(1)アメリカ合衆国
(2)英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)
(3)ドイツ連邦共和国
(4)フランス共和国
(5)イタリア共和国
(6)スペイン
(7)ポルトガル共和国
(8)オランダ王国
(9)ベルギー王国
(10)デンマーク王国
(11)イスラエル国
(12)ポーランド共和国
(13)ハンガリー共和国
(14)ノルウェー王国
(15)ギリシャ共和国
(1)アメリカ合衆国
米国には発射痕と工具痕の鑑定に関係する鑑定者や研究者の多くが銃器工具痕鑑定者学会(Association of Firearm and Tool Mark Examiners、以下AFTE) に参加している。この学会はアメリカ法科学会(The American Academy of Forensic Sciences、以下AAFS)の分科会として出発し、1969年に独立した学会となった。そのため、現在AAFSでは銃器・工具痕鑑定に関する活動はほとんど行われていない。その後、AFTEには世界の銃器・工具痕の鑑定者や研究者が多くが参加し、この分野では世界最大の学会となった。
AFTEでは、1980年代から鑑定の標準化委員会、判断基準策定委員会等の委員会を設け、鑑定手法やその結論の表現法の標準化の提案を行ってきた。ただ、立案者側の意向が会員から素直に受け入れられたわけではなく、十数年の討議と、立案者側の地道な啓蒙活動によって次第に受け入れられるようになったという経緯がある。
AFTEが会員に推奨する鑑定書の結論は、(1)同一工具に由来する痕跡(Identification)、(2)不明(Inconclusive)、(3)異なる工具に由来する痕跡(Elimination)、(4)鑑定にそぐわない資料(Unsuitable)、の3段階+1の区分けである。
ただし、米国の鑑定者のすべてが、この推奨基準に沿って鑑定書を作成しているわけではない。問題意識の高い鑑定者が用いている基準といってよいであろうか。現在でも、結論に「可能性が高い」といった段階を設けている鑑定者も多い。その一方で、米国では、(3)の異なる工具に由来する痕跡とする結論の鑑定書がほとんど書かれない傾向にある。(3)の結論は、型式特徴が大きく異なる場合のみに導く結論であり、条痕特徴の相違程度の場合にはすべて(2)の不明の結論を出すのである。弾丸や薬きょうに残される発射痕跡は、実包メーカーの相違、弾丸や雷管の材質の相違、発射薬量の相違によって大きく異なることが知られている。このことから、発射痕跡が異なるからといって、異なる拳銃による痕跡と結論する根拠がないことから、これは賢明な選択となる。特に、型式が同一の銃器が膨大な数で存在する国では、型式特徴が同一の場合に(3)の結論を導くには、それ相応の根拠が必要となるであろう。
実際、型式特徴が同等の発射痕の識別が求められるCTS(CollaborativeTesting Service Inc.米国の技能検定会社)の技能検定試験の報告書を見ても、「型式特徴が同一の場合は(2)の結論とするとの指針がある」と断っている鑑定機関の回答が多い。
なお、型式特徴が大きく相違しているという判断も、変形損傷弾丸では必ずしも容易に導くことはできない。衝突して大きく変形した弾丸では、その弾丸径から口径を推定することすら難しいことが多い。したがって、型式特徴が異なるとする結論を導く上でも、鑑定者には多くの経験が要求される。
(2)英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)
英国では、政府の管理下にある法科学サービス株式会社(Forensic Science Service Inc. 以下、FSS)が法科学鑑定と研究の分野の中心機関である。FSSは国が管理しているが、営利企業として、主にイングランドとウェールズの警察の犯罪現場の鑑識活動を行い、鑑定を引き受ける他に、英国内の民間企業や海外の法執行機関から依頼された鑑定を有料で行うサービスを行っている。なお、FSSのDNAデーターベースは、世界に先駆けたもので有名である。
FSSでは、ロンドンにIBISを2システム導入し、マンチェスターの研究所にもIBISを導入している。
