生するため、次に加工される銃身に残される加工工具痕と、それ以前に加工した銃身に残される工具痕の間では相違が大きい。すなわち、銃身ごとの加工痕跡の差異は、同一銃身の異なる旋底との間に見られる痕跡差異よりずっと大きくなる。

このことから、連続生産された異なる銃身による発射弾丸との間に見られる発射痕の類似性は、同一銃身から連続して発射された弾丸の非対応旋底痕の間に見られる発射痕跡の類似性を下回ることが保証されている。

廉価な銃では、腔旋棒を20回から40回引くことで腔旋を仕上げてしまうが、このような加工では粗い加工工具痕が旋底に残されることになり、発射弾丸の隣り合う旋底痕に類似性の高い線条痕が見られることがある。ただ、そのような加工を行うとカッターの刃の変化も大きく、連続生産された銃身から発射された弾丸に類似した旋底痕が残される可能性は低い。ただし、フック・カッターの刃に大きな欠けが生じた状態で加工を続けた場合は例外である。

シム(Shim)
スクレイプ・カッターやフック・カッターの削り代を調整するくさび状の工具。

シムを2枚のスクレイプ・カッターの間あるいはフック・カッターと加工ヘッド内壁の間に押し込むことによって、切削刃の突出量を調整する。この調整は腔旋棒の端部に取り付けたねじ込み式の棒で行う。

腔旋棒(Rifling Bar)
腔旋加工に使用される棒状の工具。その中央部にある加工ヘッド内部にスクレイプ・カッターあるいはフック・カッターを挿入し、銃腔の腔旋の切削加工に使用する。

腔旋棒の直径は、腔旋を加工する銃身の銃腔径よりわずかに細い。腔旋棒を銃腔内で前後させることによって、腔旋を少しずつ切削加工する。

腔旋棒の中央にある加工ヘッドと呼ばれる部分には、腔旋加工刃が顔を出す開口部が開けられている。スクレイプ・カッターで用いる腔旋棒では、加工ヘッドの対向する2箇所に窓が開いており、フック・カッターで用いる腔旋棒では片側1箇所に窓が開いている。

加工ヘッドには、背中合わせにした2枚のスクレイプ・カッターが挿入されるか、1本のフック・カッターが挿入される。スクレイプ・カッターでは2枚の刃の間に、フック・カッターでは刃の背中と腔旋棒の内面との間にシムという楔状の工具が差し込まれる。腔旋棒の一端にはシムの押し棒がねじ込まれており、この押し棒をねじ込むことでシムは押し込まれ、カッターの突出量が調整できる。

スクレイプ・カッターは両引きのため、シムが差し込まれている側と反対側は腔旋棒の中で固定されている。フック・カッターは片引きのため、カッターの一端にはシムが差し込まれ、他端はコイルスプリングを介して押されている。そのため、腔旋棒を引くときは、フック・カッターには楔が食い込む側に力が作用することから腔旋の切削が行われ、腔旋棒を押すときは、楔が外れる側に力が作用してカッターは銃腔に強く接触しない。

腔旋加工棒ともいう。英語ではRifling Barであるが、Cutting Boxということもある。

加工ヘッド(Rifling Head)
腔旋加工に使用される腔旋棒の中央にあって、腔旋を加工する切削刃が顔を出す開口部が開けられている部分。

スクレイプ・カッターで用いる腔旋棒の加工ヘッドでは、対向する2箇所に窓が開いており、フック・カッターで用いる腔旋棒では片側1箇所に窓が開いている。

腔旋ブローチ(Rifling Broach,Broach,Gang Broach)
銃腔に腔旋を加工する棒状の工具で、少しずつ径が太くなった切削刃が連なっており、その刃は銃腔の断面と対応した形状となっており、1~3本のブローチを引くだけで、腔旋の加工を行うことができる。

