ゴダード少佐の銃器鑑定テキスト


(1)はじめに
(2)まえがき
(3)識別法 その方法と解説
(4)我々の手法に対する評価
(5)スタッフ
(6)結論
(7)文献


(1)はじめに
 カルヴィン・H・ゴダード(Calvin H. Goddard)が、アメリカ合衆国の発射痕鑑定の基礎を築いた貢献者であることは、すでに別の機会に紹介した(カルヴィン・H・ゴダードが語る発射痕鑑定の歴史)。その中で、「彼は発射痕鑑定のまとまった教科書は書かなかった。また、著した論分も今では入手しにくいものが多い」、と記したが、彼の名を冠した銃器鑑定テキストがあるので紹介する。実際には、彼の後を継いだ弟子たちが作成したものと思われる、全体で12ページの宣伝用パンフレットである。それでも、ゴダードが築いた銃器鑑定法を紹介する貴重な資料となっている。訳者の畏友ジョン・マードック(John E. Murdock)のコレクションの一つである。

 そのテキストの題名は、「民事および刑事事件における科学的銃器鑑定(Scientific Firearm Identification in Civil and Criminal Cases」である。その表紙には、ゴダードが鑑定したサッコ・ヴァンゼッティ事件の証拠写真が掲げられている。これはニコラ・サッコの有罪の決め手となったもので、現場薬きょうの一つとサッコが所持していたコルト自動装てん式拳銃の試射薬きょうの、それぞれのきょう底面の顕微鏡写真に、ゴダードが特徴点を記入したものである。この写真はパンフレットの表紙絵ではあるが、すでに図1とされており、本著作(パンフレット)の重要な内容の一つとなっている。なお、サッコ・ヴァンゼッティ事件について、ゴダードはなぜか先に紹介した講演の中で一切触れていなかった。

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図1

 その写真の下には、カルヴィン・ゴダード少佐とニューヨーク市28番街の東4番地に所在する法弾道局の後継者である関係者による著作と書かれている。

 そして、ページをめくると、1ページの上下に図2と図3が掲載されている。図2には、弾丸の3連ホルダーの解説があり、現場弾丸が中央に、その左右に試射弾丸が各1個並べて載物台に載せられた写真が示されている。ゴダードは、先に紹介した講演の中で、ウェイトに出会う前に弾丸を2連ホルダーに載せて、大口径の顕微鏡で同時に観察したことを紹介している。これは3連のホルダーで、3個の弾丸を同時に観察し、写真撮影できる装置と思われる。

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図2

 その下にある図3では、この3連ホルダーの3個の弾丸のうち、左側の試射弾丸の弾丸底部側と右側の試射弾丸の弾丸頭部側を、中央にある現場弾丸の中間部分を除く上下の部分に貼りつけたものが示されている。このようにしても、中央の現場弾丸に違和感が生じていないので、痕跡が合っているとの解説がある。ただし、写真の拡大倍率は低く、細かい線条痕の確認ができるものではない。腔旋諸元が同等で、腔旋痕全体が対応している状況を示す写真となっている。

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図3

 そして、3ページ目からが本文となる。

(2)まえがき
 ここに書き記す銃器鑑定は、すべての犯罪科学の中で、特筆し得る性格をもっている。なぜならば、我々の銃器鑑定では、発射弾丸と打ち殻薬きょうが、特定の銃器から発射された物か、あるいは発射されなかった物かを確実に決定することができるからである。この鑑定技術は、検察側、弁護側双方に役立つものである。そこには、「専門家」と称する人たちの、単なる「意見」に過ぎない、誤ることも多く、時には悪意に満ちている「証言」は必要としない。「意見」以外の何物も持ち合わせていないのであれば、たとえそれが正確な意見であったとしても、我々はその事件から手を引くべきである。

 我々は、意見の代わりに写真による証拠を提出する。写真は、何があったのかを、静かにではあるが、公平に語る。我々の役割は、単にその証拠写真が得られるまでの手続きを説明するだけである。それが何を意味しているのか、その理由はなぜかを証言するだけで済む。その後は、裁判官と陪審員の知性に任せればよい。