ロンドン地区を管轄する警察は、メトロポリタン・ポリス(Metropolitan Police)で、メットの愛称でも知られ、その本部の建物の名称からニュー・スコットランド・ヤードとしても知られている。ロンドンにあるメットの法科学研究所の銃器鑑定部門もIBISを2システム導入している。
メトロポリタン・ポリスの法科学研究所の銃器鑑定部門で採用している発射痕の鑑定書の結論の表現は、以下の通りとされる。
(1)資料の弾丸、あるいは薬きょうは、当該の銃器によって発射されたものである(had been fired)。
(2)資料の弾丸、あるいは薬きょうは、当該の銃器によって発射されたものではない(had not been fired)。
(3)資料の弾丸、あるいは薬きょうは、当該の銃器によって発射されたものとも発射さたものではないともいえない。
すなわち、「一致」、「相違」、「不明」の3段階区分の結論である。「不能」あるいは「不適」に関しては「不明」に含めるのであろう。
不能と不明を分けることは、一見合理的に見えて、案外不都合な点も多い。不能資料は鑑定を受理しない、あるいは鑑定依頼者に返送するという立場をとる機関もあるが、一旦鑑定を行わないと不能であるのか、何らかの意味のある資料なのかは分からないことの方が多い。衝突によってバラバラに破片化している鉛片であっても、その総重量は口径推定に大変重要な役割を果たす。容疑拳銃の口径と破片化した弾丸との口径が異なれば、もちろん「相違」の結論が下せるのである。もちろん、破片化している鉛片から口径を推定することは容易ではないが、鑑定不能資料として門前払いするにはもったいない。
(3)ドイツ連邦共和国
ドイツは16の州に分かれており、州ごとに警察組織があり、それぞれの州に日本の科捜研に相当する犯罪科学研究所がある。連邦レベルでは、連邦刑事局(Bundeskriminalamt-以下BKA)があり、州をまたぐ犯罪の捜査や国際的犯罪、海外の法執行機関との調整等連邦レベルの中央警察機関として活動している。BKAは現在9部門から構成されており、その1部門(Abteilung KT)が法科学研究所(Kriminaltechnisches Institut)となっており、ドイツの中央研究所の役割を果たしている。法科学研究所はKT1-物理・化学、KT2-銃器・材料工学、KT3-生物、KT4-文書、KT5-筆跡・音声の5部門から構成されている。
銃器分野が含まれるKT2では未解決発砲事件の現場弾丸類資料が保管されており、その数は弾丸約3,000個、薬きょう約5,000個とのことである。BKAにはIBISが2システム導入されているが、ドイツは発射痕資料をBKAが集中管理しているため、他の犯罪科学研究所にIBISは導入されていない。
BKAの発射痕の鑑定書の結論は、以下の5段階で表現されている。
(1)同一銃器(一致) (Positive Identification)
(2)おそらく同一銃器 (Probable Identification)
(3) 不明 (Inconclusive)
(4) おそらく異なる銃器 (Probable Exclusion)
(5) 異なる銃器(相違) (Positive Exclusion)
(4)フランス共和国
フランスにはフランス国家警察(Police Nationale)とフランス国家憲兵隊(Gendarmerie Nationale)の二つの警察組織がある。フランス国家警察は内務省が管轄し、主に大都市の警察活動を行っている文民警察である。国家憲兵隊は国防省が管轄する軍事警察組織で、軍事施設を含むフランス全土を管轄範囲に含めている。ところで2002年5月15日、フランス政府は国家憲兵隊が国内の警察業務を行う場合には、内務省がその活動の責を負うものと布告した。現在フランス国内の犯罪の約4分の1をフランス国家憲兵隊が処理している。
この20年間、フランス国家憲兵隊は犯罪捜査力の向上に努め、1990年にはフランスを代表する法科学研究所となるフランス国家憲兵隊犯罪研究所(Institut de recherche criminelle de la gendarmerie nationale-IRCGN)を設立した。この犯罪研究所は、物理化学部門(爆発物、銃器、毒物、微物鑑定を含む)、数理科学部門(情報科学、電子、信号、画像解析、交通事故、文書を含む)、個人識別部門(生物、指紋、人類学、歯学、昆虫学を含む)の3部で構成されている。