腔旋ブローチは40~60cm程度の長さで、1本の腔旋ブローチに25枚から30枚の切削刃が、腔旋の回転角に相当するねじれを伴って連なっている。良質の腔旋を切削するブローチでは、連なっている各刃の径が1.25ミクロン(0.0005インチ)ずつ太くなっており、この差はスクレイプ・カッターやフック・カッターが1回で切削する削り代と同等である。そのため、25枚程度の刃が連なっているブローチで0.1mmの深さの腔旋を加工するためには、3本の径が異なるブローチを用意する必要がある。この場合、切削に使用する順に、1番ブローチから3番ブローチと呼ばれる。

なお、ブローチは腔旋の加工以外にも使用されるの切削工具一般の名称であるが、発射痕鑑定分野では腔旋ブローチを単にブローチということが多い。また、腔旋加工用のブローチのように、切削刃が連なっているブローチをギャング・ブローチという。

廉価な銃身の製造では、1本のブローチを1回通すだけで腔旋加工を終了させる。加工する銃身の口径や銃身長によって差もあるが、良質の腔旋加工では500~700本程度の銃身を加工するとブローチの刃の研ぎ直しが行われる。廉価な銃身製造用のブローチでは5,000本以上の銃身をブローチの手入れなしで製造する。場合によっては1万本の銃身を切削することもあるという。3本組のブローチでは、1番ブローチは摩耗すると廃棄され、2番ブローチは刃を研ぎ直して1番ブローチに、3番ブローチは同じく2番ブローチに使い回される。

ブローチで腔旋が切削加工された銃身から発射された弾丸では、各旋底痕の間で発射痕の類似性は見られず、各旋底痕に異なるパターンの線条痕が残される。一方、連続加工された銃身によって発射された弾丸の間では、各旋底痕の痕跡パターンが類似する傾向がある。ただし、これはあくまで旋底痕に見られる類似性で、旋丘痕にはこのような類似性が見られることは少ない。廉価な銃では、摩耗して刃の高さが減少したブローチが使用されることから、銃腔の旋丘部分にブローチの刃ではない部分が接触することがあり(旋丘への乗り上げ現象)、連続生産された銃身の旋丘にも再現性のある痕跡が残されることがあることが知られている。

一枚刃ブローチ(Single Broach)
切削刃が1枚だけの腔旋ブローチ。

一度にすべての旋底を切削するが、旋底を目的の深さにするまでに何本ものブローチを用意して順次銃腔を切削加工する。

腔旋ブローチでは、切削刃が並んでいるギャング・ブローチが一般的だが、小規模生産では一枚刃ブローチが用いられることがある。上質の腔旋を加工するためには一枚刃ブローチを80本も用意することになるが、これでは現実的でない。一枚刃ブローチでは、切削刃が一枚しかないことから、ブローチを引く力はギャング・ブローチよりずっと小さくて済むことから、1本ブローチでは切削加工する削り代を大きく取ることができる。このことから、最初の何本かは削り代の多い荒削りを行い、仕上げ過程で削り代が少なくなるような組み合わせでブローチを用意して、全体の切削回数を減らすことが可能である。

銃腔に残される工具痕の性質はギャング・ブローチによる工具痕と同様の特徴を示す。すなわち、銃腔の異なる旋底には形状の異なる工具痕が残されるが、連続して製造された異なる銃腔に類似した工具痕が残される可能性がある。ただし、25枚もの刃が同一の組み合わせで切削を行うギャング・ブローチとは異なり、切削ごとに各旋底に当てられる刃の組み合わせが変化することから、連続製造した銃身であっても、工具痕の類似性はギャング・ブローチで加工されたものよりはるかに低いものと考えられる。

単一刃ブローチとも呼ばれる。

乗り上げ痕(Ride on Marking)
腔旋ブローチの刃の間の部分が腔旋加工を行っている銃腔の旋丘部分に接触することによって、旋丘に残され銃身の長手方向の線条痕。