 我々の現在の鑑定手法は、故C.E.ウェイト氏(C.E. Waite)とカルヴィン・ゴダード少佐(Major Calvin Goddard)、並びに彼らの同僚らの長年にわたる努力の結果もたらされた。ウェイト氏は、この仕事を1915年に開始し、ゴダード少佐は1921年に開始した。彼らは1925年に「法弾道学局」を設立したが、ウェイト氏が1926年に死亡したことにより、彼らの提携関係は終了した。それ以来ゴダード少佐は、それまでの同僚らとともに単独名での活動を継続した。研究所で使用する特殊な機材の設計と製作は、ゴダード少佐の同僚のうちのグラヴェル氏(Gravelle)とフィッシャー氏(Fisher)が行った。これらの機材の開発なくしては、我々の先進的な鑑定手法は実現しなかった。ウェイト氏の貢献は、国内外の銃器製造会社を自分の足で訪ね歩いて収集したデーターと、豊富な銃器や試射弾丸と試射薬きょうなどのコレクションの収集にある。彼が集積したデーター類は、この種の資料としては未だかってない膨大な規模で、これまで誰も収集を試みよとしなかったものである。その他のスタッフも、それぞれが得意とする分野で貢献したが、それについては、この小冊子の後ろに名前とともに紹介してある。

(3)識別法 その方法と解説
 犯罪捜査に従事する者たちは、検察側であろうと弁護側であろうと、一人の、あるいは多数の人命にかかわる判断を下さなければならないという共通した問題と直面することになる。

1. ここに遺体から摘出した弾丸がある
 A.どこの会社の銃器が使用されたか?
 B.使用実包の製造所はどこか?
 C.発射薬は黒色火薬か、無煙火薬か?

2.ここに遺体から摘出した弾丸と、その容疑銃器がある
   この弾丸は、この容疑銃器から発射されたものか否か?

3.ここに犯罪現場で見つかった打ち殻薬きょうがある
 A.この犯罪に使用された銃器は回転弾倉式拳銃か、それとも自動装てん式拳銃か?
 B.どこの会社の銃器が使用されたか?

4.ここに犯罪現場で見つかった打ち殻薬きょうと、その容疑銃器がある
   この薬きょうは、この容疑銃器で発射されたものか?

5.ここに遺体の衣服から採取された未燃焼火薬がある
   どこの会社が製造した火薬か?
   どのような種類の実包が使用された可能性があるか?

6.ここに銃器がある
   この銃器に発射形跡はあるか?もしあるならば、いつ頃発射したものか?

7.ここに発砲に使用された銃器がある
 A.どんな種類の発射薬が使用されたか?
 B.鉛弾丸が発射されたのか?それとも被甲弾丸が発射されたのか?

    これらの問題は、常に解決できるとは限らないが、多くの場合で回答が得られる(問題3Bはその例外で、解決できることは稀である)。この問題が解決できる根拠は以下のものである: 

それは、以下の事実によるものである:

 1.弾丸の全長と口径が同等で、さらに弾丸の表面形状まで全く同一の実包を製造している会社が2社とはない。

 2.顕微鏡で観察しても、粒の形状の区別が付かない発射薬を製造している会社が2社とはない。

 3.腔旋の条数、回転方向(右か左か)、腔旋の幅、深さ、回転角度まで全く同一の腔旋を銃身に刻んでいる会社が2社とはない。したがって、発射弾丸には、銃器の製造会社固有の特徴を持った腔旋痕が残され、それがいわば銃器の指紋となり、他の会社の銃器から発射された弾丸とは識別可能である。

 4.たとえ同一工具を取り付けた同一工作機械で製造された銃身であっても、隅々まで全く同一形状の部品を製造することは物理的に不可能であり、発射弾丸には発射銃器固有の特徴が残される。それは、同一工作機械で連続して製造された銃身においても然りであることは、我々が実験によって証明したとおりである。したがって、単一の会社が製造した同一モデルの複数の銃器から発射された弾丸の間であっても、それらの発射銃器を正しく識別することができる。

 5.銃器のどのような部品であっても、隅々まで全く同一の部品を製造することは、物理的に不可能である。したがって、撃針あるいは撃茎の形状は銃器ごとに異なり、それらの打撃によって打ち殻薬きょうに残される凹みや、その後の弾丸発射の際に発生する圧力の反動によって、閉塞壁から受ける力によって薬きょうに残される痕跡は、銃器ごとに異なることから、発射銃器を識別可能である(図9参照)。

 6. 発射薬が異なると、形状特徴が異なった火薬残渣が発射銃器の銃腔内に残される。この種の外観特徴は、時間経過とともに変化する。最初は急速に、そして次第にゆっくりと変化し、そして最終的には変化しなくなる。鉛弾丸は、被甲弾丸が残さない微量痕跡を銃腔内に残す。などなど手掛かりはいくらでもある。