なお、フランスはIBIS非導入国である。
フランス国家憲兵隊法科学研究所の発射痕の鑑定結論は以下の5段階である。
当該の発射弾丸あるいは打ち殻薬きょうは、
(1)同一銃器に由来する(確実に一致- Strict identification)
(2)同一銃器由来の可能性が高い(ほぼ一致-Likely identification)
(3)不明( Inconclusive)
(4)異なる銃器由来の可能性が高い(ほぼ相違-Likely different)
(5)異なる銃器に由来する(確実に相違-Strictly different)
(5)イタリア共和国
イタリアもフランスと同様、国家警察と憲兵隊の二つの警察組織がある。憲兵隊(Carabinieri)は、陸・海・空軍とともに、国家の防衛を第1義としているが、その組織力を用いて、全国の警察活動も行っている。各州ごとに地方組織があり、地元の警察と協力して活動している。
1955年12月15日、ローマの憲兵隊本部近くに科学捜査研究所が設立された。1965年12月1日に、それは憲兵隊中央科学捜査研究所に発展した。その後の科学捜査の必要性の拡大から1992年7月7日にはメッシーナに、1994年1月20日にはパルマに研究所が設立された。1997年には分析研究所が活動を開始し、1999年1月1日には、これらの研究所は科学捜査部(Reparto Investigazioni Scientifiche-RIS)の下に統合組織された。さらに2000年10月1日にはカリアリに科学捜査研究所が設立された。重大事件発生時には、科学捜査部から現場鑑識官が派遣される。
科学捜査部は、銃器、生物、化学、爆発物、コンピュータサイエンス等の29の部門で構成されている。そのうち銃器部門(Balistica)は、銃器(発射痕と銃器の機能)、末梢刻印の回復、電子顕微鏡(射撃残さの分析)の3部門で構成されている。
なお、ローマ、パルマ、メッシーナ及びカリアリのすべての科学捜査研究所にはIBISが設置されている。
イタリアの憲兵隊の科学捜査研究所の発射痕の鑑定結論は以下の4段階である。
(1)同一銃器、一致(Positive)
(2)同一銃器と考えて矛盾しない(Compatible)
(3)不能あるいは不明 (Not Useful/Inconclusive)
(4)異なる銃器、相違 (Negative)
現在のイタリアの治安維持の体制は、1981年4月1日の法律121号で改正され、現在の体制となったという。現体制では、憲兵隊(Arma dei Carabinieri)の他に、国家警察(Polizia di Stato)、国税警察(Guardia di Finanza)、刑務警察(Polizia Penitenziaria )及び森林警察(Corpo Forestale dello Stato)の5つの警察組織がある。内務省は国家の法秩序を維持するため国家警察(Polizia di Stato )組織を全国に展開している。この警察組織には中央警察と、103の行政区ごとに警察本部が設置されている。
ローマの国家警察本部の刑事局には科学警察研究所(Servizio Polizia Scientifica)があり、国内の14の大都市には管区科捜研が、89の中都市には地方科捜研があり、犯罪捜査に必要な鑑定業務を行っている。また、168箇所の規模の大きな警察署には、指紋業務と証拠書類作成を行う部門が併設されている。
国家警察本部の科学警察研究所は4つの部と指紋センターで構成されている。第1部は管理総務部門と凶悪犯罪分析部門が、第2部は3次元画像解析を用いた事件・事故の再構成を行う部門が、第3部には銃器、生物、遺伝、核・生物・化学兵器対策、潜在指紋、応用犯罪学などを扱う部門が、第4部には電子情報捜査、金融事件捜査、乱用薬物対策、無機物分析、爆発物分析部門が含まれている。
なお、ローマの科学警察研究所と、ミラノ、ナポリ、パレルモ、アンコーナ及びレッジオカラブリアの管区科学捜査研究所にはIBISが設置されている。