腔旋ブローチによって切削加工された腔旋の旋底には銃身の長手方向の線条痕が残され、連続生産された銃身の旋底に類似した線条痕が残される可能性がある。そのため、このような類似線条痕のある銃身から発射された弾丸の旋底痕にも、その類似性が引き継がれる可能性があることが指摘されている。一方、腔旋の切削加工の過程で、銃身の旋丘部分に切削刃は接触せず、旋丘には銃身の長手方向の線条痕は残されず、例え連続生産された銃身から発射された弾丸の間であっても、旋丘痕には類似線条痕が出現しない。

この原則に対する例外の報告がある。腔旋ブローチが旋丘部分に乗り上げることよって、旋丘に銃身の長手方向の線条痕が残されることがあることがその理由である。ブローチの刃は、腔旋の断面の形状と対応した、山と谷が交互に並んだ歯車のような形状をしている。ブローチの山の部分が切削刃であり、この部分が腔旋(旋底)切削に使用される。谷の部分は口径より細くなっていることから銃腔の旋丘とは接触しない。腔旋ブローチは使用を重ねると刃が摩滅し、そのたびに刃の研ぎ直しが行われ、限度以上に刃が摩滅すると廃棄される。

ところで、廉価な銃では、廃棄された腔旋ブローチを研ぎ直したブローチまで利用して腔旋の加工が行われることがあるという。乗り上げ痕が生じるのはこのような場合だとされ、米国製の口径0.32インチの回転弾倉式拳銃やメキシコ製の0.22インチのライフル銃でその例が見られたとの報告がある。摩滅した腔旋ブローチは口径が一段階細い銃身に利用されるため(摩滅した口径0.38インチ用の腔旋ブローチで口径0.32インチの腔旋を加工したり、摩滅した口径0.32インチ用の腔旋ブローチで口径0.22インチの腔旋を加工する)、口径0.38インチや9mmの拳銃で乗り上げ痕が生じることは考えにくい。

このような痕を根拠にして、複数の発射弾丸の旋丘痕の間に対応痕跡があったとしても、それらが必ずしも同一銃器によって発射されたものと結論できないとする主張がある。ただ、一般的にはこのような廉価な銃は、例え銃腔形状が類似していたとしても、銃身のフレームへの取り付け方の変動によって発生するミスアライメント痕が銃ごとに異なることや、弾丸発射(この種の銃では通常鉛弾丸が発射される)に伴う銃腔への鉛の付着による固有特徴の発生などの理由から、経験を積んだ発射痕鑑定者の結論を誤らせる可能性は低いと考えられる。また、このような特殊な銃器が、捜査線上に浮かんだ容疑者周辺に2丁あることは、国内の銃器情勢からは考えにくい。

腔旋ボタン(Rifle Button)
塑性加工によって銃腔に腔旋を加工する工具。

超硬合金で作られており、加工部本体は紡錘状をしている。腔旋ボタンを銃腔内に引き通して腔旋を加工する場合は、長い竿が溶接されている腔旋ボタンを使用する。腔旋ボタンを銃腔内に押し通す場合は、竿の付いていないボタンを押し棒で押すことによって加工することもある。

腔旋ボタンは紡錘状の本体部分に腔旋のオス型が加工されている。本体部分のみの腔旋ボタンもあるが、本体の前部にパイロットと呼ばれる円柱状部分があり、後部にスムーザーと呼ばれる円柱部が続いているものもある。銃腔内を引き通す腔旋ボタンでは、ボタン本体部のみのものが多い。

パイロットは銃腔径よりわずかに細い円柱状で、腔旋ボタンが押し通される際にボタンの銃腔内での位置を正す役目を果たす。ボタンの本体部分は、紡錘状で最大径は目的とする銃腔の旋底径よりわずかに太くなっている。ボタンが銃腔内を通過すると、銃腔の旋底が塑性加工されるが、ボタンの通過後若干の塑性回復が生じるので、その分ボタンの径が目的とする旋底径より太くなっている。スムーザーは、紡錘形をしており、その最大径が銃腔径となっている。スムーザーによって、ボタン通過後の銃腔形状が整えられる。特に、旋丘のエッジ部に生じることのあるバリ状の突起を整形する。