                 *********

 しかしながら、これらの現象が存在しても、必要とするデーターや精密測定の機材がないと、それを活用することはできない。それ故に、この問題に対処する必要から、我々は以下に示す機材を開発した。

 A.2個の弾丸や薬きょうを同時に観察し解析を可能とするための比較顕微鏡(これは当研究所のために、初めて開発されたものである)。その使用法については7、8ページ参照。
 B.銃腔内の発射薬残渣、錆、腐食などを観察するヘリクソメーター(図4)。世界で唯一のものである。
 C.全米、全カナダの製造会社を網羅した参照用実包コレクション、
 D.全世界の銃器メーカが採用している腔旋(ライフリング)諸元表(我々は、1,500種類以上のモデルの腔旋諸元を収集している)
 E.発射弾丸の腔旋の幅と角度を測定するためのミクロメーターとゴニオメーターが付属した顕微鏡(測定精度一万分の1インチ)
 F.発射弾丸の腔旋痕の深さを測定するための精密ゲージ(精度1万分の1インチ)
 G.銃器の銃腔径を測定する銃口プラグ(精度千分の1インチ)
 H.発射銃種の推定作業に用いる、数百丁の異なるモデルの銃器から発射した参照用発射弾丸
 I.米国内でこれまでに販売された銃器が網羅されているカタログや書籍類
 J.これまでに米国で取得された、後込め式回転弾倉式拳銃のすべての特許文書
 K.約600丁に上る小型銃器のコレクション

 与えられた問題に対する解答は、比較顕微鏡を用いて検査することで満足すべきものとなる。この検査で、2個以上の発射弾丸あるいは打ち殻薬きょうが、同一の銃器によって発射されたものか、異なる銃器によって発射されたものかの問題に確証が得られる。ただし、対象とする資料の損傷が、一定限度内でなければならない。続いて、得られた結果を証明する写真を作成する。2個の弾丸で痕跡が一致している部分の写真(図7)や、同一銃器から発射されたことを示す打ち殻薬きょうの痕跡対応部分を、比較顕微鏡の接眼レンズを通して撮影する。比較の目的で、同一の口径ではあるが、異なる銃器によって発射された2個の弾丸(図8)や薬きょうの写真も撮影する。

 打ち殻薬きょうでは、2通りの異同識別法がある。第一は、雷管の上に残される閉塞壁痕を利用する方法である。この痕跡は、発射銃器の閉塞壁を、やすりによる手作業で仕上げたり、フライス盤による機械加工をすることで残される銃器固有の痕跡である(図9)。第二は、発射銃器の撃針あるいは撃茎が打撃することで、雷管の上に残される凹みを用いて識別する方法である。撃針や撃茎は、たとえ同一工具で連続的に製造されようとも、全く同一に仕上げることはできない。有名なサッコ・バンゼッティ事件のように、閉塞壁痕を個別に撮影した写真を用いても、同一銃器の特徴の一致はしばしば確認できる(図1)。

 もちろん比較写真の直接撮影も行われる。比較顕微鏡の一方の載物台に殺人事件の現場弾丸を、もう一方の載物台にそれと口径や製造メーカーが同一の銃器による試射弾丸を載せる。現場弾丸と試射弾丸との間で、同じ銃身を通過したと結論できる互いに一致する痕跡が確認された場所をカメラの方向に向けて、比較写真を撮影する(図2、3)。打ち殻薬きょうの直接比較写真も同様に撮影される(図5、6は同一種類の異なる銃器の痕跡を比較している)。同一の銃器による2個の打ち殻薬きょうの痕跡も撮影される(図1)。(図1では、Yの字型をした尾根と、撃針痕の両脇の部分の雷管面にあるB,C,PとE、F、Hに注目されたい。両者ともに明瞭に認められる対応特徴である。

 

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図4 ヘリクソメーター

(4)我々の手法に対する評価
 我々の鑑定手法を学んだ方々から多くの評価を得られた。最初に、我々の研究所を数日間にわたって取材に訪れた、サタディー・イブニング・ポストの編集者の一人が書いた記事を紹介する。彼は、科学的な銃器鑑定を行うための資機材と、そのために収集された多くのデーター類について学び、以下の記事を作成した。