国家警察本部の科学警察研究所の銃器部門の発射痕の鑑定書の結論は、次のような7段階である。
(1)同一銃器、一致 (Positive identification)
(2)おそらく同一銃器(Probable identification)
(3)同一銃器と考えて矛盾しない(Compatible)
(4)不能あるいは不明 (Not useful)
(5)たぶん異なる銃器(likely not to be)
(6)合理的疑いの余地なく(常識的には)異なる銃器 (beyond any reasonable doubt no)
(7)明らかに異なる銃器、相違(certainly not fired from)
(6)スペイン
スペインの警察は、フランコ政権時代は国防省の機関であったという機構上からも、またその活動が市民の弾圧と監視に向けられていたという役割上からも、軍事警察の色彩が強かった。1978年の新憲法制定により、警察は軍から分離され、その役割も市民の安全と保護に向けられることになった。ただし、警察機構が改められるまでには、その後8年を要し、1986年3月13日に基本法が制定されるまで待たねばならなかった。この基本法によって、スペインの警察組織は、治安警備警察も含め、すべて国防省から内務省の管轄に移った。
スペインには4つの警察組織が存在し、文民警察である国家警察総局(Direccion General de la Policia)、フランコ政権時代の治安警察の流れを汲む治安警備総局((Direccion General de la Guardia Civil)、地域警察である市警察(Servicio de la Policia Municipal)とバスク自治州とカタルーニャ自治州にある自治州警察(Policias Autonomas)からなっている。このうち、国家警察総局と治安警備総局は国家警察体(CUERPO NACIONAL DE POLICIA -C.N.P)として統合されている。
C.N.P.には、法科学の各分野から構成された科学警察局(COMISARIA GENERAL DE POLICIA CIENTIFICA )がある。科学警察局の個人識別部門では、潜在指紋の鑑定、指紋自動識別装置による検索、人骨の鑑定等を行い、その他銃器、爆発物、音声鑑定、文書鑑定などの各法科学部門から構成されている。重大事件、事故時には科学警察局から係官が現場派遣される。
このように科学警察局の活動は国家警察総局と治安警備総局で統合されているようだが、両者はマドリッドにある本部に、IBISをそれぞれ2システムずつ導入している。
スペインのC.N.P.の科学警察局の発射痕の鑑定書の結論は、次のような5段階である。
(1)同一銃器由来、一致 (Positive)
(2)同一銃器由来と推定 (Estimative positive)
(3)不明 (Inconclusive)
(4)異なる銃器由来と推定 (Estimative negative)
(5)異なる銃器由来、相違 (Negative)
(7)ポルトガル共和国
ポルトガルの警察組織も軍警察と文民警察の二本立てとなっている。
ポルトガルの憲兵隊警察の歴史は王立警護警察が設立された1801年12月10日までさかのぼる。その後、1911年5月3日に現在の共和国憲兵隊(Guarda Nacional Republicana-GNR)が設立され現在に至っている。共和国憲兵隊は、フランスの国家憲兵隊(Gendarmerie Nationale)に倣って設立されたといわれ、平和時は内務省が警察官の採用、訓練、指揮まで管轄するが、その教義や武器と装備は軍隊と同一のものである。そして、戦時には国軍の司令官の指揮の下に入る。現在国土の90%の地域は共和国憲兵隊が管轄している。
ポルトガルの市民警察(Policia Civica)の歴史は1867年までさかのぼり、全国の刑事警察の役割を果たしてきた。その活動は、各地の自治体が管理することから、全国で統一した体制ではなかった。その後、1911年に共和国憲兵隊が設立されたことに伴い、地方の警察業務は共和国憲兵隊に移管され、市民警察は都市部の刑事警察に限定されて担うことになった。1927年12月5日の法制定により、刑事警察は司法省の管轄下となり、司法省及び裁判所と協力して捜査活動を行うこととなった。1945年10月20日に市民警察は司法警察(Policia Judiciaria)と名称を変え、内務省と自治体の長の管理下で活動する自治体警察となった。