腔旋ボタンは表面が滑らかな工具であり、切削加工ではなく塑性加工によって腔旋を仕上げるため、バニシ仕上げ同様、旋底表面を極めて滑らかな鏡面状とする。その結果、銃腔の耐摩耗性や耐腐食性が向上するという利点がある。その一方で、銃腔に残留応力が発生し、弾丸発射に伴う銃身の温度上昇によって残留応力が解放され、銃身に変形が生じるという欠点がある。その結果、命中精度が低下(グループが拡大)することから、精密射撃を行う銃身ではボタン加工は行われない。

クリーンナップ(Clean Up)
腔旋ボタンのスムーザーの別名。押し込み型腔旋ボタンで、ボタン本体の後方に付けられた部分で、ボタンで加工された腔旋の平滑化処理を行う。あるいは、その部分で銃腔を擦り、銃腔内を平滑化する仕上げ加工をいう。

腔旋をブローチ加工した場合には、旋丘のエッジ部にバリが立つことは少ないが、腔旋ボタンの1回通しで加工された腔旋では、旋丘のエッジ部にバリが立ち、発射弾丸の旋丘痕のエッジ部が溝状に深くなることがある。このようなバリを取り除くのがクリーンナップの役割である。

腔旋ボタンで申し訳程度の腔旋が加工されている銃では、クリーンアップをせずに、わざとバリを残していると思われるようなものもある。この種の銃では、腔旋の旋丘と旋底との段差が浅くても(0.02mm程度)、バリがあるうちは弾丸に回転運動が付与される。弾丸をある程度発射することでバリが除去されてしまうと、発射弾丸には腔旋痕角のほとんどない浅い腔旋痕が残されるようになる。もちろん発射弾丸に十分な軸周り回転力が付与されないため、命中精度は期待できない。

単語ごとに区切ればクリーン・アップだが、クリーンナップが適切な日本語訳だろう。

スムーザー(Smoother)
押し込み型腔旋ボタンで、ボタン本体の後方に付けられた部分で、ボタンで加工された腔旋の平滑化処理を行う。主に腔旋のエッジ部に発生するバリを平滑化する。

紡錘状をしていて、最大径が旋丘径となっている。1本のボタンで腔旋を仕上げる場合に、ボタン本体の後部に接続されている。腔旋ボタンで腔旋を加工した後にバニシボタンを通す場合には、スムーザーが付けられていないボタンが使用される。

クリーン・アップと呼ばれることもある。

パイロット(Pilot)
押し込み型のボタンの先頭にある円筒部分。銃腔径よりわずかに細い円筒となっている。腔旋加工を開始する際に銃腔に差し込まれる部分で、その後ボタンが真っすぐに押し込まれるためのガイドの役割を果たす。

押し込み型ボタンで腔旋を加工する手順は、銃腔に銃腔径と同等径の円筒状プラスチックプラグを少し押し込み、生じた空間に潤滑油を満たす。続いて、腔旋ボタンのパイロット部分を銃腔に差し込む。それから銃身を油圧プレスにセットし、腔旋ボタンを押し棒を用いて押し込む。

紡錘状をしているボタン本体の表面には低摩擦窒化チタニウム処理が施されており、黄色い色調をしている。潤滑油と低摩擦窒化チタニウム処理の効果により、ボタンの形状に従い、ボタンは自然と回転しながら銃腔内に腔旋を塑性加工しながら押し通される。

バニシボタン(Burnishing Button )
ブローチやボタンで加工された腔旋の形状を整えるとともに、腔旋の表面を磨き上げるために通されるボタン。

ボタン加工された腔旋の旋底は、鏡面状の滑らか表面となっており、銃腔の対摩耗性や耐腐食性を向上させるが、銃身に残留応力を発生させ、命中精度に問題を残す。そのため、塑性加工量を抑え、かつ滑らかな腔旋を仕上げるために、最初は腔旋ブローチを通し、仕上げ用にボタンを通し、さらにバニシボタンを通すという順で腔旋を加工することで、表面が滑らかで、かつ残留応力の少ない銃身が加工できる。