 題名は「弾丸指紋-寡黙な証人」で、1925年6月13日と20日の紙面に掲載された。内容の一部を紹介すると、

 「ここに、新たな科学的事実を紹介しよう。それは戦後(訳注:第一次大戦後)発見された事実で、公にされるのは初めてである。すなわち、完全に同一の痕跡を発射弾丸に残す回転弾倉式拳銃や自動装てん式拳銃は、2丁と存在しないという事実である。それゆえ、発射弾丸を発射銃器と、確実に結びつけることが可能となった。」

 「発射銃器は、単なる意見としてではなく、確実に識別される。それは専門家のみが行えることではあるが、その結果は、陪審員や裁判官が見て理解できる視覚的な証拠として提供される。」

 この識別作業を決定づける重要な検査について、サタデー・イヴニング・ポスト紙は次のように解説した:

 「2台の連結された顕微鏡が並べて置かれ、それぞれの弾丸固定ホルダーに弾丸が載せられている。この顕微鏡は、比較接眼レンズによって結合されており、プリズムの作用で、両者の弾丸を同一視野内で焦点を合わせて観察できる。弾丸載物台は、精密な歯車によって微細に回転させることができる。」

 「比較接眼レンズを通してみると、弾丸は2個に見えるのではなく、1個のように見える。目の前にある画像の中央部分で、境界線の上下にある筋を合わせる。合わない場合は、片方の弾丸ホルダーを徐々に回転させながら、2個の弾丸の間で筋目が一緒になる部分を探す。そのような場所を見つけたら、今度は2個の弾丸を一緒に、同方向に徐々に回転させる。2個の弾丸が同一銃身を通過したものであれば、同時に弾丸を回転させると見えてくる次の筋も一致し、次の切れ込みや傷、山や谷が次々と、すなわち弾丸周囲の腔旋痕がすべて一致して行く。(図7参照)。」

 「異なる銃身を通過した2個の弾丸でも、たまたま一致する条痕はあるかもしれない。しかし、一致しない条痕が大半となろう。それは、同じデザインの壁紙をいい加減に合わせると、模様が一致しないのと状況は似ている。図8にその状況を示した。」

 「目で確認したことを、適切な照明装置と撮影装置を用いて高感度フィルムに記録し、それを必要に応じた拡大倍率で引き伸ばす。その写真を使って、2個の弾丸が結婚できるものか、それとも離婚すべきものかについて、陪審員に示すことができる。」

 「これは、意見など陳述しない寡黙な証人である。専門家とか非専門家といった問題ではない。その写真自体が事実を示している。」  「指紋は、発射痕ほど確実ではない。せいぜい9点の特徴が一致すれば、確実に同一人のもとされる。一方、(同一銃器から発射された)2個の弾丸の間では、弾丸頭部に大きなきのこ状の変形があるような場合を除き、少なくとも50点の、おそらくその2倍の特徴点が一致するであろう。」

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           図5                             図6

 アメリカ医学会誌(The Journal of the American Medical Association)の1926年3月20日号には、「犯罪者の銃器の特定」と題する編集者の評価記事が掲載されている。そこには:

 「最近まで法医学者と犯罪学者は、発射弾丸や打ち殻薬きょうを発射銃器と結びつけることは、その確実性のいかんにかかわらず、不可能なことと放棄してきた。・・・今や4人のアメリカ人研究家のウェイト、ゴダード、グラヴェルとフィッシャーの手によって、この分野でこれまでに行われてきた技術を、はるかに上回る手法が開発された。それは、腔旋銃身が関係するすべての事件に利用できる科学的方法であることから、この種の問題に対する均一な解答を与える。」とある。

 ノースウエスタン大学の法学部長で、アメリカの証拠法における最高権威者とされるジョン・ウィグモア(John H. Wigmore)は、刑法と犯罪学誌(Journal of Criminal Law and Criminology)の中で、「ゴダードとウェイトの両氏は、弾丸を発射銃器と結びつけることができることを我々に示してくれた。「法弾道学」は、弾丸を扱う科学を表す言葉として威厳のあるものだ。」と述べている。

 ニューヨーク州知事やニューヨーク郡地方検事などを歴任し、現アメリカ弁護士会長のチャールズ・ホィットマン(Charles S. Whitman)は、「この鑑定法の結論の正確性に疑問を差し挟む余地はない。殺人の凶弾が、どの銃器から発射されたのかを特定できれば、殺人事件の裁判で真実が明らかとなり、これは、すべての弁護士が待ち望んでいたものである。この技術を確立したウェイト氏とその同僚たちに心から感謝する。」と述べている。