現在のポルトガルの刑事警察分野では、司法警察が大きな役割を果たしている。司法警察には、司法警察長官直轄の司法警察高級研究所並びに犯罪科学研究所(Instituto Superior de Policia Judiciaria e Ciencias Criminais)がある。
リスボンにある犯罪科学研究所は、科学警察研究所(Laboratorio de Policia Cientifica)とも呼ばれる。ポルトガルでは拳銃所持が許可制であり、発砲事件が多いとされている。科学警察研究所にはIBISが導入されている。
リスボンの科学警察研究所における発射痕の鑑定書の結論は次の4段階である。
(1)疑いの余地なく同一銃器に由来する (With no doubt)
(2)同一銃器に由来する可能性が高い (Most likely)
(3)おそらく同一銃器に由来する (May have been)
(4)同一銃器に由来しない。相違 (Was not)
(8)オランダ王国
オランダもフランスやイタリアのような憲兵隊警察と国家警察の二つの警察組織がある。
王立保安隊(Koninklijke Marechaussee)は、国防省の下にあり、陸・海・空3軍に加えて第4軍に当たる組織となっており、軍隊内部の警察活動である憲兵隊の役割の他、王室警護、スキポールをはじめとする空港警備、国境警備、中央銀行の現金輸送車警備や首相官邸警備等の警察活動も行う。王立保安隊は現在司法省の管轄となっており、軍事活動を行う際は国防省の指揮下で活動し、警察活動は内務省の指揮下で活動する。
オランダの犯罪防止、犯罪捜査などの警察活動の主体はオランダ国家警察が担っている。オランダの国家警察は25の地方警察と一つの中央国家警察(KLPD)の26の組織からなっている。地方警察には、組織構成や予算、訓練や装備の選択などに自主性が認められている。
オランダには、オランダ法科学研究所(Nederlands Forensisch Instituut-NFI)がある。この研究所は、第二次世界大戦直後に設立された法科学研究所と1951年に設立された法医学研究所が1999年に合併し、450名余りを擁する世界でも有数の規模と水準を誇る法科学研究所となった。2004年にはハーグの新施設に移転している。オランダ法科学研究所は、警察組織とは独立した組織で、警察、検察のみならず裁判所や企業さらに弁護側の鑑定も行う独立機関である。海外の大規模災害や戦争犯罪の鑑定でも実績を築いている。すべての鑑定活動には経費が要求される。
オランダはIBIS導入国で、オランダ法科学研究所に設置されている。
オランダ法科学研究所における発射痕の鑑定書の結論は次の片側4段階である。
(1)同一銃器により発射されたことに疑いがない(beyond any reasonable doubt)
(2)同一銃器により発射された可能性がきわめて高い(most likely)
(3)同一銃器により発射された可能性が高い(likely)
(4)同一銃器により発射された可能性がある(possibly)
(9)ベルギー王国
ベルギーはフランス革命時にフランスに併合され、1791年2月16日にフランスの憲兵隊をモデルに憲兵隊警察が設立された。その後、憲兵隊が警察を担う旨の法令が制定され、占領等による国家体制の変遷が続く中、憲兵隊警察がベルギーの治安維持活動の中核であった。
1993年に連邦制に移行した後、1998年12月7日に国家警察(憲兵隊)と、自治権のある25の自治体警察の2階層の警察組織が定められた。その後、2001年1月1日に連邦警察と地方警察の2つの警察組織に改編された。連邦警察は、鉄道や高速道路の警備、空港警備、銀行の現金輸送車警備や出入国管理、王室警護を始めとする国家レベルの警察活動を行うともに、地方警察の援助を行うことになった。
一方、地方警察は、以前の自治体警察と国境警備担当の国家警察が改編されて196の地方警察が組織された。このうち50の地方警察は単一の自治体を管轄し、146の地方警察は複数の自治体を管轄している。
