オーム社の気象予報士試験 標準テキスト 学科編 補説04


乾燥断熱減率と湿潤断熱減率

   P.35の中央から下は「4-1.3.6 乾燥断熱減率と湿潤断熱減率」となっている。ここでは、以前指摘した括弧書きが多いという問題について、「(水蒸気)混合比」とは逆に「(乾燥断熱)減率」と、「乾燥断熱」が括弧内に入っていることに違和感を覚えた。括弧は取るべきだろう。

 ここの部分を、本文の表現を利用して書き直すとすれば、「空気塊の気圧を断熱的に減少させた場合、空気塊の気温は断熱膨張によって低下するが、この空気塊が飽和するまでの気温の低下の割合を乾燥断熱減率といい、通常LapseRate1.jpg"で表す。」とすると読みやすい(と思う)。また、添え字のはドライを意味する、と書いてくれると親しみを感じる。

 その下の、「乾燥断熱減率が、式(3・4)の左側の2つの項から、

Equation3-17.jpg.jpg"

である。」という記述に出会い、先の式(3・4)がミスプリントであったことが分かる。

 ここで、LapseRate1.jpg.jpg"の値は示されていない。この値は覚えておいて損のない値のはずだ。ただ、本書の説明は圧力座標で話を進めているので、通常高度座標で表されるLapseRate1.jpg.jpg"の値をここで簡単に示せないのだ。

 圧力座標で表現されている式(3・17)を高度座標で表すと、以下の式(3・17)’のようになる。

DryLapseG.jpg.jpg"

ここで、gは、空気塊に作用する重力加速度である。本書には、ここまで重力加速度の値が示されていない。重力加速度は緯度や高度によって変化することから、その取扱いをしなかったものと考えられる。ここでは、とりあえず標準的な値として、g.jpg.jpg"を用い、定圧比熱の値は、本書のP.32の値、Cp.jpg.jpg"を用い、さらに、本書のP.28の表2の組立単位の関係J.jpg.jpg"を使うと、

DryLapseG2.jpg.jpg"

が得られ、これは「100m上昇するごとに約1度の気温低下」という見慣れた関係を与えている。なお、式(3・17)から式(3・17)’への変換には、静水圧平衡の式を用いている。すなわち、高度の上昇と気圧の変化との間には次の関係がある。

HydrostaticEquilibrium.jpg.jpg"

 続いて湿潤断熱減率の説明があるのだが、それは、
「飽和している空気塊を断熱的に上昇させた場合の、空気塊の気温減率(湿潤断熱減率)MoistLapse.jpg.jpg"は、水蒸気の凝結熱の放出があるので乾燥断熱減率より小さくなる。」と、ある。

 この部分も、気象学の学習者にとっては、「未飽和の空気塊を断熱的に上昇させると、やがて空気塊は気温の低下によって水蒸気で飽和し、それ以降は水蒸気の凝結熱の放出が生じることから、気温の低下割合は小さくなる。このように、空気塊が飽和した後の気圧低下にともなう気温の低下割合を湿潤断熱減率といい、通常MoistLapse.jpg.jpg"で表す。ここで、添え字のはモイストを意味する。」とすると読みやすい。

 本書では、「湿潤断熱減率を表す式は複雑になるので省略する」、とされているが、これは賢明な選択だろう。その求め方は、小倉義光先生の「一般気象学」のP.66に示されている。式だけを示している本もあるが、いずれにしても、数値計算をしなければ値は定まらない。

(2010/11/3)  



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