裁判員のための発射痕鑑定概説



はじめに
 裁判員裁判では、一般の方々が証拠の価値判断を行う必要に迫られる場合がある。その一方で、担当する事件について予備知識を準備することは想定されていない。そのため、いきなり難解な鑑定用語を聞かされる可能性がある。発射痕鑑定でも、一般にはなじみの薄い用語が用いられており、予備知識なしにその内容を適切に理解することは難しいものと思われる。そこで、一般の方に発射痕鑑定について、必要最小限の事項を解説し、どなたでも簡単に、正しい予備知識を得られる機会を提供するものである。


もくじ
(1)発射痕鑑定
(2)発射痕
(3)弾丸
(4)実包
(5)薬きょう
(6)雷管
(7)発射薬
(8)打ち殻薬きょう
(9)銃身
(10)銃腔
(11)腔旋
(12)旋丘と旋底
(13)腔旋痕
(14)旋丘痕と旋底痕
(15)腔旋角と腔旋痕角
(16)腔旋諸元
(17)腔旋痕諸元
(18)スキッド痕
(19)撃針
(20)撃針痕
(21)閉塞壁痕と遊底頭痕
(22)抽筒子と抽筒子痕
(23)蹴子と蹴子痕
(24)抽筒子痕と蹴子痕の活用
(25)撃針擦過痕
(26)銃器
(27)拳銃
(28)自動装填式拳銃
(29)自動式拳銃
(30)回転弾倉式拳銃
(31)フレーム
(32)スライド
(33)回転弾倉
索引



(1)発射痕鑑定(はっしゃこんかんてい)
 銃器から発射される弾丸と、その際に排出されることのある打ち殻薬きょうに残される痕跡を基に、それらを発射した銃器がどれかを決定する技術。
 互いに対応する発射痕が残されている弾丸あるいは打ち殻薬きょうは、同一の銃器部品と接触していたことを示しており、通常それは同一銃器によって発射された弾丸、あるいはその際に排出された打ち殻薬きょうと結論される。

(2)発射痕(はっしゃこん)
 弾丸発射時に、発射銃器の部品と強く接触することにより、発射弾丸打ち殻薬きょうの表面に残される痕跡。顕微鏡で拡大観察しないと識別できない痕跡が多い。

(3)弾丸(だんがん)
 銃器から発射される物体。弾丸は、実包の先端に取り付けられており、鉛などの金属の塊である。

(4)実包(じっぽう)
 弾丸を発射するために、銃器の薬室に込めるもの。弾(たま)とか銃弾と呼ばれることもある。実包は、薬きょう雷管を装着し、発射薬を詰めた上で、弾丸を取り付けたものである。

(5)薬きょう(やっきょう)
 薄い金属でできた筒状の入れ物で、その内部に発射薬が詰められている。薬きょうの開口部に弾丸が取り付けられており、その反対側の塞がれた端部(底部)に雷管が付けられている。
 薬きょうには、底部の縁(周辺部)に雷管のある縁打ち式薬きょうと、底部の中央に雷管がある中心打ち式薬きょうの2種類がある。

(6)雷管(らいかん)
 銃器の撃針で打撃されると発火し、発生した炎で発射薬に点火させる部品。その結果生じた高温高圧ガスによって弾丸に推進力が与えられる。

(7)発射薬(はっしゃやく)
 雷管によって着火され急速に燃焼することで、高温高圧ガスとなり、弾丸に推進力を与える火薬。

(8)打ち殻薬きょう(うちがらやっきょう)
 弾丸を発射した後に残される薬きょう。発火済みの雷管も一緒に残されている。自動式あるいは自動装填式の銃器では、打ち殻薬きょうが発砲現場に残されることが多い。

(9)銃身(じゅうしん)
 弾丸を加速する筒状の部品。

(10)銃腔(じゅうこう)
 銃身内にある、弾丸が通過する空間。

(11)腔旋(こうせん)
 弾丸に回転運動を与えるため、銃腔に刻まれているらせん状の溝をいう。細長い弾丸では、こまのような回転運動を与えないと、その先端を前にして飛行せず、命中精度が得られないことから、腔旋を銃腔に刻む必要がある。
 螺旋(らせん)の溝の本数(条数)は銃器によって異なり、その回転方向と条数により、右回転5条の腔旋、左回転6条の腔旋などと分類される。
 腔旋旋丘旋底からなる。

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        右回転5条の腔旋                   左回転6条の腔旋