ベルギーでは、司法省の下に国立犯罪捜査研究所( Nationaal Instituut voor Criminologie en Criminalistiek-NICC)が設置されている。この研究所は、DNA、毛髪、繊維、薬物、毒物、塗料、火災、工具痕、銃器と弾薬、射撃残さなどの法科学分野を網羅した研究所となっている。
首都ブリュッセルにあるNICCでは発射痕データーベース(Nationale Ballistische Gegevensbank-NBG)を作成、管理している。ベルギーはIBIS導入国で、NBGはIBISで運用されている。
ベルギーのNICCにおける発射痕の鑑定書の結論は次の片側4段階である。
(1)同一銃器により発射されたことに疑いがない(Beyond any reasonable doubt)
(2)同一銃器により発射された可能性がきわめて高い(Most likely)
(3)同一銃器により発射された可能性が高い(Likely)
(4)同一銃器により発射された可能性がある(Possibly)
すなわち、ベルギーとオランダの結論表現は同じものを採用している。
(10)デンマーク王国
デンマークでは、これまで司法省の下に54の地方警察が置かれていたが、2007年1月1日の組織改革により、コペンハーゲンの中心のPolititorvetにある国家警察本部と、それぞれ本部長を長とした12の地域警察に統合された。これは、より広域にまたがる事件や災害に有効に対処するための改革である。なお、自治権のあるグリーンランド及びフェロー諸島には別個に自治警察が置かれている。これらの地域警察の一つであるコペンハーゲン警察は、首都警察として大きく別格の組織となっている。
国家警察本部は、財務・資材局、情報通信局、人事・教育訓練局、中央警察捜査局、公安調査局の5局から構成されている。中央警察捜査局には、法科学鑑定部門である法科学技術センター(KTC)が設置されている。
デンマークはIBIS導入国で、IBISはKTCに設置されている。
KTCの発射痕の鑑定書の結論は次の4段階である。
(1)同一銃に由来する可能性が高い(with highly indications)
(2)同一銃に由来する可能性を除外できない(can not be excluded)
(3)同一銃に由来するとは思えない(Nothing seems like)
(4)同一銃由来を除外できる。相違(excluded)
(11)イスラエル国
イスラエルは、第二次世界大戦後に世界からのユダヤ人移民の増加や周囲のアラブ諸国との争いのある混乱した状態の中、1948年5月14日に独立した。この混乱した社会の治安と安全維持のために、独立直後に警察省(Ministry of Police)の下にイスラエル国家警察が誕生した。ただ、イスラエル政府は1998年3月26日に、イスラエル国家警察の設立日を1948年3月26日に定めている。
イスラエル国家警察は、治安維持、犯罪捜査及び刑務所の管理を行った。現在イスラエル国家警察は、公安省(Ministry of Public Security )の下に置かれ、6つの部局から構成されている。当初北部、テルアビブ周辺、南部の3方面に分割されていた地域警察は、その後中央部とエルサレム地域の2方面が分割追加された。
イスラエル国家警察は、テロと犯罪、多発する交通事故などの多くの難問を抱える中、優秀な科学捜査力を持っていることで知られている。国家警察本部には中央法科学研究所(Central Forensic Laboratory)があり、地域警察が犯罪現場から収集した証拠資料は中央法科学研究所に送付され、分析する中央管理システムを採用している。
イスラエルはIBIS導入国で、中央法科学研究所に設置されている。
イスラエル国家警察の発射痕の鑑定書の結論は、次のような典型的な3段階である。
(1)同一銃器由来、一致、肯定 (Positive)
(2)不明、結論に至らない (Inconclusive)
(3)異なる銃器由来、相違、否定 (Negative)
(12)ポーランド共和国