 ニューヨーク市の刑事裁判所のオットー・ロザルスキー判事(Otto A. Rosalsky)は、「20年前に指紋の識別法が導入されたとき、初めて指紋の証拠価値を認めた裁判官は私であるが、ここで私は、発射痕の識別法にも指紋と同じ重要性があることを認める。」と述べている。

 ニューヨーク警察本部長補佐であった故ジョセフ・ファロー(Joseph A. Faurot)は、アメリカ合衆国の裁判所が指紋を認める以前から、人間の識別法としての指紋の価値を最初に認めた人物であるが、我々の弾丸識別法に対する批判的な研究を行った後、次のように述べた。「あくまでも私の意見ではあるが、(この方法は)、科学的で、絶対に確実な結果をもたらし、実用性に富み、革新的であり、そして、犯罪学において指紋と同様の価値がある。」

 イタリア王国のローマ市にある警察科学学校の校長であるサルバトーレ・オトレンギ教授(Salvatore Ottolenghi)は、ヨーロッパを代表する犯罪科学者の一人であるが、我々の仕事を精力的に調査した結果、「(この鑑定法は)精密な科学的手法であり、使用している機材は精密である。それらの手法と機材を組み合わせて行われる鑑定により、弾丸と銃器とを正確に結びつけることができる。」と述べている。

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           図7                             図8
            寡黙な証人(The Silent Witness)のページ7、8から引用

 カナダのトロント市警察のサミュエル・ディクソン署長(Samuel J. Dickson)は、以前、国際警察署長会議の会長を務めた人物であるが、我々の技術に対して、次のような感想を述べている。「ひたむきな科学的な努力によって、ここに、銃器が使用された粗暴犯罪の解決にもっとも価値の高い技術が完成した。」

 国際鑑識学会の会長でニューオーリンズ市警察の鑑識課長のモーリス・オニール(Maurice B. O'neil)は、次のように書いている。「(これは)もっとも価値のある手法であり、それが当局によって犯罪捜査に活用できるようになった。普通の条件であれば、この方法で発砲事件の犯人を、疑いの余地なく確定することが可能である。」

 ワシントンD.C.のスター紙は、その社説で次のように述べた。「サッコとヴァンゼッティに対する嫌疑は、ほとんどが状況証拠からなるものであった。・・・したがって、武器に関する証拠は極めて重要なものとなる。鑑定書を提出した専門家の証言によって、これらの男たちが有罪であることに対する疑いは排除された。」
(原注:ここで言及されている専門家とは、ゴダード少佐のことである。)

(5)スタッフ
最高経営責任者、カルヴィン・ゴダード少佐 合衆国軍軍需品部予備役
アメリカ刑法並びに犯罪学会会員
国際鑑識学会会員
アメリカ軍事技術学会会員
ニューヨーク顕微鏡学会会員
陸軍軍需品学会会員 など

 ゴダード少佐は、生涯をかけた武器と弾薬の研究家であり、長年、銃器と発射弾丸の識別の研究に没頭した。ジョンズ・ホプキンス大学から学術と科学の学位を授与され、米国陸軍学校の優等卒業生である。彼は、その専門分野では、米国のみならず国外からも権威者として認められている。

共同経営者と顧問

銃器と実包に関連した写真撮影と顕微鏡検査部門
フィリップ・グラヴェル(Philip O. Gravelle)(ニューヨーク顕微鏡大学)
 研究所の資機材の中で、最も重要な比較顕微鏡を現在の完成した姿にしたのは、グラヴェル氏の功績である。弾丸と薬きょうの写真撮影をする際に利用する、高輝度電球を用いたグラヴェル式顕微照明装置は、彼のもう一つの大きな貢献である。グラヴェル氏は、イギリスの顕微鏡写真学会のバーナード賞を受賞した唯一のアメリカ人である。

顕微鏡測定部門
ジョン・フィッシャー(John H. Fisher)(ニューヨーク顕微鏡大学)
 ヘリクソメーターの開発はフィッシャー氏の業績である。ヘリクソメーターは、この種の機材として、他に類を見ないもので、彼が設計し、彼の指導の下に製作された。以前、ワシントンのアメリカ基準局に在籍し、精密測定機材の設計という難問に果敢に挑戦する資質を備えている。