たとえば、3本組のブローチで腔旋を切削加工する代わりに、3番ブローチの切削加工ををボタン加工に変更し、最後にバニシボタンを通す。このような加工法を採用すると、腔旋ボタンのみによる加工と比較して塑性加工量が減少する上、腔旋の表面も滑らかに仕上げることができ、命中精度と耐久性の高い銃身が製造可能である。

バニシボタンで仕上げられた腔旋では、ボタンと銃腔との間に切削くず等の異物の巻き込みがなければ、きわめて滑らかな表面に仕上げられることから、発射弾丸に再現性のある痕跡を残すだけの深さのある工具痕は残されていない。

ボールバニシ加工(Ball Burnishing)
リーマー仕上げされた銃腔内に、銃腔内径より径が若干大きな鋼球を押し通し、銃腔面を塑性加工することによって、銃腔を最終形状に仕上げる加工法。バニシ仕上げリーマー加工の代わりに行われることがある。

ボールバニシを施すと、銃腔表面は極めて滑らかな鏡面状になり、耐摩耗性や耐腐食性が向上する。そして銃腔内径が口径となる。

シャンクに取り付けられた鋼球を、一定速度で1回だけ押し通す。それまでに行われた銃腔の加工に伴って銃腔面に残された円周方向の工具痕は完全に潰され、銃腔は鏡面状となる。残される工具痕があるとすれば、銃腔の軸方向の擦過痕である。これに対して、バニシ仕上げリーマーによる加工では、円周方向の擦過痕が残される可能性があるが、いずれにしても発射弾丸に再現性のある痕跡を残すだけの深さのある工具痕は消されている。

ボールバニシ仕上げは、鋼球を一定速度で送ることが重要で、密造銃身で行われるように、鋼球を叩いて押し通した場合には、銃腔内にリング状の段差が生じてしまう。

冷間鍛造銃身(Cold Hammer Forged Barrel)
仕上げ加工リーマーが通されたブランクと呼ばれる銃身にマンドレルと呼ばれる超硬合金の芯を挿入し、室温で銃身の外側を叩いて圧縮成型して腔旋付き銃身に加工された銃身。

第二次世界大戦前にドイツのアペル博士によって開発された方法で、主に、損耗の激しい機関銃の替え銃身の大量生産をする目的で使用された。米国でも第二次世界大戦中にM3サブマシンガンの銃身製造に使用されたという。当初は命中精度より生産効率を重視した製造法と考えられていたが、現在ではきわめて精度の高い銃身の製造が可能となっている。

ブランク銃身は、他の加工法に用いられるブランク銃身と異なり、銃腔径が目的とする銃腔径より20%以上太く仕上げられている。また、銃身長は目的の長さより数%短くなっている。なお、細い下穴を加工する方が太い下穴の加工よりずっと困難であることから、銃腔径より50%以上太い銃腔径のブランク銃身を用いることも多い。

マンドレルを挿入したブランク銃身を回転させながら、鍛造機で銃口側から銃身外側を叩いて加工していく。薬室側まで加工したらマンドレルを引き抜く。この工程をうまく行うには技術が必要とされている。離型を促す適切な潤滑剤を使用することに加えて、マンドレルをわずかにテーパー状にすることでこれを可能としている。

発射痕鑑定上の問題として、マンドレルに付けられている工具痕が銃腔の旋丘及び旋底の両者に残されること、その工具痕の多くが腔旋に沿った方向の線条痕であり、連続製造された冷間鍛造銃身の発射弾丸の旋丘痕と旋底痕の両者に、類似した発射痕跡が残されることがあることが指摘されている。