(12)旋丘と旋底(せんきゅうとせんてい)
 腔旋の螺旋状の溝の山の部分を旋丘、谷の部分を旋底という。

(13)腔旋痕(こうせんこん)
 弾丸銃腔を通過する際に、銃腔腔旋とかみ合うことで弾丸の円筒部に残される痕跡をいう。
 腔旋痕の条数や回転方向は、発射銃器の腔旋と対応したものとなり、右回転5条の腔旋痕、左回転6条の腔旋痕などと分類される。
 腔旋痕は、旋丘痕旋底痕とからなる。
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        右回転6条の腔旋痕                   左回転6条の腔旋痕

(14)旋丘痕と旋底痕(せんきゅうこんとせんていこん)
 弾丸腔旋の山の部分とかみ合い、凹んだ部分を旋丘痕という。
 弾丸旋丘痕にはさまれた部分を旋底痕という。この部分は、腔旋旋底部分に入り込み、旋底の表面と部分的に接触する。

(15)腔旋角と腔旋痕角(こうせんかくとこうせんこんかく)
 腔旋の回転角度を腔旋角という。発射弾丸の腔旋痕の回転角度は腔旋の回転角度と原則的に同等で、その角度を腔旋痕角という。

(16)腔旋諸元(こうせんしょげん)
 腔旋の条数、回転方向、旋底の幅、回転角度、あるいは腔旋が1回転する長さを腔旋諸元という。

(17)腔旋痕諸元(こうせんこんしょげん)
 旋丘痕の幅を旋丘痕幅という。腔旋痕の条数、回転方向、旋丘痕幅、腔旋痕角を合わせて腔旋痕諸元といい、右回転5条の腔旋痕で、旋丘痕幅2.5mm、腔旋痕角3.2度のように表現する。この腔旋痕諸元を用いて、発射銃種を推定する。

(18)スキッド痕(すきっどこん)
 弾丸銃腔内で加速される初期の段階では、弾丸腔旋とのかみ合いが不十分であり、弾丸が回転せずにすべることから、すべり痕が残される。このすべり痕をスキッド痕という。銃腔の摩耗が進行すると、スキッド痕の面積が広く、また深くなる。

(19)撃針(げきしん)
 弾丸を発射するには、薬きょうの底面にある雷管を打撃する必要がある。この雷管を打撃する部品を撃針といい、銃器には必ず存在する部品である。

(20)撃針痕(げきしんこん)
 撃針の打撃によって雷管に残される痕跡を撃針痕という。
 雷管撃針で打撃されると、内部の点火薬が発火し、この火によって発射薬が着火する。弾丸が発射されると、その反作用として、薬きょうは銃器の閉塞壁等に強く押し付けられる。撃針痕は、この反作用によって深くなり、不発の際の撃針痕は浅い。

(21)閉塞壁痕と遊底頭痕(へいそくへきこんとゆうていとうこん)
 薬きょうの後端面を抑える銃器の部品を閉塞壁遊底頭砲底面等という。弾丸発射の反動で、薬きょう底面は銃器の閉塞壁等に強く押し付けられ、薬きょう底面には閉塞壁等の加工痕跡が転写される。このようにして、薬きょう底面や雷管表面に転写された痕跡を閉塞壁痕遊底頭痕砲底面痕などという。

 弾丸が発射されなかった(不発)場合には、浅い撃針痕は残されても、閉塞壁痕等は残されない。
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       中心打ち式薬きょう                  縁打ち式薬きょう
                 薬きょうの底部に残される発射痕

(22)抽筒子と抽筒子痕(ちゅうとうしとちゅうとうしこん)
 自動式拳銃あるいは自動装填式拳銃では、弾丸を発射した後、打ち殻薬きょうを拳銃から排出し、新たな実包を薬室に送り込む。このような拳銃では、打ち殻薬きょうを薬室から引き出す部品があり、これを抽筒子という。

 打ち殻薬きょうに残される抽筒子との接触痕跡を抽筒子痕という。なお、実包を薬室に装填し、それを手動で排出したときも、浅い抽筒子痕が残されることがある。

(23)蹴子と蹴子痕(しゅうしとしゅうしこん)
 薬室から抽筒子によって引き出された打ち殻薬きょうが、銃器の排きょう口からうまく排出されるように、薬きょう底面の一部を打撃して薬きょうの向きを変える部品を蹴子という。

 蹴子薬きょう底面を打撃することで残される痕跡を蹴子痕という。

(24)抽筒子痕と蹴子痕の活用(ちゅうとうしこんとしゅうしこんのかつよう)
 抽筒子痕蹴子痕薬きょうに残される位置は、銃器の構造によって異なることから、発射銃種の推定に用いられる。これは、薬きょうが再生実包(一度使用した薬きょうを利用して製造された実包)でない場合に有効である。