第2次世界大戦後ワルシャワ条約機構内の共産国であったポーランドは、1980年代から、レフ・ワレサ率いる連帯の民主化運動が起こり、1989年の選挙で連帯が圧勝し、労働党と連帯などの連立政権が誕生した。翌1990年5月の選挙でにも連帯が勝利し、1990年7月6日に行われた内閣改造で、共産主義国時代から留任していた国防大臣と内務大臣が入れ替えられた。そして、その年の12月にはワレサが大統領に選出され、自由化の流れは完結した。ポーランド国家警察は、1990年4月6日に制定された警察法に基づき、国内の安寧秩序を保つ武装警察組織である。
ワルシャワにある国家警察本部は18の部門から構成されている。ポーランド国内は16の管轄区域に分割され、それぞれの地域警察が管轄している。首都のワルシャワにある首都警察は、組織上は地域警察と並ぶ地方警察であるが、特別の組織となっている。
ワルシャワにある国家警察本部には中央法科学研究所(Central Forensic Laobratory)があり、各地域警察には地域法科学研究所(Reginal Forensic Laboratory)が設けられている。
ワルシャワの中央法科学研究所の発射痕の鑑定書の結論は、次のような5段階である。
(1) 同一銃器由来、一致(Positive Identification)
(2) おそらく同一銃器由来 (Probable Identification)
(3) 不明、結論に至らない (Inconclusive Identification)
(4) 同一銃由来の可能性を除外できない (Non-Exclusive Identification)
(5) 異なる銃器に由来、 相違(Exclusive Identification)
(13)ハンガリー共和国
ハンガリーは、第二次世界大戦後の1946年2月1日に共和国となり、その内務省の下には、悪名高い秘密警察である国家保安局(Allamvedelmi Hatosag, -AVH)が置かれた。その秘密警察活動はハンガリー動乱が起こる1956年10月まで続いた。1949年8月18日には、ソビエトの憲法に倣った憲法を制定して人民共和国となり、1955年5月14日にはワルシャワ条約機構の誕生とともにその一員となった。
1956年10月23日の学生デモに端を発したハンガリー動乱では、ブダペストの警察本部は政治犯解放を求める群衆により囲まれた。身の危険を感じた本部長は、すべての政治犯を解放する決定を行った。しかし、それだけでは収まらず、10月29日にはヨージェフ・ドゥダーシュが率いる民兵が国家保安局を襲撃し、保安局員の大虐殺を行った。この動乱にソビエトが介入したことで、再び政治犯の粛清が行われたが、次第に秘密警察の活動は緩やかになり、社会全体も緩やかな西欧化が進行して行くことになる。
ハンガリー政府は、ハンガリー動乱発生の日から33年後の1989年10月23日、ハンガリー人民共和国から国民の人権を認める国家としてのハンガリー共和国として生まれ変わることを宣言した。その後、1990年5月に行われた自由な国会議員選挙の結果、民主フォーラムを中心とする非共産党政権が発足した。
ハンガリー国家警察のブダペストの本部には法科学研究所(Institute for Forensic Sciences-IFS)がある。IFSは法物理学・法化学部、法生物学部、犯罪捜査学部、血中アルコール部、指紋識別部及び法科学図書室から構成されている、法物理学・法化学部には有機化学・薬物研究室、赤外分光スペクトル室、無機微細物分析室(塗料、ガラス、土壌、金属)が属し、法生物学部にはDNA、血清学、組織学の各研究室が属し、犯罪捜査学部には足痕跡・工具痕、銃器、筆跡及び文書の各研究室が属している。
ブダペストの法科学研究所の発射痕の鑑定書の結論は、次のような5段階である。
比較している二つの痕跡は、
(1)確実に同一銃に由来する (Certainly)
(2)同一銃由来の可能性が高い (Most likely)
(3)不明、結論に至らない (Inconclusive)
(4)異なる銃器由来の可能性が高い (Most likely not)
(5)確実に異なる銃器に由来する (Certainly not)
(14)ノルウェー王国