マンドレル(Mandrel)
冷間鍛造銃身製造に際して、ブランク銃身の内側に通す超硬合金で作られた心棒。腔旋と凹凸が反転した形状(オス型)をしている。

超硬合金でできているマンドレルには鋼鉄棒が溶接されている。マンドレルはダイヤモンド・カッター等で研削加工されるが、その際にマンドレルの腔旋形状に沿った線条痕が残されることがある。

マンドレルを使用して加工された腔旋に残される工具痕と、ブローチやボタンで加工された腔旋に残される工具痕には、異なる性質がある。マンドレルで加工された腔旋では、腔旋の各部位でマンドレルと腔旋との間で形状の凹凸関係が対応している。一方、ブローチやボタンで加工された腔旋では、工具の線状部分の形状が腔旋の面状部分の形状に反映されることから、工具と腔旋との直接的な形状の対応関係は存在しない。

マンドレルを使用して連続製造された銃身の銃腔の間には、面の形状が類似していることから、発射弾丸に残される痕跡が類似する可能性も高い。

薬室一括鍛造銃身(Integral forged chamber)
ブランク銃身に冷間鍛造で腔旋を加工する際に、薬室部分まで一括して鍛造加工された銃身。

冷間鍛造は設備投資が必要だが、大量生産に向く製造法で、技術の進展に伴い、さらに生産性を高めるために薬室部分まで一括して鍛造する工法が発達した。ただし、銃腔と薬室との間には径の差があり、途中には段差が存在することから、一括鍛造の技術的要求は高い。

発射痕鑑定の視点から見ると、弾丸の発射痕に反映される部分の形状がほとんど同一の銃身が連続生産されることを意味する。腔旋のみ冷間鍛造された銃身では、その後薬室部分が切削加工されるが、銃身の工作機械への取り付けや銃身の芯出し作業における変動によって、微妙な製品間差異が生じることが避けられない。その差異は、弾丸が薬室から銃腔に突入する際に発生するミスアライメント痕等の痕跡の相違に反映される。薬室一括鍛造銃身でも、切削や研削による最終仕上げ加工によって、若干の製品間差異が生じる場合もあるが、鍛造のみで製品が仕上げられた製品では、連続製造された新品の銃身から発射された弾丸の間には、類似性が極めて高い発射痕が現れる可能性を否定できない。

電解加工腔旋(Electro Chemical Rifling,ECR)
リーマー仕上げ加工がなされたブランク銃身を電解液に浸して、銃腔に挿入された電極と銃身との間に通電することによって、旋底部分を電解腐食させる腔旋加工法。

電極は、ブランク銃身にしっかりとはめ込まれるプラスチック製円筒でできており、円筒面には旋底の形状に対応する螺旋状の金属が埋め込まれている。この金属はプラスチック円筒面からわずかにへこんでいることから、銃腔と電極金属との間に生じるわずかな隙間に電解液(硝酸ナトリウム)を強制的に流動させながら、銃身とこの電極との間に通電する(たとえば銃身を正極、電極を陰極とする)ことで、旋底部分の金属が腐食されて除去される。除去された金属は強制対流されている電解液によって流し去られる。

プラスチック円筒を腔旋の回転に同期させて回転させながら銃腔内を移動させることによって、電極の長さより長い銃身に深さが一定の螺旋状の旋底が加工される。1インチあたり10秒程度で移動させる加工法が一般的である。

電解加工された銃腔の旋丘部分はリーマー仕上げ加工されたままの状態で残され、旋底部分は梨地状のざらついたものとなる。ただ、この表面形状が連続製造された銃腔に再現される可能性は全くない。

鉛ラッピング(Lead Lapping)
腔旋の最終仕上げで行われる仕上げ加工。

鉛ラッピングを行うには、まずラップ棒と呼ばれる銃腔より若干細い鋼鉄製の円筒棒を銃身の一端から銃腔に通し、銃身の他端を銅板等でシールする。ラップ棒とシール部との間隔が2~3cmとなるようにラップ棒を固定し、銃身を垂直に保持する。銃腔とラップ棒との間に適量の溶融鉛を注ぎこみ、鉛が凝固するのを待つ。