(25)撃針擦過痕(げきしんさっかこん)
 弾丸発射後、撃針がまだ突出している内に打ち殻薬きょうの排きょう動作が開始された場合、撃針痕の縁を擦るように残される痕跡。他の部分に深い発射痕が残されていない場合にも、特徴的な深い条痕が残されることがある。拳銃の型式の推定に役立つこともある。

(26)銃器(じゅうき)
 火薬の燃焼によって発生する圧力や、圧縮された空気やガスの膨張力を利用して、銃身から弾丸を加速させながら狙った方向に発射させる武器。

(27)拳銃(けんじゅう)
 手で握って弾丸発射を行う小型の銃器。命中精度は悪いが、隠匿性に優れ、犯罪に多く使用される。原則的に、国内では所持できない。単発式けん銃から、自動装填式拳銃回転弾倉式拳銃などの連発式けん銃と、デリンジャーのような複数銃身のある拳銃がある。

(28)自動装填式拳銃(じどうそうてんしきけんじゅう)
 引き金を引くと弾丸が発射され、続いて打ち殻薬きょうが排出され、弾倉に詰められた実包が新たに薬室に装てんされる拳銃。引き金を引くごとに弾丸発射が繰り返される。
 主要部品に、銃身フレーム(機関部体)、スライドがある。

(29)自動式拳銃(じどうしきけんじゅう)
 引き金を1回引くだけで、弾倉が空になるまで弾丸を連発できる拳銃。全自動式けん銃、フルオート拳銃ともいう。

(30)回転弾倉式拳銃(かいてんだんそうしきけんじゅう)
 輪切りにしたレンコンのような形状をした回転弾倉を備える拳銃。弾倉の薬室の数だけ、弾丸を連発可能である。引き金を引くことで撃鉄が起きて、弾倉も回転するダブルアクションのけん銃と、引き金を引いても撃鉄が起きず、撃鉄を起こすことで弾倉を回転させるシングルアクションのけん銃とがある。
 主要部品に、銃身フレーム回転弾倉がある。

(31)フレーム(ふれーむ)
 握る部分を含む拳銃の本体部分で、引き金や撃鉄などの発射に必要な部品を収納している部品。回転弾倉式拳銃では、フレームに薬室を閉鎖する機能があり、撃針が突出する部分を備える。

(32)スライド(すらいど)
 自動装填式拳銃の部品で、前後にスライドすることで実包の薬室への装填、撃針による雷管の打撃、打ち殻薬きょうの排きょうなどの動作を行う。薬室を閉鎖する機能を備え、その閉鎖部に撃針が突出する部分がある。

(33)回転弾倉(かいてんだんそう)
 回転弾倉式拳銃の部品で、実包を装填する複数の薬室が円周方向に等間隔に配置され、回転することで、装填されている実包を、次々に撃針の打撃位置に送り込む。シングルアクションの拳銃では、撃鉄を指で引き起こす動作によって回転し、ダブルアクションの拳銃では、引き金を引く動作によって回転する。



索引

  打ち殻薬きょう(うちがらやっきょう)


  回転弾倉(かいてんだんそう)
  回転弾倉式拳銃(かいてんだんそうしきけんじゅう)


  撃針(げきしん)
  撃針痕(げきしんこん)
  撃針擦過痕(げきしんさっかこん)
  拳銃(けんじゅう)


  腔旋(こうせん)
  腔旋角(こうせんかく)
  腔旋痕(こうせんこん)
  腔旋痕角(こうせんこんかく)
  腔旋痕諸元(こうせんこんしょげん)
  腔旋諸元(こうせんしょげん)


  実包(じっぽう)
  自動式拳銃(じどうしきけんじゅう)
  自動装填式拳銃(じどうそうてんしきけんじゅう)
  銃器(じゅうき)
  蹴子(しゅうし)
  蹴子痕(しゅうしこん)
  銃腔(じゅうこう)
  銃身(じゅうしん)


  スキッド痕(すきっどこん)
  スライド(すらいど)


  旋丘(せんきゅう)
  旋丘痕(せんきゅうこん)
  旋底(せんてい)
  旋底痕(せんていこん)


  弾丸(だんがん)


  抽筒子(ちゅうとうし)
  抽筒子痕(ちゅうとうしこん)


  発射痕(はっしゃこん)
  発射痕鑑定(はっしゃこんかんてい)
  発射薬(はっしゃやく)


  フレーム(ふれーむ)


  閉塞壁痕(へいそくへきこん)


  薬きょう(やっきょう)


  遊底頭痕(ゆうていとうこん)


  雷管(らいかん)


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