ノルウェーの警察は司法・警察省(Ministry of Justice and the Police)に属している。ノルウェーの司法・警察省の起源は古く、スウェーデン王国との同君連合が開始された1818年にまでさかのぼる。ノルウェーの国土の面積は日本と同程度であるが、人口は日本の4%程度であり、現在、世界で最も豊かな国の一つとなっている。司法省は7局2部から構成されており、その職員数は約270人である。
司法・警察省は、民事局、矯正局、法制局、企画管理局、極地対策局、警察局、救援・緊急準備計画局の7局と分析部と報道・情報部の2部から構成されている。このうち警察局は、警察業務のほかに、最高検察庁と軍事訓練(憲兵)をも管轄し責務を負っている。
2001年にノルウェー国家警察委員会が組織され、その下に犯罪捜査局、国家警察移民局、国家警察通信装備局、ノルウェー警察総合大学、経済・環境犯罪捜査起訴局、中央移動警察局、国境警備局の7つの局が置かれた。これらの人員は約120名である。ノルウェーは19の行政県に区分されているが、ノルウェー国家警察委員会の下で、これまで54あった地域警察が27に統合された。警察組織全体は、約8,000名の警察官と約4,000名の一般職員及び法律職員で構成されている。警察は軍とは独立した組織であるが、緊急事態発生時には軍の援護を受けることができ、その場合軍は警察の指揮下で活動する。
ノルウェー警察総合大学(Norwegian Police University College)は1992年にを設立された教育機関で、新任警察官は警察総合大学で3年間の基礎教育を受ける。2004年6月18日に総合大学としての認定を受けたため、卒業すると学士資格が得られる。1年次と、3年次は大学で教育を受け、2年次は地域警察での実務教育を受ける。警察総合大学では、実務を経験した警察官に対する各種の専門コースも用意されており、2006年からは2年間の教育により修士の資格を得られるコースができた。
犯罪捜査局の下には研究所(Kriminalpolitsentralen Laboratory)があり、法科学鑑定及び研究を行っている。ノルウェーはIBIS導入国で、この研究所に設置されている。
ノルウェー国家警察の研究所の発射痕の鑑定書の結論は、次のような3段階である。
(1)同一銃器由来に間違いない(In all probability)
(2)同一銃器由来の可能性がある (May)
(3)同一銃器由来の可能性を除外できる (Eliminated)
(15)ギリシャ共和国
ギリシャの警察は公安省(Ministry of Public Order)の下に置かれている。公安省は国家警察と地方警察のみならず、消防、情報局、市民防衛会議と緊急計画会議をも管轄している。
ギリシャ国家警察(Hellenic Police、ヘレニズム警察)は、1984年に憲兵隊(Gendarmerie)と都市警察(Urban Police Forces )とが統合して誕生した。その役割は、犯罪捜査、交通安全、犯罪防止を始め、公共の安全と国家の安全保障を担っている。緊急時には軍と共同して国家防衛に当たる。
アテネにあるギリシャ国家警察本部には法科学部(Forensic Division)があり、北部の都市テッサロニキには法科学支部(Forensic Subdivision)が設置されると共に、地方警察本部には地方法科学部が設置されている。法科学部は、指紋、化学分析、科学捜査、手口、統計分析等の課から構成されている。
ギリシャはIBIS導入国で、アテネのギリシャ国家警察法科学部にIBISが設置されている。
ギリシャ国家警察の法科学部の発射痕の鑑定書の結論は、次のような5段階である。
問題の発射弾丸あるい打ち殻薬きょうは、
(1)当該銃器で発射されたものである。一致(fired by)
(2)当該銃器で発射されたに違いない(must be fired by)
(3)当該銃器との関連について結論が得られない(not concluded relationship between/among)
(4)当該銃器との比較に適さない。不能(unsuitable for further comparative examinations)
(5)当該銃器によって発射されたものではない。相違 (not fired by)
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