鉛が凝固したら、シールを取り外し、鉛の円筒部分が銃身から出てしまわないように、ラップ棒を手で握って、腔旋に沿った回転が自然に行われるように手でゆっくりと押しこむ。鉛の円筒部分が適度に露出したところで、ラップ棒を手前にゆっくりと引く。やはり鉛の円筒部分が銃身から外れない部分で止める。この操作を、ラップ棒を押し引きする時の抵抗が一定(どこかで引っかかったりしない)となるまで繰り返す。通常10回以上は繰り返さない。終了後は鉛ラップを静かに引き抜く。

この操作によって、鉛ラップの表面から脱落する鉛の粉末が研磨剤となって、腔旋表面が磨き上げられる。腔旋のエッジ部にあるバリや、切削くずを巻き込んで生じた損傷痕が滑らかになる一方で、鉛粉末による腔旋に沿った微細な線条痕が付け加わる。

鉛ラップは、使い込んで痛んだり錆が発生した銃腔のリフレッシュにも用いられる。その場合は、銃身の前後で露出する鉛の円筒部に研磨液をまぶしながら操作する。この種の鉛ラップでは、銃腔表面は清浄化、平坦化されるものの、10往復以上繰り返すと、旋丘が20~30μも研磨されてしまうため、過度の鉛ラップは禁物である。

薬室リーマー(Chamber Reamer)
薬室を加工する切削工具。荒削りリーマーと仕上げ加工リーマーの2本組みで使用される。段差のある特殊な形状の円筒状リーマーが用いられる。

薬室リーマーによって加工された薬室内壁には、リーマーの回転による周方向の工具痕が残される。弾丸を発射すると、発射薬の燃焼によって発生する高温高圧ガスによって薬きょうが薬室内壁に張り付く。そのため、打ち殻薬きょうは排きょう子や抽筒子の力を借りて薬室から排出される。この排きょう動作がスムーズに行われるには、薬室内壁は十分滑らかである必要があるが、銃腔ほどの滑らかさは要求されないため、リーマーの工具痕は放置されるのが普通である。また、硬質クロームメッキが施されることもない。リーマー加工時にメッキの厚さは考慮されていないため、メッキを施すと実包の装填不良が生じる可能性がある。

薬室内壁に残される微細な表面凹凸は、打ち殻薬きょうに残される各種の装填痕の発生源となる。薬室リーマーは回転によって切削を行うため、薬室に長手方向(軸方向)の工具痕は残されず、同一工具によって連続加工された薬室から排きょうされた薬きょうであっても、互いに類似した薬室痕が付けられることは考えにくい。

銃口クラウン(Muzzle Crown,Barrel Crown,Crown)
銃口部分の腔旋端部に施される種々の形状の面取り加工。

銃口部分の腔旋のわずかな変形や損傷が命中精度に大きく影響するため、損傷を受け易い腔旋端部を初めから削り落しておくことで、命中精度の劣化を防止するのが銃口クラウンを付ける理由である。

銃口部の腔旋に変形や損傷を一切与えないのであれば、銃口クラウンを付ける必要はなく、標的射撃用や狙撃用のライフル銃では銃口クラウンが加工されていないものがある。この場合、銃口部の腔旋が変形すると命中精度は劣化する。この種の銃の銃口では腔旋の端部に沈み込み加工(Countersink)を施すこともある。

単にクラウンとも呼ばれる。

命中精度に影響が生じるような銃腔の変化は、発射痕をも変化させるのが普通である。銃口付近の腔旋が変形すると、被甲弾丸の弾丸底部付近に残される旋丘痕は変化する。弾丸が銃口を飛び出す際に、最後に強い接触をする部分が変化するのがその原因である。命中精度が劣化した銃に対して、銃口クラウンの加工をやり直すことがある。この加工によっても被甲弾丸の弾丸底部付近に残される発射痕に影響を与える。


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