研究部門
チャールズ・ガンサー(Charles O. Gunther)少佐 合衆国軍軍需品部予備役
(顧問技師、スティーヴンス工科大学数学科教授)
 ガンサー少佐は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州スプリングフィールド市にあるスプリングフィールド兵器工場でアメリカ陸軍軍需品部が行った、小火器と小火器用実包の実験及び開発に深くかかわってきた。さらに、1918年と1919年には、フロリダ州マイアミにある小火器弾道試験所で仕事をした。最近彼は、メリーランド州アバディーンにあるアメリカ合衆国アバディーン試験射撃場で、軍需品将校の教育担当の教官を務めている。

弾道学部門
セス・ウィアード(Seth Wiard)大佐 合衆国軍軍需品部予備役
(レミントン銃器会社、コネチカット州ブリッジポート市)
 ウィアード大佐は、火薬と実包を製造するの様々な会社で働いた長年の経験を持つとともに、小火器の製造と海軍で砲撃担当将校を勤めたことから、弾道の問題を扱う適任者である。彼の専門分野についての技術雑誌への寄稿論文は、この分野で高い評価を得ている。

(6)結論
 我々の手法は、詳細な検証が可能なように、誰にも公開している。そこには、一般の方々の理解が難しいことは何もない。その根底に横たわる原理には何の仕掛けも、秘密もない。ごく簡単で健全な原理だ。多くの科学雑誌や大衆誌(後掲の文献を参照)並びに米国と諸外国の一般誌に、詳細に包み隠すことなく、この手法は紹介されている。我々にとって、この手法を秘密にしておく必要な何もない。なぜならば、この手法がいかに広範に普及しようとも、またいかに多くの人たちが利用することになろうとも、この分野で我々が指導者の立場を失うことはないからだ。その理由は以下のとおりである:

1.適切で十分な教育履歴
 ゴダード少佐は9歳のときから、自らの銃器で射撃実験を行っていた。彼は、国営兵器工場の小火器と小火器用実包の製造工場を訪れるとともに、米国内のすべての銃器と実包工場を訪ね歩いて、事実上すべての銃器の製造法について研究した。 彼は米国陸軍の「拳銃特級射手」に認定されている。彼の同僚たちも、それぞれの分野で同様の資格者ぞろいである。

2.完備したデーター
 我々は、我が国と諸外国で製造された、さまざまのモデルの銃器のデーターを所有している。発射弾丸、打ち殻薬きょう及び未発射の実包の種類は数千種類にも上る。我々が収集した銃器や実包、あるいはこれと関連した書籍の数は、他に類を見ない分量に及ぶが、これだけの資料を持たずして完璧な鑑定は行えないと思って揃えたものである。

3.適切な機材
 すでに紹介した通り、我々が対象としている特別な問題に必要とされる最新鋭の精密機材は、我々自らが開発したものである。これらの機材は、世界のどこを探しても入手できないものである。

4.目的の単一性
 我々の業務の対象は銃器と実包のみである。我々は、この分野以外についても博識であることは主張していない。「専門家」と称する多くの人々は、しばしば、すべての科学分野に精通しているかのような主張をする。中には、その学問の名前をうまく発音できない場合すらある。

 この問題について、もっと詳しく解説した科学雑誌の記事は、要求があれば喜んでそのコピーを送付する。

(7)文献
 サタデー・イヴニング・ポスト(Saturday Evening Post) 1925年6月13日及び6月20日号
 ポリス・マガジン(Police Magazine) 1925年7月号
 陸軍兵器雑誌(Army Ordnance) 1925年11-12月号
 警察実話(True Police Stories)1925年12月号
 月刊ポピュラー・サイエンス(Popular Science Monthly) 1926年1月号
 軍医(The Military Surgeon)1926年2月号
 アメリカ医学会誌(Journal of the American Medical Association)1926年3月20日号
 月刊エジソン(The Edison)1926年5月号
 科学事業(Science Service)1926年7月10日号
 文芸ダイジェスト(The Literary Digest)1926年7月17日号
 ニューヨーク州医学会誌(Journal of the N.Y. State Medical Society)1926年8月15日号
 刑法・犯罪学誌(Journal of Criminal Law and Criminology)1926年8月号
 サイエンティフィック・アメリカン誌(The Scientific American)1927年1月号
 月刊ポピュラー・サイエンス(Popular Science Monthly)1927年10月号

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図9

 回転弾倉式拳銃の閉塞壁には、やすりによる仕上げ作業で擦過痕が残されている。そのため、この拳銃による打ち殻薬きょうのすべての雷管面には、この痕跡パターンが残される。

(2010.11.14)



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